1話 教え
「なんで……」
空を見上げた彼女の顔に赤い雫が落ちてくる。
辺り一面赤い雫が降りしきる。
彼女の周りは炎の海。
そして多数の倒れている人影。
彼女は人影を抱き抱えている。
声にならない叫びが響き渡る。
アリスの目が開く。
汗だくのアリス。
「ううっ…まただ…。」
「うっ!」
アリスの脳内に磔にされ足元から炎が上がってくる光景が再現される。
「神様!どうか助けてください!」
「またあの様なものを見てしまい申し訳ありません!」
アリスは信心深い者である。
単なるパニック時の苦し紛れの叫びではなく、心の底から神を信じ、拠り所にしている彼女の生き方そのものから出た言葉である。
アリスは真っ直ぐで純粋な心を持ち続けている。
アリスは幼少期から、この屋敷から一歩も外にでていない。
教えられているのは聖なる教本のみ。
それ、しか知らないのだ。
アリスに与えられた知識や価値観が聖なる教本に限定されている為、彼女の思考や世界は母親から教えられている事、神と教本だけで作られている。
———
「アリス、いい?外の世界は醜く危ないのよ」と、家から出ることも許されず、守られ続け、読むことを許されたのは聖なる教本のみ。教育は母親がしていた。
アリスの学力は同年代の子よりも格段に進んでいた。
「貴女は私がいないと生きられない弱い子なのよ。だから私のいう事だけ聞いてちゃんとやればいいのよ。そうすれば神様もお喜びになられるわ」
母から病弱で短い命と告げられた少女アリスは、片目を眼帯で隠されたまま、世界から隠されて生きてきた。
幼少期から読めるのは聖なる教本のみ。
「この世界であなたを受け入れるのは私だけよ」
神の事を徹底的に教え込まれていた。
「アリス、病気をやっつける為に修行がんばろうね」
「うん!頑張る!アリスが元気になったらママもパパも神様も喜んでくれるもんね!」
「そうよ!皆喜ぶわ!」
病弱短命を克服する為と心技体を強める敬虔な修道における肉体と精神の鍛錬も毎日欠かさず行わされていた。
それらは全て神の為、母の為、自分自身の為だと健気に一生懸命に何の疑問も抱くことなく純粋に取り組んでいた。
アリスは穢れを知らない純真無垢な聖隷少女。
精神と肉体の極限の追求。
「大事な大事なアリス…あなたは、失いたくないの……世界で何より愛してるわ」
修道院や隠者の生活、神殿の巫女、聖女育成プログラムそのもののように…。
病弱短命だからこそ鍛える必要がある。と親の愛を一身に受ける。
生まれながらに身体が弱く、長く生きられない運命を背負っているからこそ、その脆弱な器に強靭な精神や在る技術叩き込むことで、神の教えを守る、過酷な使命に耐えさせる、魔に抗う。
比較対象、外の世界や、普通の暮らしを知らないアリスは、今日も生まれたときからそこにある空気や重力と同じ自然現象のようなその日を暮らす。
他と比べようがないのだから、これらがアリスの『世界のすべて』
アリスは神に仕える清らかな聖女。
アリスは単なる弱者ではなく、病弱克服と神への奉仕という名目のもと、母親から「極限の肉体と精神の鍛錬」「修道・巫女・聖女としての厳しい訓練」を叩き込まれている。
外の世界を知らないため、これが異常だと気づいていない。そもそも気づくことは他を知らない為不可能。
———
ある日、聖騎士の父が任務中に消息不明になる。
———
続く
———
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