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10 我が物顔ですか

 我がハウエル家と同じく、マクニール家も朝は親子三人が同じ馬車で宮廷に上がっているそうだ。

 さらにマクニール侯爵とヴィンセント様はどちらも内務官だから、お二人で終業の時間を合わせて同じ馬車で一緒に帰ることが多い。

 その馬車は、マクニール家における主馬車だ。


 一方、ジョシュア様が帰宅時に使っている馬車は、マクニール家では二台目の位置づけ。

 本来なら嫡男のヴィンセント様が乗る馬車だが、王宮からの帰路に関してはジョシュア様がある程度自由に使える感じになっているらしい。


 そんなわけで、ジョシュア様は次の日も屋敷まで送ると申し出てくれたのだけど、私はお父様と約束があるからと言って断った。

 さらにその翌日は、友人に会うと言って。

 ジョシュア様のためだと思っても、彼に残念そうな表情をされると胸が痛んだ。




 週が変わってもそんなことを続けていたある日、他部署に資料を届けて法務官室へと戻る途中でロドニーに呼び止められた。

 珍しく渋い顔だ。


「何かあった?」


「何かじゃないだろ。おまえに関するおかしな噂を聞いたんだよ」


 それだけで、噂の内容はだいたい予想できた。宮廷中に広まった話がようやく衛兵隊にまで届いたのだろう。


「事実よ」


「はあ? じゃあ、本当にジョシュア・マクニールと付き合ってるのか?」


「ええ。それよりも、宮廷の廊下で侯爵家のご子息を堂々と呼び捨てにするのはやめなさいよ」


 私に対する態度が相変わらずなのはもう諦めている。


「いや、おまえ、それ絶対に騙されてるぞ。さすがのウィレミナも傷心のところをつけ込まれたんだな」


「どうして私が傷ついてるのよ?」


「それは、俺に婚約を解……」


「まったくないから」


 というか、私と婚約していたこと忘れていなかったのね。


「おまえは相変わらず可愛くないな」


「もういいかしら? 仕事に戻らないと」


 本当はそろそろ昼休みだから、急いで戻る必要もないのだけど。

 歩き出そうとした私の腕をロドニーが掴んだ。


「俺はウィレミナを心配してるんだ」


「ロドニーにだけは心配されたくないわ」


 ロドニーの手を振り払おうとしたけれどできず、「放して」と言いかけた時、「離れてください」と言う声が聞こえた。


「私の恋人に触れないでください」


 ロドニーと私の間に割って入ってきたのはもちろんジョシュア様だ。

 彼の登場に驚いたのかロドニーの力が緩んだので、私は急いで手を引っ込めた。


「え、何、本気? マクニール侯爵子息ともあろう方が、こんな可愛いくない女でいいんですか?」


「私はウィレミナ様がいいのです。あなたはウィレミナ様と婚約を解消して何の関係もなくなったのですから、もう彼女に馴れ馴れしくしないでください」


 ジョシュア様にそう言われて、ロドニーはカチンときたらしい。


「婚約は解消しても幼馴染には変わりないんだから、別に構わないでしょう。そちらこそ、ただの恋人なんて中途半端な関係で我が物顔ですか?」


 ジョシュア様が怯んだのがわかった。

 彼より体格のいいロドニーに睨み下ろされたからではないと思う。


「ジョシュア」


 私がジョシュア様の手を握ると、彼がハッとしたように振り向いた。


「行きましょう。もうお昼休みですよ」


「……はい」


「おい、ウィレミナ」


 なおも呼びとめるロドニーを、今度は私が睨んだ。


「ジョシュアの言うとおりです。たとえ幼馴染であろうとも、私たちはもう馴れ合っていていい歳ではありません。これからはお互い態度を改めましょう、ブラウン次期伯爵」


 私はジョシュア様の手を引いて、ロドニーの前から立ち去った。

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