香る揺り籠から始まる異世界転生
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百十弾です。
キリ番なので、元の昔話は伏せて書かせていただきました。
どうぞお楽しみください。
「うわあああー!」
けたたましいブレーキ音。
目の前を白く染めるヘッドライト。
凄まじい衝撃。
そこで俺の意識はなくなった……。
『やぁ』
「!?」
気さくに声をかけられて、俺は跳ね起きる。
……何だここ!?
宇宙……?
にしては何か幾何学的なものがものがほわほわ浮かんでいて……?
え、俺はトラックに轢かれて死んだはずじゃ……。
『うん、死んだよ。でも魂がもったいないからさ。異世界に転生させてあげようかと思って』
「マジですか!?」
謎の声の言葉に、俺は思わずガッツポーズを決めた!
うわー! ラッキー!
こんな展開本当にあるんだ!
陰キャ拗らせた奴の妄想だと思ってたのに!
『とはいえ一度転生するとやり直しが効かないからね。欲しい能力とか転生先の条件とかあったら、今のうちに言っておいて』
「能力……? 条件……?」
くそ、こんな事になるなら、異世界転生系を毛嫌いしないで読んでおけば良かった!
えっと、何が必要だ……?
えぇい! 思い付くままに言ってみよう!
「あ! ま、まず言葉が通じる世界で……」
『ふむふむ』
これは絶対必要だよな!
俺英語ですら全然だめだし!
「俺は無双できるくらいに強くて……」
『ほうほう』
どんな世界に行っても、力は絶対必要だろう!
「でも強いだけだと面白くないから、動物と心を通わせる力とかがあって……」
『成程成程』
強すぎて化け物扱いされたら、マジで詰むからな……。
心優しい一面を示しておかないと……!
「そうだ! 適度に強い悪者がいて、そいつらをやっつけて大金持ちになって、後はのんびり暮らせれば……」
『オッケー了解。ちょっと待っててね』
そうだよ! どんなに強くても、戦う敵がいなきゃ話になんないもんな!
で、そいつらを倒して手に入れた大金で悠々自適!
これなら間違いなく幸せになれるぞ!
「お、条件にぴったりの世界があったから、そこに転生してもらおう!』
「あ、ありがとうございます!」
『良い人生を!』
謎の声がそう言うと、目の前の宇宙みたいな世界はぐにゃぐにゃになって消えた。
真っ暗闇になった途端、俺の身体が縮む感覚……!
そうか、生まれ変わるんだもんな。
しかし次の人生は成功と安泰が約束されている!
安心した俺は、襲ってきた睡魔に身を任せた……。
「ん……?」
目を開けると、暗く狭い空間。
ぼんやり自分の手足が見える程度には、光が入っているらしい。
ここはどこだ?
絶え間なく揺れているが、子どもの揺り籠にしては狭いし暗くないか?
それに何だろう。
この甘い匂いは……。
「!」
俺は戦慄した。
言葉が通じる世界!
無双できる強さ!
動物と心を通わせる力!
そして適度に強い悪者をやっつけて大金持ち……!
これは! この話は!
まずい! 何とかして逃れなければ!
あんな安易な名前をつけられるなんて耐えられない!
だがこの揺り籠の中でできることなんか何もない……!
観念した俺は、甘い揺り籠を抉って口に入れながら、拾われるその時まで川の流れに身を任せる事にした……。
読了ありがとうございます。
これなら動物と旅をして無双した理由もバッチリですね!
……桃はぶつけるものではなく食べるものですよぉ……。
次回は『ウサギとカメ』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。