↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/167

52.氷魔法って、こんなんだったっけ?

「え……でも、大将さんに――」


 世話焼き好きそうな女将さんは、やっぱりヒビキの返事を待つことなく、イキイキと部屋を出て行った。


「――相談してからの方が良くないですか? って聞きたかったのに……行っちゃうんだからなぁ、もぅ」


「ま、いいんじゃない? 今頃戻って相談してるでしょうし」

「……そうだね」

「それより、このジュースワタシにも頂戴ー!」


 自由人なピーちゃんが、自分用のコップを取り出して、丸テーブルの上でぶんぶんと振り回している。


「ちょっとまってね」

 

 ピーちゃんに声を掛けたヒビキが、長箪笥から取り出したハンガーに、濡れたトレーナーを掛けて窓際に吊るしている。

 埃まみれのシャツとズボンも脱いで、トレーナーパンツに着替えてから椅子に腰かけると。


 ピーちゃんのコップにジュースを移してから、自分も一口飲んで「うまっ」と顔をほころばせた。


「ほんと美味しいわね、このオレンジジュース。冷たかったら最高なのに!」


 あ、嫌な予感がする。

 ベッドに潜り込もうと忍び足で移動した私の頭に、ピーちゃんが抱き付いて来た。


「オカ~ン」


 うっわ、すんごい猫なで声。

 

「ちょこ~っと、練習してみない? 氷、出したくなぁい?」

「え? 出せるの?」


 ヒビキが速攻で喰いついてきた。


「水魔法が使えたらね、そこから氷と雷も派生させられるのよ。オカンは火も使えるから、熱湯も出せる筈よ」


 ピーちゃんを頭に乗せたまま、ベッドに飛び乗って寝たふり開始。

 猫ですから。面倒そうな事は致しませぬぅ。

 まだちょっと、結界触った腕も痺れてるしね。


「氷はわりと簡単だから! ねぇオカン! 出てくる水を固めたらいいだけら(・)し(・)い(・)から!」


 私の眉手をむいむいとひっぱりながら教えてくれるけど、水を固めるってどーゆことさー。


「オカン、お願い。氷入れて欲しい!」


 うわ~。ヒビキさんからおねだりされちゃったよ……。

 弱いんだよなぁ、ヒビキのこの目。

 おねだりなんて滅多に……っていうか、された事ほとんど無かった!

 おねだりヒビキって、超レアじゃん!

 ごめん、ごめんね。元いた世界じゃ、色々気を遣わせてしまってたんだもんね。

 おし、母ちゃん頑張る。

 氷でも雷でもどんと来いってんだ。


 むくりと起き上がって、丸テーブルに戻り。


「ピーちゃん(にゃ~)、ヒビキに(にゃにゃ)お皿出してって伝えて(にゃ~にゃ)」 

「オッケー! ヒビキ、オカンがお皿出してって言ってる」

「よしきたー!」


 失敗したら水浸しになるもんね。


 サンドイッチをどけてもらったお皿の上に手をかざして……。


「このサンドイッチうまっ。オカンも食べる?」


 さっそくサンドイッチをパクつき始めたヒビキに勧められたけど、首を横に降る。  

 朝に妖精キノコを食べただけなのに、全然お腹すかないんだよな。 

 小動物は一日1個でいいのかな? ……運動してないからだろうなぁ。

 ……おっと、いけない。集中、集中。


 まずは、細い水の糸を出す。


 これを……固める……。

 止まれぇ~。留(とど)まれ水よぉおおぉお。


 ……直径1センチぐらいの小さい水の球が、掌球に留まった。


 よし。これを……さらに……固める……イメージする……。


 シュインッ


 不思議な音と共に、急激に水球の温度が下がった事を感じる。


 掌球から、細かくてほそい繊維のようなもので構成された、ホタテの貝柱サイズの氷の柱が出来ていた。


 え……と。霜柱かな??


 爆笑するピーちゃんの顔面に霜柱を投げつけてあげる。

 「冷たっ」と云いながら、なおも笑い転げている。


 もういっちょう霜柱を出現させて、笑いを我慢して変顔になっているヒビキにも、そいやっと投げつける。


 笑い転げながら逃げ惑う二人に、霜柱爆弾を投げつけて遊んでいると、何かを閃いたらしいヒビキがストップをかけてきた。


「オカン、その霜柱をコップに入れてみて?」


 言われた通りにコップの中に霜柱を投下してみると、溶ける事なく浮かんでいる。


「あと2、3回入れて見て?」


 3回分の霜柱が投下されたオレンジジュースは、スプーンで何度もかき回すと、シャリシャリになった。

 

「やば! うま! シャーベットみたいになった!」

「えっ。ワタシも! ワタシも!」


 ピーちゃんも自分専用のスプーンを取り出して、ヒビキのコップからすくって食べる。


「ちょっと、やだ、すっごい美味しい! オカン天才!」


 さんざん笑い転げてた二人から絶賛されても嬉しくないものー!

 椅子の上でふて寝を始めると、再びドアがノックされて、沢山の洋服を抱えた女将さんが入ってきた。


「『動物使い』様、ベッドの上に置いても良いですか?」

「あっ。はい、お願いします」


 お尻が隠れる長さの半そでチュニック(襟と裾と袖に刺しゅう入り)黒・濃紺・深緑の各1枚。

 胸の部分に太い刺繍が縦に施された膝丈より少し眺めのサーコート。黒と濃紺の各1枚。

 袖なしで、腰から下にスリットが入ったシュールコー。こげ茶と黒の各1枚。

 膝から足首までがしゅっと締まった黒のズボン。1枚。

 カーゴっぽい黒のズボン。1枚

 長靴下のようなタイツ。2枚

 コットンリネン生地とサテン生地のブラウス。白と黒で各2枚ずつ。

 

 女将さんが次々と広げて見せてくれる服は、どれも新品のように綺麗で、大将さんが大切に保管していた事がわかる。


「あとは、こっちは新品なので安心してくださいね」


 と、広げてくれたのは、綿の肌着上下3枚ずつ。

 ちなみに、パンツはトランクスタイプだ。


「こ、こんなに?! 大将さんは嫌がってなかったですか?」


 ヒビキが、あまりの枚数の多さに遠慮しようとする。


「『動物使い』様に着て頂けるなら、全部渡して欲しいって言ってたんで、大丈夫ですよ」


 驚いた顔のまま固まるヒビキ。


「数が多すぎても逆にご迷惑かなと思いまして、これでも大分厳選してきたんですよ」


 なので、遠慮なく貰って欲しいと云って下さる女将さん。

 もともと服にはあまり頓着の無かったヒビキだ。

 町で着替えを買いに行く手間と天秤にかけたのだろう。ありがたく頂くことにした様子。


「ありがとうございます。有難く頂きますね。でも、せめて少しでもお支払さ――」

「ヒビキ、ちょっと」


 支払を申し出ようとしたヒビキに、ピーちゃんが耳元で何かを囁く。

「なるほど!」と、相槌を打って続きを話し始めた。


「女将さん、妖精のキノコと交換にして頂けませんか?」

「ええええええ! 御代なら絶対いらないってお返事するつもりだったのですが、妖精キノコ!?」


 どうやら、妖精のキノコの方が喜ばれるらしい。


「よかった。妖精キノコなら受け取って頂けますか?」

「ええ、そりゃあもう、喜んで!」


「よかった! この中に入っていますので、袋だけ後で渡して下さいね」


 トー爺さんに作ってもらった袋の中には、まだ20個ほど入れてあった筈だ。


「こ、こんなに?! 『動物使い』様、もう宿代も要らないですよ! 何年でも泊って行って下さいね!! さっそく食べてきますっっ」

「何年?! あ、あのっ。ありがとうご――」


 一気に捲し立てた女将さんは、ヒビキのお礼を最後まで聞くことなく、今にもスキップしそうな勢いで退出して行った。


 魔素が濃くなり始める前なら、稀に妖精キノコが市場に出回る事はあったらしい。

 ただし、その時ですら1個銀貨数枚で取引されていたそうな。


 すでに魔素が濃くなってから、8年は経っている今となっては。

 (空間収納に入れてなければ)採取してから1週間ほどしか日持ちしない事もあり、お目にかかる事はまずない。

 その為、現在の妖精のキノコの価値は計り知れないらしく。


「なんというキノコ富豪……」

「まだ山盛りあるんだし、こーゆー時にバンバン使ったらいいのよ」

「いいのかな……?」

「いいわよ! あと、タローとハナコの結婚式の”お祝い”も、妖精のキノコにしたら良いんじゃない?」


 くわっと目を見開くヒビキ。


「すごい! ピーちゃん賢い! 俺、お祝い何にしようか悩んでたんだ!」


「万一足りなくなったら、また森に帰ってお祭りしたら良いだけよ」


 と、ニヤリと笑って云った。

 

 ……ピーちゃんが、山吹色のお菓子の前で微笑む悪代官に見えた。




ピーちゃん「妖精キノコは焼いて食べても大丈夫」

ヒビキ  「お料理に混ぜるのは?」

ピーちゃん「それは……おすすめしないわ」

ヒビキ  「なんで?」

ピーちゃん「食べてる最中に、他のお料理を思い出すと、妖精のキノコが反応するから」

ヒビキ  「あー……」

ピーちゃん「3番目の勇者が、ピザトーストにスライスした妖精キノコを乗せて、食べたらしいんだけどさ」

ヒビキ  「うん」

ピーちゃん「途中でイチゴジャムを思い出して、涙目になったらしいわよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] という事は、オカンの魔法がもっと進化すればプラズマやボース=アインシュタイン凝縮を引き起こせると(ぇ そしてキノコ無双!!? 大人気ですねぇ!! というかキノコの勇者とかって言われたりしな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。