第27話 グール討伐
廃神殿の内部にある、いくつかの広間のうちの一つ。
ケヴィンたちはそこで、アンデッドモンスターの群れと遭遇し、戦いを始めていた。
モンスターの数は五体。
青い肌をした死人のような怪物だ。
特徴的なのは、それぞれの手指の先から長く伸びる鋭い爪。
それを振り回して、生者の肉を引き裂こうとしてくる。
聖騎士見習いの少年は今、そのアンデッドモンスター食屍鬼を、たった一人で三体まとめて相手にしていた。
「──はぁああああっ!」
ケヴィンが神聖力をまとわせた剣を振るえば、半月のごとき残光とともに、グールの胴体が深々と断ち切られる。
それを二発連続で放って一体のグールをたやすく屠ると、その隙に襲い掛かってきた残る二体のグールの攻撃を、片や回避し、片や盾で受け止めて弾く。
少年がまた素早く剣を振るうと、次の一体が再びあっさりと倒されていく。
ケヴィンの戦いぶりを見ていると、グールというモンスターがとるに足らない雑魚であるかのように見えるが、それは大きな誤りだ。
彼から少し離れた場所では、狼牙族の武闘家ワウと盗賊ジャスミンがそれぞれ一体ずつのグールを受け持って戦っていたが、楽に戦っているという様子ではなかった。
「くっ……! こいつ、ゾンビみたいなくせに、結構速いぞ……!」
「爪に麻痺毒があるっちゅうのもな……! 一発でももらったらジリ貧やぞ!」
ワウとジャスミンは、それぞれ一体のグールと対峙しながら、油断できない戦いを繰り広げていた。
それでも近接戦闘が専門のワウは、まだ有利に戦いを進めている。
より危なっかしいのは、二振りの短剣を手に戦っている盗賊のジャスミンのほうだ。
そこに後方から、援護攻撃が飛んでくる。
「炎の矢よ、わが敵を撃ち貫け──フレイムアロー!」
魔導士のルシアが放った火炎弾は、ジャスミンが相手をしているグールに直撃し、その左肩を大きく爛れさせてダメージを与えた。
だがそのグールが倒れることはなく、なおも爪を振り上げジャスミンに襲い掛かる。
ジャスミンもどうにか隙を見て短剣を振るい、グールにわずかずつながらダメージを与えていたが、そう簡単に倒れてくれる相手ではないのだ。
グールはアンデッドモンスターの中でも、中堅クラスの強さを持つ。
デュラハンやリッチなどといった強大なモンスターとは比べ物にならないが、ゾンビやスケルトンといった最弱クラスのアンデッドよりは遥かに強いといった水準だ。
特に注意すべきは、その長く鋭い爪がもつ麻痺毒。
グールの爪でひとたび傷付けられれば、その毒によって冒険者の動きは急激に鈍らされる。
それを何度も受け続ければ、ついには完全な麻痺状態になり、あとは恐怖に身を震わせながら肉を食いちぎられるのを待つばかりの無力な獲物となってしまう。
そうした要素に加え、耐久力の高さや油断できない敏捷性なども考慮したグールの格付けは、Dランクだ。
これは一人前と評価されるDランク冒険者が、一対一で戦ってかろうじて勝利できるかどうかという強さを意味している。
そうしたグールの強さを踏まえれば、ワウなどもそれなりの健闘を見せていたと評価できるのだが──
「遅くなりました、ワウさん、ジャスミンさん! ──はぁあああっ!」
「「「えっ」」」
──ズバッ、ズバッ!
援護に現れた少年の剣で、ワウやジャスミンが戦っていた二体のグールも、あっさりと撃沈した。
見ればケヴィンが相手をしていた三体のグールは、すでに倒されて地面に転がっていた。
自分の担当をあっという間に片付けた少年が、仲間たちの援護に駆け付けたのだ。
ケヴィンは爽やかな笑顔で、剣を鞘に納める。
「ふぅっ、どうにかなりましたね。怪我や麻痺は大丈夫ですか?」
「……あー、うん。少年のおかげでな」
「もう全部、ケヴィン一人でいい気がしてきたぞ……。ワウはいらない子……」
「い、いえいえいえ! 俺一人で戦っていたら、もっと苦戦してますから! それに聖騎士は、アンデッドモンスターと相性がいいんですよ!」
慌てて弁明するケヴィンに、ワウとジャスミンが顔を見合わせて苦笑する。
そこに後方からルシアがやってきて、口を挟んだ。
「でも、さっきから考えているんですけど、解せないんですよね……」
「げせないって、何がだ、ルシア?」
ワウが聞き返すと、魔導士の少女は仲間たちの顔を見渡して答える。
「ナイジェルさんの態度が、です。向こうには神聖術の使い手も、魔導士もいない。ケヴィンさんの実力だって、片鱗とはいえ見ているんです。なのにどうしてあんな余裕の態度だったのか……」
その意見には、ジャスミンもうなずいた。
「確かにな。単なるアホっちゅう可能性も捨てきれんけど、ある程度は頭が回るやつみたいだしなぁ。策士策に溺れるタイプにせよ、何かしらの勝算は持ってる感じはするわ」
「はい。それにそもそも、ナイジェルさんが正々堂々の勝負を挑んでくる時点で、違和感があるんです。あの人はそんなタイプじゃないはず……」
「んー……。あいつの考えとることは分からんけど、とりあえずここに、ごっついアイテムは一つ持ってたな」
ジャスミンはそう言って、自分の首もとを指さす。
それにはケヴィンが、首を傾げた。
「アイテム……ですか?」
「そう。あいつネックレスしとったやろ? 赤い宝石の付いとるやつ」
「そういえば……。あれってひょっとして、マジックアイテムか何かなんですか?」
マジックアイテム。
その名の通り、魔法の力が宿された道具のことだ。
アイテムのランクによってその価値に大幅な上下はあるが、強力なものであればそう易々とは手に入らない代物である。
「うちの見立て通りなら、あのネックレスに付いてた宝石は『爆炎のジュエル』っちゅう、まあまあヤバい代物や」
「『爆炎のジュエル』……? それがヤバいんですか?」
「ん。Cランク級以上の魔導士にしか使えない爆炎魔法を、誰でも使えるいう無体なアイテムでな。あれ使われたらグールの群れにも効果大やろ」
それには魔導士であるルシアも、横から口を挟む。
「爆炎魔法──爆裂火球の呪文ですね。私ではまだ行使できない、中級上位の魔法です。ゾンビやスケルトンの群れぐらいなら、それ一発で全滅させられるだけの威力がある範囲攻撃魔法……それを誰でも使えるなんて、ひどいアイテムですよ」
「魔導士の商売あがったりやな。まあ言うて、使い捨ての高級品やから、そうそう使われんと思うけど。あんなんホイホイ使ってたら、金貨百二十枚の報酬でも余裕で足が出るわ」
「ですよね。そうまでして私たちに頭を下げさせたいとは、少し考えづらいんですよね……」
「そうよなぁ……」
「「「うーん……」」」
ケヴィン、ジャスミン、ルシアの三人が同時に首をひねった。
一方でワウの言うことは、明朗だった。
「分からないことを考えていてもしょうがないぞ。ワウたちにできるのは、できるだけたくさんのグールを倒すことだ。できることをやったほうがいいぞ」
「……ん、そやな。ワウの言うとおりや。分からんことで無駄に悩んでもタイムロスになるだけ。ちゃちゃっと次のグールを倒しに行こか」
「「「賛成ーっ」」」
そんなわけで、冒険者たちはさらなるグール討伐を目指し、廃神殿の探索を続けていった。




