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校長室

 教室のドアを閉め、呼び出された校長室へ歩みを進めた。

 呼び出されるというのは結構重大な事だ。思い当たるのは四日前、

男子寮に美乃を連れ込んだ時のことだ。

 もちろん変な事はしておらず、カレー食わせてなるべく怪しまれないように早い時間に帰ってもらったのだが、もしかしたら誰かが目撃して密告したのかもしれない。

 もしそうであれば退学までは行かなくとも、一日中腕立て伏せとか夏休みまでに合計百キロ走るノルマにプラス五十キロと地味にめんどくさい罰が下りかねない。

 模擬戦の翌日何にもなかったからバレテないから大丈夫だろうとたかをくくった自分の甘さに不甲斐なさを感じながら肩をガックリ落してとぼとぼと両脇を教室に挟まれた廊下を歩く。

(あ~もう帰りたい……) 

 白西は最寄りの階段を上り三階の校舎と校舎を結ぶ渡り廊下を通り二年生が使用している校舎の廊下を進む。

 妙な実力主義な所もあるが一年の年の差は結構大きい。白西が通っていた学校の中でも上下関係が厳しいとされた部活の数十倍は上下関係が厳しいだろうと認識していた。

 そのため上級生が居るような場所には、あまり近寄っていなかった。下手に近づいて使い走りはしたくない。もうすでにクラスの何人かは使い走りを経験していたりする。

 なるべく目に付かないように気配を殺しながら校長室を目指す。本当は行きたくないが。

 二年生が使用している校舎から渡り廊下を伝い三年生が使用している校舎へ足を踏み入れる。

 と、そこで白西は急に足を止めた。

 慌てて辺りをぐるり見回し現在地を確認する。

 …………迷った?

 背筋にひんやりと冷たいものが電撃のように走り抜ける。

 まさかこんなところで墓穴を掘るとは……

 学校の校舎で迷うのは入学式から一週間までだろと思うかもしれないが、鷹放学園はその規模から一年生用の校舎だけで通常の学校一つ分の教室が入っている。

 そのため学食と購買を除くほとんど場合ほかの校舎へは行かない。

 それに校長室なんてほとんど用は無い。

 知らないのも当然だ。

 場所を検索しようにも端末は教室。取りあえず右へ曲がって廊下を奥へ進み校舎の後ろにある接続塔と呼ばれる全ての校舎へ繋がる円形の建物へ向かう。

 記憶をたどるとそこに案内表示があるのを思い出したからだ。

 接続塔は空港の搭乗橋のような形をしている。円形の建物から前にある三つの校舎から渡り廊下がのびており塔を介して後ろの三つの校舎を渡り廊下で結ぶ。

 内側から見ると円い部屋に入口が前に三つ。後ろに三つあるような感じだ。

 接続塔に着き端の方に設置されていた電子案内表示の索引の『か』行の一番下に目当ての文字を見つけ軽く画面を触れる。

 結局の一年から三年の校舎ではなく後ろの三棟の校舎の内真ん中の校舎の最上階に

校長室はあった。 

 正確な場所を確認し急ぎ足で校長室へ向かう。

 接続塔を出て三分後。

 白西は一つの大きな木製の扉の前で立ち止まる。

 緊張が高まり脈拍が上がる中、最初に告げる言葉を頭の中で吟味し一息ついて肩の力を抜く。そして思い切って扉を二回ノックして扉を開け一礼して「お待たせしてすみません。お呼び出しをもらった白西です」と、言ったあと顔を上げる。

 部屋の第一印象としては校長室というよりかは艦長室のような部屋だった。

 白を基調とした壁の一角には歴代の校長の写真がずらりと並んでおり部屋の一番奥には合衆国大統領執務室に置いてあるような高そうな机が鎮座しており、その前には革張りの高そうなソファーが二つ、向かい合って配置されていた。

 そしてそのソファーに軍服を着た白西がしる校長と知らない男性が向かい合って談笑していた。

 てっきり鬼のような形相の先生が待っていると予想していた白西は困惑して取りあえず言葉を探す。

 すると白西から見て右側のソファーに座っていた老人がが白西の存在に気付き、声を掛ける。

「おうっ。君が白西君か?」

 問いかけに白西は「はい」と、答えた。

「おお、そうか。取りあえずここに座ってくれ」

 そう言って腰を上げ自分の座っていた場所を指し示す。

「え? あ……えっと……」

 白西のこれは予想以上に大変な事になってるんじゃないか?と、最悪な想像が脳裏をよぎった。

 立ち尽くしてる間に向かい側のソファーに男性を腰を落とし、もう一度指し示す。

 これ以上立ちっ放しは迷惑になるだろうと思い白西はソファーの前の方に腰を下ろして背筋を張る。

 白西から見て右手に座っている縁の黒い老眼鏡を掛けた優しそうな人が岩仲校長だ。

 そしてその隣には第一印象としては刑事を連想させる少し厳つい顔をした六十代くらい男性が

座っている。

(さてどうするべきか……迂闊なこと言ったら……)

 どんどん予想がひどくなっていき最終的に島流しまで考えた所で岩仲が口を開けた。

「大分時間が掛かったようだけどなにか取り込み中だったかな」

 優しい口調で語り掛けてるが白西はなにかが崩れ始める予兆に聞こえなるべく刺激しないように事実を伝える。

「えっーと、実は校舎で迷ってしまって……」

「ああ、そうかそうか。確かにこの学校は色々入り組んでるから私も校長として着任したての頃はよく迷ってたよ。なあ」

 岩仲は隣に座っている男性に話を振る。

「ん? そうだな。確かに色々入り組んでいて分かりにくい。空母の中みたいだな」

 そう言ってお茶をすする。

 白西は岩仲に疑問に思っていた隣に座っている老人について説明を求めた。 

「あの……岩仲校長。隣に座ってる方は……」

「そう言えば自己紹介を忘れていたな。三本だ。委員会の方で働いてる」

 湯呑みを置いてそう告げた。

「あ、えっと白西伊吹です」

 白西は委縮したまま軽く一礼する。

「まあ、そんなに硬くならずにリラックスしてもらって構わないよ。お茶でも出してあげたいけど、出すと特別扱いと上から言われかねないから」      

 岩仲が孫に語り掛けるような口調で言われ取りあえず白西は肩の力を抜く。

「さて……そろそろ本題に入ろうか。雑談するためにここに呼んだ訳じゃないからな」

 三本が重たい口調で言った。

 白西はどんな言葉が飛び出てくるのだろうと身構える。

「君をある部隊に送れるようにしたい。主に斥候をする部隊だ」

「はい?」

 予想外の言葉に白西はおもわずタメ口で答えてしまう。

 慌てて謝罪を述べる。

「あっすみません」

 斥候は大部分が機械化されているが、それゆえに対策が講じられやすい。

 そう言った場所には今も人が斥候を行う。斥候は敵地のど真ん中に送られるため危険はどの部隊よりも高い。

「もちろんこれは推薦であって君の意思が尊重される」

 三本は次々と言葉を述べる。 

「それに志願してすぐになれる訳ではない。三ケ月の適正訓練を無事にクリアする必要がある。君はまだ初期訓練プログラムを受けてる最中だから適正訓練を受ける事は出来ない……だか、もし志願するようなら特別コースを用意する。普通この学園を卒業する時に軍以外の諜報機関へ行く場合を除いて曹長の階級が与えられる。しかし特別コースは二年に進級した時に曹長の階級が与えられ、夏の長期休暇を使って少尉候補生教育を受けたのち少尉の階級が与えられる。

そして残りの在学期間で斥候について学び、卒業と同時に部隊に配置される。ずいぶんと駆け足になるが大雑把に説明するとこんな感じになる」

 三本の言い終えると目の前の湯呑みに注がれたお茶を飲み干した。

 想像とは一八〇度違う結果に白西は逡巡する。

 三本の口から出た言葉が嘘でないなら、最上級とも言える待遇だろう。

 普通なら数年掛かるが僅か三年で尉官にまで登れるのだから。だがここで白西の頭に一つの疑問が浮かんだ。

「……えっと、なぜ自分を選んだのですか」

「模擬戦の時の映像を見てね、君の戦術に才能を感じたからだよ。色々抜けてる所も多々あったけど」

 と、岩仲が答えた。 

「…………そうですか」

 岩仲の回答を聞いてどう反応すればいいのか困り取りあえず作り笑いで頷いた。

 そのあと静かな沈黙が校長室に宿った。

 この待遇はおそらく自分のような学生には最高の待遇だろう。

 蹴るような理由も見当たらない。だが承諾しようと思うとそれはそれで、

また別の思いがブレーキを掛ける。

 さまざまな思いが脳裏をよぎったあと。白西は沈黙を破り呟いた。

「その……やりがいとかはありますか」

「やりがえはある。軍の中でもトップクラスのエリートの道だ。それに君は同期の仲間よりも高い階級を得られる。君もなるべく早く高い階級に行きたいだろ」  

 三本はそう答えた。

「………………階級には興味はありません。ただもう一つ聞きたい事があります」

 白西は三本を見据えて少し間を開けて言い切った。

「戦争をやめさせられますか」

 …………

 再び校長室に沈黙が舞い降りた。

 先ほどとは違うとても重たい沈黙だ。

 一分が一時間に感じるほど時間がゆっくりと流れる。

 二分位経っただろうか、三本が重たそうに口を開けた。

「この戦争はまだ終わらない。君が合衆国大統領を説得して米中露を無条件降伏させる、のなら話は別だが。今の状況ではおそらく核搭載の大陸弾道ミサイルをそれぞれの国の首都に落すくらいしないと敵国は降伏して講和には参加しないだろう」

「………………分かりました。えっと、この話はまだ考えさせて下さい」

 そう言うと白西はすっと立ち上がり一礼したあと扉へと歩を進め再度、岩仲と三本に向かって一礼し校長室を後にした。

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