第92話 諦めるベルフィア兵
右師団は未曽有の危機に瀕していた。ベルフィア軍の兵は残り僅か。士気も低くなっている。それに比べ帝国兵は数も多く、将軍まで駆けつけてしまった。
ルーナはこの状況に絶望し膝を地面に着き泣きそうになっている。震えは帝国兵が近づくにつれ大きくなっていく。
(ああ。このまま私死んじゃうのかな? お姉ちゃんたち元気にしているかな? ご主人様みたいないい人に買われているといいんだけどな……)
「立って下さい、ルーナさん。まだ戦いは終わっていません。泣くのも駄目です。最後まで徹底的に抵抗し、フィンゼル様が皇太子を討つ時間さえ稼げれば私たちは勝てるのです」
隣に立つヒルダにそう言われるが、ルーナは思う。この戦いに勝ったらなんだというのだろうか? 例えこの戦いに勝っても自分が死んでは意味がないではないか。
騎士であるヒルダと、奴隷エルフであるルーナの価値観は違う。初めから死ぬ覚悟があったヒルダと、どこか戦争を舐めていたルーナとではその覚悟が違う。この絶望的な状況で、ルーナに戦えと言うのは酷というものだろう。
「ひっひっひ! ではこれで右翼は壊滅。 その勢いで本体も終わりじゃ」
エムレバートは通常の魔法陣より10倍ほど大きい魔法陣を出現させる。
ベルフィア兵の恐れの声が大きくなり『だ、駄目だ……』『帰りたい……』『この兵力差で始めから勝てるわけねぇよ……』といった声がたちどころに聞こえる。
その声が広がっていき、恐怖が伝染し、どんどん士気が落ちていく。ルーナもその一人だ。
しかし、ただ一人ヒルダだけは違った。
「気持ちで負けてどうする! まだ戦いは終わってはいない! 怖気づき、逃げて死ぬのと! 最後まで立ち向かい戦って死ぬのでは全然ちがう! 私たちはこのアバディンを! ベルフィアを! ヘストロアを守る為に戦っていたはずだろ! 守るべき場所が無事ならば私たちは負けていない! 最後まで立ち向かうんだ! 立ち上がれ! ベルフィアの兵よ!!!」
ヒルダは士気が下がり、弱気になっていた兵たちを鼓舞するように話す。
ベルフィアの兵たちはヒルダの言葉に刺激を受け立ち上がっていく。
「そ、そうだ! どうせ死ぬなら英雄のように死のう!!」
「おう! 帝国兵を一人でも多く道連れにな!」
「ひっひっひ! 今更遅い! 魔法陣が完成した! 今一度大地に還り、帝国に歯向かった愚かさを、後悔しながら死ね!」
エムレバートの魔法陣が黄土色に光、地面が揺れ始める。
「全ては大地に還る!!!」
エムレバートが魔法を発動させると、揺れていた大地から砂が一斉に打ち上げられる。それは津波のように高く、そして広範囲に及び、ベルフィアの兵たちを飲みこんでいく。
ルーナの目に映るのは逃げ惑うベルフィアの兵士の姿、それを笑いながら見ている帝国兵。
隣を見ると、先ほどまであきらめるなと話していたヒルダもこの魔法にはどうしようもないのか、後ずさり死を覚悟した様子だった。
なんでこんなことになってしまったのだろうとルーナは考える。
フィンゼルから離れてここで戦うと選択したのはルーナ自身だ。フィンゼルの役に立って、奴隷にされた家族を見つけて貰うため頑張ろうと思ったからだ。
しかし、結果は右師団の崩壊。なぜだろう?もっと自分に力があったならこの状況を変えることが出来たのだろうか? いや、もっと前に力があったなら奴隷になんてなっていなかった。
結局は自分の力不足。この弱肉強食の世界では、力がないこと自体が罪だという事実に、ルーナの目から自然と涙があふれてくる。
大地の津波がそこまで迫ってきている。ベルフィアの兵たちは必死に逃げてルーナの傍らを通り過ぎていく。
(逃げても無駄。あんな大きなものから逃げられるはずがない)
ルーナは静かに目を閉じた。死を受け入れ、くるだろう衝撃に身構える。
「地獄に吹き荒れる風」
どこからともなく、静かな、しかし良く通る声が聞こえると、上空から巨大な竜巻が出現し、大地の津波を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた砂は雨のようにベルフィア兵に降り注いだ。
まだまだ2話投稿は続きます!
評価とブックマークをお願いします!




