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72.隠し部屋ってワクワクするのは何故だろう

 かしまし娘達が部屋を出ると、途端にシンとした空気に包まれた。


 私の言葉はアベルさんには伝わらないし、ピーちゃんを介してお話しするのも、なんとなく憚られたので、場の空気を持て余していると。


 案の定、静寂ハカイ隊長のピーちゃんが口火を切ってくれた。


「アベルってさ、何歳なの?」

「23です」


「ニセ勇者は?」

「同じ歳ですよ」


「ふ~ん。あ、そういえばさ、ニセ勇者ってば、よく千年前の『世界樹のしずく』見つけられたね?」

「……そうですね。屋敷の宝物庫で見つけたのは話しましたね?」


「うん。聞いた。よく千年もの間、ニセ勇者の一族が使わなかったなと思ったの」

「詳しくいうと、宝物庫の隠し部屋で見つけたのですよ」


「隠し部屋?! ……にしてもよく誰にも見つからなかったわね?」

「カイン様が土魔法を使えてなければ、見つからなかったでしょうね」


 苦笑いのアベルさんが、詳しく話し始めてくれた。


 カインさんは、物心つき始めた頃から、かなり”やんちゃ”だったらしく。

 ほとんどの貴族が火や水といった、攻撃手段に使いやすい属性を使える者が多いなか、カインさんが使える魔法は土属性のみだった事は、自尊心の強い彼には耐えがたき屈辱だったのだろう、と。


 土属性の魔法を使って壁や天井裏に潜んでは、他人の秘密を握り、掴んだ秘密をネタに脅すという事を、楽しむようになっていったらしい。

 

「脅し取るお金だけでは飽き足らず、さらに遊ぶお金を工面するのだと、よく屋敷の宝物庫に忍び込んでらしたんです」

「う~わ。典型的……」


「宝物庫にあった財宝は、子供が持ち出して換金できるような、()()()()はあまり無かったので、大抵忍び込んで色々見て周るだけだったのですが……」

「アベルも、宝物庫に入ってたの?」


「ええ。幼少の頃は付き合わされていました」

「お宝見るのは楽しそうね」


「ええ。2代目勇者様の金の銅像とか、七色に光る2代目勇者様の肖像画とか……。色んな物があったので楽しかったですよ」

「銅像に肖像画ぁ?! いらない、そんなお宝はいらない」


 2代目勇者……ドンだけ自分が好きなんだ……。

 七色に光る肖像画は、ちょっと見てみたいけど。


「ただ、お屋敷自体は増改築を繰り返していたのですが、宝物庫だけは、ほぼ手つかずのままでしたので、壁や床がかなり傷んでましてね」

「宝物庫に職人いれるのも、色々弊害ありそーだもんねぇ」


「そうなんです。カイン様は土魔法の名手でしたから、宝物庫に忍び込んで遊ぶ()()()にと、ご当主に宝物庫の修復をすると許可を頂いて来ましてね」


 それ、すでに忍び込んでないんじゃぁ……ないのかな? と、突っ込むのは野暮なんだろうな。


「ちょっとワクワクしてきた。それでそれで?」

「12、3歳ぐらいの頃でしょうか。床の一角を修復していたカイン様が、下に空洞がある事に気が付いたんですよ」


「ほうほうほうほう」

「その部分の床を取り除いたら、下に降りる階段が出てきたのです」


「ほっほーう」

「あの時……。ソラとミアをカナリア替わりに先行させた姿を見て、二人を引き取る事を決意したのですけれどね」


 地下とか洞窟に潜る時に、有毒なガスや酸素の有無とか調べる為に、先端に鳥かご付けた長い棒を、調査隊の先頭の人に持たせて異変を調べる……ってやつか…。

 ……それを人でやったって事ね。鳥でやるのですら腹が立つのに!!


「うわ……。本当にカインってクズね」

「ええ。無理やり僕が先頭に立ちましたよ。その頃、僕は火と水なら使えましたからね。指先から炎を出し続けておいて、燃え上がり方に変化があればわかるかな、と」


「魔法の炎なら魔力さえあれば燃えるでしょ? 有毒だろうと空気がなかろうと、燃えてるんじゃないの?」

「ふふ。気付きました? あの頃は僕も幼かったと云う事です。幸い気分が悪くなる者も出ず、長い階段を下りられましたよ」


「階段を下りた先で『世界樹のしずく』を見つけた、って事ね?」

「いいえ。もう少し先です。階段の先には何もない部屋があったのですが、そこにも隠し扉がありましてね。山と積まれた金貨と、仕掛けに守られた『世界樹のしずく』がありました」


「……仕掛けって?」

「台座の上に置かれた『世界樹のしずく』を持ちあげたら、台座の周りの床が抜けたんですよ」


 天井が崩れ落ちてくる仕掛けかと思った!


「よく無事だったわね……」

「全員で落ちましたよ」


「えっ。大丈夫だったの?!」

「幸いというか……。落ちながら、水魔法で大量の水を出し続けたので、どぼーん、と飛び込んだ程度ですみました」


 いや、どぼーんじゃないでしょう……。


「ミアとソラも落ちたの?」

「あの子達は泳ぐのも走る得意ですからね。大変だったのは泳げないカイン様でした」


「そのまま放ってきたらよかったのに」

「次期ご当主ですからね。そういう訳にもいかないですよ」


「貴族に仕えてると面倒ばかりね」

「ただ、あの時ミアとソラに助けられた後ろめたさから、僕の使用人として引き取る事を許して頂けたのかもしれないので、結果的には良かったのかもしれません」


「いやいやいや。もともと使用人を虐待している事が頭おかしいから」

「……そうですね……。あの日以降、宝物庫へ忍び込むお遊びに、僕やミア達が呼ばれる事はなくなりました」


「金貨を横取りする気だろ、とか言いそうね」

「すごいですね。その通りです」


 ぐぬあー。片方だけの話を聞いて人を評価するのは嫌いだったけど、この人だけはどんな言い分があろうとも、人として終わってるよね?

 嫌い抜いてもいいタイプの人よね?

 極悪人、認定しちゃっていいかなっ!!


 眉間と鼻の頭にこれでもかと皺を寄せているピーちゃんも、きっと私と同じ気持ちなのだろう。

 

「……出会う事があったら、絶対ぎゃふんと言わせてやる」


 と、呟いていた。

 アベルさんが困ったように微笑んだ矢先。



「ただーいまー!」


 マの抜けた声のヒビキが窓からひょいと帰宅してきた。

 

 お。ナイスなタイミングだね。

 ん? ヒビキ、なんで着替えてるの?

 タローさんと何してきたの?!


「お帰り~……って、ヒビキなんで着替えてるのよ? やらしーわね!」

「いや、おんぶしてたタローさんに 吐かれちゃって」


 ま~た、宙返り~とか、錐もみ上昇とかやったんだろーなぁ……。


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