表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/167

51.屋根裏の眠り姫

 ネズミ出たあぁぁあああ!!

 うわー、出た、出たよ。

 もー、ほんとヒビキってば、次から次へと、要らないイベント呼び込んでくるわ~。


 わくわくした顔のヒビキが、私の胴を両手で持ち上げて浮かび上がる。


 ……だいぶ風魔法使いこなせるようになってきたなぁ。

 妖精の森を出発する時は、ジャンプした反動で飛んでたのに、今はふわりと浮き上がったもの。

 いいなぁ。私も自力で飛びたいなぁ。


 ヒビキが小さなドアの鍵を開けると、ぽかりと空いた天井穴。


 やだー。やだよぅ。ネズミ嫌だよう。


「オカン、君に決めた! 行けー!」

だが断るッ(うんにゃ)!!」


「お、元気な返事だねぇ」

嫌だって言ってるの(にゃ~にゃ)! ピーちゃん助けて(にゃにゃー)」 


「ピーちゃん、オカンなんて言ってるの?」

「行ってきまーすって言ってるよ」


裏切り者おぉおおお(にゃにゃにゃ~)!」


 忘れてたよ、妖精は基本的にイタズラ好きなんだったよっ!


 私の必死の抵抗むなしく。天井裏に解き放たれた。


 天井裏は真っ暗だけど……猫ですから。白黒だけどちゃんと見える。

 部屋ごとに天井裏も区切られているらしく、高さは80センチ程しかないが、広さは客室と同じだけあった。

 

 おそるおそる進みながら、ねずみがどこにもいない事を確認して……。

 ほっと胸をなで下ろして、入ってきた穴方向へ振り向いた……ら。


 天井裏への扉は跳ね上げ式の為、天井に対して130度ぐらいの角度で止まっていて。

 その、扉と天井板との間。……普通なら死角になっている場所に、何かいる!


 そろりそろりと近づいて見てみると、ピーちゃんぐらいのサイズの妖精が、まるまって寝ているようだ。

 うっすら積もった埃のおかげで、ドーム型の結界を張っている事が確認できる。


 そっと、そのドーム型の結界に手を触れてみると――


 バチィ!!


 スタンガンのような衝撃に弾かれた!


 ヒビキの結界にキックした時もかなり痛かったけど!

 あれとは、比較にならないぐらいむちゃくちゃ痛い!


痛ったーっ(にゃーっ)!」


 私の叫び声に驚いたヒビキが、ギリギリ通れるサイズの戸口にぐいぐいと体をねじ込んで、天井裏に入って来てくれた。


「オカン、大丈夫? どうした?」


 匍匐前進ですぐそばまで来てくれたので、妖精を指さして訴えかける。


ここ(にゃ)妖精がいる(にゃ~にゃ)」 


 続けて飛びこんで来たピーちゃんが私の言葉を聞いて、体から淡い光を出してくれた。

 ……蛍のような淡い光だが、暗い天井裏の様子を見るには充分な明るさだ。


 ピーちゃん、便利な特技持ってるね。

 そういえば『妖精の森』の小さい子達は、みんな光ってたもんぁ。

 森の外に出られるぐらいの大きさになったら、光を出し入れ出来るようになるのかな?


「わ。大きいお姉ちゃんじゃない。んもー。こんな近くで寝るんなら、森に帰ってきたら良いのに!」

「どういうこと?」

「小さい妖精が100歳超えたら森から出れるのは、覚えてる?」

「うん」

「竜王が衰えると、魔素が濃くなっていくのも覚えてる?」

「うん」

「でも、いつ魔素が濃くなるかは、はっきり判らないわけよ」

「うん」

「『妖精の森』の外にいた妖精が、濃くなってきた魔素を感じるとね?」

「うん」


 ピーちゃんが、ビシィと指を一本立てて云う。


「急いで森に戻るか!」


 2本目の指を立てて、云う。


「こ~やって結界を張って、魔素の濃さが戻るまで寝るか!」


 3本目の指を立てて、云う。


「魔素が集まってこない岩山とかに逃げ込むか! なのよ」


「なるほどぉ!」


触ったら痛かったのは(にゃ~にゃにゃにゃ)なんで(にゃ)?」 

「結界が壊れたら困るでしょ? だから、キツメの電撃が発生するようになってるの」


 妖精の王様が、女王様の張った結界を触った時に出てたアレか。

 あっちの結界は”王様限定”だったけど、こちらは(生命力を持っている)触れたモノすべてが対象の為、より簡単に張れるのだそうだ。


「このまま置いてていいの?」

「大丈夫。簡単な結界とはいえ、そうそう壊れる事はないから。無理に動かすより、このままほっとく方が安全なのよ」


 さっきのネズミの鳴き声は、知らずに結界に触ってしまったんだろうという事になり、天井裏から脱出する。

 ネズミも相当痛かっただろうに、よく走り去れたな……。


「うわ……。埃まみれになっちゃった」


 そりゃ、天井裏を匍匐前進したらそうなるよねぇ……。


 空間収納を開けたヒビキが、こちらの世界に転移させられた時に着ていた、上下黒のトレーナーとパンツを取り出した。


「うっわ! 忘れてた!」


 トレーナーは、妖精の森で池(お風呂)に入った時にバスタオル替わりに使った為、びしょ濡れのままだった。


「この世界の洗濯ってどうするのかな……?」

「それはワタシも知らないわぁ~」


「だってワタシ達着替えなんてしないし~」と、そっけない事を云いながら、天蓋付ベッドに戻って妖精キノコの残りを齧りだすピーちゃん。

 ヒビキが、濡れたトレーナーを両手で広げて途方に暮れていると。


 コン、コンとドアをノックされた。


「はーい。どうぞー」


 入ってきたのは、トレイに何かを乗せた女将さん――ハナコさんのお母さん――だった。


「夕食、あまりお食べになってなかったので、そろそろ小腹が空いてらっしゃるんじゃないかと思って。軽くつまめるものを持ってきました」

「ありがとうございます。嬉しいです」

「ハナコのシチュー、大変だったでしょう? 何度か『それは違うんじゃないか……』と言ってるのですが、『タローさんがこれだって言ってくれてるから大丈夫』の一点張りで……」

「あー……」


「タローは、自業自得だから良いのですけれど、『動物使い』様にとっては災難でしたよねぇ」

「い、いえ……」


 困ったような笑顔の女将さんが、丸テーブルの上に持ってきた軽食を置いてくれた。

 コップには黄色いジュース? と、ベーコンと厚焼き玉子のサンドイッチ。

 うっわ。美味しそう!


「わ! 美味しそうです。ありがとうございます」


「ところで、『動物使い』様、もしかして着替えで困ってらっしゃいますか?」


 濡れたトレーナーを両手で広げたまま話す、ヒビキの困り具合に気付いてくれたようだ。


「……はい」


「もし、古着でもお嫌でなかったら、主人の若い頃の服を貰って頂けませんか?」

「え! 良いのですか?!」


「えぇ、えぇ。あの人、若い頃は服の行商をしておりましてね。ちょっとした衣装持ちなんですよ」

「へえぇ」

「体型が変わって、着られなくなったモノが沢山ありましてね」


 そういえば……夕食前に挨拶に来てくれた大将さんは、小型のお相撲さんみたいなお腹周りだった。


「『痩せたら着れる!』なんて言って、大事に取ってるんですけど。かれこれ20年近く痩せるどころかお腹が出てくる一方でね。」

「あ……あはは……俺の母も、よく同じ事言ってました……」


 やめろー。私の話はやめろー。

 大将さんほど肉襦袢まとってなかったものー!


「ハナコのシチューを止められなかったお詫びに、差し上げますわ。取ってきますので、夜食を食べながらお待ち下さいね」

「え……でも、大将さんに――」


 世話焼き好きそうな女将さんは、やっぱりヒビキの返事を待つことなく、イキイキと部屋を出て行った。


 ハナコさんの、話を最後まで聞かず自己完結させるところは、きっと女将さんに似たんだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ