第49話 決戦(2)
「やった……!」
ケヴィンの聖撃による一撃は、見事にドラゴンの片翼を捉え、それをずたずたに引き裂いていた。
ドラゴンの飛行能力は魔法的な力によるところが大きいと言われているものの、それも翼が潰されては機能しなくなる。
だが──
「──っ!?」
次の瞬間、振り下ろされたドラゴンの太い尻尾がケヴィンを捉え、少年の体を激しく吹き飛ばしていた。
決して油断したわけではなかったが、特定部位を狙う攻撃に集中していたため、防御に意識の多くを回せなかったのだ。
一瞬後、ケヴィンの小さな体は、轟音とともに大地に激しく叩きつけられた。
「がはっ……!」
とっさに受け身を取ったものの、ケヴィンは全身の骨がバラバラになったような大ダメージを負っていた。
身に着けた軽装鎧や、神聖鎧の神聖術による防御力などは、焼け石に水程度の効果しかない。
「ぐぅっ……!」
それでもケヴィンは、ふらつきながらも立ち上がる。
少年は精神を集中させ、自らに神聖術を行使する。
「至高神よ、我に大いなる癒しの力を──アークヒール! ……っと!」
全身に治癒の光が宿った直後、ケヴィンは慌ててその場から飛び退る。
直前までケヴィンがいた場所に、ドラゴンの巨大な鉤爪が振り下ろされていた。
叩きつけられた大地がひび割れ、亀裂が走る。
翼を引き裂かれたブラックドラゴンは、ケヴィン同様に村内の地面に墜落していたが、すぐに体勢を立て直してケヴィンに攻撃を仕掛けたのだ。
ドラゴンの相貌は、怒りに満ちていた。
地に堕ちた巨獣は、自らを傷付けた人間をすぐさま殺そうと、少年めがけてさらなる怒涛の猛攻撃を仕掛けてきた。
「くっ……!」
ケヴィンは慌てて空中へと退避する。
先の大治癒は有効に働いたものの、少年の全身には、いまだかなりのダメージが残っていた。
酸のブレスと尻尾による殴打──二度にわたるドラゴンの攻撃を受けたケヴィンの全身は、大治癒の神聖術をもってしても一度では治癒しきれないほどの甚大なダメージを負っていたのだ。
そこにさらなる追撃が襲い掛かる。
ドラゴンは酸のブレスを、少年に向かって再び吐き出した。
上空への退避は間に合わず、ケヴィンは再び盾を使ってブレス攻撃を防御する。
「──ぐぅうううううっ!」
それによりケヴィンはさらなるダメージを負い、盾に至ってはついに、使い物にならないほどにまで大破してしまった。
ケヴィンは重いだけのガラクタと化した盾を放り捨て、自身はより上空まで避難する。
そこで大治癒をさらに二回行使し、どうにか身体のダメージを十分に回復した。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……! そろそろ三十秒もたったか……? ──分からないけど!」
回復を終えたケヴィンは、再びブラックドラゴンに向けて突撃していく。
高速で急降下した少年は、素早く噛みついてこようとしたドラゴンの牙をギリギリで回避。
急降下から急浮上のV字を描きつつ、剣閃によって竜の首をえぐった。
ブラックドラゴンは首からどくどくと血を流し、苦悶と怒りの声を発してのたうち暴れ回る。
対してケヴィンは、飛行能力と超加速の効果をフル活用してドラゴンの周囲を縦横無尽に飛び回り、連続して攻撃を仕掛けていく。
「──うぉおおおおおおおっ!」
高速飛行する少年の稲妻のような連続ヒット&アウェイ攻撃により、巨大なドラゴンの全身に次々と裂傷が刻まれていく。
一つ、二つ、三つ、四つ、五、六、七──
ドラゴンは月光に似た斬撃で斬られるたびに、新たに血を流し、わずかずつながら確実に弱っていく。
壮竜がいかな膨大な生命力を持とうとも、この世の生物である以上、無限ではあり得ない。
ダメージを受け続ければ、やがて倒れるのが必定。
だがケヴィンのほうも、余裕があるわけではなかった。
超加速の効果時間は、あとどれだけ残っているのか。
また神聖力にも限りがあり、次にダメージを受けても治癒に回せる余裕があるかも分からないほど。
もちろん集中力を切らせば、ドラゴンの牙や鉤爪、尻尾による攻撃の直撃も受ける。
ケヴィンは心技体のすべての力を出し尽くして、大いなる竜を攻撃し続けた。
やがてその成果が表れる。
ケヴィンが一度のミスもせずに連続攻撃を仕掛けていれば、ついにはドラゴンがふらついてきた。
飛び回るケヴィンをどうにか捉えようとする攻撃も精彩を欠きはじめ、暴れ回る巨獣の力が明白に衰えていく。
あと少し。
このままいけば、このドラゴンを倒せる──そうケヴィンが確信したとき。
「あっ……」
閃光のごとき高速飛行を続けていたケヴィンの速度が、急に減速した。
超加速の効果時間切れ。
直後、ケヴィンの頭上から、ドラゴンの鉤爪が振り下ろされた。




