二勝一敗
カイが先に撃った。
近い。
リゼは待っていた。
身体を左へ沈める。
光が肩すれすれを抜け、熱が髪の先を撫でた。
伸びたカイの右腕。
ほんの一拍。
今まで何度も、自分が渡してきた隙だ。
リゼは溜めていた光を放つ。
防壁が間に出る。斜めに弾かれる。
それでも止まらない。
防壁の横へ身体をねじ込み、カイが二発目へ腕を戻すより先に、胸元へ短い光を叩き込んだ。
一枚。
二対二。
鐘はまだ鳴らない。
なのに客席が決着みたいに沸く。
リゼは大きく息を吸った。
「それ狙いだった?」
「撃たせるとこまで」
「避けられる前提?」
「避けるつもりだった」
「危ないね」
「今さら?」
あと一枚ずつ。
カイは中央へ戻らなかった。
逆に一歩前へ出る。
さっき自分から撃たされたことを、もう次の手へ変えている。
「学習早」
「君に言われたくない」
今度もカイから光が来る。
リゼは斜めの防壁で逸らした。
いつもなら、受けた直後に入る。
足が出かける。
止めた。
目の前を二発目が走り抜ける。
あと半歩出ていたら、胸元だった。
カイの口元が上がる。
「今のは来ると思った」
「性格悪!」
同じ形で二度は取らせない。
その当然を、目の前の相手も同じ速度でやってくる。
リゼは右へ回った。
カイも向きを変える。
一発。
斜めの防壁に弾かれる。
もう一発。
また逸れる。
今度は追わない。
カイも動かない。
距離が少しずつ縮む。
「来るんだ」
「待ってたら押されるから」
カイが前へ出る。
リゼは右から撃った。
斜めの防壁に当たり、光が左へ走る。
その角度なら使える。
リゼは左手で薄い防壁を置いた。
二度目の反射。
カイはもう避ける方へ動いている。
「それは知ってる」
「だよね!」
当てるつもりではない。
反射した光がカイの右側を横切り、そちらの逃げ道を潰す。
カイが左へ入った。
リゼは足元へ光面を出す。
踏む。
推進が横へ流れ、身体が床を滑った。
カイも深く入ってくる。
光。
滑ったまま防壁を出す。
受ける。
逸れる。
カイは止まらない。
二発目。
防壁を直す時間はない。
リゼは避けなかった。
前へ出る。
光の内側へ。
肩を熱が掠める。護印は割れない。
距離がなくなる。
カイの目が近い。
どちらも手を伸ばす。
次を考えるより、身体が先に動いた。
短い光。
同時にカイの光も走る。
胸元が真っ白になる。
視界の向こうでも白い光が弾けた。
一瞬、何も見えない。
客席の音さえ消えた気がした。
ぱきん、と。
一枚だけ、はっきり聞こえた。
リゼは自分の胸を見る。
護印が一枚、残っている。
顔を上げる。
カイの最後の護印が、細い光になって消えていく。
鐘が鳴った。
『勝者――リゼ・オルディア!』
競技場が爆発した。
今度は本当に、そう聞こえた。
一秒だけ動けない。
自分の名前。
消えたカイの護印。
残っている自分の一枚。
三対二。
勝った。
「――っしゃああああ!」
両腕を上げる。
喉が潰れても構わないくらい叫ぶ。
歓声がさらに大きく返ってくる。
「二勝一敗!」
カイは笑っていなかった。
消えた護印を見ている。
リゼは腕を下ろす。
「カイ」
「……何」
「悔しい?」
カイが顔を上げた。
「すごく」
リゼは笑った。
「よし」
「何がよしなの」
「その顔」
「感じ悪いね」
「負けたのに笑ってたら、その方が嫌」
カイは最後にいた位置を一度見た。
「最後、二発目の内側まで来るとは思わなかった」
「取るため」
「危なすぎる」
「勝ったけど」
カイが小さく息を吐いた。
「そこが一番腹立つ」
「次は?」
「取る」
即答だった。
「いいよ」
「ユース終わったけど」
「次の区分があるでしょ」
「じゃあそこで」
「僕が勝つ」
「私がまた勝つ」
表彰は長かった。
リゼは、こういう長さなら嫌いではない。
名前を呼ばれる。
中央へ出る。
王冠を渡される。
両手に乗ったそれは、見た目よりずっと重かった。
持ち上げる。
歓声が降る。
「リゼー!」
「オルディア!」
全部聞く。
全部浴びる。
客席の端にセラがいた。
目が合う。
セラは王冠を指し、それから自分を指した。
リゼも王冠を少し持ち上げる。
それで十分通じた。
最後に、今季の競技記録が確定された。
ユース・クラウン・サーキット終了。
順位確定。
競技者印のシーズン登録終了。
係員の宣言が終わった瞬間、手首が少し温かくなる。
金色の線が薄くなっていた。
隣の列で、カイも手首を見ている。
一度だけ光る。
それから消えた。
青白い競技者印だけが残る。
「……終わった」
「終わったね」
リゼは手首を裏返す。
金色は戻らない。
「よかった?」
カイが聞いた。
「面倒だったし」
「僕も」
それで会話は終わった。
係員に呼ばれ、二人はいったん別れる。
競技場を出るころには、空が赤くなっていた。
リゼは王冠の箱を抱えて階段を下りる。
少し先を、カイが一人で宿舎の方へ歩いていく。
「ちょっと」
振り返る。
「何」
「どこ行くの」
「帰るけど」
「一緒に帰る」
カイが眉を上げた。
「王冠見せつけたいだけ?」
「半分」
「もう半分は?」
さっき自分が聞いた言葉を返される。
リゼは箱を抱え直した。
「付き合ってるから」
「そうだった」
「忘れるな!」
カイが笑う。
リゼも横へ並ぶ。
手首に金色はない。
「次、いつ」
「何が」
「次の公式戦」
「Open登録が通ってから」
「遅い」
「同じ条件でしょ」
「私、先に練習する」
「僕もするよ」
「じゃあ先に強くなる」
「追いつく」
「追い越させない」
「もう二勝一敗なのに?」
リゼは王冠の箱を少し持ち上げた。
「だから」
「次は僕」
「次も私」
二人で歩く。
手首に金色はない。
王冠の重さだけが、リゼの腕に残っていた。




