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地球から一番遠い教室で  作者: 草川斜辺


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ホモ・サピエンス・サピエンス

『ホモ・サピエンス・イダルトゥ』


我々現生人類は一般に「ホモ・サピエンス」と呼ばれるが、「ホモ・サピエンス・イダルトゥ」と区別する場合「ホモ・サピエンス・サピエンス」という。


人類は、猿人、原人、旧人、新人と進化してきたが、この「ホモ・サピエンス・イダルトゥ」は「新人」段階の人類の祖先、現生人類の直接の先祖であると考えられている。


現生人類には様々な人種があるが、人種は違っても人類としては同じ種だ。

肌の色の違いはもちろん、体格や顔のつくりもかなり違うのに同じ種というのは不思議な気がするかもしれない。だが、これらの違いは遺伝子のパラメーターの違いにすぎない。例えば肌の色を決める遺伝子がある。指定する色のパラメーターが違うだけで遺伝子としては同じ種のものであるということだ。


現在生き残っている人類は「ホモ・サピエンス・サピエンス」のみ。他の人類亜種はすべて滅びた。厳密には、交雑によって彼らの遺伝子の一部は現生人類に受け継がれているものもあるが、種としては滅びている。


将来、人類の種が分岐することはあるだろうか。

もし、飛行機のような移動手段がない状態がこれから10万年続いたとしたら、人類は別の種に分かれる可能性は十分にある。ただ、世界中を自由に行き来できるようになった今、そんなことはほぼなさそうだ。


だが、その可能性はゼロではなくなった。人類が宇宙に進出してからは。


現在、宇宙には10万人の人類が生活している。その内9万人は月面の都市、ヘイワース市の住民だ。

ヘイワース市の前身となる基地ができてから35年、人口が増え、市として自治が認められるようになって27年になるが、短期滞在である観光客を除くと、平均滞在期間は3.5年、ほとんどの住民は長くても7年の滞在である。だが、最近ドームシティという、月面に大きな透明のドームで囲んだ街を建設しようという動きもある。


また、最近滞在年数が10年を超える住民を中心に、独立に向けた運動が行われるようになってきた。彼らは一時滞在ではなく月の住民だと主張している。賛同するものや支援者もいるが、今はまだ小さな活動にすぎない。


だが、何事も最初は小さなものだ。


月は観光で行ける場所になったが、それでもそう簡単に行き来できるところではない。この都市が発展すれば、この実績を元にさらに遠い火星への移住が始まるだろう。火星は月よりもはるかに遠く、人類の交流は少なくなる。つまり地球と隔絶した世界を得た人類は、別の種に分岐する可能性を得る。その第一歩がこの月面都市なのだ。


地球外で進化した人類は間違いなく地球人と対立する。

現在の地球ですら、同じ種だというのに人種や民族、思想、宗教の対立がなくならないことからみても明らかだ。それでもまだ、同じ人類同士ならまだ分かり合える可能性はある。それが異なる種の人類の対立になったらどうだろう。解決は遥かに困難であることは間違いない。対立の芽は小さなうちにつぶさなければ。


幡手翔椰(はたてしょうや)はタブレットの画面をスクロールする。ヘイワース市内で撮影した写真が流れる。

噴水広場、公園通りの観光客、地下鉄の駅、地球展望レストラン、コワーキングスペース、エアロック、月面ツアーの様子、旧市街、緊急用の閉鎖扉、火災報知器、減圧警報機、非常時の案内版などが次々と表示される。


「さて、次はこれかな」

ほくそ笑む幡手。

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