ちぎっては投げちぎっては投げ
友人を庇って重体となった三上正成は、目を覚ますと戦国時代、後の石田三成である石田佐吉になっていた。
何やかやあって三献茶RTAを終え、フラグをへし折った佐吉だったが、油断したその時、野盗とかち合ってしまう。
必死に逃げる佐吉。
絶体絶命のその時、突如として声が響く—。
短いです。
申し訳ありません。
荒れた森の中で、よく通る低い声が伏せろと叫んだ。
伏せる?
どうやって、というか誰だ?
迷ううちにまた鋭い風音が過ぎる。
……迷う暇はない!
無事な左腕で手綱を掴んだまま、馬の背にしがみつくように伏せる。
伏せてすぐ、頭上を矢が飛んだ。
思わず全身が強張る。
耳が馬の駆ける音を拾った。
そんな、まさか。
彼らも馬が、いやそれよりも。
しがみつき、命運を共にする他ない状況の馬は変わらず混乱して制御不能だ。
—―どちらにせよ、もう。
固く目を瞑る。
馬が近づくのが分かった。
後ろから来た馬が右横に並ぶ。
終わりだ—―。
「落ち着いて。もう大丈夫ですから。」
覚悟を決める中、低く落ち着いた声が響く。
ぇ、と目を開ければ立派な体格の武者が片手で馬を操りながら、もう片方の手を伸ばし、手綱を掴んでいた。
強く手綱を引き、それでもきかないと見ると一度手放した。
もう片方の手で私の腰を、片手で馬の手綱を掴む。
「手を離して。」
何が何だかわからないまま、左手を離す。
と、片手で私を持ち上げ、もう片方の腕が馬の手綱を引いて止めた。
時間にして十秒程度。
あまりの手際の良さに感心していると。
ようやく落ち着いた馬の背に、再び降ろされた。
……いい筋肉だ。
羨ましい。
まじまじと正面から恩人と向き合う。
三十代……半ば、といったところだろうか。
腰に刀を差している。
この男も武士なのだろうか。
—―ヤトウモドキ達も刀は持っていたから何ともいえないが。
連中ほど荒れた格好ではない。
よく日に焼けた、精悍な顔つき。
濃く影に塗りつぶされてなお、わかる。
「あぁ、良かった。間にあって。」
呆けて見つめていると、ふ、と男の口が緩められた。
目を細めて笑う。
礼を言い忘れていたことを思い出した。
「あ……ありがとう、ございます……」
「いやいや。こんな所まであんな輩がのさばってしまっているのはこちらの落ち度ですから。」
どういう事だ……?
この辺りの領主なのだろうか。
「……?」
面と向かって聞くわけにも行かず、戸惑っていると、ス、と腕が肩のあたりに伸ばされる。
「……怪我をしてしまったようですね。手当を」
怪我の具合をみるように、遠慮がちに触れる男の背後から、
「お……い、てめえ!」
少し離れた先で、苛立った声があがる。
「さっきは……よくも、やって……くれ、たな……!」
ヤトウモドキたちだ。
相変わらずの凶悪な顔と立ち姿だが、どうも様子がおかしい。
「ただですむと……思うな、よ……!」
食って掛かる言葉こそ強いが、どうもふらふらとしている。
吐き出す言葉も途切れがちだ。
冷静に考えれば、後ろから来たということはヤトウモドキたちを抜かしてきたわけで、彼らがそうやすやすと通すわけもなくて。
「てめえら……やっちまえ!」
まさか、と目を細めながら恐る恐る相手を見れば。
涼しい顔で、ヤトウモドキたちを見下ろしていた。口元には笑みが浮かんでいるのに、目は恐ろしいほど冷え切っている。
「やれやれ……手加減しすぎたかな。」
吐き出される言葉も冷えている。
先ほどまでの穏やかな雰囲気はどこにいったんだ。
「あぁ?!てめえ、」
恐ろしく冷たい声に気づいているのかいないのか、ヤトウモドキが噛みついた。
男がヤトウモドキたちの正面を向く。
幾ばくか和らげられた、諭すような声で男はヤトウモドキたちに忠告した。
「忠告だ。て向かうというなら次はもう容赦しない。」
次は……?
予想はついていたがやはりヤトウモドキたちを蹴散らして助けに来てくれたらしい。
そして残念なことに、一回痛い目見たばっかりのヤトウモドキたちは、学習能力が欠落しているらしい。
「はっ……甘えこと、言ってんじゃ……」
ふらふらと刀を杖のように使い立ち上がりながら、男に噛みつく。
「大人しく役所に出頭するか、足を洗うと言うなら、まだ見逃してやる。」
ヤトウモドキの遠吠えを無視して男は言葉を続ける。
声が一段階冷えたものにはなっているが。
「馬っ鹿じゃねえ?誰がそんな」
懲りずに吠えるヤトウモドキ。
気づけ、温情だ多分。
話を聞こうとしないヤトウモドキに、それでも男は言葉を続ける。
「だがもし抵抗するというのなら―—」
声の温度がもう一段階下がる。
男の後ろにいる私は先ほどから身震いが止まらない。
押し殺された殺気にも、冷たい声にも気付かない哀れなヤトウモドキは男の温情を無視するように遠吠える。
「面倒くせえ、相手は――」
いい加減痺れを切らしたのか、男の殺気が押し殺される事なくあたりにまかれる。
ずん、と一帯の空気が重くなる。
影によるものだけでなく光の消えた瞳がヤトウモドキたちを射抜く。
「覚悟しろ。」
重く殺気のこもる一言。
自分に向けられたものではないと思っていても、身が竦んだ。
「……っ!」
が、さすがはヤトウモドキ、とでも言うべきか最後通告とも言える男の言葉を歯牙にもかけず吠える。
「はんっ!そんな、脅し……聞き飽き、てんだよ!」
「やっちまえ!」
話の通じないヤトウモドキが、何処かおぼつかない足で男を狙いにくる。
呆れたようにはー、と大きく息をついた男がくるりとこちらを見る。
「すいません。馬、見といてくれます?」
「ぇっ……?」
承諾する前に男はすた、と馬から降りる。
まだ状況が理解できない私に手綱を押し付けるようにして、
「じゃ。」
すたすたと一直線に襲いかかるヤトウモドキたちに向け足を進めていく。
「まっ……」
いくら腕が立つとしても、多勢に無勢にもほどがある。
戦力になるわけもないが、かと言って恩人を見殺しにはできない。
半ば無意識に止めようと声を上げる。
それよりも先にヤトウモドキの牙が男に届く。
突き付けられた刀を男は一瞥し、大柄な体からは想像もつかない身のこなしで避けると刀を掴んだ男の手首を片手でむんずと掴み、斜め上に引っ張り上げ、残る片手でみぞおちを殴る。
ぐえっ、という声がそこそこ後ろの私にまで聞こえた。
そのまま宙に投げられ、空中で3回転ほどして1人目が地に叩きつけられる。
「お、おおぅ……」
感心すべきなのか恐怖すべきなのかわからない私の口から、なんともいえない音が漏れた。
その間にも男は次々と襲いかかるヤトウモドキたちをさばいていく。
時折「ギャッ!」とか「ぐえっっ!」とかいうヤトウモドキの断末魔が森に響く。
空中をヤトウモドキたちが舞う。
うん。
ちぎっては投げちぎっては投げってこう言うことだったのか。
場違いな感心をしてしまうほど鮮やかな手際で、男は荒くれヤトウモドキを沈めていく。
数分もしないうちに野生のヤトウモドキは全滅した。
……強くない?
いくら何でも強くない?
この人。
えぇ、と声が出る程度には引いたし驚いた。
いやしかし、今は戦国時代。
これが普通なのだろうか。
佐吉少年が異常なまでに武芸の才が無いだけで。
うーん、と考え込んでいると沈めたヤトウモドキの状態を確認していた男がどこからか出した縄で一匹ずつ縛り上げ、引きずって戻ってきた。
……あのーヤトウモドキの皆さん、結構立派な体格をしていらっしゃるのですが……
どうしてあなたはそんな軽々と。
先ほどから驚くことが多すぎて開いた口が塞がらない。
パクパクと酸素を求める魚のようになっていると、よっこいしょ、と言いながら男が馬の側ヤトウモドキを積み上げ、こちらに向き直った。
「すみません、ご迷惑かけちゃって。
手当したいんですけどコレ持ってかないといけないし……」
コレ、の辺りで積み上げたヤトウモドキたちを指差す。
にこにこと、人当たりの良さそうな笑みを浮かべたて。
まさか張本人とは欠片も思えないほどの。
見ていた私ですら、正直自分の観ている光景が正しかったのか疑いたくなる。
「えぇ、と……私は大丈夫ですけど」
横目で積み上がるヤトウモドキを見る。
「あの、御一人で大丈夫ですか?」
制圧は一人でもできただろうが。
どう考えても一人で運ぶには多い気がする。
遠慮がちに問えば、驚いたように目を開かれる。
くくっ、と喉奥で笑いながら男が答える。
「大丈夫ですよ。すぐそこですし。」
男の指さす方向にあるのは、私が向かおうとしていた集落だった。
ふと思い出す。
ヤトウモドキに襲われるという危機以前に、道に迷っていたことを。
まぁ流石に一度では無理ですけど、と続けた男に、思わず言ってしまった。
「それなら……この馬、使いますか?」
手伝います、と言うと流石に面食らったのかぱち、と瞬きを繰り返す相手に、事情を説明する。
実は道に迷ってしまって……と言えば、合点がいった、と大きく頷かれた。
それじゃあお願いします、と了承を得る。
かくして、二頭の馬、十のヤトウモドキ、怪我人一、無傷一人。
という珍妙な一団が集落に向かうこととなったのだった。
三成「全然変わっていない……だと……?!」
三上「ぇ?」
三成「老け顔……いや若づく……」
三上「ど、どうしたんだ?」
作者「あー、多分あれですよ、うん」
三上「いやあれってなんだよ?!」
作者「うーん……ちょっと違いますけど、相手の見た目から想定していた年齢と実年齢が違った事ってありますよね。」
三上「……あるな。」
作者「逆に年齢だけ知っていて、想像でこんな感じだろうと思っていたら実際はそれより若く見えたりした事は」
三上「まぁあるな」
作者「多分そんな感じかと。」
三上「あ~なるほど。さっきから横のやつの情緒がおかしいのそれが理由か。」
作者「いやそれは他にも色々あるとは思いますけど」
三上「……」
作者「ちょっと感情が整理しきれていない三成さんは置いといて、今日は戦国時代の生活についてです。」
三上「放っとくなよ。」
作者「戦国時代は武人、商人、農民など様々な階級に分かれ、階級によって生活がかなりかわります。」
三上「まぁ昔はそうだろうな。」
作者「今回は農民について取り上げますが、戦国時代、いや近現代以前は、農民より下とされた人々もいました。」
三上「……階級制度は差別を生むからな……」
作者「そうですね。差別された人がさらなる差別を生む……負の連鎖です。」
作者「さて、そんなわけで今回、戦国時代の農民の生活についてですが、農民という字を書くだけあって、彼らの生活の大半は農作業に割かれます。」
三上「大半?農作業だけじゃ無いのか。」
作者「農民が農作業に集中できた時代ばかりではないのです。戦国時代では、農民は足軽として戦に駆り出される事もありました。」
三成「農民による足軽の起源は応仁の乱からとされているな。」
三上「おっ、復活した。……よく出てくるな、応仁の乱。」
作者「まぁ戦国時代のきっかけとなった出来事のようなものですからね。戦国時代は現代と違い明かりは貴重でした。なので、朝は四時ごろ、夜明けで目覚め、午後六時ごろには就寝、という生活でした。」
三上「そういえばそんくらいだったな。」
三成「夜に作業する時は、貴重品だったろうそくの代わりに油を使うな。」
三上「そういや見てないなこっち来てから。」
作者「……現代でも見る機会はあまりないと思いますけど。」
三成「他にも食事は一日二食であることが多い。」
三上「あれ怪我人だからじゃ無かったのか。」
三成「なぜ怪我人の食事回数を減らす必要があるのだ。」
三上「まぁ三回も律儀に摂る事めったになかったしなあ。」
三成「不健康だな。」
作者「という訳で今回はここまで。ここまで読んでくださってありがとうございます。次回は金曜日に、更新予定です。」




