問題児、石田佐吉
前回までのあらすじ
通り魔から友人を庇って重体となった三上正成は、目を覚ますと戦国時代、石田佐吉—後の石田三成に転生していた。
なんやかんやあって寺でゴロゴロしていたところに武士が喉が渇いた、お茶をくれとあらわれる。
合計三杯も飲んだ男に、和尚は羽柴様と叫んだ。
短いです。
めちゃくちゃ中途半端なところで切れてます。
会話は雰囲気です。
口調が違う!と感じた方は改善したいのでご指摘お願いします。
別にいいよ~と言う方はそのままお進みください。
羽柴様?
羽柴様ってもしかして豊臣秀吉のことか?
…だとしたら。
豊臣秀吉。
石田三成、寺、三杯の茶。
—うん、だんだん思い出してきたぞ、三献茶だ!
…何ってたちの悪い夢なんだ。
ついこの間寺での出会いではなかったって聞いたばっかりなのに!
嘘だったのか?!
それとも私に変わったことで歴史も変わったのか?
わからない。
わからないがとてつもなく嫌な予感がする。
帰ってきたばかりの和尚も、私とは違うだろうが嫌な予感がしたのだろう。
口のなかいっぱいの苦虫を噛み潰したような顔を秀吉であろう小柄な武人に向ける。
…不敬罪にならないか、それだけが心配だ。
「羽柴様。…私めが不在の間、何か不手際がありましたでしょうか。」
やたら腰が低い。
気持ちは分かるが。
そしてなぜ何かが起こった前提なんだ、起きてはいるけども。
「んーにゃ、何もなかったよ。むしろ感心したくなるほどじゃ。」
くるりとこちらを向く。
笠で隠され、表情を知ることはできなかったが、ニヤリと口元に笑みが浮かんだのは分かった。
「童っぱ、随分と頭が回るの。」
…何の話だ?
茶を出すのに頭が回るも回らないもなかろうに。
さっぱり要領を得ない。
さすがに堂々と首をひねるわけにも行かず、心の中で首を傾げていると、
「気に入ったぞ?…和尚よ、この者はこの寺の者ではないそうだが。」
こちらを見据えたまま、変わらず口半分に詰め込まれた苦虫を噛み潰したような顔の和尚に問う。
「はっはい!」
「どこの子じゃ?」
「はっ、ここより先、石田村が村長、石田正継が子にて…理由あって寺で時折面倒を見ておりましたが。」
あー嫌な予感。
何やら決心した顔の和尚と、状況についていけない周りの大人。
何やら面白い芝居を観るような顔の青年、もはや状況についていけず魂が散歩状態の小僧さん。
そんな彼らに周りを囲まれた私。
もう、一体どうしろって言うんだ!
「この者が、何か。」
経験からか何かを察した和尚が、口の中から苦虫を追い出して武人に問うた。
「うーん?よう気が利く子じゃ、儂の小姓に迎えたいと思うてな。」
うん、本人の意志は?
そしてどこに気の利く要素があったの。
というかコショウって何?
香辛料になれってことか?
そんなわけないよな。
「なるほど、ようございます。私、常々この者は寺にも村にも収まらぬ才があると思うておりまして。」
急に持ち上げられると怖いよ和尚さん。
そんでもって本人の意志はどこ?
「…?」
ほら後ろの大人たちが困惑してるよ。
それか小声で嘘だとかいうのやめようよお坊さん達。
気持ちはわかるけどさ。
流石の私も傷つくよ。
「ほう。」
駄目だ、すごく嬉しそうな二人の世界に割って入れる大人が不在だ。
「今織田方の出世頭として名を馳せられる羽柴様の下であれば、その才、如何なく発揮されましょう!」
和尚さんの天職は太鼓持ちなんだね!
と言ってやりたい気持ちを抑えつつ、口を挟む機会を伺う。
「はっはっはっ、そうか、そなたもそう思うか!どうじゃ、儂のもとに来んか?」
今更ですか、本人の意志確認。
「…えーと。」
今さら嫌ですと言える空気じゃない。
というか本人もだしその家族にも確認を取る気配がない。
良いのかそれ。
困ったなとモゴモゴ言わせていると、視線を感じた。
視線だけを感じた方に向ければ、穏やかに目を細めた青年が軽く頷く。
返事を急かすような武人に、青年が後ろから声をかけた。
「お持ちください。」
声をした方を振り向いた秀吉が、意外そうな声を上げた。
「何じゃ紀之介。」
「幾ら寺で面倒を見ているからといって、実の親に話を通さないわけには行かぬでしょう。…当人も決めかねているようですし、一度親のもとに話を持っていかれるべきかと。」
ありがとう、紀之介くん!
言いたくても言えなかったことを堂々と秀吉相手に告げる青年に心の中で頭を下げる。
ふむ、と顎に手をやり少しの間考える素振りを見せる秀吉。
「…それもそうじゃな。」
ひょっとして家族へは事後報告で済ませるつもりだったの!?
「案内せい。」
多分鶴の一声ってこういうことなんだろうな。
ぞろぞろと連れ立って家に帰れば、仰天する皆さんとちょっと前までの和尚さんと同じ顔をした父が奥から出てきた。
「…佐吉。ちょっとおいで。」
物凄く嫌そうな顔の父が秀吉と膝を突き合わせ、お供の皆さんを部屋に押し込めるなり、兄がちょいちょいと手招きをした。
なんとも居心地の悪い空気の中を、これ幸いと抜け出せば、
「お前はとうとう何をやらかしたんだ?」
開口一番非道い言いようである。
「何、とは…?」
「お前は昔から色々変わっていたが…ここ最近ようやく落ち着いたと思ったのに、よりによって武士に何をしたんだ!?」
何もしてません。
「お茶を出しただけです。」
「…本当は…?」
私は何を疑わているんだ。
「本当です。」
「そんな馬鹿な。」
そこまで言うか。
一体何をやらかせばここまで疑われる事があるんだ。「だとしたらなぜ家にまで押しかけてきたんだ!」
私が聞きたい!
「えーと、確かコショウにしたいとかなんとか言っていましたが。」
コショウって何のことです?ひょっとして香辛料の…などとと聞こうとした言葉は、口に出ることはなかった。
否、聞ける雰囲気ではなかった。
「こっここ、ここ小姓?!お前を?」
私が目を覚ました時以上に驚いた顔をされては水をさせない。
というかそんなに驚かれては私が冷静になる外ないじゃないか。
聞き耳立ててる皆さんも驚いてるし。
何、コショウって何かの隠語なの?
「お前…小姓ってお前…」
ひょっとして私の知ってる小姓ではないのか?などと変な方向に思考が働いていく兄。
だからなんなんだコショウって。
混乱を極める部屋と襖一つ隔てた先では。笠を脱ぎ、やたら上機嫌そうな武人—秀吉と。
青汁を二十六杯ほど飲まされたような顔の佐吉の父、正継が膝を突き合わせている。
困惑する兄とご一同を放って聞き耳を立てる。
「話、と言うのは…?」
物凄く嫌そうな顔で口火を切る正継。
上機嫌です!という雰囲気を全身から出している秀吉がにこやかに応じる。
「うむ。お主の息子—佐吉といったか。随分と気が利く子じゃ、儂の小姓にしたいと思ってな。」
「…ほう。…?」
秀吉の言葉に、青汁を五十二杯ほど一気飲みした顔の正継が思案の後、口を開く。
「小姓…の前に、今あれが何と?」
「…?気の利く、の辺りか?」
困惑したような秀吉を前に、青汁を二百四十八杯ほど飲み干したような顔の正継が重ねて問う。
「失礼、少々耳の調子が悪いようで。今あれが気の利く子と申された気が致しますが。」
…もしかしなくともdisられてるの私?
「…?そう言っているが。」
「…気が…利く…?はて、それは誠に私めの子にございましょうか。」
いや実の子に言う台詞かいっ!
…気が利くかどうかは私もわからんけども!
「…どういう事じゃ。」
「あれは生まれた時から家中の者が甘やかし育てたためにとんだ甘ったれになっておりまして…」
本当にどんな子供だったんだ佐吉少年と言うのは。
正継の意図を読めずにそんな言いようはないだろうとへそを曲げていると、復活した正澄が小声で憤る。
「っ一番甘やかしてたのは父上ではないか!」
…そうなんですか。
そして後ろで首をそろえてうんうんと力強く正澄の言葉を無言で肯定する皆さん。
お父さん…。
襖一つ隔てて良かったですね。
別室で全否定されてますよ。
「とても気の利いた事などできる子ではありませぬ。」
まあでも、おかげさまで意図は分かった。
「…左様か?」
「まして羽柴様のもとでの小姓など務まる子ではありませぬ。」
彼なりに心配しているのだろう。
—残念ながら相手は諦めていないようだが。
作者「えー、中途半端なところで終わりまして申し訳ありません。もうちょっと書けるように頑張ります。次回、三成の命日に更新予定です。」
三上「本人を前に随分な言いようだな。」
三成「私は構わんぞ?」
三上「いや構えよ。」
作者「というコントは脇においておきまして。」
三上「おい。」
作者「今日は小姓についてです。」
三上「香辛料の方では」
作者「無いです。」
三上「だよな。」
作者「小姓というのは、武士の職の一つです。武将の身辺に仕えて諸々の雑用を請け負う、一般的に10代の少年たちのことです。」
三成「歴史は古く、足利将軍が家臣の子息を側近にしたことが起源とされている。」
三上「役職だったのか。というか家臣の子息ってそれどっちかというと」
三成「人質の面があったのも事実だ。」
三上「やっぱりそうか!」
作者「まぁいい口実になりますからねえ。小姓は成長すると側近として活躍する事も多かったとされていますね。」
三成「ある程度関係が築けているからな。ちなみに小姓が出世すると馬廻という親衛隊長の様なものになり、その先は奉行や与力大名、さらに上は国持大名となるぞ。」
三上「大名に種類なんてあるのか?…というか奉行って。」
三成「私ももとは小姓として迎えられた身だ。」
三上「そういやどういう立場で士官したかは言ってなかったな!」
作者「主な小姓経験者としては石田三成のほか、森蘭丸、前田利家、直江兼続、井伊直政などが挙げられます。」
三上「結構いるな…」
作者「他にも小姓になれるのはもともと武士身分の人だけなど、話したいことはまだあるのですが、今回はここまで。」
三成「また随分と急だな。」
作者「ご感想、お待ちしています。それではまた次回に!」




