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30.トー爺さんの渾身の作品

 ヒビキの空間収納に、何年分賄えるのか想像もできない程の、大量の妖精キノコが入り終わると、女王様から私を受け取ったヒビキが、ぎゅーっとしてくれる。


「オカン、ちゃんと目が覚めてよかった……」


 ヒビキの顔を両手できゅーっと抱きしめ返したい……。


 まって、まって。私は猫。私はかわいいにゃんこ。

 ネコ、ニンゲンダキシメナイ。

 猫の親愛の感情表現って、えーと、えーと。

 頭ゴツンだ!

 テレビで見た! にゃんこ同士が頭頂部ごっつんするのは、親愛の表現とナレーターが言ってた!


 ヒビキの腕の中で軽くジャンプして、頭頂部を向ける。

 

 ゴツン!


「んがっ!」


ごめん(にゃう)


 顎を押さえて悶絶してるヒビキ。

 私の頭頂部も、ジンジンしてる。


 そりゃ真下からジャンプしたら()()なるよね。

 猫的親愛表現が、まさか渾身のアッパーカットになるとは……。ごめんよ。

 女は女優っていうんだもの。いつか猫道極めてみせるからね。



「ヒビキー! すごいのできたー! つけてー!」


 にぎやかな声の方を見ると、昨夜もじゃ爺三人衆が出てきた穴が開いており、そこから出てきたらしきピーちゃんが、両手で何かを掲げて飛んでくる。


「あ! オカンも起きたのね。もう大丈夫? 話せる?」

話せるよ(にゃ~)大丈夫(にゃ)心配させてごめんね(にゃにゃ~)

「あ、わかる、わかる。オカンが云ってる事わかるぅ! よかったぁ! 何でだったんだろうね?」


 心配してくれた皆には申し訳ないけれど、理由を言う訳にはいかない。


わかんない(にゃうぅ~~)……」と、あいまいな返事しかできなかった。


 元気ならそれで良いと云いながら、ヒビキが撫でてくれるのでじんわりする。


「ところで……ピーちゃん、すごく聞きたくないんだけど、それ何?」


 ヒビキが、ピーちゃんの掲げているモノを凝視している。


 ピンク色のカチューシャの天辺に、ゴールドピンクの金属でアカンサスの葉の装飾が施された猫脚(カブリオールレッグ)と、薄桃色の革が張られたロココ調の優雅な安楽椅子が、ちょこんとくっ付いている。


「これなら、ヒビキの髪の毛引っ張る事もないでしょ? すごいでしょ! この、ツァトゥグァの横隔膜の革の見事な薄桃色!」

「これを、俺に、つけろと?」

「うん!」


 私のお気に入りの場所がヒビキの左肩なように。ピーちゃんのお気に入りの場所は頭の上らしい。

 ずり落ちかけて髪をひっぱっては、苦情を受けていたので、気にしていたのだろう……。

 ぴ、ぴんくの……カチューシャ……。ロココな椅子付きっ。

 

「渾身の出来栄えじゃ」


 いつの間にかそばにいたトー爺さんが、フンスと胸をはっている。

 徹夜で作ってくれたのだろう。もじゃもじゃに隠れて判りにくいが、目の下に隈ができている。


「う……」


 ヒビキは混乱している!


「アカンサスの葉の彫り物が素晴らしいじゃろ? 葉脈の高さを少しずつ変えていくのに難儀したわい」


「あぅ……」


 ヒビキは断る口実を探しているようだ!


「ツァトゥグァはな、強さはさほどでもないんじゃが、普段黒い沼の奥地に住んでおるから、めったにお目に掛かれない魔物なんじゃ。横隔膜の薄桃色が素晴らしかろ?」


 上機嫌でこだわりポイントをアピールするトー爺さん。


 ヒビキは断れない!


「……ありがとうございます?」


 ヒビキは負けてしまった。

 お腹かかえて爆笑したい。でも、爆笑してる猫なんて見たことないから、我慢、我慢。


「オカン、我慢してないで笑っていいよ」


 ……ばれてた。


 私を肩に移動させたヒビキが、ピーちゃんからカチューシャを受け取って。


 装着合体! パイルダーオン!


「に”ゃっはっはっは!」

「これでヒビキの髪を引っ張る事もなく旅ができるわね!」


 ピーちゃんが、頭頂部のロココな安楽椅子に足を組んで座り、満足げに腕を組んでいる。


「おぉ、よぅ似合ぅておるわ」


 満足げに云うトー爺さん。


「え? ピーちゃんここでお別れじゃないの?」

「何言ってるのよ! 世間知らずのヒビキと、ボーっとしたオカンの2人旅なんて、初日でジ・エンドよ! シッカリ者のワタシがついて行ってあげるんだから、感謝しなさい!」

「本当に? 心強いよ。ありがとう!」


 ピーちゃんのマウントは、ヒビキと相性が悪い。毎回、悉く空回りしてる。

 案の定「う……あぅ。こちらこそ、よろしくね」なんて、真っ赤になって返事しているし。


「でも、結界の外にでると、濃くなった分の魔素が体に残るんだよね? 無理に浄化しようとして縮んでたんじゃなかったの?」

「それは大丈夫です。ヒビキが名付けした事によって、ピーちゃんが”無意識で行う浄化”をする事は無くなっています」

「そーゆー事っ。だから心配ご無用っ」


 ヒビキのカチューシャの上で前後に体を揺らしながらはしゃぐピーちゃん。

 ……そのうち、カチューシャごと落っこちそうだな。


 少しでも、楽しい珍道中になると良いなと、心から思った。

とうとう30話まで来ました


ひとえにお読み頂いている皆様の後押しのおかげです。

いつもありがとうございます。すごく励みになっています。

妖精の国もあとわずか。あと数話挟んで、次の街へ出発します。

のんびり旅に、これからもお付き合い頂けると幸いです。

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[一言] 妖精たちのファッションセンスッッッッ(゜Д゜;)
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