第79話 公爵からの贈り物
ヒルダに案内された部屋は、豪華な部屋だった。
俺が5人寝ても余裕がありそうなキングサイズのベッド、座り心地がよさそうな椅子。部屋の温度を調節できる魔制具まで設置されている。
そのなかで、そのキングサイズのベッドにエマとルーナが寝転んでいた。
「あら。遅かったじゃない」
「ご主人様! 凄いですよ! このベッド! お屋敷のベッドよりふかふかです!」
自分の部屋のように寝転ぶ二人。
「はぁ……二人とも状況分かっているのか? 明日俺たちは戦争するんだぞ?」
「分かっているわよ。だから今休んで英気を養っているじゃない」
「自分の部屋で養えよ」
「だから自分の部屋で養っているでしょ?」
何を言っているんだと言った目で俺を見るエマ。
ここはヒルダに案内された俺の部屋のはず。それともヒルダが誤って俺を案内したのか?
「あの……。フィンゼル様、この館にはもう部屋が余っていなく、私達4人この部屋だそうで……。」
なん……だと……?
俺はもう一度部屋を見渡すが、ベッドは1つ。いくらキングサイズでゆとりがあるとは言え、これはまずくないか?主に俺の下半身が。俺はもう12歳。精通は確認済みである。こんな美少女たちと同じベッドで寝るとか……。間違えを犯してくれと言っている物だ。
いやまて、おそらくこれをセッティングしたのはギュンターだろう。シリウスが俺とエマを同室にする訳がない。ということは、これは戦争前にいろいろ卒業しておけというギュンターのメッセージ…!ありがとうギュンター!
俺は心の中でギュンターにお礼を言う。
「そうだフィンゼル様。ヘストロア公爵様からの贈り物がございます」
「ヘストロア公爵から?」
ヒルダはそう言うと、部屋にあるでかいクローゼットから何かを取り出してくる。
それは、赤い軍服だった。ギュンター達が着ている黒い軍服とは違い、裾が長く、左胸にはベルフィアの家紋である黒地で金色の獅子が描かれている。
赤い軍服はベルフィアの貴族が戦争をするときに着る勝負服である。これはベルフィア当主から授けられるものであり、俺はまだ父オリバーから授かっていない。そんな物がなぜヘストロアの当主から贈られるのか?
「ヒルダ。いったいこれはどういうことだ?」
「私には分かりかねます。ヘストロア公爵様から、いずれ必要になるからと数か月前に送られてきたものですので……」
一体どういう事だ……?なぜ数か月前にこれが必要だと分かるのか、なぜヘストロア公爵が俺に軍服を授けるのか、まったくもって不明だ。しかし―――
「この赤い軍服はベルフィアの貴族という証。いつものヘストロアの軍服ではベルフィアの陣営がいなくなり、周辺諸侯から自分の領地を守るのにヘストロアの力を借りすぎていると思われかねない。ここは俺がベルフィアの貴族として勤めを果たさねばいかないだろう。ありがたく頂戴するよ」
これは建前。貰えるものは貰っておきたい。これが本音だ。
「そうですか。それはヘストロア公爵様もお喜びになるでしょう。では……」
「待って」
そういって立ち去ろうとするヒルダをエマは呼び止めた。
「なんでしょうか? お嬢様」
エマは一瞬言い淀む。しかし、意を決したのかそれを言葉にした。
「お父様は……私の事を何か話してた?」
「……。いえ。私には何も……」
「そう……」
エマはそれだけ言うと顔を枕に埋めてしまった。ヒルダはそんなエマを見届けると、部屋を立ち去った。
エマとその父親の関係はあまり良くない。というよりも父親のヘストロア公爵がエマに興味がないのだろう。娘が遠く離れた領地にいるというのに手紙すら寄こしていないようだった。母親との関係に至っては、聞いても機嫌を悪くするだけで話さない。なるべく力になりたいが、肝心のエマ口を開かない。
「エマ……。その……」
おそらくエマはヘストロア公爵から自分の話が出てこずに落ち込んでいるはずだ。ここで励ましの言葉とかかけた方がいいのか、それともそっとしといた方がいいのか、俺には結局判断が付かず、それ以上何も言えなかった。
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