3 役者としての姿
親戚の子か。スタッフとして手伝ってもらうなら当然その子もいろいろ器用なんだろうとわかる。
そして同時に疑問もある。アイドル活動している子一人だけ別の仕事に勝手に引き抜くのはおそらく事務所としてはNGなはずだ。それに女の子というのは絶対におしゃべりだ、ドラマが完成されるまでに内容を漏らしかねない。でもそんなの風間さんも百も承知の上で行ってるはずだ、何か考えがあるんだろう。
「まだ鳴かず飛ばずで収入がほとんどないんだとさ。当然表立ったバイト活動は絶対禁止、金がないと嘆いてたからこっちを手伝ってくれて頼んだ」
「それ、相手の事務所にはどうせ言ってねえんだろ?」
「当たり前だ、反対されるに決まってる。ばれたらあの子にもペナルティがある、絶対バレないようにすると意気込んでたから大丈夫だ。何かあったら俺がケツ持ってくれるっていう期待もあるんだろ」
二人が一緒にいるところを見られても、親戚であるのは事実だ。確かにそこまでリスクが高くない。それにいつも二人くっついて行動するわけじゃない。クラウドでデータを共有すれば編集なんてどこでもできるから、わざわざスタジオに来る必要もないからな。
三人で撮影の準備に入った。ほとんどは各役者が一人でしゃべっているだけだ、どこかを走り回るようなシーンがそこまであるわけじゃない。実際の殺害シーンになったらこの撮影スタジオで撮るけど、役者同士が一緒に撮影をするわけじゃない。刺されるシーンとか、その辺は全部俺が代役となって演じる。顔を映さないようにしてカットを何個か入れるだけ。準備をしていると月守さんが俺に尋ねてきた。
「実際のそういうシーンの撮影経験とかは?」
「ないですけど」
俺は最初に殺される役の服を着た。
「殺されるのには慣れてます」
いつも俺は殺されてた。言葉で、態度で、知識で、いつもなにもかも。アメリカに行ったら殺されそうになったことなんて本当にたくさんある。強盗とか白人以外が気に入らないとか宗教上の理由とか銃の乱射事件に巻き込まれたとか。ああ、あとマジでブっ刺されて死にかけたこともあったな忘れてた。
俺の言葉に二人は不思議そうな顔をしたけど、慣れてるんだったら任せると言って撮影が始まる。愛梨さんが本格的に合流する前に殺害シーンを全て撮っておくとの事だった。
「要するに、俺は殺される役を全員分やらなきゃいけないんですよね」
「まあそうだな」
「一人ひとりの接触を避けているのは何か理由があるのだとしても。俺が全員分やる必要あります?」
「単に俺が見たい」
おいこら。態度に出たらしく風間さんは吹き出した。
「むくれんな、そう考えるのは当たり前だろ。役者のお前を見たいんだよ、俺は」
そこまで言うと先ほどとはうって変わって一気にピリピリとした空気になった。これが、役者の「風間縁」か。まるで真剣を突きつけられたかのような緊張感だ。
「ま、あともう一つの理由はキャストに偽死神の可能性があるやつをピックアップしてる。まだ断定できてないがな。そいつに出来る限り撮影中にヒントを与えたくない。半井も知らないふり、よりは本当に知らないでいて欲しい」
特大の釣り針を用意している、とは言っていたけど何か確信をつかんでるのか。ヒントを与えるのはあくまで放送が始まってから、つまりドラマの中に死神にしかわからない何かをちりばめてるんだな。すごいな、そうとう作りこんだシナリオだ。
「俺に話さないのはその先入観を知ってしまっていると、俺もさりげなくそのヒントを出してしまうからってことですか」
「そういうこった。自覚してるかどうかは知らんが、半井は相手を深く観察する癖があるだろ」
ある、それはもう物心ついた時から。相手が何を考えているのか読み取らないと生きていくことができなかったからだ。
「同じように相手を観察する癖があるやつは、自分が観察されていることには敏感だ。今回の偽物の死神がとんでもなく手強い相手だったら、間違いなくこの茶番の真相に気づく。こういうのは気をつけてても無意識に出ちまうからな。今回の場合は実力があればあるほど、プロフェッショナルであるほどそれが当てはまる」
なるほど。それならやはり偽物の死神は風間さんに任せたほうがよさそうだ。はじめからそれをわかっていてキャスティングまでした風間さんと、その辺の事情をまだ知らない俺とでは印象が違うはずだ。
俺もスタッフとして全員の撮影に同行することになるかもしれない、そうなったら内部の事情は知らない方がいい。
アイドルの杏樹さんが亡くなったのは一週間前だけどその前から噂を聞いていて目星をつけていたんだ。杏樹さんの件で何らかの確信を得てそれを実行に移すってことか。
「それじゃ、始めるか」




