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普通になれない僕らへ  作者: 遙
第五章【反撃】

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第16話

まとめて更新3/3話です!

——数十分後

「翠!」

最後の拠点へ姿を現した瞬間、真っ先に駆け寄ってきたのは湊だった。

「大丈夫?怪我してない?」

「うん、平気だよ。」

「本当に?」

今度は優雅が翠の顔を覗き込む。

「……さっきより顔色悪くない?」

「気のせい気のせい。」

「無茶してねぇだろうな。」

魁斗も眉を寄せながら翠を見る。

「してないって。」

「……。」

黎だけは何も言わず、じっと翠を見つめていた。

「れいれい?」

「……行けるのか。」

「もちろん。」

翠はいつも通り笑ってみせる。

「能力の回収、結構あった?」

「うん。思ったより多かったかな。」

翠はあたかもなんともなかったように答えた。

五人が集まった先にある建物からは、既に激しい戦闘音が響いている。

「行こう。」

翠の一言で、五人は同時に建物の中へ駆け込んだ。

中では、一番隊と二番隊が東條の構成員たちと激しく交戦していた。

壁は所々崩れ、床には血痕が広がっている。

その中心で、四人の男女が複数の能力者を相手にしていた。

全員傷だらけで、特に一番隊隊長の千景は、片腕から大量に血を流しながらも能力者の攻撃を受け流し続けている。

「ちーちゃん!」

翠の声に、千景が一瞬だけこちらへ顔を向けた。

「翠!」

驚く暇すらなく、能力者の拳が千景へ振り下ろされる。

翠は瞬間移動で一気に距離を詰め、その腕を横から蹴り飛ばした。

「遅くなってごめん!」

「謝ってる暇あったら手伝え!」

「うん!」

翠は軽く返事をしながら、周囲を見回すと、能力者は十人を軽く超えていて、全員様子がおかしい。

目は充血し、呼吸は荒く、身体の限界を無視するように攻撃を繰り返している。

「……暴走薬を打たれているのか。」

黎が低く呟く。

「みたいだね。」

優雅もすぐに構える。

次の瞬間、五人はそれぞれ散った。

黎が能力者の攻撃を受け流し、湊が死角から蹴りを入れる。

優雅は敵の動きを観察しながら指示を飛ばし、魁斗は正面から能力者へ突っ込んでいく。

翠も複数の能力を同時に発動させながら、暴走する能力者たちを倒していく。

「こいつら全然止まらねぇ!」

魁斗が一人を床へ叩きつける。

それでも男はすぐに起き上がろうとした。

「痛覚までほとんど飛んでる!」

千景が息を切らしながら叫ぶ。

「気絶させるまでやるしかない!」

「了解!」

翠が答え、再び能力者の中へ飛び込む。

その時だった。

「……え、?」

視界の奥の崩れた壁のさらに向こうに、人影が見えた。

血まみれになりながら床へ倒れている、一人の男を見て翠は動きが止まった。

「……宗一さん?」

ほぼ同時に、四人もその姿に気づいた。

「……は?」

魁斗の声が漏れる。

「宗一さん……?」

四人にとっては幼い頃から稽古をつけてもらってきた師範であり、翠にとっても幼い頃から世話になってきた恩人。

そんな宗一が、ほとんど動かない状態で倒れていた。

五人の動きが鈍った隙をついて、能力者は一気に襲いかかった。

「翠!」

黎の声に、翠はハッと我に返った。

翠は目の前の能力者を吹き飛ばすと、そのまま宗一の元へ走った。

「宗一さん!」

膝をつき、首元へ手を当てる。

脈はあるが弱くて呼吸も浅い。

「……大丈夫。まだ間に合う。」

翠はすぐに回復を発動させ、淡い光が宗一の身体を包む。

「翠……?」

「喋らないで。」

「お前……なんで……。」

「いいから。」

さらに出力を上げて、回復を続けようとした。

その時、背後から場違いなほど明るい声が響いた。

『あぁ!やっぱこいつ零番じゃねぇか!』

翠は思わず手を止めて、ゆっくりと振り返った。

少し離れた場所に、服装も、纏っている空気も、周囲の能力者とは明らかに違う二人の男が立っている。

「……東條の幹部。」

男の一人が面白そうに笑った。

『やっぱ生きてたんだな、お前。』

もう一人の男が、その後ろにいる四人へ視線を移す。

『あれ?そいつら……なんだっけ。』

少し考えるように首を傾げたあと、手を叩く。

『ああ、黒架だ。』

四人の表情が変わった。

それでも四人は周囲の能力者を相手にし続けていて、翠の元へ向かう余裕はない。

『お前らも西園寺側についてんのかよ。』

男はケラケラと笑う。

『なるほどなぁ。だから零番殺せって任務やったのに、わざわざ偽物の死体なんて用意してバックれたわけだ。』

翠は何も答えず、再び宗一へ向き直り、回復を続ける。

『無視かよ。』

『まぁいいじゃん。』

もう一人が翠の手元を見て、目を細めた。

『ってか、お前今いくつ能力使えんだよ。俺らの実験道具、次々使いもんにならなくしてんの全部お前だろ?』

翠の眉が僅かに動く。

『頭も、こいつ捨てねぇで研究対象にしといた方がよかったんじゃねぇの?』

『確かにな。』

『こんだけ能力使えるなら、相当いい実験体になっただろ。』

二人は楽しそうに笑っている。

「……ふざけんなよ。」

魁斗が低く吐き捨てた直後、襲いかかってきた能力者の顔面へ拳を叩き込み、そのまま床へ勢いよく叩きつけた。

「翠を物みてぇに言ってんじゃねぇよ!」

「本当に、いい加減にしろよ。」

いつも柔らかい湊の声からも、完全に笑みが消えている。

「翠ちゃんがどんな思いで生きてきたかも知らないくせに、勝手なことばっか言うんじゃねぇよ!」

湊は目の前の能力者の攻撃を躱し、その腕を掴んで勢いよく投げ飛ばす。

「……すごく嫌いだな。」

優雅も笑っていなかった。

「ねぇ、その口縫い付けようか? 翠ちゃんのことをそんなふうに言う口なら、もういらないでしょ?」

そう言いながら迫ってきた能力者の腹部へ蹴りを叩き込む。

黎は目の前の能力者を叩き伏せると、東條の幹部二人を鋭く睨みつけた。

「……もう喋るな。虫唾が走る。」

四人の怒りが露わになっても、能力者たちは構わず次々と襲いかかってくる。

それでも四人は止まらず、翠の元へ向かうため、一人、また一人と能力者を叩き伏せていく。

翠はしばらく何も言わなかった。

宗一の傷へ手を当てたまま、ただ静かに回復を続ける。

そんな四人の様子を見て、幹部の一人が鼻で笑った。

『うわ、怖。』

もう一人もおかしそうに笑う。

『この前まではもうちょい使えたと思ったけどな。今じゃ零番一人に必死になって、尻尾振ってるだけかよ。』

『与えた任務を放棄した挙句、今度はそいつのお守りか。落ちたもんだな。』

宗一へ向けていた翠の手が止まった。

「……ふざけんなよ。」

『あ?』

翠がゆっくりと顔を上げる。

表情は変わっていないが、声が冷えている。

「お前ら、なんなんだよ。」

翠は立ち上がった。

「人の人生勝手に壊して、能力作って、人攫って。」

二人の幹部を真っ直ぐ見据える。

「普通に生きてた一般人を巻き込んで。」

空気が変わった。

「挙句四人のこと悪く言って。……本当に、何がしたいの?」

男の一人が笑って答えた。

『何って……天下でも取ろうかと思って?』

「……そう。」

翠の姿が消えた。

「ならもういいや。」

次の瞬間、男の腹部へ翠の拳がめり込んだ。

『がっ——!』

身体が大きく吹き飛ぶ。

もう一人の幹部が即座に翠の背後へ回り込み、能力を発動させる。

しかし翠は振り返ることなくそれを避け、そのまま蹴りを叩き込んだ。

『っ!』

幹部もすぐに受け止める。

『やっぱ速ぇな、零番!』

「うるさい。」

翠はさらに距離を詰める。

一撃一撃が幹部の名に違わず重くて強い。

そして通常の構成員とは明らかに違う速度で翠の攻撃へ対応してくる。

それでも翠が押していた……はずだった。

「……っ。」

突然足から力が抜け、ほんの僅かに翠の身体がよろめく。

「!」

男はすかさず間合いへ踏み込む。

『捕まえた。』

「っ——。」

首元に鋭い痛みが走り、咄嗟に男を蹴り飛ばす。

数歩後ろへ下がりながら、首を押さえた。

男の手から、細い注射器が床へ落ちる。

「……何、これ。」

身体が急激に熱くなり、心臓が大きく脈打つ。

視界が揺れた。

「……え。」

足元が分からない。

「あれ……?」

翠の身体が傾く。

「翠!」

四人の声が重なった。

そして抵抗のないまま、翠は床へ倒れ込んだ。

「翠!!」

湊が向かおうとする。

しかし目の前へ複数の能力者が立ちはだかった。

「邪魔!」

魁斗が能力者を殴り飛ばして、翠の元へ向かおうとする。

それでも暴走薬を打たれた能力者たちは、倒しても倒しても四人の進路を塞ぎ続ける。

「どけ!!」

黎の声が響く。

一方、東條の幹部二人は、倒れた翠を見下ろして笑っていた。

『やっぱ弱ぇわ。本当に頭の子供かよ。』

『征一郎さんの子供でも、全部あっちに持ってかれたんだろ。』

『そりゃ捨てられるわな。』

笑い声が響く。

男の一人が翠へ近づいていった。

『まぁ、さっさと拘束して、こいつで実験でもしま——。』

その前へ、宗一が翠の前で武器を構えた。

「……これ以上。」

荒い呼吸、血に濡れた身体。

「翠に……近づくんじゃねぇよ。」

『は?』

宗一は震える足で、それでも翠を庇うように立っている。

『お前、まだ動けんのかよ。』

「……舐めんな。」

男が拳を振り抜き、宗一は腕で受け止めると、すぐに反撃した。

もう一人の幹部も加わる。

二対一。

しかも宗一は既に瀕死に近い。

それでも、翠の前から退かなかった。

「宗一さん!!」

優雅が叫ぶ。

けれど四人は未だ大量の能力者に囲まれている。

「くそっ!」

魁斗が歯を食いしばる。

あと少しだけ、あと数メートル……、それだけなのに、翠の元へ辿り着けない。

宗一が一度距離を取った。

「はぁ……はぁ……。」

呼吸が乱れる。

「っ……!」

口元を押さえると、指の隙間から血が溢れた。

「宗一さん!」

その場に膝をつく。

幹部たちがゆっくり近づいていく。

——その頃。

翠の意識は、深い闇の中へ沈んでいた。

何も見えない、何も聞こえない、ただ身体だけが重い。

これまで吸収してきた能力は、傷つけるため、支配するため、人の感覚を狂わせるため、人の精神を壊すため……。

どれもこれも戦うために作られたものばかり。

……。

ふと五人で過ごした何でもない日々が頭をよぎった。

料理を作る湊、くだらないことで笑う魁斗、本を読みながら隣にいる優雅、静かにこちらを見る黎。

あぁ。能力が……こんな使われ方しなかったらなぁ。

もっと。

「普通に生活するのが楽になるものだったら、誰かを幸せにできるものだったらよかったのに。」

遠くで、何かが聞こえる。

怒鳴り声や戦う音、誰かの名前を呼ぶ声。

……早く。

翠の意識が僅かに浮上する。

早く起きないと。

四人がいる。

宗一さんもいる。

一番隊も二番隊も。

このままじゃみんな、……死んじゃうかもしれない。

……こんなのに。

身体へ力を込める。

時間かけてる場合じゃないんだよ。

——現実

『もういいだろ。』

幹部の一人が、膝をついた宗一を見下ろす。

『あいつ早く殺そうぜ。』

『そうだな。』

もう一人が笑いながら顔を上げる。

そして、その表情が止まった。

『……は?』

宗一のさらに奥。

先ほどまで床へ倒れていた翠が立っていた。

額から血が流れていて、髪にも血が滲み、呼吸も乱れている。

それでも立っていた。

翠はゆっくり顔を上げる。

「……はぁ。」

深く息を吐く。

「お前らさ。」

二人を見据えた。

「……もう早く死んでよ。」

次の瞬間、翠の姿が消えた。

『っ!?』

男の顔面へ拳が直撃する。

もう一人が能力を放つより早く、翠がその腕を蹴り上げる。

『ぐっ!』

間髪入れず腹部へ一撃を入れ、吹き飛んでもすぐ追いついて叩き落とす。

『なんだこいつ……!』

先ほどまでとは速度が違った。

一分も経たないうちに幹部二人は既に全身傷だらけになっていた。

『っ、待て……!』

二人が距離を取る。

『お前……。』

片方が息を切らしながら翠を見る。

『なんで薬が効いてねぇんだよ!』

翠は無言で男たちを見下ろす。

『なんで自我が無くならねぇんだよ!』

一瞬の静寂が走る。

そして翠が小刻みに肩を揺らしながら、お腹を抱え始めた。

「っはは……。あはははははっ!」

突然、大声で笑い始める。

『な、何笑って——!』

「お前らのおかげだよ!」

翠が顔を上げる。

「お前らが精神固定の能力なんて作ってくれたおかげで!」

二人の表情が固まった。

『……は?』

「薬入れられた瞬間、私も終わったと思ったよ!」

笑いながら、自分の頭を指差す。

「でも残念だったね!」

翠の笑みが深くなる。

「お前らが作って、お前らが実験して、お前らが私に吸収させた能力で止められた!」

『ふざけんな……。』

「それはこっちの台詞。」

その時残っていた能力者たちを全て倒し終えた四人が、翠を庇うように立つ。

「翠。」

黎が振り返らずに言う。

「もうこいつらの話なんて聞かなくていい。」

「……うん。」

「後で話あるからね。」

湊の声は笑っていなかった。

「僕もあるかな。」

優雅も同じだった。

「俺は山ほどある。」

魁斗が拳を鳴らす。

翠は少しだけ目を逸らした。

「……はい。」

『舐めやがって……!』

幹部の一人が懐から薬を取り出す。

『こうなったら——。』

自分の首へ突き刺した。

もう一人も続く。

『っ……あああああ!!』

二人の身体が大きく震え、血管が浮き上がり、能力が制御を失ったように周囲へ漏れ出していく。

「暴走薬……!」

湊が声を上げる。

「下がって。」

翠が四人の間から前へ出た。

「おい!」

魁斗が止めるより早く翠は飛び出した。

「……もう四人のこと、傷つけさせないから。」

暴走した幹部二人が同時に地面を蹴った。

直後に激しい衝撃音が響いた。

次に四人が捉えた時には、一人が床へ叩きつけられていた。

もう一人の背後へ翠が瞬間移動する。

「終わりだよ。」

一撃が深く入り、男の身体が大きく後ろへ揺れ、崩れ落ちた。

静かになった部屋に翠の足音だけが響く。

翠は二人の傍へしゃがみ込み、それぞれの能力を一気に吸収する。

「っ……。」

身体が僅かに揺れる。

それでも止めない。

吸収を終えると立ち上がり、周囲を見回した。

その場にいる味方の負傷者へ向けて、翠は手を向ける。

「……回復。」

淡い光が一気に広がり、広間全体を包み込む。

負傷者の血が止まり、傷が塞がる。

倒れていた人間たちの呼吸が少しずつ安定していく。

「翠……。」

千景が呆然とその光景を見る。

やがて光が消え、翠はゆっくり腕を下ろす。

一瞬だけ翠の姿勢が崩れたが、すぐに踏みとどまり、何もなかったように四人の方を向いた。

「……帰ろうか?」

いつものように笑う。

四人は誰も笑わなかった。

「……あぁ。」

黎が短く答える。

湊は何か言いたそうに翠を見つめ、優雅も黙ったままその様子を見ている。

魁斗は明らかに不機嫌そうに眉を寄せていた。

その後、五人は負傷者たちを一番隊と二番隊へ任せ、その場を後にした。

西園寺本部へ戻るまで、四人の頭から翠が倒れた光景が離れることはなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

次話は更新次第、SNSにてご報告します!

引き続きお時間ありましたら、お読みいただけますと幸いです。

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