第77話 クロスボウを作る為に必要なもの?
【異世界生活 54日 19:00】
鈴さんと俺、水浴びを済ませ、暗闇の中、松明の明かりを頼りに拠点まで帰る。
「遅かったね。ちょうど夕食もできてるよ」
そう言って明日乃が迎えてくれる。
鶏肉の焼けるいい匂いがしてくる。
俺達は集めて来た松の枝や皮を倉庫に収めてから、たき火のまわりに戻る。
「鶏肉の岩盤焼き風とねぎまの焼き鳥風かな?」
そう言って料理を出してくれる。
熱く焼いた薄い石の上にチキンステーキ風に焼いたキジ肉とニンジンやタマネギの付け合わせ、もう1品はネギとキジ肉を交互に竹串に刺して焼いた焼き鳥風のキジ肉だ。
たき火で焼くために竹串が太く長いのはご愛嬌だ。
「キジ肉はいい脂が出て旨いな」
「ああ、ネギとの相性もいい」
俺と一角が絶賛する。
「塩味でも脂が出ていて美味い。ただ、できれば甘醤油の焼き鳥のタレでも食べたかった」
一角がいつもの余計な一言を言う。
まあ、確かにねぎまの焼き鳥風は塩でも十分旨いが、タレがあったらつけてみたい旨さだ。
「流司、大豆だ。大豆のありかを秘書子さんに聞け。私が穫りに行ってくる」
一角がとうとう我慢できなくなったらしい。
俺は仕方なく秘書子さんに聞く。
「一角、秘書子さんの話だと、一角が今魔物狩りしている島に大豆があるらしい。ただし収穫時期は10月だ。まだ5カ月近くあるぞ。残念だったな」
俺はそう言う。
今すぐ取れると聞いたら暴走しそうだったので止めたが、さすがに10月まで取れないと聞けばさすがに待つだろう。
「10月か。無念」
一角ががっくりと気を落とす。
「大豆は早く収穫したら枝豆になっちゃうからね」
琉生がそう言って笑う。
枝豆がさらに成長すると大豆になるらしい。知らなかった。
そして、一角がさらにショックを受ける。枝豆じゃ、醤油や味噌は作れないもんな。
「ビールができたら枝豆もいいわね」
ビール好きの麗美さんがそう言って妄想している。
麗美さんのビール好きは俺の親父が麗美さんに晩酌を勧めたせいでもある。俺は少し申し訳ない気持ちになる。
俺の高校受験の時に家庭教師に来てもらっていた麗美さん。20歳になった時に俺の親父に勧められてビールを飲んだところハマってしまったようだ。しかもかなり強い。
「ちなみに、9月以降になれば2つ目の島で米が穫れるらしい」
俺は前に秘書子さんに聞いた情報も暴露する。まあ、4カ月近く先だしな。
「米もあるのか? そしてまた待たされるのか」
一角がさらにショックを受ける。
「まあ、基本、穀物の収穫って秋が多いからね。まあ、時期が来たら収穫できるように場所の把握と魔物の数は減らしておきたいね」
琉生がそう言って笑う。
「とりあえずは、私の変幻自在の武器が最優先だ」
一角がそう言って気持ちを立て直す。
そんな感じでキジ肉の脂のうまみに舌鼓を打ちながら、夕食を終え、日課のお祈りをする。
お祈りポイントは21650ポイント。鈴さんの鍛冶の道具を貰う為の70000ポイントまでまだまだ先だ。
【異世界生活 55日 6:00】
今日も朝食を食べ、麗美先生の剣道教室を行い、昨日と同じような役割で作業を始める。
一角と麗美さんは南東の島に続く白い橋に魔物を減らす作業に。
真望と明日乃は麻糸作り。
レオとシロとココは薪や枯草集めをした後、木炭を焼く作業をしてくれるそうだ。
そして、鈴さんと琉生は何か怪しい作業を始めた。クロスボウはどうしたんだ?
「鈴さん、琉生、何してるんだ? クロスボウ作りはやらないのか?」
俺は気になって聞いてみる。
「クロスボウ作りや鏃作りの為にも必要なものを作るんだよ。グラインダーってやつね」
麗美さんが自慢げに言う。
「グラインダー? って何?」
俺は聞いたことあるような無いような単語を聞き、麗美さんに聞き返す。
「要は、丸い円盤状の砥石を作って、それを自転車みたいに回すんだよ。そうすると、平らな砥石で砥ぐより数倍の効率で刃物が研げるようになる。特に、今回みたいな鋳型での作り方だと金属を削る部分が多いから、あると数倍効率が上がる予定かな?」
鈴さんが自慢げにそう言う。
「で、琉生に丸い砥石ってやつを作ってもらう訳か」
俺は鈴さんにそう聞く。
「そ、そうね。今いる人だけにでも許可もらえればいいかな?」
鈴さんが独断でやろうとしていたことがバレて、気まずそうな顔をする。
「そうだね。今いるメンバーがOK出せばいいだろう。一角が使う鏃を作る為だし、クロスボウも1つは麗美さんが使う予定だしな」
俺はそう言って許可を出すと鈴さんは急いで真望と明日乃に聞きに行く。
結果はOKだったらしい。
後から聞いた話だと、真望にグラインダーがあれば糸車やはた織機がより作りやすくなる、明日乃には明日乃用のクロスボウを作るのに必要と半分騙すような手口を使ったらしい。ちなみにグラインダーが無くても糸車やはた織り機、鏃もクロスボウもできるそうだ。
まあ、効率が上がるという事で仕方なく許可を出す。
琉生が、鈴さんが地面に書いた設計図をもとに丸い砥石を作る。砥石と言っても粗削り用のざらざらな石、原料も普通の石らしいので琉生もそんなに苦労せずに、1回の魔法で作れるらしい。
「土の精霊よ、神の力をお借りし、魔法の力とせよ。『石の壁』!」
琉生が魔法詠唱をし、目の前にあった石がきらきらと消えていき、代わりに石の壁、ではなく、真ん中に四角い穴の開いた円形の石、イメージ的には古代人が使っていた石のお金みたいなものの小さい版みたいなものが出来上がる。しかも表面は砂を固めたように要望通りのざらざらの石だ。
「うん、いい感じね。それじゃあ、グラインダーの台座作りと原動力部分、そして、クロスボウの材料として、木材を集めにいくよ」
鈴さんがそう言って、次は近くの森に乾いた倒木を探しに行く。
俺と鈴さんと琉生で背負子を背負い、森に行き、変幻自在の武器を二人で引くような巨大なノコギリに変化させ手ごろな倒木を背負える大きさに切り持ち帰る。結構大きな丸太が3個だ。
「やっぱり、変幻自在の武器はいいわね。普通のノコギリはもちろん、こんな専門的なノコギリとか、色々な工具になるんだもんね」
鈴さんが昔の木こりの使いそうな巨大なノコギリを絶賛する。
「まあ、切れ味はいまいちだけどな」
俺はそう言う。これで鋼鉄製やステンレス製の現代的なノコギリと同じ切れ味だったら最高なのだが、若干切れ味が悪い。もちろん、剣や槍にした場合もだ。
「そんな何でも簡単に切れすぎる道具があっても楽しみがなくなるじゃない? そんな万能武器あったら流司一人で何でもできるし、最悪、流司がいなくても万能武器があればいい。みたいな話になっちゃうしね」
鈴さんはそんな感じで、今の生活を楽しんでいるようだ。
確かにそうかもしれないな。俺だけ強いとか、憧れはあるかもしれないが、仲間の大切さが薄れそうだもんな。
「みんなで協力し合う楽しみを神様が残してくれたのかもしれないね」
琉生が純粋無垢な笑顔でそうまとめるが、俺から言わせると、神様、そこまで考えていないと思うぞ。純粋に力がないだけだと思う。
そんな話をしながら拠点に帰り、倒木を木材に加工する。
さっき使った二人がかりで使うのこぎりで、鈴指示の元、俺と鈴さんが協力して丸太を平らな木材にしていく。琉生は真望の手伝いに行くようだ。
最後に鈴さんが変幻自在の武器を昔の大工が使っていたというかんなに変化させ、表面を平らにして平らな木材のできあがりだ。
あとは、グラインダー用の作業机を作り、その上にグラインダー木材と竹を使って本体を作り、グラインダーを動かす原動力というものも木材と竹で作る。
「麗美さん、これって?」
俺は、原動力というものを見て嫌な予感がする。
「うん、自転車みたいなものね。流司、頑張って漕いでね」
鈴さんがさわやかな笑顔で俺にそう言う。
そうきたかぁ。いや、電気もエンジンもガソリンもない世界、水車や風車もないし、もしかしたらと思ったらそのまさかだった。
グラインダーイメージ図
とりあえず、そこまでの作業で、お昼になってしまい、明日乃が「お昼ご飯ができた」と呼びに来る。
たき火のまわりに戻ると、一角と麗美さんも戻ってきていた。グラインダーづくりに熱中してしまい少し遅めの昼食だ。
「一角、今日はどうだった?」
俺は魔物狩りの成果を聞く。
「そうだな。今日もワーウルフを私と麗美さん、大体7~8体ずつ倒した」
一角がそう答える。
「一角ちゃん、今日はレベルが2つ上がってレベル26よ。私も1つ上がってレベル27、やっぱりワーウルフのレベル21以上は美味しいわね」
麗美さんがそう言う。
鑑定で強すぎず弱すぎず、レベル21以上のワーウルフを選んで倒しているらしい。レベル21を超えると経験値が美味しくなるからな。
「私も畑仕事がない時は参加したいかも」
琉生がそう言う。
「そうだな。俺もたまに参加しないと2人にレベル置いて行かれそうだ」
俺はちょっと危機感を感じる。
「まあ、レベルが離れたらダンジョンで鍛えたらいい。私たちが先に強くなっておいて、ダンジョンでスパルタしてやるからな」
一角が勝ち誇ったようにそう言う。
それはそれでなんか腹立つな。
わずか半日の戦闘を2日間行っただけで一角のレベルが3上がったのか。本当に経験値が美味しそうだな。
とりあえず、干した熊肉をお湯で戻したスープをみんなで食べ、午後の作業に移る。
その前に、鈴さんが琉生にお祈りポイントを使わせたことを謝り、理由の説明というか言い訳を一角と麗美さんにしてから。
午後は俺と鈴さんで鍛冶作業、一角、麗美さん、琉生が鍛冶小屋の壁作りの続きをする。
鍛冶工房の小屋もだいぶ小屋らしくなってきた。もう少し壁を作って、最後に少し技術のいる壁の隙間を埋める作業や突き出し窓を竹で作る作業を鈴さんがやれば完成だ。
「ほう、これがグラインダーってやつか?」
一角が不思議そうに見ている。
「流司、実際動かすところを見せて、一角にこの道具のすばらしさを理解してもらうわよ。さあ、漕いで」
鈴さんが鼻息を荒くしてそう言う。お祈りポイントを勝手に使った汚名返上をしたいようだ。
俺は仕方がないので手伝うことにする。手伝うと言っても、自転車みたいな車輪とペダルを漕ぐだけだが。
そして、俺はペダルを漕ぐ。
最初は重く、ゆっくりとしか動かなかったが、だんだん速度も上がっていき、それと同時に、金属を削る少し嫌な音と同時に、一角が「おおー」と感嘆の声を漏らす。
ここからだと詳しくは見えないが、さっきのグラインダーと呼ばれる円形の砥石が回り出し、それで鏃を上手く削れているのだろう。
俺も少し見たくなる。
「一角、ちょっと代われ。俺も見たい」
俺がそう言うが、一角に無視される。
そして、鏃の形がだいたいできたみたいで、また一角が「おおー」と感動している。
とりあえず、作業が一段落したみたいなので足を止めてもう一度一角に声をかける。
「しょうがないな。ちょっとだけだぞ。私たちは小屋を作らないといけないしな」
一角が嫌な顔をしつつペダルを漕ぐ役を代わってくれる。
そして、鈴さんのそばに寄りグラインダーを見ると次の作業、別の鏃を削る作業が始まる。
鈴さんの合図のもと、一角がペダルを漕ぎだし、それに連動して、円形の砥石が回り出す。
スピードが乗ってきたところで、鈴さんが鏃の平らな方を当てて金属を削り始める。
「キーン」
と嫌な金属音をたてて、青銅製の鏃が火花を上げて削れていく。
「おおー、なんかすごいな」
俺も一角と同じような反応をしてしまう。
まあ、それだけ画期的な装置って事だ。
鈴さんが鏃の位置や覚悟を調整しながら、両面とも鏃っぽい形に削っていく。
確かに手で平らな砥石やざらざらな石を使って削るよりはるかに速そうだ。
そして鏃の形がだいたいできたようだ。
「あとは、もう少し細かい砥石で、綺麗に砥いで、最後に仕上げの細かい砥石で鋭く砥ぐ感じね」
鈴さんがそう教えてくれる。
確かに形は鏃っぽいが、刃の部分はまだ鋭さがない。
「じゃあ、流司、これだけの鏃とクロスボウ2台分の金属部品が待ってるから、手伝ってね」
そう言って山ほどある金属部品を見せてくれる。
これ砥ぐって事は、半日あの自転車モドキを漕ぎ続けるってことか?
「一角、麗美さん、琉生。たまにでいいから交代してくれ」
俺はあまりの重労働に泣きつく。
「流司お兄ちゃんが可哀想だから琉生は代わってあげるね」
「まあ、仕方ないわね。私のクロスボウになる部品だし」
「まあ、出来上がるのは私の鏃。背に腹は代えられないか」
そう言って、琉生は積極的に、麗美さんと一角は仕方なさそうに手伝ってくれることになった。
とりあえず、ペダル漕ぎと小屋の壁作りを交代でやりながらグラインダーで金属部品を予定の形に削っていく。
1日がかりの作業で、今日はクロスボウを組み立てる作業まではいかなそうだな。
代わりに、日が落ちるころには鍛冶工房の小屋が8~9割がた完成した。あとは鈴さんの仕上げで完成する感じだ。
次話に続く。
なんか、クロスボウを作る前に余計なものを作ってしまいましたw
本日、ブックマーク2名様ありがとうございます。やる気が出ます。




