第二十一話 「弓人の本職」
弓人は大通りの喧騒の中を針に糸を通すように抜けて行く。あの受付嬢の言う通り近くに武器屋があった。しかし、それは武器屋というにはあまりにも“御洒落”であり、とてもではないが荒くね者共御用達の凶器販売店には見えなかった。当然弓人の勝手な想像の話であるが。
(この体で認識していても、その御洒落さにある意味“隠蔽”されていたようだ。)
そのやけにおしゃれで武器屋に見えない武器屋に入っていく。珍しいガラス張りのディスプレイが通りに張り出している所は完全にブティックである。
(おお~)
中にはゆったりと武器が並んでいた。良く見ると防具もちらほら見えている。レイアウトとしては大きな本棚のような陳列棚に商品が立てかけられていて、その棚が本屋の様に縦横に並んでいるようだ。一部高価そうな物の棚にはガラスが張ってある。窓にガラスを使っていなかったのを見ている弓人はここでこの店の格式の高さに気が付くべきだったのだが、そんなことは気にも留まらず早速自分の本職である弓を探し始める。本気になった弓人に見つけられないはずがなく、
コツッ
狭くない店内で早速弓が陳列されているエリアを見つける。それも音の反響だけで。耳に目でも付いているのではないか?
目的の場所に一瞬で移動した弓人は商品を物色する。すごい勢いでこのエリアをブンッブンッと周っていると、
「お探しのモノは見つかりましたかな?」
厚めのエプロンを着て『職人です。』と言わんばかりの恰好の男が近くに寄る。細かい作業に使うのか気品漂うモノクルを付けて髪は短く整っている。口髭を生やし年齢はこっちではあてになるか分からないが40代に見える。そして、背は自分よりは高いが、見た目年齢からしたら随分と低いように見える。
ここでの口調をどうしようかと考えていた弓人であったが、組合でのものを継続することにした。
「威力のある弓を探している。」
「なるほど.........それでは試しにこちらを引いて下さいますかな。」
言われた通り弓を引いてみる。弓人の体から比べれば少し大きな弓だ。
ググゥゥゥゥゥ
なんの抵抗もなく引かれていく弓。
「ふむ。」
落ち着き払った納得の頷きをする職人、しかし一瞬、ほんの一瞬だけその目が驚愕に見開かれるのを弓人は見逃さなかった。
「これはこれは、失礼ですが貴方は本当にヒト種でございますかな?」
「そうだ。」
弓人は咄嗟に答えてしまう。確かに組合カードにも記入の欄はあるのでこういう類の質問もあるのだろうと踏んではいたが、
(まぁ、疑われはするだろうな。)
多分先程の弓は絃が強く硬かったのだろう。それを難なく引いてしまった弓人に職人は種族的な疑いをぶつけた。つまり身体的な特徴が人間と似通っている種族があるのだろうか?
「失礼ですが、ここにある弓は貴方にとって役不足のようですな。それで、ご提案なのですがオーダーメイドで弓を作られては如何ですかな?」
「つまりこの体型に合う弓で強いものは無いと?」
「そうなりますかな。お客様は少々力が御強いようでありますな。」
少々を強調する職人は弓人に近寄る。押され気味になる弓人は気弱な人的発作を起こして......
「わかった、わかった。ここで弓を新調することにする。」
「おお!そうで御座いますかな。有難うございますですな。それではこちらへ。」
(それにしても怪しい言語だな。)
そう思いつつも弓をオーダーメイドすることになった弓人。職人と陳列棚をいくつも通り過ぎ、個室に着く。その中は広くはないが格式の高い机と4つの椅子が用意されていた。ここは取引や今回のような話し合いの席のようだ。
職人の引いた席に着いた弓人、目の前の席に職人も着いて、
「申し遅れましたな。私弓の製作を専門としております名を<ポードル>と申しますな。」
「冒険者ユミヒト......だ。」
「ユミヒト様......はい。宜しくお願いしますな。」
「宜しく。」
あっさりと名前を教えてしまった弓人。最近は組合登録も含めて特にお縄になる事態があるわけでも無いため少し気が抜けていた。弓職人ポードルは、弓人の名前を言う時のあからさまな違和感に気が付いたのか、
「ご安心して欲しいですな。お客様の情報は一番の宝物でありますな。たとえ組合でもここには手を出せないのでありますな。」
そういって弓人を安心させようとするポードル。しかし弓人は今の言葉の中に違和感を覚えた。
「組合が手を出せない?」
「そうなのですな。ここは武具を扱う商会の所有する店の中でも上位の店。その商会も名を知らない商人がいない程のところなのでありますな。」
続けてポードルは言う。
「それにここは各専門の職人が集う店、裏に工房を構え、帝国の名のある戦士に武具を卸してもおりますな。魔法武器の製作が出来る店は数少なく、腕っぷしは関係なくここも重要な戦力なのでありますな。」
「なるほど。」
(つまり、帝国の重要施設であるところには手を出せないと。俺の思う組合は国の干渉を受けない独立の組織だったんだが、ここでは少なくとここの組合は国と関係してるらしいな。)
「ご安心頂けましたかな?それでは弓の仕様をご相談さて頂きましょうな。」
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「それではこのように作らせて頂きますな。」
弓の仕様は決まった。材質とかは名前が長いものもあってわからなかったが、弓人の体型に合った大きさで、とてつもなく硬い弓になるそうだ。形は所謂複合弓、M字で比較的小さな弓は今まで作った弓の中でも一番強い絃を張るようだ。価格はなんと5,500,000カッシュ。ここはおしゃれで格式の高い見た目通りとてつもなく高い買い物になってしまった。オーダーメイドで国に品物を卸している一流の職人なら納得は出来る弓人であったが。ちなみに弓人は巾着の中身を見せて足りる事を確認していた。以外にお金持ちのようである。
「しかし、今は弓をお持ちではないようですな。」
弓人は注文はしたが確かに弓を持っていない。弓を使う装備、恰好すらしていないことに疑問を抱いたのか、ポードルの眉が動く。
「ここで装備もお買いになりますかな?」
「ああ、そうする。」
そうして個室から出る。ポードルの案内で弓が陳列されているエリアに戻ってきた。ポードルはそのエリアから一つ横の陳列棚に向かい弓人を一瞥してから棚を見渡した。
「ん~、うむ、これなんて如何でしょうかな。」
そういって弓のケースと背中に弓を掛けるベルトを持ってくる。弓人が掛け方を知らないと分かったのか、ポードルが背中に回り装備させた。ベルトもケースも体にぴったりで動きやすくなっていた。
「こちらはサービスでありますな。久しぶりの仕事に腕が高鳴っておりますな。」
(胸ではないだろうか。いや、それよりも久しぶり?)
「久しぶり......なのか?」
「最近はお抱えの魔法使い、上位の者は“魔道士”が幅を利かせておりましてな、帝国軍に弓兵は多くいるものの一品物を頼む者が少なくなってきておりますな。」
「なるほど。」
久しぶりと聞いて少し不安になったが、理由を聞いて少し安心した弓人。
「ああ、そうで御座いますな。今弓をお持ちでないと何かと不便でしょうな。どれどれ」
そう言って弓の陳列棚から離れるポードル。レジらしきカウンターまで着くとその向こうのさらに扉を開けて入ってしまった。
2分ほどだろうか、ポードルが部屋から出てきた。小さな黒光りする弓を持って。
「これはとある貴族からの注文で作った一品ですな。しかし何を御気に召さなかったのか買わずに帰ってしまったのですな。子供の武器だが全力で作るように言われたのに、あまりにも横暴だったのですな。」
(本気で作りすぎたのでは?)
「子供の力の強さを自慢していたのですな。試し引きをしなくとも“強い”の一点張りだったのであるな。だからそれ以来試し引き無しでは引き受けてないのですな。」
(だから始めに弓を持たせたのか。)
なるほどと納得した弓人であったが、まだこの弓を持ってきた理由を聞いていない。それを察したのかはわからないが、
「それを装備と一緒に差し上げますかな。遠慮はいらないですな。これもこれからのお得意様への投資だと思って頂ければですな。」
こうして弓人は遂に自分の本職には欠かせない“弓“を手に入れたのだった。
「あ、矢の事を忘れていたのだな。」
「............。」
―――――榊 弓人―――――
服装:不明
武具:弓×1、ナイフ×1
防具:革の軽装(仮称)
装備:矢のホルダー×1、リュック×1
金銭:15,257,850 ➝ 9,757,850
持ち物:ロープ、糸、その他使途不明
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表記は今後“多量”に増えます。
表示は変更があった時と、その他区切りの良いところで行います。




