第77話 城壁の上にて
城壁は城門右側にある階段から登れる。城壁に向かう道中で、俺はエマに話しかけた。
「エマ。さっきの冗談はなんだ? 危うく仲間割れの危機だったぞ」
「ごめんなさい。まさかシリウスがあんなに取り乱すとは思わなくて……」
いつもはもっと理知的なんだけど。と呟くエマ。理知的なシリウスがあんなになるとは。エマを大切に思っているのはもちろんだが、この戦いの深刻さが伺える。
「無礼な方ですね。ちょっと槍の腕がいいと言うだけで調子に乗って。いつか分からせてやらないといけませんね」
マリアはカチン、カチンと金属特有の音を出しながら剣を出したりしまったりしている。これは相当イラついている様子。頼むから後ろから切りかかるとか止めてくれよ?
「マリアじゃ無理よ。シリウスに喧嘩売るのはやめた方がいいわ。たちまち返り討ちよ」
「では私とマリア様二人がかりならどうでしょうか?」
そうエマに疑問をぶつけるルーナ。
ルーナ……。なんでお前までやる気なんだ……。
「無理ね。返り討ちよ。多分ギュンターより強いから」
「……。それは聞き捨てなりませんね。お義父様より強い人間など見た事ありませんが……あっ!もちろん魔法に関しましてはフィンゼル様が一番ですよ!」
なぜか焦った感じを出しながら俺をフォローするマリア。
別にいちいち俺を立てる必要ないのに。
しかし、実際ギュンターとシリウス、どっちが強いんだろう。シリウスの戦いを実際に見たことはないから何とも言えないが、ライセンス的な話では、ギュンターがデストレーザ流とエル・ティソーナ流剣術を両方Sで取得している。対するシリウスはデストレーザ流槍術の師範代。ライセンスはあくまでライセンス。実際の戦闘では分からないが、やはり師範代の破壊力はやばいな。それだけでギュンターより上に感じてしまう。
そうこう考えている内に城壁の上についてしまった。
今の時間帯は夜8時。すっかり日も沈み、あたりは暗くなっている。
「あー、これではスカリアの森まで見えませんね。これでは帝国軍の動きが見えません」
ルーナは残念そうにするが、確か光魔法に視界を明るくする魔法があったはず。
俺は前を歩いているカトレアに視界を明るくする魔法をお願いする。
「お任せください。暗視」
カトレアは、俺の目に手を当てて魔法を唱える。
俺はとっさに目を瞑ってしまったが、目を開けると、そこには昼間と変わりない明るい世界が広がっていた。
しかし、視界が明るくなっても、スカリアの森は平野を挟んだ向こうだ。距離にして約10キロ。今のままでは見えないが、あの魔道具があれば……。
「フィンゼル様、此方をどうぞ」
ユージンがいつの間にか近づいてきて俺に魔遠鏡を手渡してくる。
「ありがとう。気が利くな」
「いえ。お役に立てて光栄です。日ごろから持ち歩いているかいがありました」
俺は魔遠鏡を覗き込むと、ちょうど帝国軍がスカリアの森から出てきたところだった。
ナイスタイミングだ。
帝国軍はぞろぞろと森から出ていき、各自、野営の準備を始めだした。
野営は真ん中をぽっかり空けた形で、その周りを兵士たちテントが立っていると言った感じだ。
しかし多いな。多すぎる。30万ってこんなに多いのか。
スカリアの森の入口は帝国兵の影で埋め尽くされ、こんな大群と戦う選択したことに若干後悔し始めたころ、帝国野営地のぽっかり空いた部分の真ん中に一層豪華な天幕が張られた。そして天幕から一本の旗が立てられる。そのシンボルは帝国の双頭の黒いワシ……ではない。もっと別の鳥類だ。あれは……ハヤブサか?
いつしか俺の周りには騎士たちが集まっていた。魔遠鏡、これしかないのかよ……。
仕方がない。俺が見てもあのシンボルの意味は分からない。
「ギュンター。あの真ん中に立ってある旗がどこの者か分かるか?」
「拝見させていただきます」
ギュンターは俺から魔遠鏡を受け取り覗き込む。
「これは……」
「どうした。何が見えた?」
「あれは代々皇帝のご子息が遠征に向かうときに使う旗。皇太子のシンボルです!」
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