112.新たな旅の始まり
宴が始まるなり、アイシャはすぐに族長の元へと向かった。しばらく二人で話し込んでいる様子だったが。途中からそこに先程のヴァンも加わり、三人の間で少し言い争いのような感じになっているようだった。
内容が内容だけに、話し合いが白熱するのも仕方のない事だ。
そもそも族長に話す前に、俺たちの了承を得る事すらしていないのだが。俺としてはアイシャを既に仲間として認めているため、後はミコトが何と言うかだけの話である。
「俺たちに対して、まだ何も話してないけど。アイシャの奴、一緒についてくるつもりなんだろうな……もし、そうだとしたら、俺としては別に構わないと思ってるんだが。ミコトは、やっぱり反対するのか?」
「カケルが連れていきたいって言うなら、ボクとしても別に構わないよ」
俺の質問に対しミコトはそう答えるも、その顔は凍りついたように無表情である。実際には、あまり良い気分でないのは確かだ。
この雰囲気では、エリスの件について話をするのも躊躇してしまう。
そういえば、川口の奴に吹き飛ばされた左腕は、まだあの場所にあるのだろうか。目まぐるしい状況の変化によって、うっかり忘れてしまっていたが。エリスとの連絡手段である指輪は、左手の指に嵌めていた。
魔女の森や樹海の中では使えないものの、それさえ有ればここから出た後すぐに、取りあえず生きていることだけでも彼女に伝える事ができる。
とはいえ、獰猛な獣や魔物が闊歩する森で、左腕が無事に残っているとはとても思えない。
しかし、その場所をもう一度探せば、指輪だけでも見つける事ができるのではなかろうか。
「じゃ、そういう事で決まりだな。それで、今後の予定についてなんだけど。ミコトは確か『ゆっくり行けばいい』みたいなこと言ってたよな? だったら旅の最中、ある程度は俺の希望も尊重して欲しいと思ってるんだが……」
俺は、ミコトに対しそう遠回しに訊ねる。ここで言質を取り付けておけば、後になって我が儘も少しは言いやすい。
相手が旅の予定を詳しく話そうとしないのだから、こちらとしてもこれくらいの主張をしても良いはずだ。
アイシャの件に関しては、あまり良い感情を持っていないのは確かだが。本人がそれで良いと言っているのだから、敢えてここで本音を訊く必要もあるまい。
「カケルの希望? 具体的には、どんな事を考えているんだい?」
ここでいきなりエリスの話をするのは、流石にまずいだろうか。とはいえ、タイミングを選んだところで、ミコトが難色を示す事に変わりはない。
まぁ、取りあえず指輪の有無だけでも確認して、それ次第で頃合いをみて話してみるしかないだろう。
「まずここを出たら、俺が最初にミコトと会った場所を通って欲しい。ちょっと探したい物があるんでな。魔女の森から出た後は、何処かの町で冒険者登録をしたいと思ってるんだが構わないか?」
俺の答えを受け、ミコトの表情は少し柔らかいものとなる。やはり俺が、もっと具体的な内容に踏み込んでくるものと思っていたようだ。
図らずも、アイシャの件に関して先に考えを述べておいた事が功を奏したようである。
「なんだ。そんなことかい。どうやらカケルも、ボクとゆっくり旅を楽しみたいと思ってくれているようだね? そういう気持ちになってくれているなら、ボクとしてもとても嬉しいよ」
実際、この世界をゆっくりと堪能してみたい、とう気持ちについては確かだが。正直な話し、得体の知れない存在であるミコトとずっと行動を共にするのは、少し恐ろしさも感じる。とはいえ、本当にそう思ってくれているなら、今は彼女に悪意がないと信じるしかない。
「ああ。せっかくだから、この世界の旅をゆっくりと堪能させてもらうさ。ところでアム……お前、作り物の体のくせによく食べるよな」
宴のご馳走をムシャムシャ食べ続けるアムを見て、俺はそう疑問を投げかける。
「なんか味覚もあるし、普通にお腹が減るのよ。でも不思議なことに、おトイレには何故か行きたくならないのよね」
「なんだよその昭和のアイドルみたいな設定は」
「食べた物を全て霊的エネルギーに変換するからね。因みに、変換したエネルギーを貯めておく事もできるよ」
「まさか、背も伸びたりするなんて事はないよな?」
「流石にそれはないね」
三人でそんな他愛もない会話をしていると、ようやく話を終えたアイシャがこちらにやってくる。何を話してくるのか想像はつくが。何故か彼女は言い出しにくいといった様子で、言葉を詰まらせていた。
「なんだよアイシャ。話はもう済んだのか?」
「好きだって言われたにゃ……」
俺は、その一言で全てを理解する。チラッとミコトの方に目をやると、彼女は薄ら笑いを浮かべていた。
「で、アイシャはそう言われて、これからどうするつもりなんだ?」
「心配は要らないにゃ! まるっと全部うまく収めてきたにゃよ」
俺の質問に対して、アイシャは急に笑顔となってそう答える。相変わらず具体的には言わないが、その言葉で先程のプランは確定という事になった。
期待していたミコトは「ふぅ」と溜め息をつき、完全に興味を失ったといった感じだ。一方のアムは、全く気にも留めずご馳走を食べ続けている。
俺は、そんな彼女たちの様子を見ても、不思議とこの先の不安を感じることはなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ブックマーク、★による評価は、作者の創作意欲を維持することに繋がります。
少しでも面白い、今後の展開に期待が持てそうだ、と感じましたら皆様の温かい応援がありますと励みになります。
また、短いコメントでも構いませんので、一言いただけると作者は飛び上がるほど喜びます。




