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転生令嬢は冒険者を志す  作者: 小田 ヒロ
後日談 今度こそ冒険者を志す!
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153 二人の女優が降臨しました

本日はお日柄もよく〜〜コダック先生とササラさんの門出の日は雲一つない快晴だった。


女神のステンドグラスからまばゆいレモン色の光が降りてくる。それを取り囲む雄々しくも慈悲深い四天。幻想的な色合いが磨き上げられた木目の床にユラユラ落ちる。


この神殿に常駐の神官はいないけれど、当然結婚式には取り仕切る神官が必要で……

はい、エリス聖女様がもちろん、真っ白なドレスに身を包み、お澄まし顔で聖杖を持ち、ドンと中央にお立ちになっておられますよ!

両脇にスケカク従えて。



右手の新郎側の席には、親代わりのおばあ様とジークじい。そして二列目以降は私やルーやアニキ、マットくんやララさんなどトランドルとギルド関係者。神殿完成の功労者としてネルソン先輩や親方、トムさん、大工さんたち。


「あれ?ミユたんは?」

結婚式は乙女の夢、今日の結婚式をミユは何日も前から興奮して待ってたのにどこ行った?

『さっきまでそこで祭壇の花飾りを念入りにチェックしてたけどな』

ルーが首を傾げる。


そして……お忍びの冒険者スタイルのギルさんが時間をやりくりしてやってきた。

私の隣にそっと滑り込んだギルさん。あの日以来の再会。髪や瞳の色が違うと戸惑いはあるけれど……ギルさんはギルさんだ!

「ギルさん!結婚、コダック先生に先越されたねー!ニヒヒ!」

「お嬢……はあ、俺は今、それどころじゃないっつーの」

せっかくおめかししてきた髪を、いつものようにギルさんの大きな手でわちゃわちゃされた。




左手の新婦側の席には、初めてお会いする、ササラさんの育った孤児院のゴッドマザー。小柄で高齢のおばあさんは、ミユが鑑定すると、眩しいくらいの青い光を放ったとのこと。聖女ササラを育てた人。人格者に間違いない。

その後ろにアルマちゃんとニック。そしてササラさんの弟分の騎士学生のシルクはじめ孤児院のたくさんの子供たち。



時間になり、セシルがオルガンをひきはじめた。セシルがわざわざ留学中のガレより一時帰国し、プレゼンしてきた持ち込み芸……さすが侯爵令息……。


扉が開く。コダック先生とササラさんが姿を見せる。はじめのはじめっからコダック先生と共に歩みたいというササラさんの希望でこの形になった。


二人の衣装は……もちろんマーカス商会が全力で作った!コダック先生の服は、前王に謁見する際に作ったものを礼装風に少し形を整えて、私の〈忍び装束グレー・改〉の生地で改めて仕立ててもらった。


ササラさんのドレスは……ササラさんの瞳と先生の髪の色から当然……赤!透け感のある総レースの下に光沢あるシルクを重ね……贅沢だけれどスッキリとして上品。詰襟のドレスの胸には、何とジャンクベアーのキバのジャラッとしたネックレス!さてはコダック先生にもらったな!で、一時も放したくないと。可愛いんだからササラさん!


長い裾とベールを後ろからマーカス夫人自ら大事そうに扱って入ってきた。既に号泣している。夫人にとってササラさんは平民の星で……自慢の娘なのだ。


二人がエリスさんの前にたどり着く。

マーカス夫人は小さく会釈し、静かにゴッドマザーの隣に下がった。



エリスさんの、凛とした声が響き渡る。

「まず、この素晴らしき良き日、この厳かにも温かな神殿にお呼びくださったこと、エルザ・トランドル様に感謝申し上げます」


リンと、おばあさまに向けて聖杖を振った。おばあさまが淑女の返礼をする。


「では、皆様、お揃いですので、結婚式を執り行わさせていただきます。皆様ご存知の通り、私とササラは苦楽を共にしてきた大親友……。

…………

…………

……コホン。コダック先生!ササラを泣かせたら、神殿の力、フルで使ってこの世から抹殺するけど、いいですか?」


…………あれ?


エリスさん、素に戻ってますが?聖女の擬態は?いいの?

参列者の目が揃って点になった。


「「せ、聖女様!!!」」

スケカクが唖然とする。


「ちっ、そもそもエリスが、ササラに嵌めろとかアドバイスしたからややこしくなったんだろうが!」

「はあ?ササラが懸命に想いを伝えてるのに、先生がいつまでたっても煮え切らないから、背中押してあげたんでしょ!教え子だ、聖女だなんだってウジウジウジウジ!感謝してほしいくらいです!で、返事は?」


斜に構えて顎を突き上げて一段高いところから先生を睨みつける聖女は、これ以上なく……ガラが悪い……。


「俺が惚れた女を泣かせるわけないだろーっ!!!」


先生絶叫……。


「ぶわーっはっはっは!」

ジークじいが最前列で吹き出した!おばあさまがシラけた目をしてハンカチを渡す。


「はーい。では、ササラ!この強いだけで、愛を囁いて女を喜ばすこともできないヘタレ。素直じゃない愛想ない、ないない尽くしの男を本当に夫と認めますか?」


『エリス……ボロクソ言うなあ……』

私とお兄様に挟まれたルーが同情するように呟いた。


「もーエリスってば……今日は聖女モードで頑張るから任せとけって言ってたのにー!もっちろん、コダック先生のこと、そーゆうとこも全部ひっくるめて大好きだから夫として認めますっ!」


「「「「おおおおー!」」」」

歓声が上がる!


「確かにササラの方が男らしいね」

お兄様が手を口に当ててクスクス笑った。


「では皆様ー!ササラがこう言ってるので聖女()結婚認めてあげまーす。コダック先生がやらかした時は直ぐに大神殿の私宛に報告してくださーい。届いて二秒で天罰落としまーす!」


「「「「了解でーす!!!」」」」

老いも若きもちびっこたちも、ゴッドマザーも手を上げた。



「な、なんなんだよ、もう……」

コダック先生が肩を落とした。ドンマイ!


『コダック、このまま尻に敷かれるの、確定だな……』

ルーが気の毒そうに先生を眺めた。


「では、指輪の交換を!」


ザワッ!!!


カクさんが運んできた指輪は……小石ほどのルビーだった。先生の愛の重さがようやく皆にも伝わっただろう。あれを探すのに、鉱物に好かれるニックを連れて、随分と採掘して回ってた。

結局私の次期皇妃権限を使ってガレのアスの霊山に入らせてもらって見つけたのだ。ああ、石にうっすらアスの加護が見える。オカンなアスは私を守ってくれる二人を贔屓してくれたみたい。


コダック先生がササラさんの剣ダコだらけの頑張ってる手をそっと持ち上げ、薬指に優しく特大ルビーを滑らせた。隣の小指にはアルマちゃんの金の指輪が光ってる。


ササラさんは、先生の首に金のチェーンをかけた。これからはそのチェーンにプレートをつけるのだろう。大方先生は指輪はいらないと言ったんだ。戦闘時、正直指輪は邪魔。先生は常に最前衛の男だから。ササラさんの金髪の色。先生の赤い髪に似合ってる。


「さて、儀式は滞りなく終わりましたが、この神殿に祀られた、大いなる四天の神々よ!この結婚を認められますか?」


…………ん?

認められますか?ってどういうこと?何故疑問形?

普通、神々に認められました!めでたし!じゃないの?

皆疑問に思ったようで、ざわつく。ルーと目を合わせると、キョトンと首を傾げた。


エリスさんが聖女の笑みを浮かべ、聖杖を高く掲げ、リン!と鳴らす!


途端にエリスさんが眩く光り、良い香りのする野花が神殿中に降り注ぎ、祭壇に水しぶきが巻き上がったかと思うとその向こうに、紺碧の細長い巨体が淡い幻のように現れた!!!


「あ……あ…………神よ……」

ゴッドマザーが全身を震わせハラハラと涙を流し、手を握り締めて祈りを捧げる。

おばあさま、ジークじい、ギルさんはじめ、見えるものが頭を垂れる。


孤児院の幼子たちが、

「うわー!あおのりゅうがみさまだー」

「せいじょさまの、せいじゅうだー!」

「そーりゅー!」

パチパチパチとはしゃいで手を叩く。


「清らかな子どもには、魔力はなくともミユ様が見えるのだな……」

お兄様が呟いた。


っていうかさあ?

「ねえ、聞いてた?この演出?」

『知るか!ったくミユの芝居好きには全く付き合ってられん。小龍はどんな育て方したんだ!』

「何でミユたんとエリスさん、言葉通じないのに相変わらず息バッチリなの?」

『大方似たりよったりの感性なんだろっ!』


正面に顔を戻すと、目の前の奇跡にスケカクはやっぱり号泣。そしてコダック先生とササラさんはポカンと口を開けている。そんな新郎新婦の頭に、真面目くさった顔をしたミユは、上からチュッチュとキスをして、ミストの向こうで微笑んだ。

そして、再び色とりどりの花びらを振りまいて、キラキラしゅるんと天に昇るように消えた。乙女ミユたんの真骨頂……


『無駄に姿晒して……後で説教、いや、お仕置きだ』

ルーが水色の目を薄ーくして、無情に言いはなった。

「……お祝いの席では控えてよ?」



「この清らかなる神殿に、東の御仁がたった今ご降臨され、二人の結婚をお認めになり、祝福を授けられました!」

エリスさんが高らかに宣言した!



うおおおおおおおー!!!

雄叫びと拍手が鳴り響く!


「コダックー!ササラー!バンザーイ」

マットくんが感極まった声を張り上げた。

「「「「「バンザーイ!!!」」」」」


「そういえば、〈聖女〉って結婚したら、破邪とか使えなくなるの?」

『なんだそりゃ?聞いたことないぞ?』

「そっか」

ササラさんはササラさんのままのようだ。


招待客がコダックさんとササラさんの元に駆け寄り、口々に二人を祝う。

ササラさんはちびっこ軍団に囲まれてドレスのまましゃがみこみ、絶えずにっこり笑ってて、コダック先生は仲間の冒険者の手荒い祝福を受けつつも、そんなササラさんを絶えず見守ってて……妬けてしまう!

ああ、私の恩人のお二人、末永くお幸せに……


皆が萎縮しないよう、領主の私はその輪から少し距離をとって、ルーとお兄様と微笑みながら見守った。





マツキ特製の華やかな婚礼料理とウエディングケーキを食べて、飲んで歌って騒いで宴は深夜まで続いた。


輝かんばかりのササラさんの周りには、女性陣が輪になって恋バナを話し込んでいる。


コダック先生にエベレストが代表で、私たち同級生全員からの寄せ書きとプレゼントのマント(私が目一杯防御魔法を纏わせた)を渡すと先生は目を潤ませた。先生はなぜか男子生徒からも内緒話を聞けるほど熱く慕われているのだ。先生ほど信頼できる、話のわかる先生はいないとの弁。それは納得だけれど、男子のみんなと先生、どんな共通項があるんだろう?

そんな先生と付き合いの長いギルさんは、先生と肩を組んで号泣した。ギルさんも結局ベロベロに酔っ払っていた。


途中でルーが、目を輝かせ鼻息荒く戻ってきたミユをカプっと咥えて消えたけど、気づかないフリをした。


締めはもちろん二人の胴上げだったよ!わっしょい!





◇◇◇





後日、結婚式の絵を『市井の祝福』という意味深タイトルでネルソン画伯が発表し、トランドル神殿は本当に神が降臨する世界最強のパワースポットと認知された。

神殿にジャラジャラお金持ちが寄進し、巡礼者が押し寄せ街は潤い、おばあさまはあっという間に投資分を回収した。そしてご自分でサクッとかなり前衛的な領主邸を再建してしまった。ひょっとして一から十まで想定済み!?


「ネルソン呼んで正解だったわねえ。セレフィーちゃんの婚礼の時は四天の御仁全てお揃いになるだろうから、軽くこの数十倍の経済効果……。え?結婚式はガレ?バカねえ両方でするに決まってるじゃない。そうだわ、ガレの金持ち目当てに無駄に豪華な宿でも建設しておこうかしら?……うふふ!もちろんセレフィーちゃんはトランドル領主だもの。平時に出来る領地の発展に進んで貢献するわよねえ!楽しみだこと!おほほほほー!」


『……エルザ、()()()()だな』

……おばあさまにゴリゴリプレッシャーをかけられた。


やっぱりおばあさま、最強伝説!







たくさんの方にお読みいただき嬉しいです。

そして誤字報告、感謝しております。修正が追いつかず申し訳ありません。


今後とも、コミカライズ共々よろしくお願いいたします (*^▽^*)

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