第86話 水道を作ろう(後編)
【異世界生活 69日 17:00】
水道作りを夕方まで続け、早めに拠点に帰る。
たぶん、やる事が山積みだろうからな。
「流司、魚獲ってきたぞしかも大量にな。さあ、捌け」
一角がそう言って荒縄にエラを通してぶら下げた大量の魚を投げ渡す。
「今日はいつもの2倍潜ったから凄いわよ」
麗美さんも大量の魚を持って帰ってきた。
「鳥、獲ってきた」
レオがそう言って明日乃にキジを2匹渡す。ココも2匹持ってくる。
「バナナも取ってくる」
そう言ってレオとココはまた出かけてしまう。慌ててシロもついていく。明かり担当だろう。
「明日乃、琉生、とりあえず捌くぞ。一角は海水汲んで来い」
俺はそう言って、とりあえず手近な魚を捌き始める。
琉生はキジの羽根をむしり出す。
「琉生、キジの羽根はとっておいてくれよ。矢に使うから」
一角はそう言って土器を片手に海岸に向かい、麗美さんも土器を持って一角を追いかける。
明日乃も慌てて魚を捌く作業を始める。
キジが4匹で2食分、魚が40匹以上で5食分、2日はもつな。
ちなみに、ニワトリもたまに卵を産んでいるようだが、今は数を増やす為に親鳥に温めさせているらしい。自然のニワトリなので、1週間に1回程度しか卵を産まないが、ちゃんと卵を温めることができるそうだ。
琉生の話では品種改良された元の世界のニワトリ、ブロイラーはタマゴを温めることができないらしい。人がふ化させてヒヨコを育てるそうだ。嘘か本当かわからないがそんな話をしていた。
一応、食糧難は少しだけ解消され、今後の食料事情は明日の一角達の遠征にかかっている。
キジをキジ鍋にして夕食として食べる。もう1匹は明日の朝ご飯になる予定だ。
食後、塩水に浸けた魚を一夜干し籠に入れて木に吊るし干す作業をして、日課のお祈りをしてから寝る。
【異世界生活 70日 6:00】
朝食にキジの丸焼きを食べ、各自作業に移る。
俺と明日乃は魔物狩りでレベルを上げる。一応、麗美さんからクロスボウも借りておく。
一角と麗美さん、琉生とシロは北の平原に。野菜を収穫しつつ、動物を狩る探索に出かける。
真望は麻布作り、鈴さんはレオとココと竹林に行き、水道のパイプを竹から作る作業をする。
【異世界生活 70日 7:30】
「魔物狩り、久しぶり過ぎてどうやって狩っていいか忘れていそうだ」
俺は南東の魔物の島につながる白い橋の前で明日乃にそう話しかけ笑う。
「私も久しぶりだよ。しかも空飛ぶ魔物と戦うのなんて初めてだし」
明日乃が俺にそう答える。
「俺なんか、クロスボウ自体初めてだぞ」
俺は明日乃の緊張を和らげようとそう言って笑う。
「それは、練習してから来た方が良かったかもね」
明日乃にちょっとドン引きされた。
水道作りで忙しくて練習する暇もなかったんだよ。
俺は心の中でそう言い訳する。
「とりあえず、橋を渡ってみよう。クロスボウ撃ってみて当たらないようだったら引き返して練習すればいいし」
俺はそんな行き当たりばったりな意見をして、とりあえず、魔物と遭遇する、白い橋の先まで向かう。
「いるね。ハーピーだ」
俺は羽ばたきながら空を飛び、結界に石を投げつけている鳥型の魔物を確認する。
「というか、裸だよ。丸見えだよ。りゅう君見ちゃダメ」
明日乃がそう言って俺の前に立ちはだかる。
「裸と言っても魔物だし、手は翼で、下半身は鳥、いくら何でも俺は欲情しないぞ」
俺は明日乃にそう言う。
羽が生えているだけの天使みたいな魔物だったら確かに裸はヤバイかもしれないが、今目の前に飛んでいるのは肩から先は鳥の羽根、腰から下は羽毛につつまれ、足は完全に鳥。人の女性としてみるのはまず無理な体だ。
しかも顔は人に似てはいるが凶悪な面構え。巨乳だろうが、欲情する要素が全くない。
とりあえず、俺は明日乃に視界をガードされつつも、クロスボウに矢を装填し、明日乃の隙を見てハーピーの心臓に矢を放つ。
少し狙ったところより下にずれてしまったが、心臓に刺さったようで、結界に落ちてきて、ワンバウンドして魔物の島の地面に落ちる。
「な? 魔物は魔物だ。明日乃も気にせずどんどん倒せ」
俺はそう言ってクロスボウを再装填する。
「もう、りゅう君、信じてるからね」
明日乃がそう言って頬を膨らませつつ、クロスボウの装填を始める。
ハーピーと言ってもオスとメスがいるみたいで、割合的には3割くらいがメスってところか。こいつら、卵を産んで増えるのかね?
俺はそんなことが気になりつつも、胸の立派な双丘を無視してクロスボウを放ち続ける。
2~30体いたハーピーが6割くらいに減ったところで、逃げ出すので背中を向けたハーピーにもう一射、矢を放ち、魔物狩りは終了。神様にお祈りをして、魔物の死骸をマナに還し経験値化する。
最後に、地面に落ちたクロスボウの矢を回収する。
1戦で20000ポイント近い経験値がもらえておいしい戦闘だ。しかもこちらは結界に守られているので結界から出なければ無傷で勝てる。
「りゅう君! 危ない!! 敵だよ。新しい魔物が来たよ」
明日乃がウサギの耳をぴんと立ててそう叫ぶ。
「明日乃、急いで橋に戻るぞ」
俺はそう言って、クロスボウの回収を途中で断念し、橋の上の結界に飛び込む。そして結界にぶつかる風属性の攻撃魔法。
橋から少し離れた森の中からわらわらと魔物が溢れだす。
「危なかったな」
俺は結界にギリギリ滑り込み、明日乃にそう声をかける。
そして、結界の外にはワーウルフ、オオカミの姿をした二足歩行の魔物が並び、結界を攻撃し始める。
「ハーピーが負けて撤退するのを森の中で待っていたみたいね」
明日乃がそう言いながら、結界の外で暴れるワーウルフをにらむ。
「とりあえず、こいつらも倒すぞ。右から順番に倒すぞ。俺が魔物の攻撃を受けるから、明日乃は俺に集中しているワーウルフを横から攻撃してくれ」
俺は明日乃にそう言って、クロスボウから青銅の剣に持ち替える。
明日乃もクロスボウから青銅の槍に持ち替える。
変幻自在の武器は鈴さんに貸してきたので今日は普通の青銅製の剣だ。
俺は結界の右端にいるワーウルフに斬りかかり、結界内から2体を相手にする。そして右側のワーウルフの頸動脈に明日乃がとどめを刺す。
後ろから新しいワーウルフが出てくるのでそいつに斬りかかり2体相手をキープする。そして、また右の1体を明日乃がとどめを刺す。その繰り返しでワーウルフを倒していき、やはり6割ほどに減ったところでワーウルフも撤退しだす。
今日は2種類の魔族と戦えたおかげでかなり経験値を増やすことができた。
俺はレベルが2つ上がりレベル27に、明日乃はレベルが3つ上がりレベル26になった。
ワーウルフはほとんど明日乃がとどめを刺したから俺より経験値が多く入った感じだ。
【異世界生活 70日 12:30】
「ただいま、鈴さん。帰ってきてたんだ」
俺は拠点で留守番をしている鈴さんとレオとココに挨拶をしてたき火のまわりに座る。
「ああ、お腹が空いたし、もう帰ってくるころかなって、水道つくりを中断して戻ってきた。誰もいなかったけどね」
鈴さんが少し残念そうにそう言う。
「ごめんね。なんか魔物が時間差で2種類出たから結構時間がかかったんだよ」
俺はそう言って謝る。明日乃は昨日レオとココが捕ってきたバナナを焼く。
遠征に行った一角や麗美さん、琉生そしてシロのお弁当もバナナらしい。とりあえず、肉が取れるまで節約モードだ。
昼食を食べ、午後は水道作りを手伝う。
「そういえば、真望は拠点に一人で大丈夫なのか?」
俺は気になって聞いてみる。
いつも、最低でも1人+眷属1人は残すのだが、今日は真望一人だ。
「ツリーハウスの中ではた織りするし、入り口をしめておけばクマが出ても時間は稼げるだろうし、そもそもクマが拠点に近づいてきたらケモミミのおかげで気配もわかるしね」
真望がそう言って平気そうな顔をする。
「クマが出たら、魔法通信使って連絡しろよ。急いで戻ってくるから」
俺は真望にそう言って、水道作りに向かう。
今日は鈴さんが水道をつなげる作業、助手はレオ。俺は竹林で竹を切り、明日乃とココが竹の節を抜いてパイプにする作業を受け持つ感じだ。
途中、明日乃が水浴びをしたいと言い出すので、明日乃は水浴び、その後は日が暮れるまでひたすら竹を切る作業だ。
【異世界生活 70日 17:00】
「流司、私よ、真望。拠点が、というかニワトリ小屋がオオカミに襲われそう。戻ってきて」
突然、頭の中に真望の声が響く。魔法通信だ。かなり焦っている声だった。
「明日乃、拠点がオオカミに襲われた。俺は先に行くけど、明日乃はココと一緒に鈴さんと合流、説明頼む」
俺は手短にそう言うと、ステータスアップの魔法『獅子の咆哮』を唱え、素早さを上げると全速力で拠点に向かって走る。
片道歩きで30分かかる道だが、下り道かつスキルによる素早さ強化の効果もあり5分もかからずに拠点に着く。
途中、鈴さんに声をかけられたが、
「後から来る明日乃に聞いてくれ」
と、捨て台詞を残し、止まらずに全速力で走り続けた。
拠点、ニワトリ小屋のそばに戻ると、真望がオオカミと戦っている。
確かに8匹のオオカミがニワトリ小屋の柵を壊そうと攻撃していた。
ニワトリが襲われたら琉生が悲しむ顔が思い浮かぶ。
俺はスキルによる全力疾走のまま、変幻自在の武器を槍に換えて、真望がけん制しているオオカミの横っ腹を、勢いに任せて貫く。骨のないお腹の部分だったので槍がオオカミの腹を貫通する。
俺はそのまま槍を振り上げ振り回し、オオカミを投げ飛ばすと、そのまま柵に張り付いたオオカミを跳ね飛ばし、次々切り捨てていく。
冷静になった真望も俺が跳ね飛ばしたオオカミにとどめを刺し、次々とオオカミを仕留めていく。
オオカミも慌てて臨戦態勢、残り4匹が俺と真望と睨み合いになる。
「いくぞ、真望」
「ええ」
俺の合図とともに真ん中の2匹に突撃し、オオカミも飛び掛かってくるが、レベルが違いすぎる。レベル10以下のオオカミではレベル27とレベル24の俺と真望の敵ではない。
俺は狼の喉元から槍を突き上げそのまま貫きオオカミを投げ飛ばす。
その勢いで2匹目に飛び掛かり、槍の柄で、オオカミの鼻を横殴り。オオカミが叫び声をあげる。
そのまま、オオカミを蹴り飛ばし、真望が対峙していた3匹目の横腹を一突き、真望も、残りの1匹の首を一突きしてとどめを刺す。
蹴り飛ばしたオオカミがよろよろと立ち上がるので、槍で一突き。とどめを刺した。
8匹のオオカミをあっという間に蹴散らす俺達。
まあ、真望もいたし、俺がステータス上昇の魔法を使っていたから楽勝だったという部分もあるな。俺一人で、魔法無しだったらオオカミに囲まれて長期戦になるところだっただろう。
戦闘が終わり、落ち着いたところで、魔法の使用限界、10分が過ぎ、魔法が解ける。
「助かったわ。私一人じゃ時間かかりそうだったし、魔法使ったらニワトリまで丸焼きになりそうだったし、流司が来てくれてほんと助かったわ」
真望がそう言って安心した顔になる。
ニワトリもオオカミに襲われて鳴きながら暴れているが、けがをしたニワトリはいなそうだ。琉生が結構頑丈に柵を作ってくれたおかげだろうな。
「真望は大丈夫か? 怪我してないか?」
俺は真望が怪我してないか確認する。
「私も大丈夫。オオカミ達がニワトリに気をとられていたし、追い払おうと牽制していただけだしね」
真望がそう言って申し訳なさそうな顔をする。
本当は倒したかったんだろうが、多勢に無勢、俺でも1人だったら飛び掛かるのに躊躇するだろうしな。
「りゅう君、真望ちゃん、大丈夫?」
明日乃と鈴さんと眷属2人が追い付いて、そう声をかけてくる。
「ああ、大丈夫だ。ニワトリも無傷だ」
俺は明日乃達にそう答え笑う。
「流司凄かったわよ。ものすごいスピードで走ってきてそのままオオカミを突き刺して投げ飛ばして、そこからは槍で刺して、叩いて投げ飛ばして、一気に7匹倒しちゃったのよ」
真望が少し興奮気味に言う。
「まあ、真望もいてくれたし、オオカミがニワトリに気が向いていたから無茶できたっていうのもあるしな」
俺はそう言って照れ笑いをする。
「オオカミはどうする? 毛皮を剥ぐ?」
鈴さんがそう聞くので、とりあえず、毛皮だけ剥いで、それ以外は経験値化することにした。さすがに犬に似たオオカミを食べる気は起きないしな。
4人で手分けしてオオカミの毛皮を剥ぐ。真望と鈴さんは解体の経験が少ないので手間取っているが、まあ、2人とも裁縫や鍛冶と手先は器用なので、俺のアドバイスを聞きながらなんとか解体もできるようだ。
8体のオオカミの毛皮を剥ぐのは結構面倒だったが、なんとか剥ぎ終わり、死骸は神に祈ってマナ化、経験値に換える。
「流司お兄ちゃん、どうしたの?」
後始末をしていると、狩に出ていた琉生や一角達が帰ってくる。
「オオカミにニワトリが襲われそうになったんだよ」
俺はそう言って琉生に状況を説明する。
「クマじゃなくてよかったね。熊だったら柵壊されていたかもしれないし」
琉生がそう言って柵の損傷度を確認しながら安心する。
「ニワトリが無事でよかったぞ。せっかく新しいニワトリも捕まえてきたのに、オオカミに食われていたらプラスマイナスゼロになるところだった」
そう言って、一角は背負った竹籠を下ろすと、ニワトリを出し、小屋に入れていく。
6匹いたニワトリが12匹に増えた。
「猪の肉もあるわよ」
麗美さんがそう言って竹かごを俺に渡す。
竹かごにぎっしり猪肉が詰まっていた。
「これで当分は食料ももつな」
俺はそう言う。
「あ、あとこれな。流司が行く前に秘書子さんにある場所を聞いていたサクラの木? 枯れた倒木があったから、持ってきたぞ」
一角が別のかごに入った少し細い桜の丸太と太めの枝を見せてくる。
前回行った、北東の野菜畑、その裏のあたりに桜の木が何本か生えていると秘書子さんが教えてくれたので、一角達に時間があったらとってきて欲しいとお願いしてあったのだった。
「すごいじゃない、一角。これで猪肉の燻製、ベーコン作れるよ」
鈴さんがそう言って興奮し、明日乃も嬉しそうな顔をする。
「ベーコン? それは凄いな」
一角も喜ぶ。
この間、鈴さんが青銅の鉄板で作った燻製機と今日一角達が拾ってきた桜の木、そしてイノシシの脂身の多い部分。これらがそろったので猪肉の燻製が作れるようになった。
「まあ、塩しかないから、味は御察しだろうけどな。香辛料とかあればもっと美味しいベーコンが作れるんだろうけどな」
俺はそう言う。胡椒やニンニク、色々スパイスがあればおいしいベーコンが作れるだろうが、今は塩と砂糖しか調味料はないしな。
「まあ、ネギとか玉ねぎ? 香味野菜とか使えば少し風味のあるベーコンを作れると思うから試してみるよ」
明日乃がそう言ってやる気になる。
とりあえず、日も暮れてきたので、イノシシ肉を干し肉にする作業をし、脂身の多い部分は塩漬けにして水を抜き、燻製にする準備をし、残りの脂身の多い部分は焼いて晩ご飯にする。
この間、鈴さんが作った焼肉用の鉄板、いや青銅板か。それがさっそく活躍する。
「おお、なんかバーベキューっぽくなっていいな」
一角がそう言って喜ぶ。
今までは岩盤焼きみたいな石焼だったからな。
「こうなると、バーベキュー用の網とかも作りたくなるわね。針金作って網を作るのは難しいけど四角い小さい穴のたくさん空いた鉄板みたいな網ならつくれるかな?」
鈴さんが作りたいものがまたできたみたいだ。
【異世界生活 71日】
そんな感じで、食料の補給もでき、次の日の午前中は俺と明日乃は魔物狩り。
鈴さんと一角と麗美さんと眷属たちが水道作り、俺達がやったような作業を引き継ぐ。
琉生はニワトリ小屋の修理と点検、野菜の植え替えなどをし、真望は麻布作り。
午後は真望と明日乃以外の全員で協力して水道を作る。
ちなみに明日乃は猪肉を燻製してベーコン作りだ。
5人と眷属達で協力して作ったおかげで日が落ちるころには拠点まで水道をつなげることができた。
拠点の丸太で作った桶に自動で水が貯まるようになった。結局3日かかって簡易水道ができたって感じだ。
「これで、明日乃も毎日水浴びできるな」
俺は明日乃にそう言うが、
「こんな遮蔽物もないところで、裸にはなれないよ」
明日乃がそう言って照れる。
たしかに、いつもみんなが集まるたき火のあたりからも丸見えだった。
「そ、そうだな。シャワールームみたいな小屋は必要だよな」
俺もそう言って照れてしまう。
そこまで考えてなかったな。
明日は、鈴さんが中心になって、シャワー小屋を作ったり、ニワトリ小屋や畑に水を供給するパイプをひいたりする作業をするそうだ。
将来的には浴槽を作ったり、お湯を温める釜を作ったり、頭からお湯をかぶれるようなシャワーを作る計画もあるらしい。
次話に続く。