第78話 クロスボウを作ろう(後編)
【異世界生活 56日 6:00】
今日は昨日の続き、グラインダーで残りの金属部品の形を作り、仕上げ磨きをして、残り時間でクロスボウを作る作業だ。
今日も一角と麗美さんは魔物の島の魔物を減らす作業、琉生は畑作業、真望と明日乃は麻糸作り、レオとココは薪集めと枯草集め、荒縄も作ってくれるらしい。
最近、家作りや小屋作りで荒縄に困らないのはレオやシロ、ココが暇な時や、夜の見張りの間、不器用な肉球の手で一生懸命荒縄を作ってくれているかららしい。ありがたいな。
簡単な生活必需品は眷属たちが集めたり作ったりしてくれている。
「鈴さん、そろそろ休憩させてくれ」
俺は30分グラインダーを動かす自転車のような機械を漕いで、音を上げる。足がパンパンだ。
「仕方ないわね。1時間休憩したら再開ね。私はクロスボウの一つ目を作り始めるから」
そう言って木材加工を始める鈴さん。
「休憩しながら見ていていいかな?」
「どうそ。その代わりしっかり休憩してね」
俺がそう聞き、鈴さんが答えてくれたので鈴さんの作業を椅子に座り見る。
いつの間にか丸椅子とかも作ったんだな。小屋の中の素朴な家具に気づく。
作業は単純。昨日作った木材を3枚横に組み合わせて、クロスボウの銃身? を作るようだ。
真ん中の板は少し工夫をして引き金が付くように作る。そんなシンプルな構造のクロスボウだ。
「秘書子さんの設計はよくできてるわね。道具の少ない今の状況で作れるシンプルな構造で、簡単に作れるようになってるわ。実際、ネジすら作れない文明レベルだし」
鈴さんが、変幻自在の武器を変化させたノコギリで木材を切りながら、設計図の書かれた粘土板を見てそう言う。
ネジに変わるような金具を考えてくれたり、そのネジモドキ自体も使う場所を減らしてくれたりよくできた設計だそうだ。
3枚の木材パーツが出来上がり、細かい部分は変幻自在の武器をナイフに変化させ削っていく。持ちやすい形にする作業のようだ。
そして、1時間休憩するとまた、自転車漕ぎが始まる。30分漕ぎ続けて、鏃と2本目のクロスボウ用の部品の研磨をする。
とりあえずは、今回、明日乃用のクロスボウと、それ以外のメンバーが兼用で使うクロスボウを1つずつ作る予定らしい。需要と時間があれば増やす予定だ。
まあ、クロスボウ3つ目を作るより先に真望が欲しがっている、はた織り機と糸を紡ぐ糸車を作らないと真望がキレそうだしな。
そして、鈴さん自身もその次は鋼の武器を作りたいらしいし。
まあ、俺もクロスボウは欲しいのだが、魔物は50体近くで襲ってくるので弓矢だけじゃ対処できない、人数差があり、魔物は味方が射られている間に俺達に迫るという作戦が取れるので、あくまでもサブウエポン的な位置づけでしか使えないので結局、剣や槍などの近接武器中心になる、クロスボウはなければないで何とかなる武器って感じだ。
そんなことを考えながら黙々と自転車もどきを漕ぎグラインダーを回し、鈴さんが金属部品を削る。30分たったら、鈴さんの木工作業を観察しながら1時間休憩するという作業を繰り返す。
そんな作業を4ターン繰り返し、お昼ご飯の時間になる。
うん、俺の足もう動かないかもしれない。日ごろのサバイバル生活とステータス補正がなければ明日は確実に筋肉痛で動けなくなるところだったな。
ふらふらになりつつ、お昼ご飯を食べにみんなの集まるたき火の元に歩きつく。
「流司、ふらふらじゃないか」
一角が面白そうに笑う。
午前中の魔物狩りを終えて帰ってきたようだ。琉生も農作業を終えて帰ってきたようだ。
「あのグラインダーを回す装置? 自転車を漕ぐみたいなやつ、半日やればこうなるぞ。午後は一角に任せた。俺はもう、無理だ」
そう言って、一角に押し付ける。まあ、押し付けるのは冗談だが交代要員として使おう。
「ああ、一角ちゃんはクロスボウの弓の部分を作ってもらいたいし、矢も作って欲しいからダメよ」
鈴さんに却下される。マジか?
「もう、流司お兄ちゃんが可哀想だから私が手伝ってあげる」
琉生が天使のような声でそう言ってくれる。
「私もちょっとだけなら手伝ってあげるわよ」
麗美さんは少し嫌そうにそう言う。昨日1回交代して懲りたようだ。
昼食を食べながらそんな話をして昼食後は作業を続ける。
一角、麗美さん、琉生が加わって俺の休憩時間が増えた。
午後は自転車モドキも漕ぎつつ、鈴さんのクロスボウや一角の弓作りや矢を作る作業の簡単な部分を手伝いながら作業を見せてもらう。
矢羽根を取り付けたり、鏃をつけたりするのに麻糸を使い、弓の弦としても太めの麻糸をつかいたいのだが、麻布の為に真望が作ったものを使うのは気が引けるので、こちらはこちらで麻糸を作って弓矢に使う。弓の弦は麻糸を太めに紡いでさらに2本をよって丈夫な麻糸を作る。
自転車モドキを漕ぎながら、休憩時には麻糸を作ったり、作った麻糸と鳥の羽、それと松脂で矢を作ったりする。それと、鈴さんに教わりながら鏃の仕上げ砥ぎもしていく。鈴さん1人じゃ作業が多すぎるからな。そんな作業を続ける。
夕方くらいでだいたいの金属の研ぎも終わり、残り時間でクロスボウの組み立てを始める。
俺は矢を作るのを手伝いながらその作業を見る。
基本的に午前中に作った3つの木のパーツにさっき一角が作った弓の部分を足して、引き金の機械部分を中で組み立てれば完成、後は接着剤とネジに似た金属部品でそれぞれのパーツを固定すれば完成だ。
「うん、よくできてるわ」
「これはいいな」
麗美さんと一角が絶賛する。
俺も見てわかるくらい良い出来だし、普通の弓矢より簡単に使えそうな雰囲気が伝わってくる。
「とりあえず、日が暮れちゃったから、明日の朝、試射してみて上手くいきそうだったら明日の魔物狩りから使えばいいんじゃない?」
鈴さんがそう言う。まわりはもう暗くなり始めている。
そして夕食の時間になったようで明日乃が迎えに来る。今日の作業は終わりにし、夕食にする。お湯で戻したイノシシの干し肉の野菜スープを食べる。
「そうだな、明日は俺も魔物狩りに行こうかな? クロスボウの出来が見たいから」
俺は夕食を食べながらそう言う。
「だったら私も見たいかな? 将来的には私も使うんだし」
明日乃も行くらしい。
「じゃあ、私も」
琉生もそう言い、結局いつものメンバーで魔物狩りに行くことになった。
「私は、金属部品もできているし、明日乃の分のクロスボウでも作りながら拠点で待ってるよ」
鈴さんはいつも通り留守番、真望も留守番するらしい。真望ははた織り機の事で頭がいっぱいみたいだ。
「一角、明日乃や他のメンバーがいるからって無茶は禁止だからな。いつも通り、白い橋の結界からは出ずに戦い、クロスボウの威力を確認するだけだからな」
俺は一応念を押しておく。
そんな感じで、明日は久しぶりにみんなで魔物狩りに行くことになった。
日課のお祈りをして、早めの就寝。明日の狩りの為に疲れをとらないとな。今日は自転車もどきを漕ぎ過ぎたし。
【異世界生活 57日 6:00】
「それじゃあ、クロスボウの試し打ちしてみようか」
剣道教室のあと、麗美さんが楽しみだったのかそう言う。
「そうね、何発か撃つところ見たいわ。製作者としても、どんな感じか見たいし、改善点とかあれば聞きたいしね」
鈴さんがそう言う。
とりあえず、拠点の奥の方にある、一角がたまに弓矢の練習をしている場所にみんなで行く。一角が作ったらしい、枯草と木で作った巻き藁の的が立っている。
真望もちょっと興味があるみたいで麻糸作りの作業に入る前に見に来たようだ。
「とりあえず、弾道とか撃ってみないとわからないから、近いところから撃ち始めて、少しずつ離れながら弾道を調整してね」
鈴さんがそう言う。
離れて撃つ場合山なりに撃たないと当たらないからな。
とりあえず、鈴さんが矢の装填の仕方から説明する。
クロスボウの設計図と使い方
「えっと、まずは、クロスボウの先についている三角形の金具につま先を通してから、真ん中あたりから後ろにつながっている金属の棒を起こして、足のつま先まで起こす。そうしたら、金属の棒についている別の棒、その先にある鍵爪に弓の弦をひっかけて、あとは、起こした金属を元の場所に戻すように引っ張る。これで、弦が張った状態になると」
鈴さんがそう説明しながらクロスボウの金属部分を動かすと確かに弦がクロスボウの引き金付近のもう一つの爪みたいなところに引っかかる。
てこの原理を使って装填するクロスボウらしく、てこの部分を引っ張って矢を装填する。
「そうしたら、クロスボウを手に持って、弦に矢の後ろの部分の割線を当てて、矢のシャフトの部分をクロスボウ本体から出ているこの二つの洗濯ばさみの先みたいなツメに挿めば装填完了。あとは狙いを定めて、引き金を引けば矢が打ち出される。簡単でしょ?」
そう言って、矢の装填されたクロスボウを麗美さんに渡す。
「それじゃあ、一発撃って、麗美さんの力で装填して、少し離れてまた撃つ。離れながら何度か繰り返してみてね」
鈴さんがそう言うと麗美さんが的の巻き藁に狙いを定める。
そして、引き金の金属を引くと勢いよくほぼまっすぐ矢が飛んでいく。
「おお、なんかすごいな」
俺は感嘆の声を漏らす。
思った以上にまっすぐ飛んだし、少し的から低い位置だったが深々と的に矢が刺さった。
「うん、いいわよ、これ。少し矢の軌道を考えて上の方を狙えば結構狙い通りに当たるわね」
麗美さんも満足そうにそう言う。
そして、鈴さんに矢の装填の仕方を聞きながら次の矢を装填する。
的から離れてもう1発、さらに離れてもう1発、徐々に離れて80メートルくらい離れたところでクロスボウを斜めに構えても角度の限界、的に届かなくなる。
「まっすぐに構えて撃つなら20メートルくらい? 矢の落ちる角度とか考えて斜めに構えても40メートルくらいなら当てられそうかな? 80メートル近くなると当たるかどうかはほとんど運ね」
麗美さんが冷静にそう判断する。
「なるほど。だいたいの射程は分かったわね。弓の部分とかもっと工夫すれば飛距離とか初速とか伸ばせるんだろうけど、まあ、実践でもこれなら使えそうでしょ?」
鈴さんがそう聞き、麗美さんが頷く。十分武器として使えそうだ。
「そうしたら、今から、南東の島まで魔物狩りに行こう。クロスボウの威力を試そうよ」
一角がそう言って麗美さんを急かす。
「矢を回収するから、ちょっと待って」
麗美さんがそう言って的から弓を抜き、革製の矢筒に矢を収める。
真望が事前に熊の皮で矢筒を作ってくれていたそうだ。
「じゃあ、準備して魔物狩りに行くか」
俺はそう言って、拠点の中心、たき火のそばまで戻り、荷物の準備をする。
とりあえず、お昼になったら帰ってくる予定なので、お弁当はなしで、水と非常食の干し肉だけ持って出発する。
今日は鈴さんが明日乃の分のクロスボウ作りに変幻自在の武器を使うので俺は普通の青銅の剣と盾、そして予備の武器として青銅の穂先のついた槍を持っていく。
【異世界生活 57日 7:00】
拠点を出発し、海岸に沿って東に進む俺達。南東の島は海岸沿いに歩いていくと着くらしい。60分ほど海岸沿いを東に歩くと白い橋が見え、もう30分ほど歩くと白い橋の前についた。
「こっちの白い橋は、川を渡らないでいいから来易くていいな」
俺はそう感想を漏らす。
一つ目の魔物の島は川を渡ってから移動だったから毎回結構面倒臭かったからな。
「ああ、こっちは、そういった面では気軽に来られる。朝出発して1時間半くらいでここまで、残り30分で橋の向こうに着くし、向こうで1~2時間ほど魔物狩りをして、拠点に帰ってもお昼までには帰ってこられる感じだ」
一角がそう教えてくれる。
「とりあえず、クロスボウも試したいから早く橋を渡りましょ?」
麗美さんの気がはやる。
「できればクロスボウを使うのは敵が逃げそうになってからがいいかな? 最初から使ったら一方的な攻撃になって、魔物が逃げちゃいそうだし」
俺は麗美さんにそうお願いする。俺達も少しレベルアップがしたいしな。
「しょうがないな。まあ、今後も使う機会ありそうだし、今日はそれで我慢するわ」
麗美さんが渋々納得してくれる。
「明日乃、今日は結界使わなくていいからな。もう少しお祈りポイント貯めないと本格的な魔物狩りは難しそうだし、結界使うと一角が調子に乗りそうだしな」
俺はお祈りポイントを使わないようにみんなにも念を押す。
軽く打ち合わせをして、白い橋を渡り始める。こっちの島は霧もなく、見晴らしもいいな。
橋を渡っていると目の前に敵が見えてくる。犬っぽい顔をした2足歩行の魔物、ワーウルフだ。
犬に似ていると言っても可愛らしさは全くなく、凶暴凶悪な顔で近づいたら速攻で噛みつかれそうだ。そんなワーウルフが皮鎧を着て青銅の穂先が付いた粗悪な木の槍を構えている。
そして、時々、嫌な金属音。俺達の住む島を守っている結界を攻撃している音だ。
「武器や防具も前の島の魔物と似たような感じね」
明日乃がそう感想を漏らす。
「とりあえず、いつもの感じで、結界内から攻撃して、逃げだしたら、一角の弓矢と麗美さんのクロスボウで追撃する感じで」
俺はそう言い、剣と盾を構える。
今日は俺と琉生が剣と盾、一角は剣のみ、明日乃は青銅の槍、麗美さんは自分の変幻自在の武器を日本刀のような片刃の反った剣に変化させている。
並びもいつもと一緒。左から、俺、琉生、明日乃、一角、麗美さんの順番で並び、合図とともにワーウルフに飛び掛かる。
俺はレベル22のワーウルフに斬りかかる。粗悪な槍で剣をはじき返され、槍で攻撃されるが、結界に守られる。
「こいつら強いな。素早さもあるし、槍の攻撃の速さが今までの敵と比べ物にならないぞ」
俺は独り言のようにそうそう言うと、粗悪な槍を剣で弾き、ワーウルフの首に一撃を食らわせる。そして、慌ててバックステップで後退し結界内に戻る。すぐ隣のワーウルフが槍で攻撃してきたのだ。
「連携もいいな。結構苦労しそうだ」
俺は今の攻撃でワーウルフの連携の良さに舌を巻く。
ほとんどのワーウルフがレベル的には格下だが、それでも素早い動きと素早い武器の攻撃に翻弄される。
「素早い上に、仲間との連携がいい、最初のダンジョンのワ―ラビット型のウッドゴーレムより性質悪いだろ?」
一角がどや顔でそう言う。
確かにワーラビットのように素早さを特化している雰囲気は伝わってくるし、ワーウルフの仲間同士の連携がワーラビットよりさらに強いと感じさせる。
しかも、一角のやつ、こっそり麗美さんと連携して1体ずつ端から地道に倒してやがる。
真ん中のあたりで明日乃と連携している琉生を見ると、ワーウルフに左右からプレッシャーをかけられ上手く攻撃ができていない。
「琉生、明日乃、麗美さん達の戦い方をまねするぞ、俺達は左端から崩す」
俺は二人にそう声をかけると、2人は一度結界内に下がって麗美さんを観察してから俺の方に走ってくる。
「真ん中だと、3方向以上から攻撃されてどうしようもないね」
琉生がそう言ってお手上げって感じの顔をする。
「オレが左から2番目の敵を相手するから琉生が一番左の敵を倒していけ。明日乃は後ろに控えている敵が攻撃してきたら槍でけん制。こっちも連携しないとこの敵は倒せないぞ」
俺は二人にそう指示をする。
「分かったよ。流司お兄ちゃん」
「了解だよ」
琉生と明日乃がそう返事して動き出す。
琉生は俺の左に立ち、俺と琉生の間、少し後ろ目に明日乃も控える。
「いくぞ」
俺はそう言って、琉生と一緒にワーウルフに飛び掛かる。
俺が左から2体目と3体目に牽制しつつ、琉生が左端のワーウルフを倒す。
左端のワーウルフの後ろに立っていた控えのワーウルフが前進してくるので琉生がそれも倒す。
琉生が、俺の右側に回り、3体目と4体目を牽制し始めるので俺が2体目を倒す。
すると後ろに控えていたワーウルフ達が、最初に琉生がいた空きスペースに回り、俺を包囲しようとする。あっという間に2対4の体制に戻ってしまい慌てて、明日乃が左に入ってきた5体目と6体目を牽制する。
「琉生、左に戻って、明日乃をフォロー。一番左端を倒せ」
俺は慌てて琉生に指示し、琉生が元の場所に戻り左端のワーウルフに対峙する。
「連携がしっかりし過ぎだろ」
俺はそんな独り言のような愚痴を漏らす。
後ろに控えるワーウルフも倒された分、左に補充されて左端に2列の陣形が再形成される。
隊列の組み方もしっかりしている。
「明日乃、1回さがれ。最初の陣形に戻す」
俺はそう言い、明日乃が一旦、後ろに下がる。
俺は左から3体目と4体目を相手にしていたが、2体目と3体目を相手するように一度左に下がる。
そして、余裕が出た琉生が左端のワーウルフを倒す。
「今だ、明日乃は2体目の隙を突いて倒せ。琉生は今のポジションを維持敵が左に入ってきたら相手をしろ」
俺は琉生と明日乃にそう指示をする。
明日乃は慌てて、俺が相手にしている2体のうち左側のワーウルフの頸動脈に青銅の槍を突き刺し、もう一突きして、とどめを刺す。
空いたスペースに後ろに控えていたワーウルフが入ってきて明日乃に攻撃しようとするので琉生が相手をし、明日乃がとどめを刺したワーウルフは後ろによろよろと後退ると倒れ、その空いたスペースに新しいワーウルフが入ってくる。
「明日乃は一度下がって、同じ流れで倒す準備を。琉生は今相手している奴を倒せ」
俺はそう言って新たに入ってきた左から2体目と、さっきから相手をしている3体目に牽制をし直す。
「今の流れで左から冷静に倒していこう」
明日乃と琉生にそう言い、2人も頷く。
「ウォーーーン」
突然、後ろに控えていたワーウルフの1体がそう吠えると、一斉に撤退していく。
一角と麗美さんが慌てて、弓矢とクロスボウに武器を持ち替え、矢で撤退していくワーウルフに追い打ちをかける。
一角の矢はワーウルフの後頭部に見事に刺さり、麗美さんのクロスボウは少し的より下に刺さったのか、首と肩の間あたりに刺さりワーウルフがよろけるが、体勢を立て直し逃げようとする。
麗美さんは慌てて、クロスボウの金属部品を引き、てこの原理で弦を引き金に装填、矢をつがえるが、それより先に一角が矢をつがえ、よろけたワーウルフの後頭部に矢を射る。
さすが弓道部。的確に的に当てていく。
そして、麗美さんが第二射を準備できたころにはワーウルフ達は50メートル以上離れ、有効射程から外れてしまう。
「さすが、腐っても元弓道部。確実に矢を当てていくな」
俺はそう言って褒める。
「腐ってないし、気持ちは現役弓道部だ」
一角がそう言い返す。
「クロスボウは矢の装填に時間がかかるのが問題ね。今みたいに、撤退する相手に追撃を加えるのも1射が限界ってとこかしら」
麗美さんが残念そうにそう呟く。
「ワーウルフが撤退するのも早かったし」
俺は麗美さんにそうフォローする。
俺達の連携体制ができ、向こうの控えの魔物が減ってきた時点で早めに撤退したようだ。戦況の見極めもしっかりしているようだ。
「でも、ワーウルフの連携は凄いね、結構苦戦したよ」
琉生が困った顔でそう言う。
いろいろと面倒そうな敵だったな。
「というか、一角も先に言っておけよな、ワーウルフの連携が凄い事を。一人だけこっそり麗美さんと連携しやがって」
俺はそう言って一角に文句を言う。
「いや、言うより体で覚えた方が分かりやすいだろ?」
一角がそう言って笑う。
こいつ、わざとやって俺が困るところを見て楽しんでいたな。少しイラっとしたが、まあ、結界内の安全な状態での戦いだし、これが一角の性格なのでスルーすることにする。
「まあ、でも、クロスボウも連射性は悪いけど、結構狙ったところには飛んでいってくれるし、練習すれば、弓の未経験者でも結構使える武器にはなりそうね」
麗美さんがそう言って満足そうにクロスボウを見る。
そのあと、クロスボウから、矢を外し、引き金を引き、弓の張りを緩める。クロスボウに矢を装填しっぱなしにすると弓の部分がすぐにダメになってしまうらしい。
落ち着いたところで、明日乃が神様にお祈りして魔物の死骸をマナに還し、経験値化、周りを警戒しながら、一角と麗美さんが矢を回収する。
そんな感じで、俺はワーウルフとの初戦闘に苦戦し、麗美さんはクロスボウの威力を確認することができたのだった。
次話に続く。
今週の土日は忙しかったため、ストックできず、月曜日更新できませんでした。
年末まで多忙が続いますが、なるべく毎日の更新をめざして執筆したいと思います。
更新遅れたら、今日は仕事忙しいんだろうなと、スルーしてやってください。




