第84話 鈴さんの色々作ろう。
【異世界生活 67日 6:00】
鍛冶道具のうち2つが手に入りやる気の増した鈴さん。
なんか、色々作るらしいので、俺も手伝いをする。
一角と麗美さんはいつもの魔物を減らす作業、明日乃は熊の油を煮ながら麻糸作り、真望は麻布作り、琉生はニワトリの世話をした後、眷属達を連れて麻の繊維を取りに行くらしい。そう言えば腐らせた麻の茎、ほったらかしだったな。
「鈴さん、今日は何を作るの?」
俺は作業に入る前に確認する。
「とりあえず、金槌がないから、鋳型で青銅製の金槌を作る感じかな? さすがに鋼鉄を鍛錬するのには使えないけど、青銅を鍛錬するくらいには使えるかなって。火箸、金床、金槌がそろえば鍛造ができるようになるからね」
鈴さんがそう言う。
「鍛造?」
俺はなんか聞いたことあるような無いような言葉に首をひねる。
「鍛造。ようは金属を叩いて伸ばしたり、曲げたり、金属の質を換えたりする技術だね。いままでは鋳型に溶けた金属を流し込む鋳造しかできなかったけど、鍛造ができるとやれることはさらに広がるのよ。例えば、薄い金属を作ったり、平らな金属を作ったり、曲がった金属を作ったり、色々できるようになるわね」
鈴さんがそう教えてくれる。
「なにより、はた織機が不完全すぎて改良したくて仕方なかったのよ。金槌を作るついでにはた織り機の改良用のパーツや昨日作るって言っていた焼肉用の鉄板、あと、燻製を作る道具を作るよ」
鈴さんがやる気だ。
とりあえず、やる事はいつもと一緒だ。鋳型を作って溶かした青銅を流し込む。それで金槌や、鉄板、いや、青銅板か。はた織り機のパーツになる薄く小さな青銅板、燻製機になるちょっと大きい青銅板。ついでに鍛冶道具や農具、なども一緒に作るようで、それらを作る為の鋳型を作る。
このあたりもいつもと一緒だ。木枠に砂と粘土と水を混ぜたものを入れて、角材でトントン叩いて固めていく。最後にヘラのようなもので、青銅版を流し込む部分を削って、角材で平らにたたく。金槌になる部分は鈴さんが木で作った型に合わせて鋳型を作る。今回も下の部分だけの鋳型、上下別れた鋳型ではない簡単なやり方の方で作るらしい。
ただ、作る部品が多く、面積が広い物が多いので、鋳型を3つ作る。広く浅い鋳型が今回は多いな。
「まあ、平らな金属板を作るなら、鋳型じゃなくてもいいんだけどね。鍛造の手間を少しでも省きたいから鋳造と鍛造のハイブリッドでいく感じかな?」
鈴さんがそう言う。
要は、はた織機で使う薄くて小さい青銅版は、ダンジョンで拾った青銅の爪を炉で熱して叩いて伸ばせば作ることができるそうだが、金槌を鋳造で作るから、ついでに鋳造でその部品も作ってしまおうという流れらしい。まあ、今日の鋳造だけでは、はた織機のパーツは全然たりないので、大半は明日以降、鍛造で作るらしい。
あくまでも今日は、青銅製の金槌を作る事と燻製機、あと農具を作るのがメインの作業だそうだ。
鋳型を作り、青銅を溶かす準備をして、午前中は終わり。昼食を食べて残りは午後の作業で行う。
「明日乃、熊の油はどんな感じ?」
俺は昼食を食べながら作業の状況を聞く。
「昨日の夜、2回目の不純物をとる作業と煮込みをやって、今日は3回目。粗熱をとって麗美さんが帰ってきたら氷魔法で冷やしてもらって、夕方4回目って感じかな? 明日の午前中5回目の不純物をとる作業と煮込みをやって出来上がり? お昼には油できるよ」
明日乃がそう言う。
「そうしたら、明日は貝殻を焼く作業をしないとね」
鈴さんがそう言う。そうなると明日は窯を使った鍛冶はお休みかな?
「琉生はどうするんだ? 真望の手伝い?」
俺は午前中、麻の繊維の回収と農作業をしていた琉生に聞く。
「私は竹採りかな? レオ君やシロちゃん、ココちゃんと一緒に。流司お兄ちゃんや鈴さんが昨日、海の家を作るって、ニワトリの柵用の竹使っちゃったから」
琉生が少し恨めしそうな声で言う。
シロが褒めて欲しそうに寄ってくるので頭を撫でてやる。ココもついでに撫でてやる。
ココは本人が撫でて欲しい時になでてやると喜ぶという面倒臭い性格だということが昨日の休みの間のふれあいで分かった。
レオは明日乃が撫でてやる。ツンデレで嫌そうな顔をするが、嬉しそうだ。
「つ、ついでに粘土や砂も補充してくれると嬉しいかな?」
鈴さんが申し訳なさそうに鋳造で減ってしまった粘土と砂の補給をお願いする。
「まあ、ニワトリの小屋を作ってくれたのも鈴さんだし、それくらいは手伝うよ」
琉生はそう言って手伝いを了承してくれる。
なんか、俺の立場がない。本当なら竹を集める作業や砂と粘土を集める作業を俺がしないといけないんだろうけど、青銅を溶かすのにはふいごを動かし続ける助手が必要だし、俺は午後動けないしな。
「なんか、悪いな。琉生。手伝ってやりたいんだが、鍛冶の方も忙しくてな」
俺は琉生に心から謝る。
「千歯こきも作ってくれてるんでしょ? それなら許しちゃう」
琉生がそう言って笑ってくれる。
そういえば、鋳型作りの時に大きなくしの化け物みたいな型があったな。あれが千歯こきの金属部品だろう。
「ああ、さっき、大きなくしみたいな金属を作る鋳型をつくったから、多分それがそうだな」
俺は琉生にそう答える。
「くしと言えば、髪の毛をとかす方のくしもよろしくね」
真望が思い出したようにそう言う。
「ああ、くしを作る為の薄いノコギリも今日作っているところだよ」
鈴さんが真望にそう答える。
確かにそれっぽい、小さなノコギリの鋳型もあったな。
なんか、鈴さんが欲しい工具も今回結構作るみたいだ。ほんとは鋼鉄で作りたいと言っていたけど、原料がないから青銅で我慢するみたいなことも言っていたな。
そんな会話をしていると、一角と麗美さんも魔物狩りから帰ってくる。
そして、猫かわいがりされるココ。なんかちょっと可哀想だが仕方ない。麗美さん流のコミュニケーションかつ癒しなのだろう。
「順調にいけば、麗美さんが、明日あたりレベル31になるぞ」
一角が昼食を食べながらそう言う。
「新しい魔法が使えるようになるね」
明日乃が嬉しそうにそう言う。
「たぶん、一つ目の魔物の島でボスリザードマンが使った広域魔法がそうでしょうね」
麗美さんがそう言う。
ああ、あの吹雪みたいなのを起こす魔法か。あれは無差別攻撃で強そうだったな。
「流司、私たちにレベルが追い付かなくなるぞ」
一角が悪そうな顔でそう冷やかす。
「明日乃、俺達も魔物狩りをそろそろ始めるか? 一角がレベル31になったら、お祈りポイントが貯まって本格的な魔物狩りが始まるまでの間、俺と明日乃の2人で、一角と麗美さんがやってるみたいなことをする感じで」
俺はそう言う。
レベル31、ランク4になると、またレベルが上がりにくくなるからな。一角や麗美さんに魔物狩りを任せるよりその方が経験値効率は良くなるし。
「そうだね、それもいいかもしれないね」
明日乃も賛成する。
「隠れて2人でエロいことするなよ」
一角が茶化す。
「しません!!」
明日乃がちょっとキレた。
「私も鍛冶が一段落ついたらレベル上げしないとね。鍛冶に使えそうなスキルとかも欲しいし」
鈴さんがそう言う。
今攻略している島のダンジョンに入れるようになったらそこで全員の育成をし直した方がいいかもしれないな。
そんな感じで昼食を終え、各自作業に戻る。
一角と麗美さんが眷属達と一緒に竹と粘土と砂を集める作業をやってくれるそうで琉生はニワトリ小屋の拡大に注力できるようになり嬉しそうに柵を広げる作業を始める。
「麗美さん、ココをあんまりいじめないようにね」
俺は麗美さんに念を押しておく。
言っておかないと一日中抱っこして撫でまわしそうだからな。
ついでに一角にもレオをいじめないように言っておく。
俺は午後、ひたすらふいごを動かし精錬窯に空気を送る作業だ。鈴さんと交代でふいごを操作し、ドロップアイテムの青銅武器を溶かす作業だ。少しでもふいごが止まると火力が足りなくなって青銅が溶けないので休めない作業だ。
夕方くらいまで、ふいごをひたすら動かし、青銅を溶かし、溶けた青銅を鋳型に流し込む。
今日の作業はこれで終了。
夕食を食べて日課のお祈りをして就寝する。
【異世界生活 68日 6:00】
今日も昨日と同じような作業だ。
明日乃は熊の油作りをしながら麻糸作り、真望は麻布作り、一角と麗美さんは魔物を減らす作業。琉生は眷属たちと水を汲みに行ったり、ニワトリの世話と農作業をしたりする予定だ。
俺は麗美さんと一昨日みんなで食べた貝の貝殻を焼いて生石灰を作る作業だ。
貝を焼いて生石灰を作る時も1000度近い温度が必要になるので、今日もふいごを動かし続ける作業。鈴さんと交代でふいごを動かし続ける。
石鹸を作る為の強アルカリのKOH(水酸化カリウム)は放置すると空気中の二酸化炭素と結合してK₂CO₃(炭酸カリウム)になってしまうので使う直前に作らないとダメなんだそうだ。
鈴さんは休憩中に灰を水に溶かして炭酸カリウムを作る。この炭酸カリウムと貝を焼いて作った生石灰を水で溶かしたもの、水酸化カルシウムを反応させると水酸化カリウム、強アルカリができるというわけだ。
鈴さんの話では、基本、カリウム石鹸は水に溶けやすいので液体せっけんになりやすいそうで、強アルカリで熊の油、油脂を強くけん化(石鹸にすること)で30%以上の高濃度の石鹸をつくり固体化するらしい。
カリウム石鹸でも高濃度なら固形化する。これを実現するために強アルカリが必要なんだそうだ。
俺も化学は得意ではないのでなんとなくしかわからないが。
ちなみに、元の世界でよく見た固形石鹸はナトリウム石鹸らしい。ただ、水酸化ナトリウムを作るのが難しいそうで、鈴さんはカリウム石鹸を作っているそうだ。
なんか、特殊な海藻があれば海藻の灰から炭酸ナトリウムも作れるらしいが、海藻を見つけるのが大変なのでより簡単にできる植物灰からつくる灰汁で炭酸カリウムを作る方法を選択しているそうだ。
とりあえず、午前中に貝殻の焼成も終わり、昼食を食べる。
魔物狩りから帰ってきた一角と麗美さん。麗美さんは無事レベル31になったらしい。予想通り新しい魔法は『猛吹雪』範囲魔法で敵を凍らせる魔法らしい。あと『水柱』、なんかすごい量の水を鉄砲水のように敵にぶっかける魔法も覚えたらしい。使いどころが不明だが。
どちらも上級魔法という1ランク上の魔法でお祈りポイントが3000ポイントもいるらしい。1日のお祈りポイントの半分はちょっとコスパ悪いな。
【異世界生活 68日 13:00】
昼食後は明日乃の方も熊の油が出来上がったそうなので、午後に石鹸づくりをする。
午前中に作った灰を溶かした水の上澄み液、炭酸カリウムと、貝殻から作った水酸化カルシウムを混ぜて強アルカリの水酸化カリウムを作る。それと熊の油を混ぜて煮込むと石鹸の出来上がり。塩を加えて塩析し、不純物を取り除く作業もする。
そして、真望がまた、石鹸の副産物、グリセリンから化粧水が作りたいと言い出し、お祈りポイント10000ポイントを使って魔法の箱で化粧水を作ってもらう。
ああ、熊の油を麗美さんの氷魔法を使って冷やしたりもしたから、お祈りポイントが250ポイントになったよ。
まあ、石鹸と化粧水。女の子達が喜ぶからよしとするか。
残りの時間は昨日作った金属を磨いたり、組み立てたりする作業。俺は鈴さんの助手をしてふいごなどを動かす作業だ。
まずは燻製機を作る。鋳型で作った4枚の青銅板に穴を開けたり、炉で加熱して、金床叩いて曲げたりして折り畳み式の四角い箱、一斗缶みたいなものを作る。
この一斗缶みたいな青銅の箱に、桜やナラ、クルミの木など、香りのよい木の木片を入れて、中に、今まで保存食にできなかった脂身の多い部分のイノシシ肉などを吊るして蓋をし、下から弱火で長時間加熱すれば燻製ができるらしい。
とりあえず、桜やナラやクルミの木の木片っていうのを探してこないとダメだな。
あとは、焼肉用の鉄板(青銅板?)も表面を磨き完成、千歯こきや色々作っていた工具も研磨し仕上げていく。グラインダーを動かすための自転車漕ぎは俺の仕事のようだ。
狩りから帰ってきた麗美さんや一角は午後、麻の茎を叩いて繊維を取り出す作業をしていたようだ。そろそろ麻糸も量産しないと糸不足になりそうな状況らしい。
とりあえず、この二日間で、石鹸と化粧水、燻製機、焼肉用の鉄板、青銅製の金槌や工具、千歯こきなどの農具が出来上がった。まあ、工具や農具はこれから研磨や鍛造で仕上げの仕事があるらしいので完成途中といった感じらしいが。
鈴さんの鍛冶道具がそろったことでさらに色々作れるようになった。
鈴さんの次の目標は鋼を作って、鋼の金槌作り、鋼鉄製の金槌ができたらとうとう鋼の武器づくりができるようになるらしい。
次話に続く。