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RG50E  作者: HARIMA
3/10

③昭和の遺物。

………烈貴の自宅は。

RG50Eを"普通に”走らせて学校まで20分の住宅街にあった。

家族は両親と二つ下の妹との四人暮らし。

父親は会社のサラリーマン、母親は近所のスーパーをパートで勤める、一見何の変哲も無い家庭である。


このうち、父親と妹に関しては特筆する一面があった。


烈貴の妹、茉莉(まり)は中学三年生。

烈貴の卒業した中学校の吹奏楽部員である。

パートはファースト・トランペット。

一年だけ、兄の烈貴と同部員の時期があった。


何となく頼りない兄とは対照的に、茉莉は勉強でも部活でも徹底したところを持っていた。

今年度は受験を控えているが、茉莉は烈貴の高校より学問も高レベルで、しかも吹奏楽部も伝統的に強いと言われるM高校を志望している。

幼稚園児からヤマハの音楽教室に通い、ピアノの個人レッスンも受けていた茉莉の音楽スキルは、金管楽器に移っても長けていた。


烈貴は。

そんな"頭の上がらない”妹に、家庭でも何かと悩みごとやら相談ごとを持ちかけ。

学校同様、ここでも

"兄なのか弟なのか”

わからない立場なのであった。


「………それ、わかる!

だいたい、お兄ちゃん達がシッカリしてないから美葉さんが言わなくちゃならないんだよ。

情けないと思いなさい!!」


ショートカットの髪は黒く、色白、太い眉毛に目鼻もクッキリとした気の強そうな風貌の茉莉。


その日、烈貴は部活で噴出した問題についても妹に話してみていた。

身内なだけに、容赦無くズバズバと裁く茉莉。

図星なだけにグゥの字も出ず、うなだれる烈貴。

しかし情けないのは承知の上でも、こうして毎度のように妹に"叱られる”ことで。

暗闇の中に灯りを見いだすように、自分の目指すべき指針を確かめることも出来た烈貴なのであった。





「おい、烈貴!

RGのチャンバー(排気管)の芯、焼いといたからエンジンのフケがいいだろ?」


父・正和(まさかず)が、帰宅直後の烈貴に自宅ガレージから布ツナギ姿の笑顔で声をかける。


烈貴の乗るスズキRG50Eは。

`80年代当時に高校生だった、この父・正和の愛車であった。

50代後半の正和は、現在もスズキRG400Γ(ガンマ)という`85年型の2ストローク・レーサーレプリカ(サーキットレースに使われるバイクのレプリカ版)を所有し。

メンテナンスも怠らず、不足するパーツもネット上のコミュニティと連携し入手しつつ。

週末の度にガレージから引っ張り出しては近所のチョイ乗り若しくはツーリングに出かけている。



「いや、別に………」


チャンバーの芯がどうの。

エンジンのフケがどうの………など、烈貴には興味も無いし、知らないし、どうでもいいことだった。

烈貴にとってRG50Eは、ただ単に"通学のアシ”であり。

強いて挙げればスクーターで充分、と言いたいところであった。


それが、ただでさえ?

やれセパレートハンドルだの、バックステップだのと、烈貴も乗っていて楽では無いポジション。

加えてスクーターなら不要な、クラッチを切るギアチェンジも、いちいち面倒臭く。

さらには、父が勝手に自慢する


"スガヤのチャンバー”


とかいう排気管のせいで、ウルサイと言ったらこの上無し!の改造車をあてがわれ。

烈貴は恥ずかしくさえ思っていた。


「どうでもいいけどさぁ。

このバイク、もうちっと静かに出来ないの?

乗ってて恥ずかしいよ。

みんなガン見してるよ」


烈貴は苦情のつもりで言ったのだが、この父親には通じない。

ニコニコ顔でウンウン!と頷いている。


「そうか!

イイ音だろォ!?

このチャンバーはもう、手に入れるのも難しい逸品だ!

俺が"打倒RZ”の為に、有り金はたいて取り付けた甲斐があったもんだ!!」


因みにRZとは。

当時、RG50Eと同馬力ながら水冷エンジンやモノクロス・サスペンションを備えていた、ヤマハのRZ50のことである。


チッ、またオヤジの"昭和語り”かよ………

烈貴は顔をしかめる。


「毎日コイツに乗ってると、俺の耳までイカれてくんだからさぁ。

何とかしてよ!

おかげで、同じパートの後輩にまで小言言われんだよ!!」


本気で抗議する烈貴だが。

父・正和は微動だにしないどころか、逆ギレを開始する!


「スガヤのチャンバーのせいにするな!!

いいか?

俺がお前くらいの頃は……………」


その先のセリフは毎回同じ。

路上でも学校でも戦いの日々だった………

それでも男か!?と怒鳴られながら育った………

それに引きかえ、今時の連中は……………


もう、聞き飽きた。

ウンザリだ。


「………もう、いいって。

来月からバス通にするから。

そんな貴重品なら、メルカリにでも出せば?」


冷たく言い放ち、烈貴は玄関へ入って行く。

背中に"烈貴!”と叫ぶ父を尻目に。



(時代錯誤はしょうがなくても。

自分の趣味、押し付けんなよな!

昭和の遺物を!!)


烈貴は心で叫んでいた。



続く



〈昭和の遺物・完〉

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