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ハードシップメークス  作者: 小走煌
7 秋の大会
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61/227

香椎東対柳川女子②

登場人物(柳川女子)


鍛治舎玲央(かじしゃれお)

夏の福岡大会優勝校である柳川女子姉妹バッテリーの姉。

エースで主将。


鍛治舎蘭奈(かじしゃらな)

夏の福岡大会優勝校である柳川女子姉妹バッテリーの妹。

三番バッターを務める。

一塁上には鍛治舎姉妹の妹、蘭奈。

牽制球に備え、華凛は一塁ベースの角に右足を添え、腰を落としマウンド上の梓を注視する。

目線はマウンドに向けながらも、意識はどうしても走者の蘭奈へ向けざるを得なかった。

(このバッター、明らかに他とは違う……ミート力、走力もそうだけど……何より、スイングスピード。ギリギリの極限まで引き付けてからのあの打球。尋常じゃない間の取り方。スイングスピードに自信が無ければ絶対に出来ない……梓先輩のボールだって凄くキレていた。それを捉えたんだから)

その脅威をひとり考察し、一筋縄ではいかない相手だということを改めて認識する。

考察を終えた華凛は我に返り、意識ごとマウンドへ向ける。すると、まるでそれを待っていたかのように梓が四番打者へボールを投じた。

「――走った!」

瞬間、華凛は叫んでいた。視界の端に捉えていた蘭奈が姿を消したからだ。

華凛は叫びによってバッテリーへ盗塁が企図されたことを知らせながらすかさず蘭奈の動向を確認した。しかしやはり蘭奈はスタートを切る真似をしたわけでは無く、猛然と二塁へ向かっていた。

「よしきた――っすよ!」

華凛の声を受けた豊はボールを捕球しざま、鋭い送球を放つ。カバーに入った捺のグラブにピンポイントでボールが吸い寄せられる。

しかし、それを受けた捺のタッチよりも一瞬早く蘭奈の足が二塁を陥れた。

「くそー、ダメか……」

「良いボールだったわよ、豊!」

捺は梓へボールを送りながらその送球を讃えた。

(解ってるっすよ、それは……)

それを受け、豊は心の中で独りごちる。

捕球から送球までのスピード、そしてコントロール。いずれも完璧な手応えがあった。それでもなお進塁を許した。豊は憎々しげに足元を蹴り、マスクを被り直す。

この一瞬の邂逅で豊が得た情報は、余りに桁違いである蘭奈の盗塁センスだった。スタート、スピード、スライディング。全てが揃っている。

(これは、完全に外さなきゃ刺すのは無理っすね……)

豊は鍛治舎蘭奈というプレイヤーに対して、より一層警戒を強めた。

かくして状況はツーアウトランナー二塁。香椎東は初回にして早くも得点圏に走者を背負ってしまった。

しかし、この状況下にあっても梓、豊のバッテリーは冷静さを失わない。外角いっぱいにスライダーを決め、簡単にカウントを整える。

その様子を、主将である捺はショートの位置から窺っていた。

(二人とも落ち着いてるわ……今日は心配いらないわね)

もし浮き足立つようならマウンドへ行き間合いを取ることを考えていた。しかし、狼狽の様子はほとんど見えない。梓は相変わらずのテンポでもう三球目を投じようとしている。その様子に、捺はひとまず安堵した。

「くっ……!」

鈍い打球音がグラウンドへ響く。

内角を突いたキレのある直球。柳川女子の四番打者はこの球に完全に力負けした。詰まった打球はフラフラとライトへ上がる。

よし、まずは初回無失点――。

捺をはじめとする香椎東の面々が気を僅かに抜いた。

次の瞬間。

「あっ、けい、ちゃん……!」

中継に入った文乃の今にも泣きそうな声が響く。ナインの目に飛び込んだ映像は、その理由を悟らせるに充分だった。

ライト・慧の落球。

あたふたとボールを拾い文乃へ必死に投げ返すも、その間に二塁ランナーの蘭奈は快足を飛ばして一気にホームを陥れていた。

1対0。柳川女子、先制。

予想外の形で早くも動いたスコア。香椎東に、暗雲が立ち込める。

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