ようやく練習らしい練習
「ナイッシューッ!」
柚子山が中山からのロングパスをゴールに流し込む。
後ろから来るボールを頭の上でキャッチし、ゴールまで誘導してきれいに決まったシュートだ。
「こういうエレガントなシュートが、ぼくの目指すプレイスタイルだよ」
着地した柚子山がアピールする。確かに柚子山が好きそうなプレイだ。
「今のは俺のパスのおかげだろ」
中山がつぶやく。
「まあそれもあるけど、柚子がきれいに決めたことは確かだよ」
浅井がいう。なお、柚子山の愛称は「柚子」だ。
「まあそうだが、こんなのが決まるのは速攻の時くらいだ」
不満そうな中山。
「あんなのは練習だからできるシュートだ」
不満は止まらない。
「莉奈ちゃーん、今度は俺がダンク決めるからみててねー」
永江が本條莉奈の方に手を振る。
本條も手を振り返す。隣には藍崎華瑠奈がいる。
先週末、浅井と藍崎がデートしているところで本條と会い、そこでの会話から藍崎も大会までこのチームに関わることになったのだ。浅井としてはうれしいのだが、合流する際の紹介で本條が華瑠奈を浅井の彼女だと紹介されたのはちょっと照れくさかった。
永江はセンターラインのあたりでゆっくりとドリブルしながらゴールに近づき中山にパス。それからゴールに向かって思いっきりジャンプする。
「しゃーねーな」
中山はそういうと、永江のジャンプに合わせパス。ボールは永江のジャンプが最高点に到達したあたりでちょうどキャッチできる位置に一直線で飛んでいく。
ボールをキャッチした永江がダンクシュートを決める。
「ナイス」
「ナイッシューッ」
「ダンクシュートはエレガントさに欠けるよね」
柚子山がつぶやく。
「まあ、俺たちのチームに必要なのは、スタイルよりも得点だ」
クレイグが指摘する。肩をすくめる柚子山。
「見たー?」
落下しながら永江が本條の方に呼びかける。彼女たちがゴール裏のあたりでボールを拾ってくれるようになったので練習もはかどるようになった。5人しかいないチームなのでとても助かる。
「うん、ナイスダーンク!」
「ありがとー」
それに雰囲気もよくなった。というか殺伐な感じがなくなった。
「莉奈ちゃん、ボール投げるよ」
クレイグがゴール裏にいる本條にパスする。ワンバウンドしたボールを本條がキャッチ。
「俺もダンク決めるから莉奈ちゃんパスしてよ」
「あ、俺も次にお願い」
永江も本條にパスを要求する。
「恵ちゃん、私も練習に参加するよー」
本條が中山恵一郎に声をかける。
「ああ、たのむわ」
本條はコートの中に入ってくるとスリーポイントラインのあたりまで移動する。
「莉奈ちゃんボール」
クレイグが本條にボールを要求する。本條はチェストパス、両手で押し出すようにパスする。バスケの経験があるというのは本当のようだ。ボールは逆回転をかけており、結構な距離があるがまったく落下することなくまっすぐに飛んでいく。ここの重力は地球の1/6だし、バスケットボールもバレーボールくらいの軽さだ。なので、回転をかけるとその影響が大きく出る。
「ナイスパス!」
クレイグがセンターラインのあたりでドリブルを始める。
「恵、ディフェンダーやれよ」
中山はうなずくと3ポイントラインあたりに移動する。
「莉奈ちゃん、ディフェンダー交わしてパスするから」
クレイグが顎で中山を示す。
「わたしはここから動かなくていい?」
「もちろん。ダンク決めるから見てて」
そういうとドリブルしながらゆっくりとゴールに向かって進み始める。中山が前をふさぐ。
「なめられたものだな。ダンクやるって宣言して、どこにパスするかもわかってて俺を抜けると思われたとか」
中山がそういいながらクレイグをけん制する。
「恵はわかってないんだよ」
ドリブルしながら中山の隙を狙いながらクレイグはそういうと、ドリブルをやめて両手でボールをつかむ。ジャンプすると見せかけてボールを片手でアンダーハンドパス、下手投げで本條にパスする。
中山はクレイグのジャンプ動作にはつられず、パスの後ゴールに向かって走り始めたクレイグにすぐ反応する。クレイグがジャンプしたのを見て、ダンクを狙う彼に本條からのパスが通らないよう、本條とクレイグを結ぶ直線上、本條の方に体を向けてジャンプする。ジャンプの速度をクレイグの速度に合わせている。このあたりはさすがだ。
「莉奈ちゃん、こっち!」
クレイグが腕を大きく振りながら本條に叫ぶ。
「いくよー!」
そういうと本條がチェストパス、中山の手が届かない方向に飛んでいく。これではクレイグも取れないかと思ったらボールは大きくカーブ、クレイグは片手でボールをキャッチするとそのままゴールにダンクシュートを叩き込む。
「莉奈ちゃんはパスがうまいってことをね!」
クレイグは先に着地している中山にいう。
「ナイスダンク」
「莉奈ちゃん、すげー」
今のプレイを見ていた柚子山と永江の声が聞こえる。
「くそっ、莉奈は中学までバスケやってたんだったな」
中山が悔しそうにいう。
「なに? 今の曲がり方」
浅井はそういうと手でボールの曲がり具合を表す。本條がパスしたボールは、中山の手が届かないどころか全く見当違いの方向に飛んでいったように見えたが、大きく曲がってクレイグの方に戻ってきた。
「ここはボールが軽いから、強い回転をかけるとものすごく曲がるんだよ。低重力だからボールが遅いと滞空時間も長いから特にね」
柚子山が説明する。
「でも、みんなあれほど曲げてないよね。コペルニクス・カップでもあまり見たことないように思うけど」
浅井が不思議そうに質問する。
「男子はプレイにパワーとスピードがあるしパスも速さを優先する。女子バスケはそんなにスピードないけど、ああいった曲がるパスを時々使うね」
これは永江。確かに、ボールの速度が遅いほうがよく曲がる。
「ぼくは結構好きだな。曲げるパス」
大きく曲がるパスでディフェンダーをかわすというのは、永江が好きなエレガントなプレイに含まれるようだ。
「そういえば、浅井はバレーボール部だったんだよね?」
永江が浅井に話しかける。たしか永江も中学でバレー部だといっていたことを思いだす。
「うん。転校前の高校ではバレー部、一応アタッカー」
「ぼくはセッターだったんだ」
永江がボールをトスするようなしぐさをする。
「へー。ここでもバレーできればいいんだけどね」
浅井もサーブを打つように腕を持ち上げる。
「遊びでやったことはあるよ。設備がないから紐をネット代わりに張ったんだ。ただ、ネットを高くすると山なりのサーブしか打てないんだよね。それと滞空時間が長いから、ブロックの動きを見ながらアタックできるから攻撃側が有利なんだ」
「なるほどなあ」
試してみたい気はするが、山なりサーブだけというのはちょっと興覚めか。ジャンプサーブも、ネットが高くてコートの広さが同じなら決まりそうにないな、と浅井は想像してみる。
「で、重力が小さくて踏ん張りがきかないし滑りやすいしで、アタックの速度に反応できなくてゲームにならないんだわ」
「なるほどね」
「でさ、試したいことがあるんだ」
永江がなにか企んでるような感じでにやついている。




