第56話 ダンジョン攻略の準備と赤字覚悟の挑戦
経験値を計算ミスしていました。修正しました。
レベル10ツノウサギ
×経験値75
〇経験値25
【異世界生活 28日目 6:00】
「うーん、重い」
俺は何とも言えない寝苦しさに目を覚ます。
目を開けると俺の腹の上にシロが乗っかって寝ている。
「なにしてるんだ? シロ?」
俺は頭だけ上げてそう聞く。
隣で寝ていた明日乃も目を覚ます。
「パパとママと一緒に寝たいなって」
シロが気まずそうな笑顔でそう答える。
「シロちゃん、寂しかったんだよね?」
明日乃がそう言うと、シロが嬉しそうに明日乃に抱き着く。
逃げたな。こいつ。
なんか変に明日乃と俺に似ている気がする。魂がコピーされてる? それともそう演じてるのか?
俺達はそのまま、起きることにする。
明日乃はシロを抱っこしたまま。
たき火のそばに行くと、昨日の後半の見張り役のレオと鈴さんと琉生が起きていた。
「おはよう、みんな。それと、レオ。見張りをしてくれたおかげでみんなよく寝れたと思う。助かったよ。あと、シロもな。がんばったな」
俺はそう言って夜の見張りをしてくれた2人をねぎらう。
明日乃も、シロを下ろすと、レオの頭を撫でる。
「オレ達はヒトより寝なくていいから」
レオが恥ずかしそうにそう言う。ツンデレめ。
「パパ、私も撫でて! 撫でて!」
シロが俺にまとわりついてくるので、
「はい、はい」
俺はシロの頭をぐりぐり撫でまわす。モフモフの感触は悪くないな。
鈴さんと琉生は1時間早く起きてしまったようで、昨日、塩水に漬けっぱなしだった猪肉を干す作業をしてくれたらしい。ツリーハウスの土台に一夜干しのかごがたくさんぶら下がっている。
「おはよう、みんな」
一角が起きて来て、麗美さんや真望も起きてくる。
みんな揃ったので朝食を食べる。猪肉の野菜炒めだ。
その後、久しぶりに剣道教室に参加する。留守番していたメンバーは毎日鍛錬を続けていたそうだ。
1時間ほど鍛錬し、焚き火の回りで休憩する。
みんなで少し休憩していると、真望がチョロチョロ動き出し、俺の横に座る。
「それじゃあ、流司、髭剃るわよ」
真望がそういって自分のももをぽんぽん叩く。
膝枕ってことだろう。
俺は黙って従う。真望は俺の髭に対して妥協する気はないしな。諦めるように真望のふとももに頭を乗せる。
俺の目の前に、慎ましやかだが、程よい大きさの双丘が目に入る。
以前の葉っぱの服と違い毛皮の服なのであくまでも服の上からだが。
真望が準備した土器の器にお湯が入っているようで、そのお湯で手を濡らし、石鹸を泡立て、俺の顔に塗る。
床屋だと、蒸しタオルで髭を立てて、肌を柔らかくしてから剃るのだが、布不足なので温かい泡で代用するようだ。
温かい泡だけでも気持ちいい。
「じゃあ、いくわよ」
真望がそう言ってカミソリを構える。
なんかカミソリらしい形をした物が目に入る。床屋で見る本格的なカミソリ、T字ではないナイフみたいな形をしたカミソリだ。
青銅製の刃に木の柄がついて、皮が巻いてある。
「なんかよくできたカミソリだな」
俺は気になって聞く。
「ダンジョンで拾った『青銅製のウサギの爪』を材料に鈴さんが作ってくれたのよ。それと、喋らない。鼻が落ちるわよ」
真望がそう言って、俺の顔を押さえつける。
鼻が落ちたら大変だ。
俺は慌て口を閉じる。
そこから、丁寧にジョリジョリ髭を剃る。真望、結構上手いな。
口の回りを剃り、首を剃り、顔全体を剃り、最後に眉毛の回りも剃る。眉毛はちょっと心配になる。形を整えてくれているんだろうけど鏡がないし気になる。
「はい、できたわよ」
真望がそういい、俺は座り直す。
「おかしくないか?」
俺は明日乃に確認する。
「イケメンさんになったよ」
明日乃がからかう様にそう言う。
「鏡見る? 黒曜石製だからほとんど見えないけど」
真望がそう言って黒曜石の塊を出す。
一生懸命磨いたんだろうな。表面がつるつるだ。
そして覗くとなんとなくだが自分の顔が映る。よく洗車した車のボンネットに顔を映した感じだ。
まあ、眉毛もおかしなことにはなってなさそうだし、大丈夫だな。そして顎の所々からちょっと血が出てるけどな。
「まあ、血は出てるけど、上手かったよ。髭剃りは男にしかできないと思ってたけど女の子でも上手いもんだな」
俺はそう言う。
「もう、女の子にあんまり、センシティブなところ聞かないの。女の子だって剃刀結構つかうんだよ」
真望が少し照れるように怒るようにそう答える。
あんまり男が聞いちゃいけない部分らしい。ムダ毛の処理ってことだろうな。
【異世界生活 28日目 9:00】
「じゃあ、残り時間、作業して午後はダンジョンに行くか」
俺はそう言って立ち上がり、思い出す。
「そうだ、鈴さん、悪いんだけど、槍の研ぎ直しとナイフの研ぎ直しをお願いできない? 特にナイフはサトウキビの皮むきで結構刃こぼれができちゃってるんだ」
俺は鈴さんにそうお願いする。
「ああ、そうなると思って、ナイフは代わりの物作ってあるよ。ダンジョンのドロップ品、結構残ってたからね。槍の方は簡単にでいいなら、今からやるよ。ここに出しておいて。刃こぼれしたナイフはダンジョン行ってる間に研いでおくよ」
そう言う鈴さん。すでにナイフの替えは用意してくれていたようだ。さすがだ。
俺達は木の槍を鈴さんに渡し、ナイフを交換し、作業に移る。
ツリーハウスは鈴さんが別作業で動けないので保留。代わりに俺と一角と琉生とレオとシロで竹をとりに行く。ついでに水も汲んでくる。麻の繊維が足りなくなるので、麻の群生地にも行って、茎を切り倒し、琉生の腐らせる魔法をかける作業もする。
明日乃、麗美さん、真望は麻糸作りだ。
最初に一角と琉生とレオは麻の群生地に行き、麻を切り倒し、土に魔法をかけて早く腐らせる作業をし、俺とシロは竹林で竹を切る作業をする。まあ、竹を切っているのは俺だけで、シロはなんかあった時の予備戦力だ。
一角と琉生とレオが作業を終わらせ、竹林で合流。竹の水筒を作り、水を汲み、持ってきた土器の水瓶にも水を汲み、俺が切っておいた竹を持てるだけ持って帰る感じだ。
シロが一生懸命竹を運ぶ。結構力仕事もできそうだな。明日乃より俺に似たのか?
そう考えると少し可愛く見えてくる。
荒縄も足りないらしいので、このメンバーで、前の拠点のあたりに行き、枯草を集めてくる。ついでにバナナも取って帰る。
シロが肉を食わないからな。バナナで代用する感じだ。本物のウサギがバナナを食べるか疑問だがな。
残り時間は荒縄を作り昼まで作業をする。
【異世界生活 28日目 12:00】
今日は早めにお昼ご飯を済ませ、ダンジョンに向かう。
鈴さんの槍の穂先研ぎもギリギリ間に合い、お礼を言う。
今日のパーティは俺、明日乃、一角、麗美さん、真望だ。
あえて、琉生ではなく麻布作りで忙しい真望を選んだのは、スキルが攻撃寄りだからだ。
なんだかんだ言って、琉生のスキルは防御寄りだし、真望は火属性魔法を使えるので、ウッドゴーレムには相性がいいかもしれないと思ったからもある。
ちなみにみんなのレベルはこんな感じだ。
流司 レベル11 レンジャー 剣士
明日乃 レベル11 神官 聖魔法使い 剣士見習い
一角 レベル12 狩人 剣士
麗美 レベル12 医師 剣士 治癒魔法使い見習い
真望 レベル11 剣士見習い
鈴 レベル11 鍛冶師見習い 剣士見習い
琉生 レベル11 テイマー見習い 剣士見習い
こっそり一角のレベルが上がっていたり、シロの召還で俺のレベルが1下がっていたり、あと、見習いの称号が少し消えていたりする。
とりあえず、泉の裏の丘の中腹にあるダンジョンに入り、1階と2階を無難に攻略する。レベルダウンした俺と前線で戦う予定の真望に経験値を集中させる。
2階を攻略するころには、レベルダウンした分の経験値も補え、俺はレベル12に戻る。
真望は経験値が少し足りずレベル11止まりだ。
まあ、3階で無茶させる予定なのでレベル12になるだろう。
そして、今日の課題である3階の攻略。
お祈りポイントを使いまくって今日は無理に3階を攻略するのだ。それにより、経験値が美味いと予測される4階に侵入する権利を得る。それが今日の課題であり目標だ。
とりあえず、レベル10のウッドゴーレム(イッカクウサギ)は1体もしくは2体ずつなら対応できるので真望にとどめをささせる感じで2体出だすエリアまで進む。
「そろそろ、3体出てくるエリアになるぞ。3体出たら予定通り、明日乃は結界魔法を頼む。それ以降は敵の動きに応じて事前に決めたプランでいくからな」
俺はそう言い、みんな頷く。一角と真望あたりはプランを全部覚えているか怪しいけどな。
次の戦闘は運よく2体、そしてその次の戦闘がとうとう3体ウッドゴーレムが出るエリアに入る。
このダンジョンのウッドゴーレムは素早さ特化のようで、俺達より低レベルなのに相性が悪く苦戦している。レベル10が3体となると現段階の俺達の強さでは無傷では勝てないのだ。
目の前に3体のウッドゴーレムが待ち構える。
「いくぞ。明日乃、合図したら結界魔法、敵が攻撃してきたら迎え撃つ。逃げるようなら追いかけて最奥のボス部屋近く、行けるところまで行く」
俺はみんなに聞こえるように言う。どうせ、一角や真望は半分くらい忘れているだろうしな。
「真望、どれを狙ってもいいから『炎の矢』を撃て」
俺は真望にそう言い、真望が詠唱を始め、真ん中のウッドゴーレムに向けて魔法の矢を放つ。
そして、ウッドゴーレムは当たり前のように避け、しかも近づいては来ない。
「この距離じゃ無理か」
俺は独り言のようにそう呟き、敵との距離をゆっくり縮める。
そして、敵が待ち構える区画の一つ手前の区画に入った途端、3体のイッカクウサギの姿をしたウッドゴーレムが飛び掛かってくる。
「明日乃、結界魔法だ」
俺はそう叫び、
「神よ力をお貸したまえ。『聖域』」
明日乃が魔法の呪文を唱え、俺達のまわりにドーム状の半透明な光の膜が現れる。
敵はどう動く? 俺は集中して敵の動きを読む。
よし、そのまま突っ込んできた。
「みんな、迎撃用意」
俺はそう言って槍をまっすぐ構える。
麗美さんや一角、真望もそれぞれ得意な構えをする。
イッカクウサギ型のウッドゴーレムが、結界に、角で突撃、そのまま、両手の爪で2連撃、一気に結界の耐久力が3減り、残りの2匹も同じように結界に攻撃を仕掛け、耐久度が9も減ってしまう。
俺は冷静に、ウッドゴーレムが地面に着地したところを狙い、両目にある弱点、核を片方、破壊する。一角がすぐにフォローしてくれて、もう片方の目も潰す。
麗美さんも冷静に処理。2体のウッドゴーレムが霧散し、経験値に変わる。
真望に飛びついたウサギに真望が槍で一突き、核をわずかに外す。
イッカクウサギの姿をしたウッドゴーレムはひとっ跳び、バックステップで後方に下がると、そのまま踵を返し逃げていく。
「やっぱりか。プランB。結界を維持したまま走るぞ。ボス部屋手前まで走る。一角は明日乃のフォローと後方の警戒を」
俺はそう言って逃げたウッドゴーレムを追いかける。真望が慌てて、ドロップアイテムを拾い走り出す。
ウサギの毛皮も青銅の爪も山ほど拠点にある。さすがに今日くらいはドロップアイテムを無視してもいいんだがな。俺はそう思いながら笑う。
みんな、結界をはみ出さない程度のスピードで、明日乃がバテない程度の速度で走る。もちろん、ウッドゴーレムには追い付けない。
それでいい。結界の効果時間が尽きるまで少しでも前に進めればいいのだから。
プランB、ウッドゴーレムもしくはダンジョンを管理している精霊に学習能力があり、柔軟に対応する能力があり、結界を見て逃げる、時間稼ぎをする手段を取られた場合の対策だ。
「はぁ、はぁ、り、りゅう君、もうすぐ結界が解けるよ」
明日乃が走りながら俺に声をかける。
「結界が解けたら少し休憩しよう。ウッドゴーレムが来たら結界魔法をもう一度頼む」
俺は周りに敵がいないことを確認し明日乃にそう答える。
そして、半透明の膜が無くなり、一度止まる。
「やっぱり、逃げたわね」
麗美さんが俺に話しかける。
「ああ、結界魔法は時間制限があるからな。俺だったら同じことを考える」
俺はそう答える。
「そして、ボス部屋前で一斉に襲ってくる。そんな感じでしょうね」
麗美さんうんざりするような顔でそう言う。
「そうなったら、全員強化魔法で一気に駆除すればいい。強化魔法を使うときは真望と一角はペアで動いてくれ。一角の強化魔法の説明文が怪しいからな」
俺の作戦はそんな流れだ。
一角の強化魔法は素早さというか加速度が上がるが回避率が下がると説明が書いてあったらしい。なので、回避率も素早さもあがる真望にフォローをさせる感じだ。たぶん、一角の強化魔法は直線的な素早さだ。
見張りを交代しながら水を飲んで呼吸を落ち着かせる。
「そろそろ行くか」
俺は歩き出す。とりあえず、敵が来るまでは結界を張らず歩きながら移動する。
そして、行き止まりで、宝箱? 粗末な木箱を開けていつもの『青銅の粗悪な斧』を回収する。
「おい、流司、敵が来たぞ」
一角が俺にそう声をかけてきて、振り返ると、ウッドゴーレムが猛スピードで迫ってくる。3体だ。
「明日乃、結界魔法だ。そして、たぶん、また走るぞ。それと真望、敵を引き寄せて、魔法が当たりそうなら魔法を使え」
俺は明日乃と真望にそう伝え、槍を構える。
そして、さっきと同じ流れ。
明日乃が結界魔法を使い、イッカクウサギ型ゴーレムが角で結界に突撃、両手の爪で2連撃、着地したときに俺と麗美さん、一角で2体のゴーレムにとどめを刺し、そして今回は、真望が火の魔法を唱える。
「やっぱりよく燃えるか」
「うん、よく燃えてるね」
俺と明日乃がウッドゴーレムを追いかけながらそう言う。
ウッドゴーレムと真望の火の魔法は相性がいいようだ。当たれば、核にあたらなくても延焼して倒せそうだ。
最後の1体は真望の炎の魔法で焼かれながら必死に逃げ、最後に力尽きてマナに還る。そして、なぜかまっさらなウサギの毛皮をドロップ。
俺はドロップアイテムを確認し、呆れるように笑う。まるでゲームだな。
そのまま、ダンジョンを走り続け、遭遇したウッドゴーレムは、俺達を見ると踵を返し、逃げていく。敵が4体出るエリアに入るが、ウッドゴーレムの行動は変わらずただ逃げる。逃げるウッドゴーレムを追いつつ、右の壁に沿ってどんどん進む。
途中、明日乃の結界魔法が切れて、休憩するが、ウッドゴーレムに襲われ、急いで結界を張り、反撃、そこからまた走り出す。
「そろそろ、来そうだな」
一角が後ろを警戒しながらそう言う。
「ああ、多分、この先が最後の部屋っぽいしな」
俺は一角に答える。
「ここにいる敵、全部倒してから、ボスと対面するのよね?」
「ああ、逃げるようにボス部屋に焦って飛び込んだら何が起こるか分からないし。いつも通り、落ち着いてボスを観察してから挑みたい」
麗美さんの問いに俺はそう答え、武器を構え直す。
俺達は前後をウッドゴーレムに囲まれる。ウッドゴーレム達の目的は俺達がボス部屋に入ることを阻止することだから結界魔法を使おうと、攻撃が効かないといえど、最終的には戦うしかないのだ。
まあ、攻撃し続ければ結界も壊れるのだから無駄ではないのだが。
ウッドゴーレムが4体1組、前に3組、後ろに5組ってとこか?
こんな状況でも4体ずつ攻撃してくる決まりを守ってくれるのはありがたいな。
「明日乃は結界魔法を切らすな。明日乃以外は補助魔法をかけて各個撃破、ヤバくなったら結界に飛び込め。あと、結界から離れすぎるな」
俺が号令を掛けると同時に後ろから集まってきたウッドゴーレムから仕掛けてくる。
俺達は反転し、迎え撃つ。
「獅子の咆哮」
「狼の疾走」
「猫の歩み」
「狐高の狩人」
俺、一角、麗美さん、真望は、横一列に並び駆け出しながら、神と精霊に祈り、補助魔法を唱える。
全員の素早さが上がり、それぞれの補助魔法の特徴を活かした戦闘に移る。
俺は安定した素早さ上昇と回避率上昇、そして攻撃力の上昇。
対峙する、イッカクウサギ型のウッドゴーレムが俺に跳びつき、角で突き刺そうとする。
俺は冷静に、ウッドゴーレムの顔面を槍の柄で殴りつけ、地面に叩きつける。
一瞬動けなくなったウッドゴーレムに対し、弱点の核、両目の赤い瞳を槍で突く。
外してもいいように何度も突き、ウッドゴーレムが霧散し、マナに還る。
圧倒的な素早さと手数でウッドゴーレムを手玉に取る。
他のみんなも補助魔法の効果で同等以上に渡り合えているようだ。
「流司、次、いくぞ!」
一角がそう叫び、次の区画に待つウッドゴーレムに飛びかかる。凄まじいスピードだ。
だが、予想どおり、直線的な突進で、直線のスピードは上昇するが、左右の回避率は落ちるようだ。
「一角、突出し過ぎるな。囲まれるぞ。真望は一角をフォロー。俺も行く」
俺は一角と真望にそう叫び急いで一角を追う。
一角は素早さを活かし、ウッドゴーレムを1体跳ね飛ばすが、左右から別の敵に挟まれ、足が止まる。
そして、2体同時の攻撃に、さすがの一角も足が止まった状態では躱し切れない。角での攻撃こそ受けなかったものの、爪での攻撃を3回受け、15ポイントものダメージを受ける。
一角のHPが半分の14ポイントまで下がる。
「言わんこっちゃない」
俺は呆れるようにそう呟き一角の右にいるウッドゴーレムに突撃、横槍を入れ、真望は一角の左側のウッドゴーレムを相手にする。
そして、一角も最初に跳ね飛ばしたウッドゴーレムに対峙し直し、とどめを刺す。
「一角、俺達に足並みを合わせろ。今みたいに囲まれて足が止まると命取りになるぞ」
俺は一角に忠告する。
「多分、一角の強化魔法は広い戦場で走り回るのに向いている魔法で、狭いダンジョンでは力を十分発揮できないんだと思う。自分の魔法の悪い癖も把握して上手く使う訓練のつもりで今日は戦うといいと思うぞ」
俺は一応、フォローっぽい事も言っておく。
一角は悔しそうな顔をするが、自分でも気づいてはいるのだろう。文句は言ってこない。
「そろそろ、4体目倒しちゃっていいかしら?」
麗美さんが反省会を始めた俺達にそう言う。対峙するウッドゴーレムをいなしながら。
一角と話す時間を確保してくれていたって事か? 区画に1体でも残っていたら次の4体は襲ってこないルールがあるからな。
「ごめん、ちょっと待って。明日乃と結界をもう少し前に出してから倒して欲しいかな」
俺はそう言って明日乃にもう少し前進するように言う。
そして、一角のHPを回復してもらう。
そして、明日乃が前進したところで、最後の1体を倒してもらう。
というか、麗美さんの動き凄いな。まさに猫って感じだ。
前後左右、自在に飛び回り、壁を使った立体的な動きも可能。素早さも結構あるし、適当にあしらわれている敵が可哀想になるくらいだ。
補助魔法、いや、強化魔法といった方がいいか。今回使ってみたが予想以上に使いやすく、それぞれに癖があってそれを把握するのに時間がかかりそうだ。
俺は、獅子。直線的な動きだが、多少の回避能力もあり、しかも筋力や攻撃力が若干あがる。
麗美さんは猫。前後左右機敏な動きが可能で、壁や段差を使った立体的な攻撃も可能。麗美さん自身の持つ、格闘技術をプラスするとまさに無敵の存在になるようだ。
一角は狼。直線的なスピードに拘ったステータス変更。スピードに乗ると無敵だが、ダンジョンなど狭い場所では動きが制限され、一度止まると、スピードを失い、左右の回避もおぼつかなくなる。多分、広い戦場で使い方を間違わなければ最強の強化魔法だろう。
真望は狐。小動物を確実に狩る狩人。素早さの上昇に加え、旋回力や回避力も優れ、まさにバランスの良い強化魔法だ。モフモフの尻尾の空気抵抗をブレーキや操舵に使う仕草は魅惑的で追いかけたくなってしまう。
明日乃は兔。防御寄りの強化魔法らしいので今回は使わせていないが、多分、使い方を考えれば攻撃にも十分使えるとは思う。まあ、後日検証だな。
そんな感じで、麗美さんがゴーレムを前後左右に振り回して、槍で的確にとどめを刺す。
そしてさらに後ろに控える4体に戦いを挑む。
一角は少し突撃するタイミングを抑え、俺と真望が飛び出したところで、タイミングを合わせ突撃。一角の強化魔法のいいところを活かす方法が分かり出したようだ。
そんな感じで、まずは後ろから包囲してきた5組を蹴散らし、方向転換して、ボス部屋前に居座る3組も蹴散らす。魔法の効果時間の10分では倒しきらず、もう一度補助魔法も結界魔法も使ってしまった。
「結構、お祈りポイント使わなかったわね」
麗美さんがそう言う。
確認すると、一角、麗美さん、真望の3人の補助魔法習得にかかった900ポイント、真望の炎の矢の習得にかかった300ポイントを足しても6000ポイントしか使っていない。
残りのお祈りポイントは42700ポイントもある。このまま4階も攻略できるのではないかという期待と欲望が鎌首をもたげてしまう。
とりあえず、まずは落ち着いて3階のボスを確実に倒そう。
ボスの部屋に入る前に、各自のステータスをチェックすると真望がレベル12になっていた。さっきの激しい戦いでかなりの経験値を得ることができたようだ。
そして落ち着いたところで、いつものボス部屋のぞき見。
扉を開けて、みんなで扉の陰から中を覗き、鑑定スキルを使い、次の戦いの情報を集める。
とうとう、難航していた3階攻略に終止符が打たれるときがきた。
次話に続く。
昨日は仕事が多忙の為更新できず申し訳ありませんでした。