第56話「二度目の戦地」
「シヴァを探す。」
研究室を出た俺は、隣を歩くアイリスにそう告げた。
「ええ。あの記録を見る限り、魔境樹海に何かがあるのは間違いないわ。」
だが、問題は一つ。
「どうやって行く?」
魔境樹海は、この学園からかなり離れている。
徒歩で向かえば、それだけで相当な時間がかかる。
しかも――
「三日後にはCランクとの昇格戦がある。」
「……そうね。」
シヴァを探す。
そして、三日後の昇格戦にも出る。
どちらも捨てるつもりはなかった。
その時だった。
「だったら、僕も行くよ。」
振り返ると、シリウスがいた。
「シリウス?」
「約束しただろ。もう忘れたのか?」
穏やかな笑顔。
「僕にも手伝わせて。」
「……頼む。」
これで三人。
すると――
「私も行く。」
廊下の向こうから、セレナが歩いてきた。
「セレナまで?」
「この前も一緒にシヴァ君を探したでしょ。」
そう言って、少し笑う。
「私の《幻奏》は長時間使えないけど、敵に見つかった時の逃げ道くらいは作れるよ。」
最長30秒。
長時間の隠密には使えない。
それでも、命が懸かった30秒なら十分すぎる。
「……分かった。四人で行こう。」
俺たちは再びシヴァの部屋へ入った。
昨日までとは、まるで見え方が違う。
ここにあるものは、ただの発明品じゃない。
シヴァが戻ってくるまで、俺たちが使うべきものだ。
「まずは移動手段だ。」
部屋にある様々なものを漁っていく。
すると、今まで常に飛んでいたドローンが頭に落ちてきた。
「…痛ッ⁉」
ドローンは俺の頭を蹴って、そのまま床で跳ねている。
跳ねるドローンを眺めていると、部屋の角にある新しい装置が視界に入る。
「これは…?」
『長距離転移装置です。』
…これだ。
すぐに3人を集める。
俺は長距離転移装置の前に立つ。
《神代級魔導核》を接続。
――カチッ。
青白い光が装置全体へ走った。
「動いた。」
シリウスが目を輝かせる。
「この規模の転移装置を個人で作ったのか……。」
「シヴァならあり得るか…。」
端末へ魔境樹海の座標を入力する。
『現在の座標情報では、誤差が大きすぎます。』
「どれくらい?」
『最大812mです。』
「誤差800mなら…まぁ。」
アイリスが呆れた顔をする。
「魔境樹海で800mの誤差なんて、ほとんど別の場所よ。」
『周辺地形情報を取得すれば、誤差を縮小できます。』
「じゃあ、やってくれ。」
研究室にある地形測定装置と接続する。
大量の情報が端末へ流れ込んでいく。
『解析完了。』
『転移誤差――23m。』
「よし。」
次に、索敵ドローンを持ち上げる。
「これも使おう。」
以前は壁にぶつかって壊れたポンコツだったが、今回は《最適化》で内部を確認する。
『索敵効率に改善余地があります。』
「どこ?」
『魔力受信回路です。二箇所変更してください。』
俺は工具を手に取り、回路を修正する。
数分後。
小さな球体が再び浮かび上がった。
「これで?」
『索敵範囲、約3倍。』
「……シヴァが戻ってきたら怒られそうだな。」
「むしろ喜ぶんじゃない?」
シリウスが笑った。
……そうかもしれない。
「よし、行くぞ。」
四人で転移魔法陣へ入る。
――ゴォォォォン。
視界が白く弾けた。
「……ここが、魔境樹海。」
巨大な樹木。
薄暗い空。
湿った空気。
遠くで何かが鳴いた。
その一声だけで、森全体が震えたように感じる。
「怖いね。」
セレナが小さく呟く。
「だったら、勝手に離れるなよ。」
「分かってるよ!」
俺は索敵ドローンを起動した。
球体が静かに空へ浮かび、森の奥へ飛んでいく。
しばらくして――
『魔力反応を検出。』
「……!」
思わず前のめりになる。
『照合します。』
数秒の沈黙。
『対象――シヴァ=リグレット。』
「……見つけた。」
アイリスが息を呑む。
「本当に……?」
「ああ。」
シヴァは生きている。
少なくとも、あいつの魔力反応は確かにこの森にある。
その時だった。
『警告。』
「……何だ?」
『対象周辺に、別の高密度魔力反応を確認。』
「強さは?」
『推定危険度――S。』
思わず動きが固まってしまう。
「…危険度Sだ。」
そう伝えた。
その場の全員が息を呑む。
アイリスが《イグニス》を抜く。
シリウスも静かに構える。
セレナから笑顔が消えた。
俺は《アストレア》を抜く。
「シヴァのところまで、あとどれくらい?」
『約4.7km。』
「……4.7kmか。」
まだ遠い。
けど――
今度こそ、助ける。
「行こう。」
四人で森の奥へ進む。
その時。
遠くから、巨大な何かが木々を薙ぎ倒す音が響いた。
――ドゴォォォン。
全員の足が止まる。
「……今の、シヴァの方角だよね?」
セレナの呟きに、俺は答えなかった。
ただ、《アストレア》を握る手に力を込めた。
――待ってろ、シヴァ。




