72 涙の一軍女子。
スマートフォンの電話口に出た美葉の声は切迫していた。
烈貴は一先ず、陀威也が単独事故に遭っていた事実と………後処理でアタフタしていたことを告げる。
「あんまり来ない(連絡が)から、先輩に何かあったかと思った」
「ゴメンゴメン」
都合二時間以上も、あの愛華と二人きりで場所も動けずに居るという、これもまた酷なことを美葉にさせていたものだ。
早く解放させたい。
烈貴は再び、来た道を9,000rpmのパワーバンドを駆使しつつRG50Eで急ぎ戻る。
これで今日は二往復だ。
ショッピングモールに着き、再び中に入った烈貴は。
ベンチに座りうなだれる愛華と、傍らで腕を組み仁王立ちの美葉の姿を見た。
「待たせて済まなかった。
………疲れたろ、二人とも、とりあえずスタバで休もう。
今日は俺、全部持つから」
烈貴の呼びかけにも、美葉は表情を変えない。
これまで見たことの無い、怒りに満ちた形相で愛華を見下ろしている。
「………本当に!
この子のくだらないワガママのせいで、人が一人死んでたかも知れないんだよッ!?
許せない!!
何が一軍女子よッ」
吐き捨てる美葉。
烈貴から連絡を聞き、戻りを待つ間に美葉は愛華に思いきり"お灸をすえて”いたらしい。
さすがの愛華も陀威也が病院送りにまでなった事実を聞き、気が動転した。
もはや、グゥの字も出なかった。
一時間程前は烈貴も一言言っておこうか?とも思っていたのだが、今は自身に思うところも有り。
これほど美葉に既に言われているのだから、良しとした。
「………まぁ、愛華さん。
カレの搬送先は救急隊員の人に聞いといたから、教えるね。
意識はハッキリしてるから、後で御見舞いに行ってあげてね」
愛華は黙って俯いていた。
感情の収まらない美葉は、追い打ちをかける。
「何とか言ったらどうなの!?
先輩が動いてくれなかったら、今頃カレシは森の中で、どうなってたと思うのッ!?」
相変わらず俯いたまま、ようやく愛華は声を絞り出した。
「………ご、ごめん………な…さい………」
俯いた愛華の下の床に、ポツリと涙が落ちた。
烈貴は美葉をなだめる。
「もう、それくらいにしてあげて。
なんだかんだと俺も面白がってたし………」
頭を掻いて見せる烈貴だったが。
そこへ、聞き覚えのある声がかかる。
「よォ、烈貴!
お?近藤も一緒か」
振り向くと………そこには莉奈が立っていた。
襟足まで切っていた髪も、胸の辺りまで戻って来ている。
「先輩!!
こんにちは………いや、もう夕方だし?」
「相変わらずウケるな、お前。
今日な、これからカレと逢うんで待ち合わせさ」
愛想笑いの烈貴の横で、美葉が緊張気味に挨拶する。
「相川先輩、お久しぶりです」
日頃は同じ校舎内に居ながら、学年の二つ違う両者は不思議と顔を見ることは無かった。
莉奈は、過去の因縁も意に介さぬ様子で美葉に話しかける。
「近藤、アンタ!
しばらく見ないうちに、なんか痩せたなぁ〜〜〜!?」
目を丸くしながらの莉奈の一言に、美葉の顔がパァッ!と明るくなる。
「ホントですかぁ!?」
「ウンウン!
痩せた痩せた!!
さては烈貴とヤり過ぎなんじゃね?」
イタズラっぽく笑う莉奈に美葉は顔を真っ赤にし、何も返せず照れ笑いする。
ふと莉奈は、ベンチに座り涙顔で自分を見上げる愛華に気付いた。
「………彩木?
なんでアンタ、烈貴達とツルんでる?」
「………莉奈先輩!」
莉奈と愛華は。
"一軍女子会のようなパーティー”という名の合コンで顔を合わせていた。
何を隠そう、愛華は陀威也とも、そこで知り合ったのだった。
「先輩、実は………」
烈貴が皆に代わり、繋がりと………今日あった出来事を莉奈に説明する。
「そっか………陀威也も災難だったな。
アイツ、彩木のことマジ気に入ってたからヒッシだったんだろう。
アタシなんかも、あの道通る時おっかないんで超絶スピード落としてんだけど、それでもコケそうになったこと何度もあるし」
しみじみと語られる莉奈の言葉を、黙って聞いていた愛華が口を開く。
「莉奈先輩!
じゃ、なんで………美葉のカレ………れっきさんだけ平気なんですか?」
莉奈は、そんなこともわからないのか?と言いたげな顔を一瞬した後、でも知らなくて当然かも………といった顔に切り替え、言い聞かせ出した。
「あそこはね、言ってみれば烈貴のホームグラウンドなんだよ。
正確に言えば、烈貴のオトーサマの代からのホーム。
しかも烈貴のバイクは原チャは原チャでも昔の原チャだからメッチャ速いんだよ!
ソレを街中でビグスク流してる程度の陀威也なんかが立ち向かうなんてさ、そもそも無理ゲーなんだよ」
ショックを受ける愛華。
全ては自分のリサーチ不足……そして、浅はかさが招いたことだと思い知らされる。
「………莉奈先輩。
ウチ………これから、どうすればいいのか………わかんない………」
ベンチに座ったまま、閉じた両瞼から涙を流し始める愛華の顔を。
莉奈はしゃがんで見つめる。
「彩木。
アンタの気持ち次第だよ。
………陀威也と、これからどうしたい?
やめて、他の"御飾り”の男子、探すか?
ガチでアンタの為に命がけの勝負してくれた陀威也をマジカレに選ぶか?
………ガチな一軍リーダーなら、わかるよね」
「……………莉奈先輩!!」
号泣する愛華を、莉奈は抱きしめる。
もらい泣きする烈貴。
ようやく穏やかな笑みを取り戻した美葉。
その後。
愛華は、烈貴に教えられた市内の病院へと足早に向かって行った。
ショッピングモールからの帰り道。
美葉と二人、RG50Eを手押ししながら並んで歩く烈貴。
「……………長い一日だったな」
烈貴の呟きに、暫し美葉は無言だったが。
「……………もう、こんなバカげた話に乗るの、やめようね」
少しキツめの口調に気付いた烈貴が向き直ると、美葉が横目で睨んでいる。
「ホントに心配したんだから!」
「ゴメンゴメン……」
バツの悪そうな烈貴をよそに美葉は、あっけらかんとした表情に変わる。
「仕切り直してくれる?
今度、スタバで好きなの奢って!」
「あ?………ああ、ああ……わかった!
勿論!!」
真夏よりも、夜の帷を早く感じ始めた空に。
一切れのメロンのような月が輝いていた。
続く
〈涙の一軍女子・完〉




