第3話 吾輩の自己紹介だ
我輩の名は『ガウリール・ベケンゼ・ハグバーズ』。
以前はインタラフィーという世界にある魔族の国の王をしていた。
要するに魔王だ。
ふははは。すごいだろう。
魔王だぞ?一国の王だったのだぞぉ?
む?"だった"という事は今は違うのか。だと?
ふむ……今は、今はな……。猫をしている。
ふはははは。何を言っているのかだと?それは我輩も言いたい台詞である。
正確には猫の姿を象っているというか、されてしまったと言ったほうが正しいだろうな。
それでは何故猫の姿になっているのか。だと?
ふん。その話はあまりしたくはないのだが…。良いだろう。貴様には特別に教えてやろう。
我輩が魔王としてこことは異なる世界、"インタラフィー"という名前の世界に居た頃の話だ。
50年間程交流もない人間の国が何を思ったかいきなり攻め込んできてな…。
それでも最初は優勢だったのだぞ?
仮にも魔力に優れる種族である魔族が治める国なのだ。
魔法に関しての戦闘能力というのは結構高いものだったのだ。
それに、向こうから攻めてきたので我輩達魔族は激怒してなぁ。そりゃもう士気は旺盛で、来る者は千切っては投げ、千切っては投げ。
我輩も超強かったのだぞ?
だというのに、異世界から勇者とやらが召喚されてからはあっという間に形勢を逆転され負けてしまったのだよ……。
いやー。舐めてた。
異世界から来たとは言っても所詮は人間だって舐めてた。
ん?異世界からの存在を警戒しなかったのか。だと?
その台詞。以前の私にも聞かせてやりたいものだ……。もっともあの当時は人間など魔力が低く力も非力な生き物だと見下していたから、異世界から来たとしても所詮は人間と聞く耳を持たなかった。
それにあいつら勝つためならなんでもやるのな。
街一つの住民とか平気で人質に取りやがる。
なーにが勇者だって話だ。
む?魔族の国と人間の国はその後どうなったか。だと?
我輩の国はそりゃもう勇者が蹂躙したせいで魔族の殆どが死に絶えてしまったわ。
四天王は行方不明。八将軍も半数が死んだぞ……。
人間の国?
そんなもん勇者と一緒に滅びたぞ。
え?なんでかって?そりゃこの家のパパ殿が別の人間の国の連中を引き連れてきてな。そりゃもう圧倒的な強さでボコボコ。
一発の魔法で都市が破壊されていき、勇者も仲間と一緒に半狂乱になって立ち向かったけど、パパ殿のお仲間に素手でボコボコにされていたなぁ。
パパ殿が戦う姿を見て、これは逆らっちゃいけない存在だと思ったのだよ。
そんで、力を失った吾輩はこんな姿になり、この世界に来てパパ殿やママ殿。そしてご主人様の家に厄介になっている。ということなのだ。
まったく。この世界の人間というのは恐ろしい。何をどうやったのか異世界の人間達とも交流し、そこから新たな技術を取り込み圧倒的な力を付けたのだからな。
ふぅ……あの戦いはいったいなんだったのだろうな……。
ん?どうやって猫の姿に変わったのか。だって?
実は我輩を猫の姿に変えたのはご主人様のパパ殿なのだ。
そう、パパ殿だ。ご主人様のお父上だ。
初めてパパ殿に会ったのは、我輩が勇者とその仲間にボコボコにされた直後でな……。
パパ殿がひと仕事終えた後、四肢をまともに動かす事ができぬ我輩に声をかけてきたのだ。
まー、あの時は逆らっちゃいけない存在だと分かりつつも、「なに者だ!」と怒りの感情を交えながら問うたのだったなぁ。
まぁ、パパ殿は「別の世界から来た人間だ」とか、「暗躍している存在を掴んだ」とか言ってなぁ。当時の我輩は聞く耳など持ち合わせてはいなかったから必死になってパパ殿に襲い掛かったのだ。
その時に左腕を切り飛ばされたり目玉をくり抜かれたり……。む?あぁ、別にこの腕は新しく生えてきたものだから大丈夫だ。この傷もパパ殿が治してくれたのだ。
パパ殿は優秀な治癒魔術を使えるのだ。今思えばとんでもないお方に喧嘩を売ったものよなぁ。
うむ、どこまで話したかな…。あぁ、左腕が切り飛ばされたところだったな。
それでだな?我輩は左腕を失っても尚抵抗を続けておったら、パパ殿が嫌気が差したみたいでのぉ。魔法で猫に変えられてしまったのだ。
そうして吾輩が落ち着いた頃に、色々と話をしてくれてなぁ。
こうして魔族と人間との戦いは終結したのだ。
いやぁ。まさかパパ殿が異世界の魔法使いだったとは思わなんだぞ。それに我輩が居た世界以外にも沢山の世界があるとはな……。長生きはしてみるものだ……。
ん?元の世界に戻りたいか?
う~む……。どうだろうなぁ。
元の世界に今更戻ったところで、同胞達も殆どいないし、今はパパ殿のお仲間が新政権を立ち上げたとも聞いておる。我輩は為政者としての自信を失ったよ……。
ん?それでは元の姿に戻りたいか。だと?
それは…。そうだなぁ。パパ殿はいつか元に戻してくれると言っておったしのぉ。
そもそもこの体にされたのは元の身体では魔力をドカ食いするらしいからなぁ。
身体が癒しきれていない状態で元に戻って、バラバラになんてなったら笑い話にもならん。
元の姿に戻れるのであれば…。それはそれで嬉しいかもしれぬがな。
む?今の姿の方がかっこいい?
ミーちゃん。そ、それを言われてしまうと少し照れてしまうではないか……。
ミ、ミーちゃん。その……そのな?もしミーちゃんさえ良ければ我輩と―――。
「ミーチャンゴハンヨー」
んお?ミーちゃんのご主人様が呼んでおるな。
おぉ……そうか。もう帰るのだな。分かった。では今日は帰るとしよう……。
む?さっき何を言おうとしていたか?
そ、それはまた今度にしよう。さぁ、早くご主人様のところへ帰りなさい。
あぁ。それじゃあまたな……。
「アラー。ミーチャンリディアサンノ所ノガウチャント遊ンデモラッテイタノ?ヨカッタワネェ」
……。ふぅ。我輩は猫社会にどうやら馴染みきってしまったようであるな……。
だが、悪くはない……。
「ガウちゃーんご飯ですよー」
わーい!カリカリだぁ!
ガウ:「この物語はご主人様を何としてでも外に出して、引きこもり生活からおさらばさせる話だ」
リディア:ちょっとちょっと。そんな話じゃないでしょう!
ガウ:「では、どういった話なのだ?」
リディア:ガウちゃん達の日常生活の話よ。
ガウ:「我輩の日常生活は碌な目に遭っていない気がするんだよなぁ」