二人が履けたガラスの靴
二日が経った。
約束通りアポロン王が、レオナの部屋にいるイザベルの元に来た。まずアポロン王は部屋の外からフランに、二日間下着のままだった俺にレオナの服を着させるように指示。その後、人払いをしてから部屋に入って来て、俺をベッドに横たわらせると、ベッド脇の椅子に座り込んだ。
「二日、“ライオンハート”について調べた。クソ忙しい中、ウチのナンバーツーを動かして、アイツ主導でありとあらゆる手を使って調べた結果……十四年前、レオナが宝玉に選ばれた時に調べ上げた時とまったく同じ内容だった。つまり現状調べる意味はないって事で……同時に」
指を差される。
「この状況は現段階で解明不可能ってこった。そうだろ? レオナ」
「———!」
思わず息を呑む。
王の表情は部屋に入って来てからずっと俺のことを据わった目で見つめて来ていた。表情からは二日の調べによる疲れと、目の前で起きている自分自身では到底納得し切れない事態に困惑している様子が見てとれた。
「お前はレオナだ。だが見た目は向こうの姫……一度も顔を見たことはなかったが、確かにお前はイザベル姫の姿形をしながらも、レオナなんだ」
「……」
「ダンマリはやめよーぜ」
椅子から立ち上がり俺の肩を掴んでくる。い、痛い……。
「で、開口一番話した通りこっちはもう手詰まり。だからここでお前に聞こうと思ってな。もしそのままダンマリなら———殺すぞ」
「……わ、私も分かってない、です」
「十四年前の調べと、ここ二日の調べではわからなかった。宝玉のことに詳しい賢者達にも聞いたが、アイツらから聞き出した話の中にお前のその状況を説明できるものは一つもなかった。つまりだ———宝玉が十四年で何か変わったと見るのが自然だろ?」
「……変わった?」
十四年での変化?
レオナとイザベルが何か、宝玉に変化をもたらしたってことか。そしてそれが……今俺がここにいる理由かも知れない。
王はまだ“俺”の存在には気づいていない。ただレオナと同じ雰囲気のあるイザベルを、レオナだと思っている。
「レオナ、もしくはイザベル姫。もうどっちかわからないが……今の状況を喋ってもらう」
おもむろに王は板に貼り付けた紙を見せて来た。そこにはいくつもの項目と、その隣にチェック欄があった。
「ここに書かれている質問を一つずつ聞いていく。俺はお前の答えを嘘か本当か見抜いて、判断していく。いいか? 下手な嘘は自分の首を絞めるぞ」
椅子に座り直し、すぐに王は質問を始めた。
「お前はレオナか?」
「……はい」
「……イザベル姫か?」
「はい」
「若干怪しいな。一瞬答えをためらったが、次の質問には淀みなく答えた。それはおそらく前の質問で答えたものと紐付けして、次の質問の答えに前持って心の備えをしていた。レオナであるが、イザベルでもある、その答えは真実———だがまだ何かある」
す、鋭い。
うっすらとだが“俺”の存在に気づき始めている。
やはりアポロン王は決して侮れない。少しの迷いが命取りになる。
「続けるぞ。お前の持っている宝玉は“ホエールハート”だな?」
「はい」
「“ライオンハート”は持っていない?」
「はい」
「……ふむ。なら次だ」
そこから色々聞かれた。
生年月日。身長、体重、バスト・ウエスト・ヒップのサイズ。自分の騎士の名前や、今日食べた物、昨日食べた物、一昨日食べた物、“火の国”に捕まる直前までで食べた物。趣味、趣向、好きな食べ物、嫌いな食べ物、好きな動物、好きな場所、好きな人。
イザベルの情報は俺がイザベルになった日のうちに色々調べたから淀みなく答えられた。スリーサイズは知らなかったので、このくらいだろうと言うサイズを適当に答えた。
……好きな人は答えられなかったけど。
「……概ね、おかしな部分は見当たらないな。ただしお前がレオナだと言うのは、聞いていくうちに話し方や声の調子で確信した」
長い質問攻めだった。彼がシートから手を離して椅子から立ち上がったのを見て、ほっ、と息を吐く。
「ふん、お前の父は歴史に詳しいから俺のような方法を取らずとも、もっと詳しいことを調べ上げられるはずだ」
「父って、私……イザベルの、ですか?」
「ああ。アイツは歴史と星座に精通して———」
俺は。
俺は、質問攻めが終わって安堵していた。だから、失敗した。
言葉を途中で止めた王がゆっくりと俺の方を向く。
「———なぜ、知らない?」
「え……あ!」
「なぜヤツの娘であるお前が知らない? まさかイザベルではないのか? レオナそのもの……あの戦闘で魂かなんかが入れ替わったとか……いいや違う。最初の質問でどちらでもあると答え、俺はそれを真実だと判断した。なのになぜイザベルにあるはずの知識が、お前には存在しない」
「…………!」
「レオナであって、イザベルであり、だがしかし……イザベルではない? その答えは……! お前!」
———俺の娘に乗り移っているお前は、何者だ。
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それから一日が経ち、レオナの方にもネプチューン王がやってきた。アポロン王とほとんど同じように、レオナにイザベルの洋服を着せてから部屋に入ってきて、ベッドのそばに椅子を置いて腰掛けた。
そして語り始める。
「ここ三日あらゆる手段を使って宝玉について洗いざらい調べた。だが結局、十四年前宝玉が現れた時に調べた時となんら変わらない情報が集まった」
アポロン王と同じ結果だったようだ。
しかし、ネプチューン王はここからが違った。
「だが一つだけ手掛かりになるかも知れない情報を入手した。この城の書庫で文献を漁っていると見つけたのだが、宝玉が“ホエールハート”、もしくは“ライオンハート”と呼ばれる意味について」
「名前の意味?」
「まずホエールも、ライオンも、どちらも野生動物であり“王”を象徴するものだ。これは他の国にもある別の魔法の宝玉にも見られる特徴だ」
他の国とは俺のいる二つの国の周辺諸国のこと。
そこにも“宝玉”がある。
ライオンハート、ホエールハートの他には。
イーグルハート。
ビートルハート。
バイソンハート。
ドラゴンハート。
などいくつも存在する。
そのどれもが動物の名前であり、どれもが王を象徴する動物たち。
「そして“ハート”の意味。それは心であり、魂であり、精神であり、命であると文献には記されていた。動物の名前を“王”に置き換えると全ての宝玉は“王の心”と読めるわけだな」
「王の心……」
「しかし全ての王に宝玉は宿らず、今世はキミとイザベルが選ばれている。そう、選ばれるのだ、宝玉によって……王の心によって、魔法を使える人物が」
「私はどうして選ばれたのですか?」
「宝玉は君たち姫が生まれた瞬間期待したのだ。王となりうる気質を。しかし———恐らく、宝玉は姫を失格と見做した」
なんだそれ、勝手な話だ。
勝手に選んで勝手に失望するなんて、良い迷惑だ。
「そして宝玉は変化したのだ。対立する国の姫ならば魔法を使うのに相応しい人物であるだろうと考え、イザベルの肉体の中にレオナの精神を接続した。そして二人の精神は融合し一つの新しい精神を形成したのだ。どちらの要素も兼ね備えているから、最初ワシが見た時には気づくことができなかった。だが初めてキミを見て確信した。キミはイザベルと同じ魂を持っている、と」
……どこか、違う気がする。
ネプチューン王はよく調べたのだろう。得意分野である歴史を丁寧に調べたが、実際のところ二人の魂はどこかへ行き、代わりに普通の男子高校生だった俺の魂が入れ込まれた。
二人の体を同時に動かす者として。
「キミは、作られた魂なんだ」
ネプチューン王が迫る。
そして問う。
———娘の体の中にいる、キミの名前はなんだい?




