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ハードシップメークス  作者: 小走煌
7 秋の大会
60/227

香椎東対柳川女子①

登場人物(柳川女子)


鍛治舎玲央(かじしゃれお)

夏の福岡大会優勝校である柳川女子姉妹バッテリーの姉。

エースで主将。


鍛治舎蘭奈(かじしゃらな)

夏の福岡大会優勝校である柳川女子姉妹バッテリーの妹。

キャッチャー。

「しまっていこー!っす!」

豊の掛け声がグラウンドに響き渡り、それを追うように香椎東ナインの声、そして試合開始を告げる主審の宣言が立て続けに響いた。

気持ち良い程の快晴の下、ここに秋の大会二回戦、香椎東対柳川女子が開始された。

先攻は柳川女子。一番バッターが構えに入る。

香椎東のマウンドには背番号1、エースの梓。

本日の相手は県を制した右腕。しかし梓の立ち居振舞いはこれまでと何も変わらない。あくまで淡々と、第一球を投じた。

「……ストライク!」

キレのある直球が外角いっぱいに決まり、ワンテンポ挟んで審判のコールが響き渡る。

よし、調子良い。

この一球でそう感じ取ったのは本人では無く、ボールを受ける豊とショートの位置に就く捺だった。

(良いわよ梓。やっちゃいなさい……県No.1の称号を奪うつもりでね)

捺の心の呟きに呼応したのか定かでは無いが、梓は一番バッター、そして二番バッターをあっさりと片付ける。

「ツーアウト!」

ショートゴロを軽快に捌いた捺が、右手の人差し指と小指を立て皆に合図を送った。ナインは一様に合図を送り返す。その反応を確認し、捺は最後に梓個人へと声を掛ける。

「ナイスピッチ」

梓は無言で小さく頷き、次打者に相対する。

――次の瞬間。

鉄仮面の梓が僅かにまゆをひそめた。

ひっそりと左打席に佇むその姿。

豪腕名高い玲央を支える捕手にして妹、更に打線の核たる三番を務める蘭奈だ。

梓の嗅覚は、その姿から得体の知れない脅威を感じ取ったか。一気にマウンドと打席の間に一触即発の緊張感が充満する。

「……」

しかし、梓が表情を僅かに変えたのは一瞬。あくまでポーカーフェイスを保ち、豊の構える外角低めギリギリのコースへ初球を投じる。

挨拶代わりのストレート。

「――!」

直後、芯を食った打球が梓の右側を鋭く抜けていく。今度ばかりは驚きで大きく開いた目がすぐには元に戻らなった。

感触として決して悪くないボールを捉えられた事実よりも、『初球に手を出して来た』ことに梓は驚愕した。その打席の雰囲気から初球は様子見するだろう、という直感ではあるが自分の感覚という信頼出来る情報源の逆を突かれたためだ。

「よしきた!」

梓の驚愕を、背後の声が遮る。

振り返ると、まさに捺が打球にグラブを差し出す瞬間だった。

平均的ショートならとうに見送っているであろう打球。それを流石の守備範囲で追い付いて見せている。

捺は捕球に至るパターンを想定しながら凄まじいスピードで打球との距離を詰めた。

ダイビングか、スライディングか、ランニングで追い付けるか。打球の勢いと距離を瞬時に解析し、結果、ランニングで追い付いて送球出来ると判断した。

よし、間に合った――!

眼前にボールを捉えた瞬間、捺はそう確信した。

しかし。

「なっ……!」

瞬間、打球の勢いが捺の予想を超えてきた。なんとしても捕球せんと、捺は予定を変更してスライディングの動作を入れる。刹那のグラブ操作でボールを捕らえることに成功。スライディングから体勢を立て直し、ファーストで待ち構える華凛目掛けて送球――!

しかし、それは叶わなかった。

ボールが捺の右手から暴れ、ツルリと真上に上がってしまう。

「……ちぃー、残念」

捺が落ちてくるボールを右手で叩き付けるように再度捕球した時には、打者走者の蘭奈は一塁ベースを駆け抜けていた。

ショートへの内野安打。

一見すると平凡な結果。

しかし、そこに内包されたコンタクト能力、打球の質、走力。

このたった一打席で、『打者・蘭奈』の存在が充分な脅威であることを香椎東の面々ははっきりと認識した。

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