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ポンド  作者: 新庄知慧
20/88

20 こおんなの悲鳴

悲鳴だ。


「こおんな」の物体が悲鳴をあげた・・・


そのとき「どうして心が暗いのかなんていうことは、頭にするのも煩わしいことだ。」


ふっとそんな言葉が頭をかすめて、そらから唐突に、何の気なしに女に言ってみた。



「これ、何ですか!?」



・・・・「これ」なんて言わないで下さい。


隙間風のような声がかえってきた。


お相手にもならない、もの足りない、ふつつかものなんでしょうけれど、今宵はこの者しかいないんです。


「ときに…」


え?


女は言う。


あなたは、結論してしまえばネ、自分を不遇だと感じてるんでしょう。


そうです。自分の努力の足らぬ、不徳のいたすところによって、僕は不遇なんだ。


努力をしないのは何故?


してますよ。いや、してました。足らなかったわけですよ。


もっと努力をしないのは何故?努力をするってどういうことだか分かる?


―最後はどうせ死ぬんだからと言ってしまえば、努力なんて、どうでもいいわけですよね。そうすると、努力なんて、一体何のことやら。さっぱりですよね。この世の店じまいになってしまったなら、何のこだわりが努力にあろうか。


閉店まぎわになったレストランで、食べ残しのお子様ランチを必死でたいらげようとするとか、倒産寸前の会社で伝票の整理に血眼になるとか。そんなことにしか思えない。努力とはそんなものか。違うな。


努力には内容のある目的がありますよね。目的にひっかかりがあるから、努力するんですよ。何かにこだわって、僕がひっかかりを持ってる間は、僕は努力するし、努力しないでいると不遇になるということです。


でも、僕は、努力するのは正しいこと、善きことであると教わってきたんですよ。他人の為であれ自己の為であれ、努力は必要なことだと。


でも、この世が店じまいだというなら、何のひっかかりも無くなってしまうし、努力なんて、足元からスーッと消滅してしまう。ああ、そうだ、努力なんて、つまらない努力ですね。



「あなたはどうして、こちら岸のことに、いつまでもひっかかってなんかいるのさ!」



女が言ったようだが、実は小女が言ったのかもしれない。彼の意識は闇の水に乗って漂い始める。


彼も女も小女も、こちら岸にいたのだ。それは間違いない。いくら暗くたって、自分たちの居場所くらい分かる。


・・・・こちら岸にひかかっているうちは、こちら岸の理屈でしかものを考えようがないし、こちら岸の枠の中で悩んでしまう。


あちら岸にいけば何でもないことが、こちら岸では地獄になる。


あちら岸で生きるのが性に合ってるっていうのに、こっちに居たんじゃ、そもそも間違ってると思わない?


それでもいい気持ちになろうったって、土台無理な話よ。・・・・


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