21 行き止まりを歩く
小女が喋っているとしか思えない。
そう、聞いたふうな科白だと、僕は思うよ。じゃあ、あちら岸へはどうやって行くの?
闇にももう随分と目が慣れて、闇の中にも何かが見える。
ねっとりした暑い夜の底、大きな橋の影。その中を川が流れていて、こちら岸の我々にも、あちら岸のあることが分かり始めていた。
川幅はかなり広い。50メートルくらいはあるんじゃないか。
この川は浅いから、舟に乗らずとも、歩いて向こう岸に渡ることができる。
川の流れはゆったりしている。でもこれだけ沢山の水が、休まず動いているのだ。途中で足をとられたら、やっぱりあちら岸へは辿り着けないんじゃないだろうか。
「こちら岸にしか居る能がない奴がさ、あちらが良いと言い出して、あちら岸へ渡ろうとして、でも、それが果たせないことだったら、ひどいことになると思うよ」
彼は小女にそう言った。
小女の返事があった。
「じゃあ、どうするか」
どうするのだ?小女は続けて言った、
「答えることなんて……」
言葉は途切れて沈黙…。
彼は、きっと回答は死ぬことなんだろうなと思った。睡眠薬か都市ガスか、手首にあてるカミソリかは知らないが、つまり川のむこう岸は、あの世のことなのだ、きっと。
「行き止まりですね」
「大方そんなことだろうと思いましたよ」
彼は小女に明るく返事した。
小女の声は、よく聞いてみると、彼が好きだった女の子の、電話を通して聞く声に似ていた。
どうやってあちら岸へ行くのだと、詰問調にいじめるのは、絶対に間違っていると思い込んだ。
「でも、いつか分かるかもね。分からずじまいで行き止まるのは、あまりにもお馬鹿さん」
小女はそう言ったろう。
そして、彼の手を離れたそうに身動きした。動いたのだ。
彼はぎょっとしたが、つとめて優しく、小女を河原の上に置いてやった。
やっぱり女の子の着物姿の人形だ。髪はオカッパ。そのままテコテコと体を左右に小刻みに揺らしながら川へ向かって歩き出した。
「あ、歩いてる!」
茫然と彼は呟いた。




