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異世界で『整体×魔術』始めます  作者: 桜木まくら
第一章『アンコモンの勇者』

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第一章19『スキル鑑定』

アリアは魔力適性検査の時とは異なる水晶を指し示しながら、説明を始めた。


「この水晶でスキル鑑定を行います。水晶に手を置き、わたしが呪文を唱えると、持っている能力や特性が映し出されます。ただし、完璧ではありません。あくまで目安です」


ナオトは小さく息をつき、少し苦笑した。


「実は俺、これ一度やったことがあるんだ。あまりいい思い出じゃないけど」

「スキルは新しく手に入れたり、成長したり、派生することもありますよ」


アリアは微笑みながら説明する。


「……では、ルナが試しにやってみます……ルナのこと、旦那様に知ってもらいたいです」

「では始めます。ルナちゃん水晶に手を置いてちょうだい」

「……はい」


ルナは透明な水晶に手をそっと置く。瞳には緊張と期待が入り混じっていた。

アリアが呪文を唱えると、透明だった内部が淡い青色に光り始めた。揺らめく光の波が、水晶の奥で次々に形を取り、静かにスキルの名称を映し出していく。


「料理上手」「薬草知識」「裁縫上手」「清浄の手」「月狼の嗅覚」「月狼の目」「月狼の足」「焚き火名人」「水呼び」「野営感覚」「気配察知」「絆の直感」「甘味職人」「即席料理」「忠誠心」「疾風迅狼」「隠密」「暗殺」………etc


水晶の中でスキル名称が光の帯となり、ルナの手元を静かに照らす。ルナ自身もその光を見つめ、驚きと少しの誇らしさを胸に感じた。

アリアが微笑みながら言う。


「ルナちゃん、これが今のあなたのスキルです。これからどんどん広がっていきますよ」

「……はい。旦那様のお役に立てるように頑張ります」


ルナは小さく頷き、決意を新たにした。


「なんか不穏なスキルがあった気もするが……。ところでレア度は出ないんだな?」

「希少度のことですか?王城では希少度が出ていたかもしれませんが教会では出ませんよ。どのスキルもその人を形作る個性ですから、優劣なんてありません」

「なるほど。そう言われてみればそうだな」

「さあ、次はナオトさんの番ですね」


ナオトは少し緊張した面持ちで深呼吸をする。アリアも真剣な顔で呪文を唱え、スキル鑑定を開始しようとした。


「あっ!」


ナオトが水晶に手を置く前に呪文を唱えたせいでアリアのスキルが水晶に映し出された。


「トラブルメーカー」「ドジっ子の直感」「ごまかし笑顔」「大慌て回避」「天然勘違い」「小物拾得」「物忘れ名人」「巻き込み力」「飛び跳ね芸」「おっちょこちょいの極み」「偶然発見」「落下ダメージ軽減」「投擲」「強肩」「的当て」……etc


「やっぱりトラブルメーカーだったか。始めて会った時から絶対持ってると思ってたぜ」


ナオトは納得したかのように頷いていた。


「い、今のは忘れてください!今度こそナオトさんお願いします!」


アリアは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながらナオトを促す。ナオトは深呼吸し、再び水晶に手を置く。今度こそ間違いなく、自分のスキルが映し出される瞬間を待った。水晶が淡く光りはじめ、文字が浮かび上がる。


「協調性◎」「言語理解」「自動通訳」「自動翻訳」「日曜大工」「整体」


「スキルが増えてる!前は一つしかなかったのに」


王城で鑑定されたときは一つしかなかったスキルが増えていることにナオトは驚きを隠せない。


「言語理解、自動通訳、自動翻訳はきっとセレーネがくれたスキルだ……。でも日曜大工や整体は日本にいた時から出来たはずなんだけど……?」


ナオトは水晶の輝きを見つめながら、首をかしげた。

アリアは優しく微笑み、説明を始める。


「それは、勇者召喚の儀式で行われるスキル鑑定はお披露目の意味がありますから、スキルの希少度を優先しているのです。一番希少度の高いスキルが表示され、それ以外のものは表示されません。だから、ナオトさんの場合は『ウンコマン』……『UC協調性◎』が表示されたんですね」

「ウンコマン擦るのはやめてね!……まあソシャゲでリセマラするようなもんか。だいたいみんなレア度しか見てないもんな。……でも整体はレア度高そうだけど?」

「この水晶は図鑑のようなものだからかもしれません。誰かが発見したスキルに名前をつけて始めて図鑑に載るように……。ナオトさんがこの世界になかった言葉を作ったからだと思います。『整体』という概念自体がこの世界には存在しなかったのです」


ナオトは少し考え込みながらも、なるほど、と頷く。


「例えば、幼い見た目の女の子や未成熟の女の子を付き人にすると戦闘能力が倍増するスキルがあったとしても、この世界に名前が存在しなければ水晶には映らないんです。……名前があったら映ってたかもしれないですね」

「だから違うよ!?」


アリアは思い出したかのようにナオトをじとっとした目で睨んでいた。


――用事を終え、ナオトとルナは教会を出て門前へと向かう。


「またいつでもいらっしゃってください!今度わたしにも整体してくださいね!」


アリアが明るく手を振り、ふたりを見送ろうとした。

するとルナが立ち止まり、振り返った。


「……アリアさん、一つだけ訂正があります」

「どうしたの?ルナちゃん」

「……ルナは……16歳です。……この国ではもう成人です。……小柄で、アリアさんの様な魅力はありません。……でも、大人の女性として結婚することも認められています。……旦那様からのご命令があれば……ですが……」


ルナは胸元の呪印を恨めしそうに押さえながら、言葉を絞り出した。


「……すみません、それだけ伝えたかったです」


ルナは会釈をし、ナオトに追いつこうと小走りで去

っていく。

……どうしてこんなことが言いたかったのかわからない。でもどうしても伝えたかった。ルナはいつまでも子供ではないと。幼い女の子ではないと。

アリアは背後で見送りながら、軽く手を振る。少しの嫉妬混じりに、でも温かい眼差しで二人の姿を見送った。


――アークロス郊外、ナオトの小屋。


「今日は窓と床の補強をしよう」

「……はい」


ナオトは肩に板を担ぎ、窓の前に立った。木枠は歪み、ガラスの欠片が危うく残っている。


「ここから風が入るな。……板で塞ごう」


彼が呟くと、ルナはすでに用意していた板切れと釘を差し出した。


「……これを使ってください」

「ありがとう。助かるよ」


釘を打つ音が、森に響いた。やがて板がはめ込まれ、冷たい隙間風は止まり、代わりに柔らかな光だけが差し込むようになった。

続いて床の補強だ。歩いたときに沈んだ場所に印をつけてあった。ナオトが腐った板を剥がすと、下から土と湿った木片の匂いが立ち上がる。


「ここは梁ごと補強しないとな」


ナオトは新しい板と木の棒を組み合わせ、沈んでいた部分にしっかりと梁を噛ませた。ルナは外に出て、小さな石を拾い集めてきて梁の下に詰める。


「これで安定すると思います」


床の沈み込みも補強されて、ようやく歩いても不安を感じなくなる。

横で片付けをしていたルナが、ふと手を止める。少し躊躇いがちに視線を上げると、薄青の瞳が揺れていた。


「……少し、やりたいことがあるんです」

「やりたいこと?」


ナオトは首を傾げる。ルナは小さく頷き、手にしていた雑巾をたたむと、背筋を伸ばした。


「……はい。すぐ戻ります」


そう言って、彼女は戸口に向かう。

ナオトはルナの背中を見送り、生活スペースの整備に取りかかった。

まずは机と椅子。壊れた木箱や余った板を組み合わせ、四角い台を作る。釘の打ち方は粗いが、上に物を置ける程度の強度は十分だ。椅子は小さめの木箱を補強して座面に板を張っただけのもの。どちらも見た目は不格好だが、機能は果たしていた。

さらに、残った板切れを打ち合わせて小さな棚を作り、工具や布袋を並べて置く。散らかりやすいものをまとめるだけで、小屋の中に少し秩序が生まれた。

ナオトは出来上がった空間を見渡し、深く息をついた。


「……よし。これなら人が暮らす場所らしくなったな」


荒れ果てた廃屋だった小屋に、ようやく生活の匂い

が宿り始めていた。

ナオトが生活スペースの整備を終え、工具を片付けていると、窓の外に小さな影が見えた。


「……ただいま戻りました」

「おかえり……ルナ……?」


振り向くと、ルナが少し息を切らせ立っていた。

その服には赤い染みがついている。ナオトは一瞬凍りつき、胸がドキリとした。


「……その、血は……!ど、どうしたんだ!?」

「……大丈夫です。怪我はしていません……」


ナオトは思わず駆け寄り、服や手に触れようとする。ルナは慌てて手を振り、説明を始める。


「小さな獣を狩ってきただけです。返り血がついただけで……」


ルナは肩にかけた小さな袋を見せる。中には、森でよく見かける小型のウサギが一羽。


「……小さなウサギです。これで今日の夕食は十分です」


ルナは袋をそっと揺らし、にこりと笑う。


「……美味しいものを食べてもらいたくて」


ナオトはまだ心配そうにルナを見つめつつも、その頑張りに感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。

ルナが丁寧に並べた食卓には、小型ウサギの肉を使った煮込みや、森で採れたハーブを添えた簡単な野菜料理が並ぶ。火の熱で湯気が立ち、料理は見るからに美味しそうだった。

ナオトは、一口食べると自然と顔がほころんだ。


「……うん、旨い。ルナ、火加減も味付けも完璧だな」


ルナは、照れくさそうに目を伏せながら


「……ありがとうございます」


と静かに返す。

食事を取りながら、ナオトは明日の作業の段取りを考えた。


「明日は、まず調理場の整備をして、火を使える場所を作ろう。水も手近に確保したい」


ルナは頷き、地図のように空間を思い浮かべる。


「寝具や日用品を揃えれば、最低限の生活はできるようになりますね。」


ナオトは頷き、考えをまとめる。


「うん、調理場と寝床が整えば、ここで暮らせる。あとは少しずつ快適にしていこう」


二人は静かな小屋の中で、焚き火のぬくもりと美味しい食事に包まれながら、明日の計画を心の中で整理していった。


―――


陽だまりの宿に戻った二人は、いつものように整体を始める。小屋での作業で少し疲れた体を休めるため、今日はフルコースで整体を行うことにしていた。

ナオトは静かにルナをベッドに座らせると、優しく声をかけた。


「まずは仰向けになってくれ。今日は全身を整えていこう」


ルナは小さく頷き、ゆっくりとベッドに横になる。肩や首の緊張が自然と伝わってくる。


「……どうして体を触るだけで体調が良くなるんですか?」


ナオトは落ち着いた声で説明する。


「体には筋肉や関節、血液やリンパの流れ、それぞれの神経が複雑に絡み合っている。無理な姿勢や疲労でバランスが崩れると、痛みやだるさが出るんだ」


ルナの肩に手を添え、軽く押さえながら続ける。


「整体は触れることで筋肉の緊張を和らげ、血流や神経の通りを整える。すると、体が本来の状態に近づいていくんだ。魔法の力は使わないけど、自然に体が元気になる」


ルナは小さく息を吐きながら、うつ伏せになり、ナオトに背中を任せた。


「……どうしてそんなに詳しいんですか?」

「一生懸命勉強したからね」


ナオトは背中や腰、脚まで順に手を動かし、張りや硬さを確認しながら調整していく。ルナは触れられるたびに肩の力が抜け、呼吸もゆったりとしていくのが分かる。


「……旦那様、人間と月狼族って、体の作りって違うんですか?」

「そうだな……例えば肩や背中の筋肉の付き方は少し違う。ルナは小柄でも背骨周りや肩甲骨の周りにしっかり筋肉が付いていて、柔軟性と力強さのバランスがある」

「……やっぱり少し違うんですね」

「うん。人間だと同じ体格でも筋肉の付き方がもう少し均一で、柔軟性より力に偏ることも多い。ルナは瞬発力やしなやかさがあって、脚も腕も無駄な脂肪が少ない。動きやすさを重視した体の作りだ」


ナオトは掌で肩から首筋、背中にかけて滑らせながら圧をかけ、次に腰骨の両脇に手を置き、円を描くように腰を揉む。


「……温かくて……体全体がほぐれる感じです」

「脚の筋肉も柔軟で持久力があるから、こうやってほぐすと全体の血流もすぐに変わるんだ」

「……種族によって違うんですか?」

「体質や筋肉の付き方で変わる。君の体は瞬発力と柔軟性が両立しているから、押すと反応が早いし、ほぐれるのも早い」


フルコースが終わると、ナオトはそっと手を離し、笑顔でルナを見た。


「これで今日の施術は終わり。体はどうだ?」


ルナは軽く体を伸ばし、目を見開く。


「……体がすっきりしました。……すごいです」


ナオトは微笑みながら頷いた。


「毎晩整体してるから、目をつぶってもルナの全身が想像できるくらいだ」

「……え?」


ルナは一瞬息を止め、顔を赤らめて視線をそらす。

しまった。つい口に出た。


「いや、別に変な意味じゃない。どこに筋肉と脂肪があって、どこが固くて、どこが柔らかくて、触ったときにどう反応するかが手に取るようにわかるってことで……」

「……そ、そんな……」


ルナは増々顔を赤らめる。


「……いや、施術者としては体の状態を正確に把握することが大事だからな。筋肉も骨も、血流も、全て想像できるくらい覚えておくんだ」

「……もういいです」


悪気が無いのは分かっている。整体に対して素直で真っすぐ。そこが旦那様のいいところ。ルナが大人にならないと。ルナは頷き、ベッドの端に座ったまま、今日の施術の効果をじんわりと感じていた。体だけでなく、心まで軽くなったような温かい感覚が胸の奥に広がっていく。


ナオトは横目でルナの様子を見る。怒ってはいなさそうだ。安堵の息が漏れる。今日も色々あった。


……明日は小屋の修理も一段落するし、お世話になった人を集めて陽だまりの宿で食事会をするのもいいかもしれない。

……いい一日になりそうだ。

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