12話 血の棺 4
笠の下、めちゃ美人じゃん? とハッとしつつ、ロクに力溜めてないのに詰め過ぎたからちょっと慌ててると、
「寄り過ぎだっ」
「わっ?」
ガンモンが追い付いてきて、私を抱えて飛び退きつつ、聖水の瓶をブローカーのバンパイアに投げ付けた!
爪で掌を傷付け、そこから数体の血の蝙蝠を造って聖水を防いで浄化の青い炎を上げさせ、翼で飛び退くブローカーのバンパイア。
そこへ巨木の枝の上から短筒で銀の弾丸を2連射するテオ。
蝙蝠が間に合わなかったのか、鬱陶しそうに加速回避するブローカーのバンパイア。
テオは銀の鎖鎌の鎖を使って死角の巨木の枝に飛び移ると、すぐに気配断ちとダッシュで姿を消した。
「C級でハイバンパイアは倒せないっ。逃げられる要素も足りない。負傷者を保護して牽制する。上空からは観測されてる! 増援は来るっ」
「ごめん、カッとしちゃって。取り敢えず、マッチョの人達、投げるよ」
私はガンモンに構えて見張ってもらいつつ、まだ痙攣して『活きのいい海老』みたいになってる格闘士の人達を怪力アビリティーでポイポイと教会僧とポポヒコのいる衛兵隊の方に投げ渡した。
慌てる衛兵隊と教会僧の人達。
「やり難いのが残ったね。どうしたもの」
「サンダーショット!!!」
ソラユキがブローカーのバンパイアに電撃弾7発を高速で操って一斉に撃ち込んだ!
「不採用だってっ? わたくしのミリミリ号に無礼な『死に損ない』だこと!!」
そこ、あんたが怒るの?
「・・ああ、面倒ね」
『血の球体』で身を護り、焦げて崩れたその中から姿を表したブローカーのバンパイアは笠を取り、一気に空気が震える程に魔力を高め瞳を紅く輝かせたっ!
「っ!!」
瞬間的にっ、私とガンモン、衛兵隊を『闇属性の巨人の鉤爪』が斬り付けてきた!
ディフェンドの障壁は破壊されっ、私はラージシールド+1で鉄亀スキルを使ってどうにか受けきったけど、ボウガン装備で盾自体構えてなかった衛兵達は1発でブッ飛ばされてノビちゃったよ!
「ミリミリ、鉄亀あと何発出せる?」
「途中で回復できないなら、2回」
「2回か」
ヤバい、目が据わってるガンモン。テオを逃がす為にムチャしそうっ。
テオ、ソラユキとポポヒコ、私とガンモンで位置がバラけてるのがここにきてややこしい。
ガンモンが1人で動かないようにどうにか誘導しないと・・
「朝は嫌い」
また、ブローカーのバンパイアの魔力が高まるっ! その時、
「『セイクリッドヒル』!!」
ショウエモンさんの詠唱が響き、ブローカーのバンパイアの足元に聖なる魔方陣が発現し、光の力が動きを封じ身体を焼きだしたっ。
「ぐっ?!」
「『エル・ライトニング』!!」
今度はタバサさんの詠唱が響き、凄まじい電撃の波動がブローカーのバンパイア焼き払う!
最後に黒い翼を畳んだ+2はありそうな槍を持ったユシュカさんが魔力を纏って急降下し、肩口からブローカーのバンパイアに槍を打ち込んだ!!
衝撃っ! 聖なる魔方陣が消し飛び、翼をはためかせてユシュカさんは私とガンモンの前に着地した。
ブローカーのバンパイアは半身が消し飛び、残った身体も浄化の火に焼かれている。
「ようがんばったな。あとでアメちゃんあげんで?」
「あ、はい。ども」
飴、くれるんだ・・
「今日の、良き日、父さん。私の、病は、治ったのです」
うわ言のようにブローカーのバンパイアが呟くと、残った右腕が弾け、その血が棺となったっ。
「あかんヤツっ!」
ユシュカさんは加速して止めに掛かったけど、棺は燃える吸血鬼をしまい込み、槍が棺を貫いて焼き祓ってても、中身は既に空だった。
「逃しましたね」
「飴がどうとか余計なことを言っておったからの」
巨木の森の奥から遅れてタバサさんとショウエモンさんが現れた。
「ちゃうやん? なんかしそうやったけど、反撃来ると思うやろ? いやほんま、ちゃうってっ、ちゃうちゃう!」
西方訛りですんごい言い訳してるけど、どうやら私達は助かったらしかった。ポポヒコも立ち上がり、潜んでたテオも樹から降りてガンモンに抱き付いてた。
ソラユキも『おいで』て感じで腕と翼を広げてきたけど、そこは私はスルーしたね。
──────
ミリミリ達の加わったモータン市団の活躍もあり、それなりの被害は出ながらも北の大樹の森の吸血鬼化ゴブリン騒動が鎮圧されたその夜。
モータン聖堂の西館地下には明日の浄化処置を控えたヒロシ・カメオが最後の一夜の眠りに就いているはずだった。しかし、
西館地下へと続く出入口が吹き飛び、奪ったらしい僧服の乱雑に裸身な纏った白髪に紅い瞳、鋭い牙の痩せ細ったヒロシが血の渦を逆巻かせながら現れた。
警鐘が鳴り響き、僧兵達が殺到し、神聖魔法を唱えに掛かったが、血の渦が加速し、『多数の血の拳』を造りだすと僧達と警鐘矢倉の僧を殴打し瞬時に昏倒させた。
「ん~・・あー。上手く、手加減できねぇから、あんまり絡むなよ? 俺ぁもう、死んだことにしたんだろ?」
血の拳を開いて操り、触れられそうな神聖効果の無い短剣や小剣を昏倒した僧兵達から奪うと、それで僧達の肌を傷付け、流れた血を『いくらか』操って引き寄せだした。
まず血の渦に取り込み、それを手足に肌から吸い寄せて渇ききった身体を満たし、生前よりも逞しい身体付きを得るヒロシ。
「つーか昨日、ポポヒコ来なかったっけ? 昨日じゃねーか?? あ~、スッキリしねぇ」
不快そうに、どうやってモータン市から逃れるかヒロシは考えていたが、地中から『血の鼠』が大量に溢れ、そこから3つの血の棺が出現し蓋が開くと3体のハイバンパイアが出現した。
「いい夜だ。聖堂の寂れた裏庭、我々に相応しい」
古風な貴族服を着た、長身のエルフ族の男のハイバンパイアが歌うように言った。
「出来損ないだと思ったのにハイバンパイアになりかけてる! 珍しいね、兄さん」
「こういうのは『跳ねっ返り』になるもんだ教育が必要だ」
残り2体は双子の少年で、行商の格好をしていた。
「テメェら・・人の身体と脳ミソ勝手にイジりやがってっ」
魔力を高め、血の渦を大きく展開させるヒロシ。
「焼き林檎みたいにドタマ噛ってやんぜっ!!!」
ヒロシは初手で先程奪った短剣と小剣を纏めて3体のハイバンパイアに投げ付けた。
血の鼠達が『血の盾』に変わって全て防いだが、即座に『血の渦で勢いを付けた』ヒロシが左の蹴りで血の盾を突き破った。
「オラぁっ!」
2つに割った血の渦で双子を牽制し、背に蝙蝠の翼を出して羽ばたき、エルフのハイバンパイアに迫るヒロシ。
左の鉤爪の貫手を右の掌を貫かれながら受け止めるエルフのハイバンパイア。
「ふっ」
嗤って、自身の胴体前面から『血の槍』を多数噴出させてヒロシを弾き飛ばすエルフのハイバンパイア。
「イテっ、くっそ! バンパイア同士でダメージ与えんのムジぃなっ??」
「元気があってよろしい。しかし、今夜は招かれずに来てしまったのです。ルルオ、シシオ、手短に」
「「了解!!」」
血の渦を2人とも翼を広げて消し飛ばし、兄のシシオは『血の鞭』を構え、弟のルルオは『血のレイピア』を構え、加速してヒロシに迫る。
超高速でシシオが血の鞭で援護し、ルルオが血のレイピアで突進する。
ヒロシは傷口から出た血で小さな渦を作って両腕に纏いどうにか受けるが、いいように削られてゆく。
「うおおおっ?!」
「あははっ、ナスカーファさん! コイツ、回収したらボク達のペットにしていい?」
「さて『伯爵様』に伺わないことにはねぇ」
「えぇ~?」
「ルルオ! 気を付けろっ、コイツ、血の使い方を工夫しだしてるぞっ?」
「わかってるよ、兄さん。でもこんな、成り立ての」
「こうか?」
ヒロシは小さな血の渦を『血の長剣』に造り変えると魔力を乗せ、生前得意だった『断ち割り』スキルでルルオを血のレイピアごと両断した。
「あれ?」
「ルルオっ! コイツっっ」
顔色を変えたシシオは手近に『魔術印がされた石の立方体』を次々とテレポートさせ、それをヒロシに蹴り飛ばしだした。
難なくそれを血の長剣で切断して捌くヒロシだったが、斬られた石の立方体は落ちずにヒロシの周囲を旋回しだした。
軌道をいくつも変え、多重の輪状にヒロシを覆う。
「マズそうだな・・へへ」
真っ二つにされたルルオが『血の糸』で自分を大雑把に縫い付けた状態で石材を操っていた。
「痛いことしたからお仕置きだよ!」
石材は超加速して頭部以外のヒロシの全身を押し潰し、抑え付けた。
「ぼぅっっ」
吐血し全身から流血したが、その血でまた渦を造ろうとするヒロシだったが頭の四方にシシオが石材をテレポートさせ、ルルオがそれを押し付けて、ヒロシの頭部を粉砕し、血の渦も止まって血は腐って落ちていった。
一方で、地上の聖堂の敷地では増援が集まりつつもあった。
「死んじゃった?」
「ハイバンパイアが擂り潰されたくらいで死ねるかっ」
「はい、回収完了。いわゆる『ズラかり』ましょうね?」
3体のハイバンパイアは地上の血の鼠達の3割を増援隊にけし掛け、残り7割を引き寄せて血の棺を4つ造ると自分達と石材と血にまみれたヒロシを納め、テレポートしていった。
空になった血の棺は腐った血の雨となって聖堂西館を汚してゆくのだった。