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最果てに天深く  作者: 高原 景
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 早雲が空に斑を描き、時折思い出したように降る雨が街を濡らしていた。

 体調不良という理由で若衆に顔を出していなかったかいが、漸く鍛練所を訪れたのは闇との対峙から十日が経った後だった。久々の鍛練の後、灰は須樹すぎ仁識にしきに声をかけた。話をしたい、と告げれば、二人ともに驚いた表情を見せた。人気が絶えた頃合いに、灰は副頭に与えられた会議室で二人と対した。

「体は大丈夫なのか?」

 言外に今は無理をしなくてもいいと告げる須樹に、灰は頷いた。

 建前上の理由であれ、体調不良というのはあながち嘘ではない。惣領家で目覚めるまで四日、そして支障なく動けるようになるまで要したのが五日である。体の核から何かが欠けたかのような喪失感は感じなくなっていたが、それが、回復によるものなのか、それとも単にその感覚に慣れたからなのかは、灰自身にもわからなかった。

「弦殿の様子は、どうだ?」

「まだ目覚めず、眠り続けています」

 そうか、と答える須樹の声は低い。

「十日前、惣領は何を仰られたんですか?」

 前置きもなしに問えば、須樹と仁識が顔を見合わせた。

「いやに単刀直入ですね。どういう心境の変化ですか」

「答えてください」

 闇のためとあらば、己の配下の者をも生贄として捧げる、それが多加羅惣領家の在り方だ。闇を目撃した須樹と仁識を、峰瀬は何事もなく屋敷から出した。惣領家にとって危険と判断すれば、峰瀬は躊躇せず二人の命を奪うだろう。そうしなかったのは須樹と仁識の人となりを信頼したから――それだけなのだろうか。灰が知る峰瀬は、情だけで動く人間ではない。

「仁識、言ってしまおう」

 須樹が諦めたように言った。それに、仁識がしょうがない、と呟く。

「闇について決して口外せぬこと。それから、灰が怪魅師けみしであることを周囲に悟られぬよう、傍で支え助けとなるように頼む、と。それが、惣領が俺たちに仰られたことだ」

「惣領がそのようなことを……」

 知らず、灰は渋面になる。あの場に居合わせた二人に、今更灰が怪魅師であることや、闇の存在を秘するのは無意味だ。だが、多加羅惣領家の根幹に関わる闇の存在から遠ざけるならいざ知らず、峰瀬の言葉は敢えて二人を今後も関わらせようと仕向けているように思われた。峰瀬の真意が見えない。

「灰、俺達に力にならせてくれ。闇を滅するのに、協力したい」

 物思いに沈んでいた灰は、須樹の言葉に目を見開いた。答えは硬い響きを宿していた。

「俺は、これ以上誰も巻き込むつもりはありません。いくら惣領の命でも……」

「命令されたからじゃない。惣領の言葉がなくとも、俺達は灰の力になりたいんだ」

「どうであろうと俺には同じことです」

「私達は巻き込まれたつもりはありませんよ。それに、若様に指図されるいわれもありません」

 灰は仁識を睨みつけた。ゆらりと胸の内に湧き起ったのは怒りと焦燥だった。峰瀬の思惑が何であれ、これ以上二人を巻き込むなど論外だ。闇は人外、対すれば必ず命を危険に晒す。灰自身も、この先闇と対峙して無事でいられる保証はないのだ。

「とにかく、お二人にはこれ以上関わっていただきたくはない」

「ならば、仲間がたった一人その闇と対していると知りながら、見ぬ振りをしろと言うのか? 灰にだってそんなことは出来ないだろう」

 須樹に問われ、灰は言葉に詰まった。

「それは……」

「灰、俺だって自分の無力ぐらいわかっている。灰のように闇に対する力なんて持っていない。だが、傍で支えたいと、少しでも力になりたいと、そう思うのも駄目なのか?」

 しんと沈黙が落ちた。灰の脳裏に浮かんだのは弦の姿だった。弦は眠り続けたまま、いまだ目覚めていない。その命が尽きないのは、叉駆さくが力を注いでいるからだ。灰には何も出来ない。目の前で誰かが闇に呑まれ、命を喰われる――身を噛む無力感と恐怖は、消えず刻みつけられている。もう二度とあのような思いをしたくなかった。弦だけではない。引きずられるように、灰の思考は更に過去へと向かう。目の前で奪われていく命、そして自らが奪った命――決して消えない殺戮の記憶は、紅く、脳裏を染め上げる。

「正直に言えば、灰の力になりたいという思いだけではないんだ」

 灰の凍えるような思考を破ったのは、須樹の幾分低い声だった。

「多加羅は俺にとっては生まれ育った大切な場所だ。闇は何も惣領家だけの問題じゃない。灰だけの問題でもない。この地に生きる全ての者達の問題なんだ。そうだろう? 俺にも、多加羅を守らせてほしい」

 何も言えず、灰はかぶりを振った。感じる恐怖も焦りも、言葉にすることなど出来ない。灰自身にも、しかとはつかめぬものだった。灰の頑なな沈黙に、仁識が一つ溜息を落とした。

「平行線ですね」

 仁識は束の間目を眇め、口角を上げた。油断のならぬ笑みに、灰は知らず身構える。

「ならば、わかりやすい方法で決着をつけましょうか。剣で勝負して、若様が勝てば私達は諦めます。もし私が勝てば、私達は若様に協力をさせていただく」

「そんな方法で決めるなど……」

「若様に引く気はない。同様に私達も、若様がどう言おうと引くつもりはない。言葉で言い合っても解決はしません。ならば、すっきりと勝負をつけてどちらかが折れればいいだけの話です。若様が勝てば、私達は若様が怪魅師であることも、闇のことも今後一切口にはしません。二度と関わらぬと誓いましょう。ですが、私が勝てば、私達の申し出を受け入れていただく。後腐れもない。方法としては悪くないでしょう」

 それとも勝つ自信がありませんか、と仁識は涼しい声音で問う。灰は唇を噛み締め、仁識を睨みつけた。確かに、己は二人の言葉を聞き入れるつもりはない。だが、二人とて諦める気がなければ、どれ程に灰が遠ざけようとしても無意味だろう。仁識が言うとおり、ここできっぱりと白黒をつけなければ、かえって二人を危険に晒しかねない。

 迷いの末、灰は頷いた。

「わかりました。俺が勝てば、この話はこの場限りで終わりです」

「いいでしょう。手加減はしませんので、そのつもりで」

 仁識が笑んだ。



 激しい打合いの合間に、灰はやけに遠く己の呼気を聞いた。道場へと場所を移し、木剣を手に仁識と対したのは既に半刻程前か、須樹の声を合図にはじまった勝負は、いまだ決着がつかない。西向きの窓から差し込む光が淡く伸び、茜が滲んでいる。

 鍛練から遠ざかっていたことに多少の不安を覚えていたが、体は存外すぐに戦いに反応した。僅かに息を乱した仁識が間合いを取る。その迷いのない眼差しを見据え、ふと灰は居た堪れない思いを抱いた。何故、と心中で囁く声がする。

 何故、そこまでする。仲間だから助けたい、と言う。大事な場所だから守りたい、と言う。そしてそれが嘘偽りのない彼らの本心であると、灰にはわかっていた。だが、何故そこまで迷いなく在れるのかが灰にはわからない。半ば反射的に相手の攻撃をかわし、考えるより先に剣を繰りだす。だが、体の動きとは裏腹に、思考は次第に重く冷えていく。

(わからないのは俺が迷っているせいか……)

 例えば迷いなく闇を滅すると心を決すれば、逡巡することなどないのだろうか。だが、灰には闇を絶対の悪として見ることが出来ない。闇は悪神、多加羅の人々を守るために闇を滅することが必要だと峰瀬は説く。しかし、それはあくまでも表向きの大義でしかない。多加羅は白沙那はくさな帝国にとっては異端の象徴だが、闇を秘めるからこそ存在を許されている。そうであるならば、多加羅惣領家にとって、闇はむしろ必要な存在なのだ。

 大義に隠された真実、それに三年前から灰は気付いていた。峰瀬は真実闇を滅するつもりはない。闇の消滅は多加羅惣領家の廃絶を意味するからだ。そして、膨張し続ける闇を抑制し、完全に御するため、ひいては多加羅惣領家の未来を確固たるものとするために灰を呼び寄せたに過ぎない。闇の存在も、そして灰自身も、峰瀬にとっては多加羅惣領家の行く末を盤石にするための手段――多加羅という巨大なからくりを動かすための歯車でしかないのだ。

 闇のために、そして多加羅惣領家のために、どれ程の人が犠牲になってきたのだろうか。人柱として闇に喰われた名も知らぬ人々、東の地から囚われてきたという祖母、疎まれ蔑まれた母親。誰も、その生を闇に――多加羅惣領家に歪められ、奪われる謂れなどなかった。灰にとっては、むしろ多加羅惣領家という存在そのものが闇に他ならない。そして、どれ程に厭わしく思おうと、灰自身もその一部なのだ。

 ――多加羅がお前の居場所だと、心の底から思えたことがあったか? 

 不意に、記憶の底から鬼逆きさかの声が囁く。灰が秘める多加羅への憎悪を、いとも簡単に暴いてみせた男が嗤う。何もかも捨ててしまえ、と。

 ――多加羅を出れば、憎しみを秘めて生きるより、もっと自由になれる。

(自由になど……)

 自嘲に口元が歪みそうになり、灰はそれを噛み殺した。仁識の動きに意識を集中する。

 憎しみに染まるのは容易い。憎しみが大義を纏えば、それは正義となり、殺戮をも正当化する。己が一度そこに堕ちたことを、そして今もまだ囚われていることを灰は知っていた。畢竟、多加羅を去ったとしても、己に巣食う憎しみと怒りが消えない限り、真の意味で自由になどなれはしないのだ。

 短い気合いとともに、仁識が踏み込む。その攻撃を弾き、逆に灰は相手との間合いを詰めた。と、仁識の体勢が崩れた。常の仁識ならば見せぬだろうその動きに、灰は目を眇めた。剣の技では仁識が上だが、勝負強さと体力では灰が勝っている。時間が長引く程に、仁識に分が悪くなることは互いにわかっていた。

 次第に、仁識は防戦一方になる。疲労のためだろう、明らかに動きが鈍くなった仁識を灰は追い詰める。

 あと数合で終わる。勝負に勝てば、仁識と須樹は二度と闇に関わることはない。多加羅惣領家と、そして怒りと憎しみを抱えた怪魅師である己とも――そうすれば、これまでと変わらず多加羅若衆の仲間として、対することが出来る。そこまで考え、灰は愕然とした。

 今、何を考えた。靄のように生じた小さな安堵、その正体――それが己の本心か。ただ彼らの身を危険に晒したくないという、それだけではない。過去のことと言いながら、多加羅惣領家を憎み心縛られる己の醜さを知られたくない、卑小なそれが己の願望か。灰の剣先がぶれる。どう動けば仁識を打ち倒せるかわかっていながら、意思の揺らぎに体が引きずられる。

 ――三年間多加羅にいて、お前が得たのは憎しみだけじゃないだろう?

 ここにいていいのだと、一人ではないのだと告げる須樹の声。それは憎しみに堕するのを許さぬ強さで灰に届く。灰に向けられる信頼には、一片の迷いもない。須樹の、そして仁識の信頼に応えたい。だが応えようとするたびに、躊躇う。彼らの強い気持ちに応える術が灰にはわからない。

(動揺するな。勝たなければならないんだ)

 あと一合で勝負は決まるのだ。どうあれ、これ以上二人を関わらせるわけにはいかない。己を叱咤して、灰は剣を振るった。これで終わる。終わらせる。

 だが、歯を食い縛って放った一撃は、仁識に届かなかった。

「甘い」

 囁くような仁識の声が耳朶を打った。次いで硬く響いた音、それが己の木剣が弾かれたものだと認識する前に、灰の体は床に打ち倒された。



 昼間の熱気が消え、がらんとした空虚な広さを感じさせる道場に、絶え間なく木剣のぶつかり合う音が響く。須樹は扉を背に、灰と仁識の姿を見詰めていた。

 灰と仁識の勝負は既に半刻程も続いていた。常ならば、若衆で一、二を争う剣の使い手である二人の戦いを楽しめただろう。だが、今この時ばかりは見事な剣さばきに見惚れる余裕などない。攻防は一進一退、勝負の行方はまだ見えない。幼い頃から一流の剣術を叩きこまれている仁識と、天賦の才で勝負にこそ強さを見せる灰――型は違えども二人の力はほぼ互角である。

 仁識は後腐れなく白黒をつけるために勝負を唱えたが、それは須樹には些か意外なことだった。仁識とて灰に勝つのが容易くないことは知っているだろう。常に先を読んで動く仁識らしからぬ申し出である。だが、これが結局は最も良い方法なのかもしれなかった。灰の性格を考えれば、如何に言葉を尽くそうと説得は難しい。一回の勝負で決着をつけるのは危うい賭けではあるが、ここで仁識が勝てば、灰は決して約束を破らないだろう。

 仁識の剣が灰の衣を掠め、空を切る。灰の一振りもまた、際どいところで仁識に避けられる。鋭い呼気が響く。互いに一歩も引かぬ戦いも、遠からず決着がつくだろう。長引く勝負に、二人の体力は確実に削られている。須樹は仁識を案じる。剣術で互角な二人だが、体力で言えば仁識よりも灰に軍配が上がるだろう。

 須樹の懸念が的中したように、仁識の動きが俄かに鈍くなった。灰の攻撃に、体勢を大きく崩される。返す攻撃も仁識本来のものからは程遠い。灰も仁識の変調に気付いたのだろう。大きく踏み込んで仁識を追い詰めていく。

 隙が大きくなった仁識に、灰が迫る。須樹は息を呑んだ。次で決まる。灰が僅かに剣先を揺らした。躊躇うかのようなその一瞬の後、灰が鋭く剣をふるった。須樹は知らず拳を握る。――と、それまでの動きが嘘のように、仁識が鮮やかに灰の攻撃をかわした。驚きに目を見開いた灰は、僅かに動きが遅れる。仁識が繰り出した容赦のない一撃が灰の胴を捉え、その体を打ち倒した。

 時が凍りついたように止まる。須樹は呆然と二人の姿を見詰めていた。静寂に、移ろう陽が影を刻む。

 膝をついて顔を上げた灰に、仁識が木剣を付きつけた。

「私の勝ちです」

 仁識が静かに宣告する。須樹は我に返り、二人に駆け寄った。

「大丈夫か?」

 木剣の勝負とはいえ、下手をすれば骨折もありうる。仁識の攻撃には一片の迷いもなかった。灰の額を濡らす汗は疲労のせいばかりではないだろう。案じて問うた須樹に、灰は小さく頷いた。

「何故、手加減なさった」

 え、と須樹は仁識を見やった。いまだ脇腹を押さえたままの灰に、仁識は感情の読めない眼差しを注いでいる。

「私の動きが鈍くなってから、若様の攻撃は明らかに甘くなった。あの時手を抜かなければ、若様が勝っていた筈です。勝負の最中に、一体何を考えておられたのです」

 灰が俯いた。どこか辛そうに顔を歪めるのを、須樹は言葉もなく見詰める。言われてみれば、仁識の動きが悪くなった時、追い詰める灰の剣もまた、本来の鋭さを欠いていた。灰自身にも自覚はなかったのかもしれない。だが、灰は確かに躊躇した。その一瞬が、勝負の結果を変えたのだ。

「若様は甘い。何としても勝たなければならない時に、躊躇うなど愚かなことです」

「仁識、もういいだろう」

 思わず口を挟んだ須樹に、仁識がちらりと眼差しを注ぐ。それに須樹は言葉を呑んだ。だから、と続けた仁識の声は、眼差し同様に柔らかかった。

「だから、私のような者が若様を補佐するくらいが丁度良い」

 顔を上げた灰の途方にくれたような表情に、須樹は覚えがあった。己を信じてほしいと、信じることが出来るかと、そう問うた時と同じだ。時に驚くほど狡猾になるかと思うえば、取り繕うこともせずに不器用さを示す。それは、三年前から変わらない姿だった。そして、三年前にはなかったものも、またある。複雑な翳りを帯びる惑い、時折垣間見せる深い怒り――あるいは哀しみ。

(俺自身も、変わったんだろうな)

 灰と出会う前は、惣領家や貴族という存在は、須樹にとって何らの関わりもない存在だった。惣領家の一員や貴族の正式な跡取りと親しく言葉を交わすことになるなど、想像すら出来ないことだったのだ。須樹は小さく笑んだ。

「何が可笑しいんだ?」

 仁識が訝し気に問うのに須樹は笑みを深め、灰を見詰めた。

「三年前、初めて会った時のことを考えていた。もしもあの時、灰が俺の傷を治していなかったら、このようなことは起こらなかったかもしれないな、と。そう思うと、不思議なものだ」

 例えば三年前、灰が見も知らぬ人間の傷を治そうとしなければ、そして須樹が、はじめから灰を惣領家の人間としか見なければ、今この時は存在しなかったのかもしれない。偶然が、現を経て過去の必然へと流れていく。揺るぎなく思える今この時は、しかし数多の迷いと逡巡、岐路の末に在るのだ。

「灰、今すぐ何が正しいのか、決める必要はないんじゃないか?」

 須樹は言いながら、多加羅惣領を思い出す。迷いを切り捨てた者は、きっとああいう顔をしている。強靭で揺るぎなく、そしてどこか冷たく虚ろだ。己の部下をも犠牲にする、それが例え仕様の無いことなのであっても、迷いなき人間が得る強さは、時に情理を超えて歪な残酷さを帯びる。

 そして、と須樹は思う。迷いを捨てられない人間が、弱いわけではない。惑いを、悔いを内に秘め、それでもなお前を向く人間もまた強さを秘めている。それは、須樹自身が灰や仁識の姿を通して知ったことだ。

「誰かを信じることも、誰かの手を取ることも、はじめから答えがあるわけじゃない。それが正しいかもわからない。その先は、これから俺達自身で選んで、築いていくものだ」

 須樹は灰に手を差し伸べた。

「灰、俺達は迷いながら進めばいいんだ」

 まっすぐに向けられる灰の双眸、その硬質な色彩を見詰める。多加羅が憎いのだと、それ故多加羅を去ると言った灰は、今もなお迷いの最中に在るだろう。稀有な力を有しながらもそのように迷う灰だからこそ、須樹は信じることが出来る。

 差し出された手に、灰の表情が引き締まる。須樹と仁識を見詰め、そして自身に問うように、不可視の未来を見透かそうとでもするように俯いた。再び灰が顔を上げた時、そこにあるのは澄んだ決意だった。一つ頷き、灰が須樹の手を握った。勢い良く引き上げると、灰が揺るぎなく立つ。

 「ありがとうございます」

 灰が言った。西日に滲む茜は何時しか濃き紅に移ろい、三人が刻む影の輪郭を淡く包んでいた。

 今回、終章にするつもりでしたが、「何も解決していない!(主に主人公の心理面で)」ということで、引き延ばしました。主人公、迷いに迷っていて、いまだ何も解決していないですが、前には進めそうかな、と思っています。

 それにしても苦労しました。全体的にテンションが低い文章でどうしたものか……と。文章自体まともに書くのが久しぶりで、如何ともしがたく、思い切って更新しました。主人公が全く説得されてくれなさそうで、書き手が困るという体たらく。仁識が頑張って、須樹がいいところを引っさらった感じですが、とにもかくにもあと2話くらいで第2部は終わるかな、と思います。次は終章の予定。あくまで予定なので、わかりませんが……。何せ、あれやこれや書けていないことがかなりありまして。

 こんなにも歩みの遅い物語ですが、少しでも楽しんでいただければ幸せです。今後ともよろしくお願いいたします!

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