閑話~幸せな光景~
すいません、遅くなりました!
登場人物多過ぎて中々まとまらず……
第3話の小話を活動報告の方に載せています。(←本編とはあまり関係ありません)
次回は本編に戻ります~
広大な美しい庭に囲まれた、これまた広大な屋敷の一角に、8人の子供達が集まっていた……
「うふふ、もうすぐね…?」
「ああ。楽しみだな。」
微笑みながら何かに期待を膨らましている少女、花時雨家長女・連華とそんな少女を微笑ましげに見返して相槌を返す少年、花時雨家長男・紫遠。
「ねーなにがもうすぐなのー?」
この場で最も幼く会話についていけていないのは、花時雨家次男・久遠。
「もうすぐ久遠さまに妹さまか弟さまがお生まれになるんですよ。」
7才に似合わぬ落ち着きを持った返答を返す少女は、雨宮家長女・薫子。
「どっちかわからないんですの?」
姉とは正反対に活発な印象を持つ少女は、雨宮家次女・桜子。
「奥様が楽しみは取っておきたいからと、お医者様に聞かれなかったそうだよ。」
この場では最年長の真面目で大人びた雰囲気を持つ少年は、雨宮家次男・桐悟。
そう、広い部屋の中央に輪になって歓談をしているのは、この屋敷に住む子供達だ。
大人たちはこの屋敷の奥様の出産で忙しそうなので、子供達は邪魔をしないようここに避難してきたのだ。
「ぼくはおとうとがいいなー。いっしょにおにわでおいかけっこするんだー。」
「あら、私は女の子が良いわ!可愛いお洋服を着せてあげるのよ。」
「僕はどちらでも良いよ。どちらにしても僕らの可愛い兄弟に違いないんだから。」
「それもそうね!さすがお兄様ね!」
「なまえどんなのかなー?」
「やっぱり……」
花時雨兄弟が想像に盛り上がり、
「おにいさま、どうして翔悟はおりませんの?つぎのおこさまは、翔悟がおそばにつくんですのよね?」
「ああ、そうだよ。だからお生まれになるお子様との顔合わせのために、今はお母様の所に居るはずだよ。」
「翔悟が主様をきちんと守れるように、私達でしっかり育てなければね。」
「でしたらわたくしがおべんきょうをおしえてあげますわ!このまえせんせいにほめられたんですのよ!」
「あら、えらいわね。では桜子が勉強を、私はマナーを教えましょう。」
「それなら俺は……」
雨宮兄弟が現実を見据えていた時…
『おぎゃーーーー!!!』
屋敷中に赤ん坊の泣き声が響き渡った。
「おや、無事生まれたみたいだね。」
「やっと生まれたのね!」
「うまれたー!!」
「「「おめどうございます(ですわ)、紫遠さま、連華さま、久遠さま!」」」
元気な赤ん坊の泣き声に、子供達は喜びで沸き立つ。
「ねえ、にいさま!あかちゃんにあいにいってもいいー?」
「わたくしもあいたいですわ!だめですか?紫遠さま!」
期待いっぱいに目を輝かせて詰め寄る二人に、紫遠は優しく微笑みながら答えを返す。
「んーどうだろう?もう少し落ち着いてからの方が良いかな、どうだい桐悟?」
「そうですね…俺が様子を見てきますので、もう少しこちらでお待ちください。」
そう言ってすぐさま桐悟が扉に向かうが、薫子がそれを呼び止める。
「お待ちください、お兄様。」
「どうしましたの?薫子ねえさま。」
姉の行動を不思議に思った桜子が問いかける。
「いえ、お父様に私たちがこちらにいる事をお伝えした時に、後で全員集めるとおっしゃっていたので、多分誰か呼びに来ると思うのですが…。」
「まぁ、そうなの?薫子がそう言うならきっとそうね。二人とも、もう少し待ちましょう?」
「「はぁーい……。」」
残念そうに、けれど素直にいう事を聞く二人に、年長組の空気が和む。
「ふふっ…では待っている間勉強でもしますか?」
柔らかな空気を一気に固まらせる一言を放ったのは、珍しく笑顔?な桐悟だ。
「な、何もこんな時に勉強はしなくていいんじゃないか?」
「そ、そうよ。あ、ほら、トランプとかしましょう?」
「私はお兄様の意見に賛成ですね。」
「「!?」」
薫子という味方がいなくなった二人に止めを刺すのは年少組だ。
「でしたらかんじをおしえてくださいませ!ほんをよんでいたらわからないところがありましたの。ね、久遠さま!」
「うん。ほんとってくるねー!」
素直な二人は本を取りに部屋を出ていく。
「と、桐悟…?。」
「か、薫子~…。」
「この前のテスト、本当なら100点を取れていたのに、正解して当然の所を間違えてましたよね?」
「うっ……。」
「連華様、苦手な教科は毎日復習しないと身につかないそうですよ。」
「えー……。」
「桐悟!このほんだよー。」
「わたくしはこちらですわ!」
年少組が戻ってきたことにより強制的に始まった勉強会は、彼らの父親が使いを寄越すまで続いた――‥‥
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「つ、疲れましたわ…大体理科なんて何の役に立つというの…?」
「桐悟は少し僕に厳し過ぎると思うんだ…。」
「お二人とも、何か?」
文句でもありますか?と言わんばかりの桐悟の態度に、慌てて二人は首を振る。
「にいさまたちーさきいっちゃうよー!」
「いってしまいますわよー!」
「廊下を走ってはいけませんよ。」
「「はぁーい。」」
生まれた子に早く会いたくて、今にも駆け出しそうな二人に冷静に注意をする薫子。
呼びに来た使用人は、そんな様子を微笑ましげに見ながら子供達を促す。
「皆様、あちらのお部屋で旦那様達がお待ちですよ。」
コンコン、と使用人が扉をノックする。と、扉が内側から開いたと同時に久遠と桜子が駆け込む。
「かあさま!あかちゃんはー!?」
「おくさま!おこさまはー!?」
「あらあら…ふふ。赤ちゃんはここよ〜。」
部屋の寝台で休んでいた花時雨家当主夫人・華澄は、勢いよく入ってきた2人に目を丸くしながらも微笑んで生まれたばかりの赤ん坊を見せる。
生まれた赤ん坊は、花時雨に生まれた者が必ず持つ紅い髪とたまにしか現れなくなった花紋を手の甲に持っていた。
「わぁ…ねぇ、おとこのこ?おんなのこ?」
「ふふ、妹よ〜。」
「おくさまとそっくりなきれいなあかいかみですわね!」
「ありがとう!桜ちゃん。私の娘よ~♪」
「華澄、一応私の子でもあるんだがね…。」
少し離れた所で、愛しの妻とその可愛い子供達のやりとりを微笑ましげに見守っていた花時雨家当主・遠矢だが、存在を忘れられそうになり、慌てて主張しようとする。
「旦那様、割り込むのは野暮ですよ。」
そんな主を真顔で止めるのは、桐悟によく似た…いや、桐悟がよく似ていると言われる父、雨宮・静悟だ。
「いや、だって…私のこと忘れてるみたいだからね?一応……。」
「貴方、旦那様は子供達にヤキモチを焼かれているだけですよ。そっとしておいて差し上げなければ…。」
フォローしているようで、逆に突き落としているのは、先日生まれたばかりの我が子翔悟を抱いた雨宮夫人・撫子だ。
「いや、ちが……」
「お父様、もう諦めた方がよろしいかと。」
「お父様がお母様を大好きなのは良いことですわ。」
「お前達まで……」
後から入ってきた上の兄弟2人に援護という名の射撃を受ける。
「父と母がすみません…。」
「悪気は無い…と思うのですが。」
「い、いや良いんだよ。気にしなくて。」
雨宮兄弟の申し訳なさそうな様子にどうにか当主としての威厳を留めると、咳払いをして注目を集める。
「コホンッ…お前達、新しい妹の名前を知りたくないかい?」
「なまえ!しりたいー!」
「わたくしもですわ!」
興奮して詰め寄る2人の頭を撫でながら、全体を見渡して言う。
「この子の名前は伊澄。花時雨伊澄だよ。」
「伊澄……そう。改めて、初めまして私の子。」
優しく我が子を見つめる母を子供達が取り囲む。
「初めまして。君のお兄様だよ、伊澄。」
「伊澄、私はお姉様よ。よろしくね。」
「これからいっぱいあそぼうねー!いすみー?」
「伊澄様、弟と共にこれからよろしくお願いします。」
「伊澄様を支えられるよう弟の教育を頑張りますので。」
「おべんきょうならわたくしにおまかせくださいませ!いすみさま。」
それぞれに話しかける子供達に主人夫婦と付き人夫婦は目を合わせ微笑み合う。
そこには見る者の心温まるとても幸せが光景があった………