第31話 えっ、誰? 6人目の仲間がいた
【異世界生活 9日目 9:00】
ステータスウインドウについている時計のアラームが鳴る。起きる時間か。
俺は上半身を起こそうとすると、俺の右腕に絡みついて幸せそうに寝ている明日乃に気づく。よっぽど疲れたんだろうな。ぐっすり眠っている。
昨日はイノシシが狩れたおかげで、とりあえず、干し肉にするために赤身を切り身にして海水に浸ける作業、その後、干し肉にならない脂身の多い部分を焼いて、急いで食べなくてはいけなくなり、焼肉パーティになった。
そして気づいたら夜の0時過ぎ。見張りを一角、レオ、麗美さんに任せて、朝の10時まで寝てしまおうという事になった。
まあ、寝るのが0時過ぎになった原因は一角のせいでもあった。イノシシを解体し終わったあと、一角が黒曜石の加工に夢中になって、それを見た真望も夢中になって、イノシシ肉の加工をサボったのだ。結局、俺と明日乃と麗美さん3人だけで干し肉作りの下準備をすることになり、気づいたら夜遅くなったというわけだ。
そして俺は、さすがに10時間は寝られないと思ったので朝の9時にセット。疲れていたのか俺も明日乃も意外と寝られてしまい、今に至るというわけだ。
明日乃を起こさないようにそっと右腕を引き抜き、家から這い出す俺。
「麗美さん、おはよう」
俺は後半の見張り役だった麗美さんに挨拶して、麗美さんの隣に座るもう一人に挨拶しようとして、
「???」
「誰?」
俺は首をかしげそう言う。
「さあ? とりあえず、さっき神様に召喚されたみたい?」
麗美さんもにっこり微笑む。
なんか見覚えはあるんだよな。誰だっけ?
とりあえず、麗美さんに着せられたのか、葉っぱの服を胸と腰に巻いた女の子、いや、女の人かな? 少し日焼けした肌、日焼けで脱色したような少しぼさぼさの金髪に近い、少し灰色みがかった焼けた茶髪の長髪、活発で健康そうな顔立ちと肉体、麗美さんとはまた毛色が違うがナイスバディの美女だ。で、誰だっけ?
俺は記憶の糸を辿りこの女性の事を思い出そうとする。
「鈴だ。殖栗鈴。君は流司か?」
そう言って自己紹介する女性。
「鈴さん? ああ、ベルさんか。思い出したよ。真望のSNSコミュニティのグループにいたベルさんか」
俺は鈴という名前を聞いて一人の女性を思い出す。そしてSNSのプロフィールの写真を思い出し、SNS上の呼び名で呼んでしまう。
「SNSのお友達?」
麗美さんが俺にそう聞く。
「そうそう。真望のSNSグループのメンバーで面白い人だから色々絡んでいたんだ。色々相談に乗ってもらったり、雑談したり、色々? リアルだからベルさんって呼んだら不味かったかな?」
俺は麗美さんにそう言って改めて鈴さんに挨拶をする。
「そうだね。本名で呼んでもらえた方がいいかな。鈴って呼んで欲しい」
「初めましてかな? 鈴さん。SNSの電話機能とかで話は良くしたし写真で顔は見たことあったけど会うのは初めてだもんね」
俺はなるべく親しく、そして、初めて顔を合わせる事も踏まえて丁寧に挨拶する。
それと、俺が、ハンドルネームではなく、鈴さんの本名を知っていたのは電話で話すような仲だったからだ。
「ああ、初めましてだね。ただ、私としては初めての気はしないけどね。それに、相談、特に人生相談に乗ってもらったのは私の方だし。流司には助けられたし、ある意味命の恩人と言ってもいいくらいだ」
鈴さんが改まってそう言う。
「命の恩人なんて大げさな。やりたいことがあればやればいいって言っていただけだし」
俺はそう言ってごまかし笑いをする。
実際、何もしていないし。なんか家族の事で悩んでいたっぽいから、親の事は忘れてやりたいことをやればいいみたいな事を言っていただけだし。
「だけど、流司の一言一言に私は救われたよ」
そう言って、鈴さんが優しく笑ってそう言う。
「そっか、幸せそうでよかったよ」
俺もほほ笑む。
「と、いうか、この世界に転生させられちゃって幸せとか幸せじゃないとかの問題じゃなくない?」
麗美さんが的確なツッコミを入れる。そう言えばそうだな。
俺は麗美さんと一緒に鈴さんにこの世界の事を説明する。
まずは、この世界は、元の世界とは別の神様が作った世界、元の世界とは違う異世界であること。
神様の望みは、毎日祈って神様の力を回復させること、サバイバル生活をしながら、この世界を開拓して、住みやすくして心豊かに、幸せに暮らすこと。
そして異世界分霊の話。元の世界には自分の魂の10分の9がいて普通に暮らしている事。逆に自分達は魂の10分の1で、元の世界に戻っても居場所が無いし、そもそも戻る方法が無いこと。
そして、分霊した魂が動物の本能の部分が濃く、獣の耳、通称『けもみみ』と尻尾が生えてしまっていること。
そして最終的に、俺と繁殖して子孫を増やさないといけないことも麗美さんがちょっと楽しそうに付け足す。
「どうせ、その感じだと、鈴ちゃんも流司に惚れてるって口でしょ?」
麗美さんが鈴さんをからかうようにそう言う。
「そうだね。流司がしたい、って、言ってくれるなら、子作りだって厭わない。いや、嬉しいかな」
正直に答える鈴さんに俺の方が赤面する。
「いやいや、俺、まだ、高校生だし、サバイバル生活も始まったばかりで、危険がいっぱいだし、子作りとか、ねえ」
俺は慌てて麗美さんに助け舟を求める。
「じゃあ、生活が落ち着いて、大人になったら、鈴さんとも子作りしたいってことでいい?」
麗美さんが子供を冷やかすようにそう言って笑う。
確かに、鈴さんは綺麗だし、活発そうで楽しい女性だし、頼りになりそうな大人の女性だ。鈴さんがして欲しいっていうなら、断る理由もないし。
そんなことを考えて、赤面してしまう。
「分かりやすい子ね」
「ああ、分かりやすいね」
麗美さんと鈴さんが顔を見合わせて笑う。なんかいいコンビ?
「いやいや、俺には今真剣にお付き合いしている子がいるから、鈴さんとはそういう関係にはなれない」
俺は慌ててそう言う。危なく明日乃を裏切ってしまうところだったよ。
「フラれちゃったわね」
鈴さんがさほど残念ではなさそうにそう言う。
「でも、『今のところ』らしいわよ。将来的に流司の奥様がOKしてくれたら可能性はあるからあきらめちゃダメよ」
麗美さんが、まるで自分にでも言い聞かせるように鈴さんにそう言う。
「そっか、じゃあ、その将来の奥様を口説かないとダメね。将を射んとする者はまず馬を射よ。みたいな? この世界に来てるのね、彼女」
鈴さんが冗談を言う様に笑ってそう言う。
「そう言えば、鈴ちゃんって何歳? 私よりは年下っぽいけど? ちなみに私は阿丹麗美。23歳で、今年で24歳。向こうの世界では医学部の6年生だったわ」
そう言って麗美さんが自己紹介する。
「私は19歳の大学2年生。今年で20歳になるわ。京都にある大学で建築の勉強や工芸品の勉強をしていた。まあ、工芸品の方は趣味みたいなものだけど」
鈴さんがそう自己紹介する。
「そういえば、鈴さん、大学行ったって言ってたもんね。やりたいことがあるって、建築とかものづくりがしたいって。やりたい事に進めたんだね。おめでとう」
俺はそう言って鈴さんをお祝いする。それに対しで、鈴さんが本当にうれしそうな顔をする。
「まあ、こっちの世界に来ちゃったから夢とかやりたい事とか関係なくなっちゃったかもね」
麗美さんが笑いながらそう突っ込む。
そうだよな。麗美さんも鈴さんも夢半ばでこっちに無理やり連れてこられちゃったみたいなものだし。
「なんか、ごめん。俺のせいでこっちの世界に無理やり引き込まれちゃったかもしれない」
俺は2人に謝る。
「まあ、元の世界にも私が、もう一人の私がいるんでしょ? だったらいいんじゃないかな? 私としては親のしがらみも切れて逆に気分はいいかもしれない」
鈴さんがそう言って笑ってくれる。
ちょっと野性的でぶっきらぼうな女の人。麗美さんとはまた雰囲気の違う綺麗なお姉さんって感じだ。なんか、お父さんと反りが合わないみたいな事で悩んでいたもんな。
それはそれでこっちの世界に来れてよかったって事か?
「おはよう、流司、麗美姉。と、誰だ?」
一角が起きてきて俺と同じ反応をする。
その反応に3人で笑う。
なんか幸せそうに笑う鈴さんに俺は少し安心した。
とりあえず、もう一度、一角にも自己紹介をし直した。
鈴さんは母親の実家が建築業をしていて、工業高校に通って建築や工業の勉強をしていた女の子だ。
鈴さんの父親はなんかよく知らないけど有名な政治家らしくて、母親の土建会社を利用して陰で悪いことをしていたみたいだが証拠がない。そんな感じのニュースが続いたそうで、鈴さんはその事にものすごく悩んでいた。だから、俺は親のこと考えないで、やりたいことだけ考えればいいと適当な事を言ってしまった。
でも、それで吹っ切れたらしく、猛勉強。単身、京都の大学に進学し建築の勉強と京都の伝統工芸の勉強をしていたそうだ。実際に色々な工芸品の工房でバイトしながら生計を立てつつ大学に通っている苦学生さんだったそうだ。
工業高校っていうのは卒業後、現場で即戦力として働くための勉強をする学校なので、大学受験は難しいと言われているらしいが、予備校に通ったり、家庭教師に習ったりして大学受験に成功したそうだ。ちなみに、昔と苗字が違うのが気になったので聞いたところ、大学入学を機に父親の苗字を捨てて、母親の実家の苗字を名乗っているらしい。
建築の知識に加え、大学では金属加工と木材加工の両方を専攻していたそうでサバイバル生活の即戦力になりそうな強い味方が加わった感じだ。
「凄いな。家づくりのプロとものづくりのプロがきた感じか。サバイバル生活の質が上がりそうだな」
一角が尊敬のまなざしでそう言う。
「まあ、原料がないし、工具もないから最初は苦戦しそうだけどね」
麗美さんがそう言う。ちょっと自分を卑下するように。
「まあ、でも、鈴さんが金属加工できるようになれば、メスとか手術器具とか作れるようになって麗美さんも医学知識を活躍させられる日が来ると思うよ」
俺は麗美さんをフォローする。
「簡単に金属加工ができないのが無人島、文明を失ったことの難しさなのよね」
麗美さんが仕方なさそうにそう言う。
鈴さんも仕方なさそうにうなずく。
「まあ、やれることをやって、文明レベルを上げるしかないんじゃないか?」
能天気にそう言う一角。
「そうね」
「それしかないんだろうね」
麗美さんと鈴さんも気を取り直す。
「仲間が7人揃ったら、お祈りポイントが余り出すだろうし、いっぱい祈って、この世界で作れないものは神様に貰えばいいんじゃない?」
俺はそう言ってフォローする。
「お祈りポイント? そんなサービスもあるのね。だったら、本格的な金属加工をする為にも、耐熱煉瓦かな? それか耐熱の『るつぼ』。るつぼも貰うならるつぼを掴むハサミも欲しいな」
鈴さんがさっそく神様に欲しい物を想像している。
「ああ、そう、流司クンに一角ちゃん、朝ごはんまだでしょ? 昨日のイノシシ肉の残りが沢山あるから、温めて直して食べちゃいなよ」
麗美さんがそう言うので、たき火で温めなおして朝食を食べる。脂身多めのイノシシ肉。昨日の夜から連チャンだとさすがに胃もたれしそうだ。
「肉と魚、そろそろ、違うものも食べたいな」
一角が愚痴を漏らす。
「そうだな。お米とかパンとか食べたいな」
俺も一角に答えるようにそう言う。
「鈴ちゃんが来たから家づくりとか工具づくりが先じゃない? それが終わったら農業も始めるといいかもしれないわね」
と麗美さん。
「お祈りポイントで稲とか籾とか貰えるかな?」
俺はそう言う。
「田んぼは難易度高いかもね。まずは小麦じゃない?」
鈴さんが俺の意見にそう答える。
「パンとかうどんでもいいな」
一角がそう漏らす。こいつは結構食にうるさいんだよな。
そんな感じで遅い朝食を食べながら、今日やることを考える。
「とりあえず、私は服が欲しい」
鈴さんがそう言う。
「イノシシの毛皮とかクマの毛皮があるから、これを綺麗に洗い終わったら服を作りましょう」
麗美さんがそう言う。
「そうなると、川に行かないとね。ついでに飲み水も汲んで来るか」
俺はそう言う。
「じゃあ、流司クン、私とお水汲みに行こう」
麗美さんが目を輝かせて、そう言う。目的は明白だ。
「そんなあからさまに浮気をしたら明日乃に怒られえるぞ」
一角が冷めた顔でそう言う。目的がバレバレってことだ。
「明日乃? ちゃん? 流司が交際しているのは真望じゃないの?」
鈴がそう言う。
そして、一角と麗美さんが首を傾げる。
「流司クンの恋人、将来の奥様は明日乃ちゃんよ」
「だな」
麗美さんと一角が声を合わせるようにそう言う。
「どういうこと?」
鈴さんが首をかしげる。
そうか、真望のSNS上での知り合いだから、俺と真望が本当に付き合っていると思っていたのか。真望がどうしてもっていうから、付き合っていた偽装彼氏だったんだけどな。写真の顔とかも隠していたけどそりゃ、偽装彼氏の相手が俺だって、バレる人にはバレるよな。なんか面倒臭いことになってきた。
「なんて説明したらいいか。真望には知らない顔で接して欲しいんだけど、向こうの世界では俺と真望の関係は親友で本当は彼氏じゃない。彼氏いない真望がモデル仲間達に見栄を張る為に、SNS上では自分の彼氏のつもりで俺の写真を撮ったりしてアップしていたんだよ。ちょっと可哀想だったし、彼女がどうしてもって言うから仕方なく? 彼女、今の見た目に反して結構人見知りするし、人付き合いが下手な子なんだよ。で、俺しか男友達がいなかった。みたいな? 素直でいい奴なんだけどね」
俺はそう言って鈴さんに説明する。ばらしたら可哀想だけど、色々知っている鈴さんには嘘をつき続けられる気がしないしな。
「そんなことしてたんだ」
麗美さんが真望に同情するような顔になる。
「流司もろくなことしないな」
一角は明日乃の味方で真望の昔も知っているので俺を少し冷たい目で見る。
「女友達、親友のお願いだからって、協力していたけど、女性側からしたら可哀想な事していたかもしれないな。同情心から付き合っているふりなんて」
俺はそう言って反省する。
「ああ、なんか、そんな気はしていたんだよね。真望の彼氏との写真? 距離感微妙だったし」
鈴さんがなんとなく納得する。
「まあ、真望にはそのあたりの事は触らないようにしてやって欲しいかな」
俺が最後にそう締めくくると3人は納得してくれたようだ。
その後朝食を食べながら雑談をしていると、明日乃も起きてくる。
「で、その人、誰?」
明日乃も同じような反応をする。
結局、もう一度同じ自己紹介をすることになる。もう、みんな笑うしかなかった。
そして、薪拾いに行っていたらしいレオも帰ってきて同じ反応をするが、もういいや。暇な時に二人でやってくれって話になった。レオ自身は明日乃以外あんまり興味なさそうだしな。
そして、最後に起きてきた真望はSNS仲間だけあって、鈴さんの事はよく知っているらしく自己紹介は不要だった。
全員揃ったところで、今朝の出来事の本末を麗美さんに説明してもらう。
原因は、昨日の干し肉づくりと焼肉パーティ。そして、一角と真望の黒曜石への浮気。それが原因でみんな寝るのが遅くなり、結果、起きるのも遅くなった。
そして、見張りの麗美さん以外が寝ている間に、召喚された鈴さん。
麗美さんの話では神様も、サプライズで召喚したのに、真っ昼間なのにみんな寝ていて、麗美さんしかいない。がっかりして、寂しそうに帰って行ったらしい。何やっているんだ? あのおっさん。神様なんだから、みんなが起きているか確認してからすりゃいいのに。
というか、原因はすべてあのおっさんだな。
ちなみに、鈴さんのけもみみは牛っぽい? なんか小さい角も生えている。健康的で張り裂けそうな巨乳と日に焼けた褐色の肌によく合っている気はする。
「お腹すいたね。真望ちゃんも一緒に朝ごはん食べよ?」
明日乃はそう言って昨日の残り、イノシシ肉の焼肉を焼き直し始める。
「ベルさん、じゃなかった、鈴さん、なんか変わったわね」
朝食を待つ間、真望がそう言う。
「真望も鈴さんとは直接会ったことなかったんじゃないのか?」
俺は気になって真望に聞く。
「そうね。直接、会ったことはないけど、モデル業界じゃ結構有名な人だったんだよ。私の載っていた雑誌とは違うけど、もう少し大人な感じのファッション雑誌? その雑誌の専属モデルさん。なんか、ロックというかパンクというか、なんか尖った生き方みたいな格好いいモデルさんだったんだよ。私の憧れの人の一人だったの、でも突然辞めちゃって」
真望がそう言う。最後は少し悲しそうに。
なるほど。そう言う絡みで鈴さんは真望のSNSグループにいたのか。そこまでは知らなかったよ。
「まあ、私の黒歴史だね。私がグレてた頃の話よ。親に反発して、社会の仕組み、裏の話まで知っちゃって、色々嫌になって怠惰に生きていた頃の愚行? 親に反発して家を出て、お金が欲しくてモデル稼業をやっていたら、変なファンがついて、変なキャラクターがついちゃっただけ。今はやる事を見つけて、そのころの執着が馬鹿らしくなった。結果、こんな日焼けして髪の毛もぼさぼさな私ってわけ」
鈴さんが自嘲するように、いや、今の自分を誇るようにそう言う。
「ファッションに執着することが馬鹿らしい?」
真望が少しむっとしてそう言う。
「ふふっ、違うよ。ファッション業界の事じゃない。父親の事だよ。私は父親が嫌いで、父親の生き方や汚い部分を否定し続けて生きる。汚い社会の仕組みを否定して生きる生き方? それって、嫌いって感情で人一倍意識していたって事なのよね。逆に本当に嫌いならば見なければいいだけだったのよ。人を嫌うって、人を好きになる以上にエネルギーがいるから嫌うって行為自体が無駄な行為だってね、気づいちゃったの。で、生き方を変えて、やりたいことを始めたらモデルをやる暇が無くなっただけ」
そういって、真望に寄り添うと優しく頭を撫でる。
「鈴さんは元の世界で怠惰だったって逆のパターンかな? 生えた耳が牛の耳だと、『七つの大罪』は『怠惰』。対する美徳は『勤勉』? 雰囲気全く逆だよね」
明日乃が料理をしながらいつもの中二病っぽい解説を始める。
「たぶん、根は怠惰なんだよ。でもやる事見つけちゃったから怠惰でいる暇がない。サボっていた分取り返さないといけない。それが今の私かな?」
鈴さんがそう言う。なんかちょっと格好いいお姉さんって感じだ。
「怠惰といったら麗美姉の方が向いているもんな」
一角が余計なことを言う。まあ確かにそんな気もする。昔からだらし姉だし。
「私は怠惰なんじゃないの。自分の興味のあること以外の努力ができないだけ」
麗美さんが一角の意見に異を唱える。
「まあ、確かに勉強はできるし、医学に関しての努力は半端ないからな。麗美さんはどちらかっていうと一つの事しかできないってやつだ」
俺はフォローになってないフォローをする。
「一つの事だけじゃないわよ。今は医学も好きだけど、流司クンも大好きだし」
そう言って麗美さんは俺の頭を胸に抱き寄せる。
「麗美さん!!」
明日乃がちょっとキレた。
麗美さんは猫耳で『七つの大罪』は確か『嫉妬』のはずだけど、どちらかというと明日乃に嫉妬させているだけのような気もするけどな。それとも、嫉妬しているからたまに俺達に意地悪をするのか?
まあ、よく分からないので『七つの大罪』の話は明日乃の中二病知識ぐらいにスルーしておこう。
とりあえず、金属加工と木材加工のプロ、そして建築の知識もある心強い仲間、鈴さんが仲間になった。
次話に続く。