152 おばあさまがエライもん作りました
「ごめん、脱線したわね。で、先生は私の家のご近所さんだった。任務もたまに重なって、教えを請うと納得するまで付き合ってくれた。先生はトランドルを愛してて、自分の生徒を愛してて、それらを守るためにあらゆる方法で戦ってた。知れば知るほど大好きになって、私を先生の隣に置いて欲しい、私も先生と一緒に戦いたいって!思うようになった」
「戦う前提でなくてもいいと、思いますが……」
アルマちゃんが小さく呟く。ササラさんは完全にトランドルに汚染された。アルマちゃんも時間の問題か……
「で、あの悪夢のような魔法学院の戦いが終わって、セレフィーとエリスの怪我も回復に向かって、エルザ様が復活した!ふう……と一息ついて落ち着いたら自分の気持ちに気がついた。
ここ数年で私は命の儚さ尊さを痛感してたから……悠長にしてられないって、自分に喝を入れた!そっからは年の差やら教師であることやらで及び腰の先生を押して押して、エルザ様にお願いして組む仕事増やしてもらって、泊まりの時に、エリスのアドバイス通り、酔っ払った先生を嵌めて、追い込み漁したのー!で、先生捕まえたー!」
「う……」
先生が呻いた。
「聖女が……聖女に嵌めるアドバイスしていいの……?」
アルマちゃんのほんわか恋愛脳にヒビが入った……。こうして少女は大人になる……。
ササラさん、狩人だ。完全にトランドルの女だ。
『女とは……恐ろしいな……』
ルーが尻尾をキュッと丸め、脚の間に隠した。そんなルーをコダック先生がわかってくださいますかっ!って思いを込めた、すがるような三白眼で見つめている。
「先生は騎士学校と任務で忙しい。私もエルザ様に同行し、他国を回ったり忙しい。時間が全然合わないの。でもどの仕事も重要なもので削りたくない。すれ違いの日々が続くと不安が募って……こんないい男、取られるかも知れないでしょ⁉︎」
「……ソウデスネ」
アルマちゃんの顔はとうとうフリーズした。
コダック先生、顔が真っ赤……
「そんな思いが顔に出てたのか、エルザ様があなた達さっさと結婚しなさいって!そしたら短い時間でも同じ家で一緒に過ごせるでしょって。先週、先生の家に引っ越したんだー!もー幸せー!」
……もともとガーベラの花のようなササラさん。
でも今わかった。これまでの笑顔は100パーセントのものじゃなかったって。生い立ちを考えれば分かりきったこと。見かけよりもずっと大人だったササラさんに、騙されていた。
でも、今、力が抜けて、ふわっと笑うササラさんは、本当に綺麗で……自分の手で自分の幸せを捕まえたのだ。
「先生は幸せ?」
私は顔を横にして先生を覗き込み、コソッと聞く。
「……当たり前だ。バカ!」
照れてますな。
コダック先生を無理矢理結婚させることなどできない。先生は嘘が大嫌いで、真っ直ぐな人。好きでもない人と結婚するなんて残酷なことできるわけがない。
先生も、ササラさんを……ふふっ、好きなんだ!
「先生、どこが好きか、一個だけ教えて!内緒にするから!お願い!」
私は必死に食い下がる。
「……辛い経験をしても、腐らず、真っ直ぐで……強いところだ。友を信じ、エルザ様を助け……明るく、気丈に……到底敵わない」
「ふふ、全然一個じゃなかったよ?先生、見る目あるね!さすが私の先生!」
「……だろ?」
「ササラさんを幸せにしてよ!」
「ったりめーだ!」
何故か私はゲンコツを食らう。
「痛いー!どしてー!」
本日二発目なんですけどー!
「コダック先生照れ隠しだー!」
アルマちゃんも先生を囃し立てる。
「ちょっと待って、私が先生を幸せにするのっ!」
「うわー!もうラブラブ過ぎて熱いよ〜セレフィー!」
私の大好きな人が私の大好きな人と結ばれる。最高じゃんか!
「「ササラさーん!おめでとー!」」
私とアルマちゃんはササラさんに両脇からムギューっと抱きついた。
「「「「おめでとーーーー!!!」」」」
ギルド中が私たちの会話に聞き耳を立てていたらしい。
ササラさんが私たちだけでなく、ララさんや、馴染みの女性冒険者、長老のおばあさんにワイワイ冷やかされているとき、コダック先生はジークじいやマットくんたちに取り囲まれて、とりあえずボコボコにされた。うん、綺麗どころ掻っ攫ったからね!しょうがない。
◇◇◇
トランドル領のど真ん中に、ルーの熱狂的信者第1号のおばあさまが、自分の私財を投じてルーをはじめとする四天を祀る神殿を建ててしまった……
もちろん、私を通してルー、ミユ、アス、タール様の許可をとったよ。
皆で、それよりも領主邸の再建が先だろう?って言ったけど、トランドルという新しい国を一つにまとめるには、揺るがない正しい信仰が必要で、その寄る辺が必要であると言い切った。
おばあさまは今、そこそこ広めの空き家を適当に改装して住んでいる。私とアニキは来年にもおばあさまにピッタリのモダンで強固な領主邸を建てる予定だ。
そしてその神殿のこけら落とし?が、おばあさまの命令により、コダック先生とササラさんの結婚式になった。
トランドル産の巨木で建てられた素朴な親しみやすい神殿。一枚板で出来た入口の両開きの扉にはトランドルの紋章、剣と小龍様が彫り込まれている。
中は信者席として木製のベンチが並び、一番奥に祭壇と、説法をする神官のテーブルと椅子がある。とはいえここの主役は四天の聖獣、皆勝手に祈ればそれでいいということで、神官を常駐させるつもりはないそうだ。
神殿の真上を仰ぎ見ると、東西南北にそれぞれの聖獣、そして天頂に月の女神様のステンドグラスがはめ込んである。領主(一応?)である私が寄進した。もちろんダンカン親方の工房で作ってもらった。
注文の際、私がサラサラっと描いた四柱の聖獣の絵を見て、ルーが激怒し、アスが泣き、ミユに首をキュッと締められた。ぐえっ。
「ここまで絵心がないなんて……破壊的だな……」
ニックが呆然とした。
ニックがマードック経由でネルソン先輩を呼び出した。ネルソン先輩は騎士団四姉妹の画集が大ヒットし、有名画家の仲間入りを果たしている。
「で、何で私だけウサミミの着ぐるみだったんですか?ん?本当に納得いかないんですけどぉ?」
「いや……圧がね、凄かったんだよ……圧が……」
騎士学校出身とは思えない、繊細な手を持つネルソン先輩の、私への負い目を最大限に活用し、私の描写する言葉からみんなの姿を描き起こしてもらった。タダで。審美眼の厳しいミユも唸る下絵。
(余談だが、この下絵でネルソン先輩は宗教画家としても名声を得ることになる……)
「女神様のあのお姿、飾ってもいいのかな?」
『……ありのままを描く必要はない。大切なのは敬う想い。すでに女神は人の女の形が浸透している。全てを晒すこともない』
アスのアドバイスを受け、これまでの人型のイメージを継承した、ネルソン先輩の思う崇高な女神像を月をバックに描いてもらった。
それを、親方とトムさんとニックに繊細なガラスにしてもらった。ニックも平たいものなら上手いのだ。
私とアルマちゃんも記念にと、少しだけ手伝わせてもらった。
新しい窯を作るところからスタートし、親方たちが苦心に苦心を重ねた結果、五枚とも、言葉にならない出来だった。
「南の御仁の羽がなあ……虹色……何度作り直したか……」
「いや、東の四天様の青の方が難しかったよ。空を背にしたとき負けない、それでいて親和性のある紺碧……」
「あのー親方、トムさん、西の四天は?」
「ん?一番やりやすかったぞ?」
「西の四天様は虎というモデルがあるからイメージしやすいよね〜」
『オレが一番簡単……なんか腹立つな!』
私は一枚につき、工房の年収に当たる金額をつけた。この金額が今後ダンカン工房のステンドグラスの販売価格の基準になる。親方は貰いすぎだと慌てたが、その厳かでかつ温かな、ガラスのルーの表情を見れば、むしろ安すぎたかもしれない。ルー!最高に気高く慈悲深い出来だから拗ねないの!
今後、親方の工房はステンドグラスの注文が殺到し、てんてこ舞いになるだろう。
運動会だった皆様(特にお母さん!)お疲れ様でした!
次回は週末予定です。
皆さま、コミカライズの応援もよろしくお願いいたします(*^▽^*)




