香椎東対天神商業17
20160505
内容に誤りがあったため修正しました。申し訳ありません。
・香椎東の攻撃イニング:六回裏→五回裏、六回裏
・天神商業の攻撃イニング:七回表→六回表、七回表
一人、また一人とホームベースを踏んでいくその気配を背中で感じる。
稲妻のように過ぎ去って行った時間。天神商業の五番、六番打者に立て続けに長打を浴びた。いずれもボール球を見極められ、ストライクゾーンに来た球を痛打――左中間を、右中間を真っ二つにされたものだ。
痛打されたボールは決して簡単なものではない。現に、二巡目まではそれで抑えることが出来ていたのだ。しかし、それがもはや誰にも通用しない。その事実が失点となり、ボディーブローのように豊にダメージを与えた。それでも豊はどうにかサインを出し、梓に投球させた。
「……!」
刹那、またしても快音がグラウンドに鳴り響く。七番打者の打球が梓の脇を通過していく。豊は思わず目をつぶる。
外野へ抜ける。また一点が追加される――。
しかしその直後、獣のようにボールに襲いかかる影が現れた。その正体たる捺は、恐ろしい力を持つ打球をあっさりと受け止め、そのまま流れるように一塁へ転送する。華凛がそれをしっかりと捕球し、ようやく三つ目のアウトが成立した。
「……助かったっす」
軽い足取りでベンチへ引き上げる捺を遠目に見て、豊は知らず感謝の言葉を呟いていた。
一挙四点を失ったという現実は香椎東に重くのしかかった。続く五回、六回と、反撃に意気込む香椎東打線はあえなく抑え込まれてしまう。
一方、六回、七回と続く天神商業の攻撃を香椎東はどうにか切り抜けたものの、主力打者に対しては勝負を避け、凡退はいずれも芯で捉えられた当たりが野手の正面を突く、というものだった。
重苦しい空気のまま、七回裏、香椎東の攻撃を迎える。
この回先頭となる慧は溜め息をついた。相変わらず、手足が震えて話にならない。それでも打席に立たねばならない。この状況は慧にとって、憂鬱以外の何物でもなかった。