第八話「ガーディアンからの逃亡」
カイ達αチームは持続可能な全速力、小走りで訓練施設の縦横無尽に走る通路や階段を進んでいた。
国防軍の訓練生で構成された包囲チームはその速度に追いつけず、包囲予定の襲撃ポイントを既に3連続で実行前に出し抜かれていた。
完全にカイ達に筒抜けになるようにキットによって細工された無線で司令官が苛立ちながら指示する。
「あいつ等、迷わず最短ルートで突き進んでいる。ここのマップ情報は何重にも偽装されているはずなのに何故だ?」
「どうやったのかは分かりませんが、正しいマップ情報を完全に把握されているのは間違いない。それよりも早く彼らを足止めしなければ包囲チームが追いつけません」
「ちっ……薄ノロ共め」
「仕方が有りませんよ。未熟なりに訓練生達も必死だ」
「奴らは潜水艇ポートへ向かっている。そこへ繋がる通路の障壁を降ろせ! 早く!」
「降ろしました。これで彼らはもう……、何てことだ……降ろしたはずの障壁が次々と開いていく。
障壁BF11、BF12、BF15、BF22……潜行艇ポートへの道だけが全て開かれました」
カイ達やワン達の無線にキットの声が再び届く。
「お待たせ。ちょっとしたトラブルがあったが何とかなった。潜行艇までのルートは完全にフルオープン、潜行艇のコントロールセキュリティも解除してフリー、そのまま乗り込んで操作出来るはずだよ」
「よくやったキット。今回は君に救われた」
「さすがだキット」
通路の途中、Y時のエリアでカイ達αチームとワン達βチームが合流し、そのまま潜行艇ポートへと走り続ける。
「ついでにアンダーワールドのハンティングの計画も調べておこう……」
キットは当初の目的であるアンダーワールドへの駆除計画をサーチし始めた。
だがその時、残り時間に気付く。
「まずい……残り30秒……。牽引グライダー展開、帰還!」
キットは再び電脳空間を高速移動し、侵入地点へと戻った。
そして現実世界へと視界が切り替わる。
はるか遠く、200メートルほどの地点に無数の赤い光点がうごめきながらこちらへと近づくのが見えた。
水口の警告したメイン情報ケーブルを守る蜘蛛型防衛ロボット、ガーディアンである。
その数は数十から数百は居るだろう。
キットは慌てて跨っていたメイン情報ケーブルから離れ、ラックを上へと登った。
その間もガーディアンの大群はグングンと立ち並ぶラックのあらゆる階層にへばりつきながら進んでくる。
キットはラックの最上階まで登り、元来た入り口へ向けてジャンプする。
ラックを一つ越え、二つ超え、とうとうコンクリート製の入り口の空間に飛び込んだ瞬間、距離30メートルまで迫ったガーディアンの放つニードルガンの弾丸を足に受けた。
「いてぇええぇ!」
キットは床を転げまわる。
ニードルガンの弾丸はキットの体内で無数の花びらのように開いて止まり、キットの神経を切り裂き、痛覚を刺激していた。
動きたくても壮絶な痛みで動けない。
だがガーディアンは容赦なく迫る。
そして遂に一体のガーディアンが壁から顔を覗かせて、昆虫と機械の融合したような顔をこちらへ向ける。
「もう駄目だ!」
キットが目を閉じた瞬間、何ものかが近くに飛び降りる音が聞こえ、直後に零式熱小銃の射撃音とガーディアンが破壊されてラックに何度もぶつかりながら落ちていく音が響いた。
「み、水口さん……」
そこに立っていたのはサーマルガンを片手に構えた水口であった。
水口はポケットから注射器を取り出してしゃがみ、キットがニードルガンで撃たれた場所へ乱暴に刺して注射する。
「痛み止めを打った! 急いで梯子を登れ!」
2体目、3体目のガーディアンが顔を覗かせ、水口は零式熱小銃でそれらを迎撃する。
キットは感覚の無くなった左足先をなんども滑らせながら必死で梯子を上る。
水口はキットがある程度穴の中の梯子を上っていったのを確認するとEMPグレネードを転がした後、零式熱小銃で目につくガーディアンを迎撃し、自分も梯子を上る。
梯子を上って穴の中を進む水口の背後、進入路の部屋でEMPグレネードの爆発音が響き、ガーディアン達の落下音が響く。
穴を登り切ったキットはびっこを引きながらアンダーワールドの通路を進み、水口は直ぐあとを背後を警戒しながら追う。
「はぁ……はぁ……カイさん達は……」
「お前はやるだけのことはやった。後は彼らなら逃げ延びる。信じるんだ!」
水口はEMP吸着地雷を定期的に設置しながら進む。
はるか後方でその内一つの爆発音が聞こえた。
だが二人は移動し続け、ついに指令潜行艦のある水路へと到着した。
水口がぼやく。
「畜生! 誰か出迎えてくれてもいいだろう!」
水口は指令潜行艦の艦橋に飛び移り、後から来て半ば水面で溺れかけているキットの手を引き寄せる。
そしてキットに手を貸しながら二人で中へと入った。
「おかしいぞ……皆どこへ行ったんだ?」
艦内に人気が無い。
水口は零式熱小銃を構えて黙って周囲を見回す。
その場(指令室)のモーションセンサーパネルに無数のガーディアンが接近しているのを確認し、いくつかのパネルを操作しながらキットに言った。
「時間が無い。この潜行艦を安全な所へ移動させるんだ。
操作はセミオートにしておいた。
自動で衝突回避くらいはしてくれる。
お前は目的地へむけた安全確認と大まかな進路指示をしてくれればいい。
俺は艦内を見て回る」
「分かったよ」
水口は零式熱小銃を構えながら指令室から出た。
キットは潜行艦を操作しつつ、パネルを操作して艦内のカメラ映像を確認する。
「こ、これは……」
映像には道中で艦内に拾った記憶喪失の男、原田が銃でレジスタンスメンバー達を脅し、艦内後部の倉庫へと追いやっている姿が映っていた。
そして全員を閉じ込めた後外からシャッターを下ろし、ロックしている。
ロックが終わると原田はシャッターから5メートルほど離れた場所にあるロッカーの中へと銃を持ったまま隠れた。
「マズイ!」
キットは現在のカメラ映像を確認する。
ちょうど水口が艦内後部倉庫のシャッターを確認している。
キットは艦内放送で叫ぶ。
「水口さん! 近くのロッカーに……」
それと同時に射撃音が響いた。
映像の中で水口は銃で撃たれ、崩れ落ちる。




