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(旧作)大盗賊は弓を射る ~生ける叙事詩、最強の魂~  作者: 顔が盗賊 / TECH
第一章 『帝都の大盗賊』
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第二十二話 「初労働」



弓を手に入れた弓人は急ぎ魔物の討伐へ.........は行かずにバラルの宿屋に戻って来た。午前中に出て冒険者組合で登録を無事(?)に済ませ、緊急依頼で魔物を討伐して、今は昼。本当に昼に戻ってきてしまった。


(この短時間でいろいろあったなぁ。)


弓人は何とも言えない表情で宿屋の入り口をくぐる。そこでは既に食欲をそそる匂いが漂っていて.......


「おお、返って来たね。お帰り。冒険者にはなれたのかい?」


ふてぶてしいまでの笑顔で弓人を迎えるこの宿屋の主人バラルの姿が。


「まぁ、なんとか。」


そんな曖昧な言葉のうちにカウンターの席に着く。


「お昼は何にしようか。」

「軽めのもので頼む。」


一応この体は沢山食事をしたくらいでは動きに支障はない。しかし弓人的にはこれから受けるのは人生初、それも討伐の依頼だ。


(まぁ“正式な”という注釈は付くが......)


ともかく、弓人は物事の“間”を大切にする人間だ。始まりや終わり、状況が動く時心の切り替えをしっかりとするように育てられてきた。だからこのお昼は軽めの食事を頼んだのだ。


「軽めね。他は肉料理になってしまうね。ん~、麺料理ならすぐに出せるかな。ソースにからめるだけだし。」

「それで頼むよ。」

「了解。」


バラルは厨房へ入っていく。他の冒険者は既に食事をしているか、綺麗に平らげられた食器がまるでその料理の美味しさを映し出すように置かれている。


5分後、バラルが料理を持って戻ってきた。トマトソースをベースとしたものをかけたのであろう12、3歳の子供には多すぎる(・・・・)量のスパゲッティを持って弓人の前までくる。


(大人三人前くらいか?)


「はい、どうぞ。」

「(......やっぱり俺のだったか。)」

「ん?どうしたんだい?」

「いや......別に。」


弓人が確か“軽め”のものを注文したはずなのだが、と思ったが決して口には出さずに食事を始める。始めから実に食欲をそそる匂いをしていたが、やはり美味しかった弓人のフォークがみるみるうちにすすむ。


「おお~。そこまでして食べてくれるとやはり嬉しいね。」

「いや、ほれほどにほいしい(それほどにおいしい)。」

「うんうん。君がここに泊まってくれて良かったよ。」


会話のなかでも食事は進む。既に皿の底が見えているくらいに。弓人は別にこれからの依頼の事を忘れているわけではなかったが、この体の頑丈さを信じて最後は完食した。依頼の前だから控えめの食事を摂ると言ったのは誰だったであろうか。


「ふ~御馳走様。」

「はい。御馳走様。」


(作った側まで“御馳走様”とは。なんという自信だ。それともこっちでは普通なのか?)


バラルの料理への圧倒的な自身に心を揺さぶられながらもカルチャーギャップについても疑う弓人。こちらでは謙遜は美徳ではなく悪徳であったらどうしようか、と頭の中で思いを巡らせていた。普通は巡らせる程のものではないのだが。


「では依頼にいってくるよ。」

「ん?これから依頼を?」

「ああ、少し荷物運びを。」

「ふ~ん。まぁいいか。いってらっしゃい。」

「あ、ああ。言ってくるよ。」


何を疑問に思われたのだろうか。疑わしい視線を向けられた弓人は席を立ち、宿屋を後にする。


「夕食には帰ってきなよ。」

「そうする。」



////////////////////////////////////////



(まずは荷物運びからか。)


今は11時45分。これは弓人の体内時計から弾き出した時間だ。この体になってしばらく、正確にはバラルの宿屋で一泊した(のち)、深夜の起床の段階でこの体内時計はその時刻を正確に刻んでいた。


(第三区画倉庫か。さてどこにあるのか。)


倉庫などどこにあるか分かるはずの無い弓人。しかし......


(こういう時は、)


スッ..........ストッ


(屋根(ばし)りに限る!)


そう言って弓人は帝都の上を走り出す。誰かに見られていないのだろうか?という疑問が起こるが、この弓人、この体に加速度的に馴染んできているらしく。気配の運用がまた一段と美味くなってきている。通行人の多い大通りでも、彼が人外の力で飛び上がったのを視た者はいても“見た”ものはいない。


(お、大き目の建物がある。あれか?)


既に当たりを付けた弓人。直ぐにその建物に近づきて鼻を利かせる。


(ん~木の匂い。ヒノキではないがいい匂いだ。)


おそらく建材であろう木の匂いを嗅ぎつけた弓人手近な路地に着地する。


ストッ


そのまま倉庫らしき建物へと近づく。すると見るからに大工と分かる風貌の男達が木材に腰かけて休憩しているのが見える。弓人はそこへ近づいていき、


「冒険者組合から依頼を受けて来ました。」


子供らしく挨拶をする。実に子供らしく。すると、


「おお、組合から、ってああ?なんだ子供かよ。」

「ん?ああ本当だ。」

「組合は何考えてんだ?」

「(いや、かわ....んんっ)」


依頼を受けた者が子供だと分かって憤る者、(いぶか)しむ者、そして弓人を若干怪しい眼差しで見つめる者。様々な視線を浴びる中、こんな声を聞いた。


「子供なんかにこれが持てんのかよ。」


大工の一人が自分の座っていた建材を叩いて言う。それをチャンスと捉えた弓人はすかさず言う。


「御兄さんは持てるのですか?」

「ああ?当たり前だろう。」


そう言って立ち上がり。


「ふうううんっ」


建材を持ち上げる大工。日本の一般家屋に使われているものとは少し大きい代物で、どちらかと言えば大黒柱になりそうな木材であった。それを見た弓人はその大工に近づき......


「僕が変わりますよ。」

「!?いや、無理に決まってんだろう。」

「まぁまぁ貸して下さい。」

「おい、待っ......「「「ええええええええええ!?」」」」


|軽々とまではいかないが(・・・・・・・・・・・)、弓人はその建材を重そうに持ち上げて見せる。


「これを運べばいいんですね?どこへですか?」

「う、え、あ、ああこっちだ。」


すっかり気圧されてしまった大工が案内する。さっさと仕事を終わらせて、“裏”の仕事をしたい弓人であった。


「ヒト.......なのか?」


「(多分ね。)」


そんな囁きも街の喧騒と建物の工事の音にかき消され、さらにこの工事が終わるまで大工達はこの囁きよりも静かに仕事をしたという。





めでた........くない。



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