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4日目 21時から22時 イーナの受難2

 うへぇ。

 なんでアイツただの鉄の剣でリザードマンの鱗をすぱすぱ切り裂けるのよ。

 しかも嗤いながらッてマジで怖いんだけど。


「イーナ。悪いが一匹撃ち漏らした」

「問題ない」


 ボクが腕を振り上げると、それに引き寄せられるようにして沼の水が浮き上がりながら凍りつき、鋭い氷柱となってリザードマンを串刺しにした。

 群れの中に飛び込んだ勇者にほとんどのリザードマンが向かっていったけど、中にはボクの方に向かってくるのもいるわけ。まあ、あんな化け物から距離を取りたいというリザードマンの気持ちもわからなくはない。

 全く、魔物と感情を共有できるって何なのよ。


「相変わらずすごい魔法だな」

「それを勇者様がいうかな」


 インフェルノとか勇者に名付けられた魔法は、魔法を学んで三・四日の人間が扱える次元のものじゃない。そんな人間に褒められてもうれしいどころか、嫌味にしか聞こえない。

 っていうか、こいつは本当に人間なの?

 勇者と間違えて魔王でも召喚したんじゃないのかって思えてきた。

 だって見てよ。

 リザードマンを殺すときのアイツの表情。

 宮廷魔導士の連中にも研究バカっていうか、魔物を解体しながらへらへら笑う変態はいるけど、それとも違うあの愉悦に満ちた顔。魔物を殺すのが楽しくて楽しく堪らないとでもいうような。

 最後の一匹の上半身と下半身に永遠の別れを与えた勇者が剣をブオンと振って血と油と肉片を払い落とす。魔法の付与をしていたのか、剣には傷一つついていないらしい。


「よし、次に行こうか」

「えー、そろそろ休憩しようよ」

「まだ一時間だぞ。必要ない」


 やっぱり無駄な提案だったかと肩を落としながら勇者の後をついて行く。確かに主に戦っているのは勇者だけど、ボクだって周囲への警戒は怠ってないし、勇者に万が一がないように常に魔法を発動できるように用意している。

 そんな苦労には気付いてもらえないよね。

 はぁ、マジでしんどい。

 帰りたい。

 仮眠じゃなくてちゃんと眠りたい。

 勇者もおかしいけど、この勇者について行ける王女様も大概だよね。さすがに面と向かっては言えないけどさー。


「あっちに強そうな魔物の気配がある。行ってみよう」

「りょうか――ちょっと、待って!!」

 

 ゾクゾクと背筋を凍り付かせるような気配。ルセオンとまでは言わないけども、ギガートンとは比較にならないほどに恐ろしい。


「どうした?」

「どうしたじゃないって。わかんない? この気配はやばいって」

「だからこそじゃないか」


 ダメだこいつ。

 マジで頭がおかしい。

 

「セーデガーで出てくる一番の難敵がギガートンなの。それ以上の魔物がいる時点で何かがおかしい。相手には気付かれていないんだからここは引くよ」

「オークにリザードマンやキメラじゃ物足りなかったんだ。ギガートンは中々いないし、こういうのを待ってたんだよ」

「人の話を聞いてよ」

「イーナはここで待ってろ」

「バカッ」


 止めようとした腕が空を切った。


「はあ」


 徐々に小さくなっていく背中を見てため息をついた。

 勇者に背を向け反対方向に歩き出す。


 死にたいなら勝手に死ねばいいのよ。

 

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