第1話 残りのワインボトル
このライトノベルは三日月未来がショートショートとして書いています。
あらすじは連載が進んだのちに変更します。
なのでまだ始めたばかりです。
6/14に第一話を加筆しました。
三日月未来
終電が迫った時刻、進一は八重洲通りの歩道を小走りに駆けた。
タクシーのテールランプが鬱陶しい。
大通りの横断歩道を抜け東京駅中央通路の改札に入り時計を見る。
まばらな通行人の間を抜け中央線のエスカレーターを駆け上がった。
酔った重い身体に息が上がる。
ホームに停車している電車に飛び乗り空いている座席に倒れ込んだ。
各駅停車の電車がゆっくりと動き出し振動音が心地良く聞こえている。
[カタン カタン]
飛び乗った電車が終電で無いことに気付いた瞬間、安堵に睡魔が重なった。
電車の揺れに身を委ね眠りに落ちた。
夢の中で聞こえる不思議な音。
[・・・・・・]
電車の扉が開く音。
新宿駅のアナウンスが聞こえ再び眠りに着く。
まだ大丈夫と思い夢の続きを見ることを無意識が選択した。
見知らぬ美しい顔が浮かんでは消えた。
次に目覚めた時、聞こえた車内アナウンスに酔いが吹き飛んだ。
[次は国分寺]
「ああああ、またやらかした」
几帳面な性格で堅実的な生活スタイルのサラリーマンの進一だったがーー 反面、そそかしい・・・・・・。
乗り越し、乗り間違え、勘違いがYBSGレベルで同僚から皮肉られることがあった。
⬜︎⬜︎⬜︎
深夜の駅前でタクシーを拾い、五日市街道を東に進んだ。
「どちらまでですか」
「東中野でお願いします。ただ、持ち合わせが」
「分かりました。じゃあ持ち合わせのギリギリで止めましょう」
「はい、それでお願いします」
タクシーメーターの金額が増える度、進一は財布を握り締めた。
居心地の悪さを感じた。
「運転手さん、とりあえず中野駅に変更してください」
「ーー もう限界ですか」
「ええ、あとは歩きます」
「じゃあ、途中から回送にしますので、その時に精算だけしましょう」
運転手は進一に名刺を渡して微笑んだ。
「ありがとうございます。差額はあとで精算します」
「大丈夫です。困った時はお互いさまです」
進一は少ない金額を精算して運転手に名刺を渡し中野銀行前で降りた。
進一の鼻腔を運転手のシャンプーの香りの記憶が纏わりついていた。
深夜の歩道を赤猫が歩いていた。
[お兄ちゃん、こんばんは]
進一は耳を疑った。
⬜︎⬜︎⬜︎
次の夜、山手通りのレンガ歩道を歩いていると夜風が気持ち良い。
親切な運転手さんのポニーテールと横顔を思い出し懐かしく感じた。
昨日の名刺を取り出して見た。
[小雪]
進一は源氏名かと思い定期券に無造作に入れ路地裏を進んだ。
暗闇のライトの下で三毛猫が鳴き声を上げた。
[ミャー]
猫に静かに近づいた。
腹部が垂れ下がった妊婦の猫に見えた。
年増の腹ぼて猫に声を掛けて見た。
猫は戸建ての駐車場に入り振り返ると建物の隙間に姿を消した。
⬜︎⬜︎⬜︎
次の深夜、午前様になった進一は新井薬師のバス通りから上高田通りの商店街を千鳥足で進んだ。
通りの中央に白い猫が寝て見えた。
進一はゆっくり近づき猫を見下ろした。
白猫の口元に血が滲んでいる。
白猫の両足を持ってゆっくりアスファルトの路肩まで引き摺り置いた。
血痕の帯が暗いアスファルトを染めた。
息がしていない白猫にお教を捧げ合掌した。
猫の魂に別れを告げ見知らぬ猫に心の中でさよならを言った。
酔った進一の無意識の選択だった。
翌日、その場所に白猫の死骸は無かった。
親切な人が片付けたと進一は勝手に想像して安堵した。
[ありがとう]
[ああ、また幻聴かなーー ]
⬜︎⬜︎⬜︎
新宿のデパ地下のワイン売り場を訪れた進一。
前にいる女性の肩越しにワインが見えないジレンマの中、声を掛けて見た。
「すみません、そのワインが見たいのですが」
女性が振り返り、進一と視線が交差する。
「ああーー すみません。これですか」
「はい、それです」
「これ多分、残りの1本ですが」
「じゃあ、他のを探します」
「いいえ、どうぞ」
「いいんですか」
「ちょっと見ていただけなので」
女性は進一の声に聞き覚えを感じた。
進一も同じことを考えた。
女性は進一のオードトワレの匂いで記憶が蘇った。
「あのーー もしかして」
「ああああーー 」
進一は定期券入れを取り出し名刺を抜いた。
女性も名刺を取り出して言った。
「あの時の人」
「小雪さんですか」
「じゃあ、進一さんですね」
「はい、偶然ですね」
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三日月未来




