第83話 休みらしくない休みと鈴さん鍛冶道具
【異世界生活 66日 4:00】
「起きてきたね、流司。本格的に日が昇る前に海の家つくるよ」
俺が明日乃と一緒に起きてくると、先に起きていた鈴さんがそう言う。
「おはよう、鈴さん、みんな。どうしたの? そんなに慌てて」
明日乃が不思議そうに鈴さんにそう聞く。
「今日はみんなで海水浴するんでしょ? 日が昇って暑くなる前に流司と海岸に日陰を作ろうかなって」
鈴がそう言って待てないように立ち上がる。
「鈴さん、竹、全部使っちゃわないでね。琉生もニワトリさんの庭広げたいからね」
琉生が少し不満そうに言う。
「わかってるよ。全部は使わないし、明日あたり流司と竹の補充いってくるしさ」
鈴さんが琉生に申し訳なさそうな顔でそう言う。
「オレ達が竹採ってくる」
レオがそう言い、ココとシロも頷く。
「お前たちもたまには休めよ。俺がブラック企業の社長か? って責められそうだしな」
俺がそう言うが、眷属達にはブラック企業の意味は分からなかったようだ。
みんなも眷属達に同情するように休め休めと同情する。
「私が休むと、麗美に絡まれるだけだから、仕事していた方が気も楽にゃん」
ココがそう言う。
なんか別の意味で可哀想になってくる。
レオも頷く。レオは多分、一角のおもちゃになるのだろう。
「じゃあ、私はパパのお仕事が終わったらお休みするね」
シロは逆に俺に絡む気満々だ。行動が主の明日乃の魂に引っ張られているのだろうか?
そんな感じでとりあえず、俺と鈴さんは朝飯も食べずに海岸に海水浴用の小屋を作る作業に。眷属達は竹を切りに行く。
琉生はニワトリの世話と畑仕事を、明日乃は朝食の下ごしらえをするらしい。
一角と真望は休みと聞いて寝坊することに決めたのだろう起きてきていない。
「砂に竹の柱を立てても倒れちゃうだろうから、石を集めてきて柱のまわりに埋めよう」
鈴さんはそう言って、まずは背負子を背負って河原で石を拾ってくる作業を始める。俺もそれに従う。
海岸に石を持って着くと、
「あれ? 海の家作ってたんじゃないの? せっかく手伝いに来たのに」
麗美さんと一角が遅れて起きてきて俺達を追いかけてきたようだ。竹を持ってきてくれたらしい。
「ちょうどいいところにきてくれたよ。いまから、砂浜を深く掘って竹の柱を立てて、岩を埋めて固定するんだ。変幻自在の武器をシャベルにしてどんどん砂浜を掘ってくれると助かるよ」
鈴さんがそう言う。
とりあえず、俺の変幻自在の武器は鈴さんに貸して、鈴さんと麗美さんが砂浜を掘って海の家の柱を立てる作業、俺と一角は拠点から竹を運ぶ作業に専念する。
「流司、海の家づくりが終わって、朝食を食べたら、私に付き合いなさいよね。私、午前中でかるくはた織り機の試運転してみたいのよ。流司は試運転立ち合いたかったでしょ?」
拠点に竹を取りに行く途中、遅く起きてきた真望が俺にそう声をかけてくる。
「休みの日まで、麻布作りしたら休みにならないだろ?」
俺はそう言って心配する。
「別に、手芸や裁縫は私の趣味みたいなものだし、元の世界は、逆に休みの日に趣味で手芸や裁縫やってたんだし、おかしくなくない?」
真望がそう言うが、意味不明だ。
真望は手芸や裁縫が趣味だし、琉生は農業や動物を育てるのが趣味だし、鈴さんももの作りは好きだしな。
こっちの世界と向こうの世界の生活が違いすぎて、仕事と趣味の境界線がよく分からなくなってきているな。
まあ、本人たちがやって楽しいなら任せればいいか。
「それに、午後からは海水浴に参加するし。流司だって、私の水着姿みたいでしょ?」
真望がそう言って少し照れる。
ああ、そういえば、みんな水着になるのか。ちょっと期待してしまう。
「もう、流司のエッチ。顔がエロくなってる」
真望がそう言って俺を冷やかすが、エロいことを言い出したのが真望だろ? って突っ込み返したくなったが、避けておく。
というか、彼女たちの中では普段下着として布製の水着を着ているという設定になっているらしい。
下着と水着の境界線も良く分からなくなっていた。
本人たちが水着だと言えば水着なのだ。そう言うことにしておこう。俺の履いている布製のトランクスも水着らしいしな。
そんな感じで、みんなで協力して作ったおかげで砂浜に少し大き目の小屋が立つ。日差しを避けるためのテントやパラソル替わりの小屋だ。
床もちゃんと竹でできていて、毛皮の毛布をひけばゴロゴロできそうだ。
「鈴さん、今から真望がはた織機の試運転するらしいんだけど、一緒に来る?」
俺は小屋作りが一段落したので鈴さんにそう聞く。
「ああ、私が作ったものだし、ちゃんと動くか興味あるし、参加するよ。麗美さんと一角はどうする?」
鈴さんはそう答え、麗美さんや一角も誘う。
「ああ、私たちは、朝食食べたら岩場で貝拾いをするわ。お昼は貝と魚でバーベキューの予定だし」
麗美さんがそう答え、一角も頷く。
とりあえず、拠点に帰ると、明日乃が朝食の下ごしらえをして待っていた。
それと、熊の油を煮る作業をしてくれていたようだ。
「みんな、海の家できたみたいだね。遅くなったけど朝ごはん食べるでしょ?」
そう言って、朝食を作り出す明日乃。
真望も俺も熊の油の事をすっかり忘れていた。
「ごめんね、明日乃ちゃん。熊の油作らせちゃってたんだね」
真望がそう言って謝る。
「どうするんだ、はた織機の試運転は辞めて熊の油づくりをするか?」
俺は気になって真望にそう聞く。
「いいよ、真望ちゃん。熊の油は煮るだけだし、私がやっておくから、はた織機の試運転やってみなよ。楽しみにしてるんでしょ?」
明日乃がそう言ってくれるので、俺と真望と鈴さんは、はた織り機の試運転に専念できることになった。
「おなか減ったねぇ~」
俺達の声が聞こえたのか、そう言って琉生もニワトリ小屋から帰ってくる。
朝食は明日乃の新メニュークマ肉と大根の煮物。ネギと大根で熊肉の臭みが消えていて、大根の苦みと熊肉の脂の甘味が絶妙にマッチして美味しかった。
まあ、明日乃は料理が上手いからバランスがとれているのだろう。同じ材料で料理が苦手な真望が作ったらこうはいかなかったかもしれない。
「大根、美味いな。ちょっとよく煮ただいこんがおでんの大根みたいで懐かしい気持ちになった」
一角がそう言って、熊の出汁が少し染み込んだ大根をしみじみと味わっている。
猪肉だったら豚バラ大根みたいでさらに美味しかったかもしれないが、熊肉でも十分旨かった。
遅い朝食後、明日乃は熊の脂身を煮る作業、俺と真望と鈴さんは、はた織機の試運転を、一角と麗美さんは海水浴がてら岩場で貝拾いを始める。琉生は畑作業とニワトリの世話の続きをするらしい。
うん、休みだと言っているのに誰も休んでいる雰囲気がない。無人島の日常だ。
とりあえず、俺と鈴さんは真望のツリーハウス兼、裁縫工房にお邪魔する。
「なんかおしゃれな部屋だな」
俺は初めて入った真望の部屋をきょろきょろと観察してしまう。
ダンジョンで拾った3色のウサギの毛皮を使った毛布やタペストリーで部屋を飾っていたり、いつの間にか作ったウサギの皮製のぬいぐるみがあったりして女の子らしい部屋になっていた。
「結構やりたい放題ね」
鈴さんが呆れ顔でそう言う。
「もう! いいでしょ? 暇な時間で、趣味で作ったものなんだし。それと、流司、女の子の部屋じろじろ観察しない」
真望が恥ずかしそうにそう言う。
「悪い悪い。まあ、手芸が好きな女の子らしい可愛い部屋だった」
俺はそう感想を漏らす。
異世界で無人島の中でも、真望は色々工夫して自分のスペースを作ってたんだな。
真望のプライベートスペースの反対側にはた織機が設置されている。
糸車をこのツリーハウスの上まで上げる作業もしないといけないな。いまだに糸車は鍛冶工房に置かれている。
「じゃあ、さっそく試運転を始めるわよ」
真望がそう言ってはた織機を動かすための準備を始める。なんか楽しそうだ。
そして、実際作業をしてみると地味な作業だった。
ひたすら縦糸を300本、青銅製の小さなリングに通して、1ミリ間隔の竹ひごの間も通して、ローター、できた布を巻き上げる丸い木の棒に結び付けていく。
地味な作業な上に糸を通す場所を間違えたり入れ違ったりしてはダメという慎重さも必要な作業だった。
「これ、今まで通り、木枠に縦糸張って手作業で横糸をジグザク通していく作り方の方が楽なんじゃないか?」
俺は地道な準備にそう言っていちゃもんをつける。
「絶対、機織り機の方が早いんだって。上糸と下糸をワンタッチで入れ替えられて、横糸をまっすぐ通すだけで布が織れていくんだよ? 作業効率は格段に上がるし、大きな布も作れるようになるわ」
真望がそう言って俺の意見を否定する。
下準備は大変だが、それさえ終わればそこからは楽になるそうだ。
俺はそれを信じて、上糸と下糸を入れ替える装置、糸に丸い金具がついたパーツに1本1本、糸を通していく。それが300本、3人で割っても1人100本だ。
鈴さんは自分が作った作品が動くのが楽しみのようで笑顔でこの単純作業を進めていく。
そして何とか縦糸300本の準備ができる。
「さあ、それじゃあ、本格的に動かすわよ」
真望がそう言って、丸椅子に座り、上糸と下糸を入れ替える足踏みペダルを踏む。確かに、一瞬で二組の縦糸の上下が入れ替わる。
「いい感じだね」
鈴さんもその動きに満足そうにそう漏らす。
「じゃあ、行くわよ」
真望はそう言って、ペダルを踏んで上糸と下糸の間に空間を作り、そこに横糸を通す。
そしてピンと張ると、竹ひごがいっぱいついた格子上のパーツを動かして、「とんとん」と横糸を手前に寄せる。
その後、足踏みペダルを右足で踏んで、左足はそれに引っ張られるように持ち上げられる。そして入れ替わる縦糸の上下。
2組の縦糸同士が上下入れ替わったあと、さっきと同じように今度は反対側から横糸を通していく、
この繰り返しで、ほんの指の太さほどの布だが出来上がる。
鈴さんや真望が事前に言っていた通り布に使う糸は太めで布の目は少し荒いがちゃんとした布ができていく。
しかも、作っているときはよく分からなかった構造もそれぞれ上手いこと機能して布を作っているのがわかる。
「はた織り機ってやつはすごいな」
俺は改めて鈴さんが作った道具に感心する。
「でしょ? これで布作るペースはかなり上がるわ」
真望が嬉しそうにそう言う。
「もう少し改良して、もう少し布の目が細かいものが作れるようにしたいのよね」
鈴さんが難しい顔をしてそう言う。
「ここの部分よね。竹ひごじゃ限界あるもんね」
真望がそう言って、俺が作った、横糸をとんとん叩いて手前に押し込み布にしていく櫛のお化けみたいな部分を指し示す。
「火箸と金床、金槌が手に入れば青銅の薄い金属板が作れるようになるからそうなったら改良かな」
鈴さんが真望にそう言う。
「そういえば、お祈りポイント貯まったんじゃない?」
真望がそう言う。
「79750ポイントもあるじゃない!! あと250ポイントで、鍛冶道具が2つもらえる」
鈴さんが興奮する。
「そりゃ、70000ポイント貯めるまで鍛冶道具はお預けって話だったしな。お祈りポイントゼロになって魔法使えなくなるとヤバいし」
俺はそう言う約束だったことを再確認させる。
「ね、ねえ。今日のお祈りポイントで80000ポイント越えるから、火箸と金床交換できないかな? 金槌はとりあえず青銅の鋳物で我慢するから、2つ貰ったらダメかな? はた織り機が大分いい物になると思うよ」
鈴さんが俺にそうお願いしてくる。
はた織機が改良されると聞いて真望も少し乗り気になる。
「しかも、その2つがあれば、変幻自在の武器を金槌にして自分で鋼鉄製の金槌とかも作れちゃうから40000ポイントのお祈りポイント節約になるよ?」
鈴さんが畳みかけてくる。
「他のメンバーの許可がもらえたらな。特に、一角あたりは魔物狩りが遅れてるから、お祈りポイントにはシビアだぞ」
俺は鈴さんにそう答える。
「だったらそれこそ、金槌は自分で作らないと。金槌を自分で作れれば1週間早く魔物狩りを再開できるし、いいことだらけだ」
鈴さんの鼻息が少し荒くなってきた。
まあ、そのあたりの交渉は鈴さんに任せよう。
とりあえず、真望もはた織り体験をして満足したようなのでツリーハウスを下りて、熊の脂身を煮ていた明日乃と合流する。
そして、鈴さんが明日乃の説得を始め、明日乃が根負けして鍛冶道具の件を承諾させられた。
「明日乃、昼御飯はどうする? なんか、一角と麗美さんが貝と魚をとってきてバーベキューするって言ってたけど」
俺は気になって聞いてみる。
「熊の油を煮詰める作業、もう少しかかりそうだし、誰か火の番しないといけないし困ったね」
明日乃が悩む。
「私が代わるわ。料理しなくちゃいけないんでしょ? レオ君達来たら代わってもらうし」
真望がそう言う。
「レオ達も休ませたいんだけどな」
俺はそう言って笑う。
「レオは働きたがるし、ココちゃんは麗美さんの猫可愛がりから逃げてるからね」
明日乃がしょうがないなって顔で笑う。
とりあえず、熊の油は真望に任せて、明日乃はバーベキュー用に切った野菜と火種代わりの火のついた薪を、俺は鉄板代わりの平らな石を、鈴さんは薪を持って、海岸に向かう。
「余裕ができたら、青銅で鉄板でも作るよ」
鈴さんが俺の運ぶ平らな石を運びながらそう言う。
とりあえず、海の家のそばにたき火を起こし、
平らな石を温める。
「私はちょっと海に入ってくるよ。水浴びしてないし、匂ったらちょっと恥ずかしいしね」
鈴さんは作業が終わるとそう言って、服を脱ぎ、水着姿になって海岸に向かう。
俺も実は結構水浴びしていないことに気づき、明日乃に目配せして、服を脱ぐとパンツ一丁で俺も海に向かう。真望曰く海パン兼下着らしいが、どう見てもただの白いトランクスだ。
海で体を洗って匂いが気にならなくなったのか、鈴さんにちょっかいを出される。横から海水をかけられた。俺も鈴さんに海水をかけ返し、海水のかけっこになる。
「鈴さんだけ、ズルいよ」
明日乃もしびれを切らして水着姿で海に飛び込んでくる。
3人で海水をかけあったり、泳いだりして海水浴を楽しむ。
存分に海を楽しんだ後、海の家に戻ると、シロが戻ってきていた。
「パパ、ママ、ただいま」
シロがそう言って俺に抱きついてくる。
真望と琉生と一緒に海岸に来たようだ。
「なんか、流司達だけズルい」
真望がそう言って少しふくれる。
「竹は沢山切れたか?」
俺はシロにそう聞いて頭を撫でる。
「レオやココたちも頑張ったみたいで竹をいっぱい持ってきてくれたよ」
琉生が嬉しそうにそう言う。
「あと、熊の油の番もしてくれて、油を煮終わって冷めたら呼びに来てくれるって」
真望が少し申し訳なさそうにそう言う。
眷属達は献身的に無償で一生懸命働いてくれる故に扱いが難しいな。
人より休まなくていいし、人より食べなくていい、感情も半分、精霊と人間の中間、見かけも動物と人間の中間という存在がお互い理解できない障害になっているのかもな。
俺は比較的素直なシロを膝に座らせて頭を撫でる。
「あとで、レオは私が甘やかしてあげるわね」
明日乃が俺の表情を見て気持ちが伝わったのかそう言う。
一角や麗美さんではやりすぎなところがあるからな。
真望と琉生も水着になって海に向かう。二人で遊ぶようだ。
「お、もう準備できてるのか? 今日も大量だぞ」
そう言って二人と入れ替えに一角が大量の貝と魚を持って帰ってくる。麗美さんもたくさんの貝が入った土器を抱えている。
「一角、魚をとりすぎだ。今日は食べる分だけでいいんだぞ?」
俺は一角の抱えている魚の多さに呆れる。
「とりあえず、食べきらなそうな魚は塩水に浸けて干さないとね」
明日乃がそう言って笑う。
俺と明日乃は急いで一角達がとってきた魚を捌く。
一角は採ってきたアワビやサザエやカキを適当に鉄板代わりの平らな石にぶちまける。
「こら!! 一角! 貝は毒がないか鑑定してから焼かないとあたるだろ! あと貝は焼く向きとか順番が決まってるんだからな」
俺はそう言って一角を叱る。
岩ガキはものによっては貝毒、細菌を含んでいることがあるし、他の貝だって貝毒はゼロじゃない。そして、焼く向きを間違えると折角のエキスの詰まった煮汁がこぼれてしまうのだ。
俺は魚を捌くのを明日乃に任せて、一角がぶちまけた貝を綺麗に並べ直す。
一応鑑定で毒がないか確認をしながら。
「面倒臭い奴だな。とりあえず、土器に海水くんでくるぞ」
一角はそう言って、さっきまで貝が入っていて、今は空になった土器を持って海岸に向かう。
鈴さんは何か作りたいらしく、拠点に竹を取りに行く。
麗美さんは貝拾いで疲れたのか、小屋に入ってゴロゴロしている。
なんかみんなフリーダムだな。まあ、休日だしいいか。
俺はそう思いながら貝を焼いたり、捌いた魚にくしを通したり、たき火で焼く作業をする。
シロはさっきから俺にひっついて離れないが、それで、日ごろの疲れが解消されるならまあ、いいだろう。俺はシロを背中に乗せたまま料理を続ける。
明日乃も余った魚を海水に浸け終わったみたいで、切ったナスやピーマンやタマネギ、そしてキャベツを熱した石の空いたスペースで焼いていく。
一角は飽きたのか、琉生や真望の方に遊びに行ってしまう。
「なんか、明日乃も料理とか働かせてばかりで悪いな」
俺は明日乃に謝る。
「何言ってるの? それを言ったらりゅう君だって一緒じゃない」
明日乃はそう言って笑う。
まあ、言われてみるとそうだな。
貝や魚が焼けたので、琉生や真望、一角を呼び戻し、みんなでお昼ご飯を食べる。アワビやカキ、サザエといった、元の世界では高級食材を腹いっぱい食べる。
そして、午後からはみんな自由に休日を楽しんでもらう。
海の家でゴロゴロしてもよし、海に入って泳ぐもよし、自分の好きな事をしてもらう。
なんか、鈴さんは竹でビーチベッドを作っているらしいが、できるころには海水浴が半分終わっているんじゃないか? 俺はそう思ったが、本人が楽しそうに作っているので言わないでおこう。
途中でレオが熊の油が冷めたと呼びに来てくれたので、俺と明日乃と真望で拠点に戻り、熊の油を布で濾す作業をする。油が濾し終えたら、粗熱をとって、固めて、不純物をとって、油の部分を水でもう一度煮る。この繰り返しだ。
俺と真望で油を処理し、明日乃はレオを甘やかす役だ。たまには甘やかしてやらないとな。レオは明日乃には素直だしな。
ココも寂しくなったのか俺の膝に座る。まあ、あんまりしつこくすると嫌がられそうなのでココに任せる感じで放置する。まあ、猫はこのくらいの方がいいのかもな。
そんな感じで、レオとココも甘やかし、油を濾す作業を終えて、海岸に戻る。
俺は琉生と真望ともうひと泳ぎする。明日乃は小屋でゆっくりするようだ。うん、真望の狐のしっぽは水にぬれると残念な感じ満載だ。
「真望、お前の尻尾、濡れるとダメダメだな」
俺は真望の濡れぼそった尻尾を見ながらそう言う。
「私だってわかっているわよ。そう思うなら見ないでよ」
真望が恥ずかしそうに尻尾を隠す。
そして、琉生のふわふわのリスの尻尾も水に濡れると残念な感じだった。
ふわふわな尻尾は水に濡れてはいけない。俺は新たに学んだ。
【異世界生活 66日 15:00】
とりあえず、15時くらいで海水浴は終了。あとかたづけをして拠点に戻り、交代で水浴びに行く。海水で体がべとべとだしな。
俺と明日乃は拠点で留守番して、他のメンバーは一角に水浴びに行く。レオとココは強制連行されていった。シロは琉生とノリノリで水浴びに行く。
「なんか、俺と明日乃が留守番させられたのって作為的だよな?」
俺は明日乃にそう言ってちょっと照れる。
「多分、みんな、変に気を使ってるよね?」
明日乃も二人っきりになって照れながら言う。
「シロも別行動って時点でそうだろうな」
俺はそう答える。シロまで気を使ってくれているって事か。
そんな感じで、少し変な空気が流れつつ、塩水に浸けた魚を一夜干し籠で干す作業をしながら明日乃と会話を楽しみ、1時間半ほどで、みんなが帰ってくる。
入れ替わりで、俺と明日乃が水浴びに行く。明らかに変な、生暖かい視線を感じる。
まあ、久しぶりの二人きりだし、会話を楽しみながら泉に向かう。
「ね、今日は二人っきりだし、一緒に水浴びしよ?」
泉に着いたところで、明日乃が恥ずかしそうにそう言う。
「そうだな。たまにはいいな」
俺は断るのも何なので、明日乃の誘いを受ける。
久しぶりにみる、明日乃の生まれたままの姿。やっぱりきれいだ。
「もう、りゅう君のエッチ。見過ぎだよ」
明日乃がそう言って、胸を隠すように俺に抱き着く。
見えなくはなったけど、明日乃の双丘が俺の胸に触れてさらにエッチな気分になる。
「ねえ、りゅう君」
明日乃が潤んだ上目遣いで俺を見つめ、そして目をつむる。
俺は明日乃の可愛らしい唇に吸い寄せられてしまう。
☆☆☆☆☆☆
【異世界生活 66日 18:00】
俺達は、暗くなるギリギリくらいに拠点に帰りつく。
なんか、みんなが、微妙に目をそらし、会話も少ない。なんか微妙な空気だ。みんな気を使いすぎだろ? 俺も明日乃も逆に恥ずかしくなってしまう。
「流司お兄ちゃん、明日乃お姉ちゃん、夕食作っておいたよ」
そんな空気を打ち消すように琉生が元気よく声をかけてくれる。
「ありがとう、琉生。それじゃあ、夕食を食べるか」
俺はそう言ってたき火のまわりに座る。
そして一人ホクホク顔の鈴さん。
もしやと思ってお祈りポイントを見ると250ポイントしかなくなっている。
40000ポイント×2で鍛冶道具2個を神様からもらったな?
「鈴さん、やりやがったな」
俺はジト目で鈴さんを見ながらそう言う。
「いやいや、みんなに許可貰ったよ。一角ちゃんだって、金槌の分お祈りポイント節約できるならOKって言ってくれたし、琉生ちゃんだって、新しい農具や千歯こきをつくってあげられるって言ったら喜んでくれたし、麗美さんだって鋼の武器が早く作れるようになるかもっていったらOKしてくれたし、みんな了承してくれたんだよ?」
鈴さんがそう言って弁明する。
鈴さんはやましい事があると、名前にちゃん付けする癖があるから分かりやすい。
とりあえず、お祈りポイントで交換した火箸と金床を確認して、お祈りポイント250はさすがに危険なので、みんなで今日のお祈りをして5750まで回復。鈴さんに当分、お祈りポイント使用禁止の刑に処すことにした。
まあ、欲しい物ほとんど手に入れたし、さらにお祈りポイント使いたいとは言ってこないだろう。
そんな感じで、半日ほどだったが、海水浴を楽しみ、それぞれ休憩や気分転換もでき、鈴さんは目的の鍛冶道具も手に入れられた。
あとはお祈りポイントを回復させつつ、2つ目の魔物の島の魔物を減らし、お祈りポイントが回復し次第、魔物の島の攻略を再開することになる。
次話に続く。