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鱗がなくなって尚、こんな見世物にでもなったかのような視線を向けられるとは…。


クラウスの呪いが解けたという噂はみるみる広まり、そして噂の広まりとともにクラウスを見にやってくる人が増えていた。

それは鱗を持つことになった時より遥かに多い。そして鱗を持つことになった時よりも遠慮のない視線だった。


鱗をじろじろ見るのは失礼かもしれないが、ただの人を見るなら構わないと思っているのだろう。

クラウスは溜息を吐くことも出来ずに、少しでも早く波が過ぎ去るのを願った。

鱗のない姿を一度見れば、再び見には来ないだろう。だからすぐに落ち着くはずだ。

クラウスはうんざりした気持ちを見せないように過ごしていた。


このような状況ではアメリアと出掛けるのは止めた方がいい。アメリアに会いに行くのは波が落ち着いてからにしよう。

そう決めたクラウスの判断はもっともなことであろう。しかしそこに逃げの気持ちがなかったとは言えないことをクラウス自身分かっていた。


 **


次の休みもクラウスはオルデンベルクのタウンハウスを訪れた。父親から呼び出されたからだ。


「お前が婚約破棄するという噂が出ている」

「は?」

「それだけではない。お前がヘルミーナ様に求婚したという噂まである」

「…なっ!?」

クラウスが目を見開いて父親を見た。オルデンベルク侯爵は苛立たしげに指で机を叩いた。

「私はそのような…」「分かっている」慌てたクラウスの言葉を侯爵が遮った。

「噂の出どころはクラインベック公爵だろう」

侯爵は確信を持ってそう言った。


クラインベック公爵は、コンラートを通して四女ヘルミーナをクラウスに紹介したいという話を持ってきたが、コンラートは弟は婚約しているからとそれを断った。

婚約者がいるにも関わらず娘を紹介しようとするのは、礼を失する行為だ。

断るのは当然で、クラインベック公爵も大人しく引き下がったように見えた。だが公爵は、同じ話を侯爵にも持って来たのだ。

もちろん侯爵もコンラートと同じように断った。

そして流れ始めたのがクラウスの婚約破棄の噂だ。噂はまだ出始めたばかりで、それほど広がってはいないようではある。しかしこのタイミングで流された根も葉もない噂。噂の元は明らかだろう。


「クラインベック公爵はどうやら本気で、お前とヘルミーナ様を縁付かせようとしているようだ」

「一体どうして…」

クラウスの困惑した言葉に侯爵は顰めた顔を返した。

「家格と年齢を考えるとヘルミーナ様と釣り合う未婚の男はお前くらいしか残っていないからだろう」

「いや、未婚といっても婚約しているのに…」

「お前が結婚するまで2ヶ月ないな…1ヶ月半ほどか…。それまでやり過ごせるだろうと思っていたが、こんな噂を撒き始めるとは…。残り時間がないから必死なんだろう」

「…」

クラインベック公爵は確かに強引なところはあるが、非道なことをするような人物ではないとクラウスは思っていた。婚約者がいるというのに、断られて尚、横槍を入れようとしていることにクラウスは信じ難い気持ちを抱いた。

「先にコンラートに話を持っていったのも、コンラートなら公爵との縁に目が眩んで、婚約破棄を手伝うかもしれないとでも思ったんだろう。ふざけたことを!」

侯爵の憤りが自分のことだけではなく兄へも向けられていることを知り、クラウスも目を眇めた。

コンラートは温厚に見えるが愚鈍ではない。侯爵家の次期当主として不足のない兄は例え相手が公爵でも舐められるような人物ではないはずだ。

自分に娘を紹介したいという話が多くあると聞いても、どこか他人事のように感じていたクラウスだったが、この話にようやく危機感を覚えた。

「まずマイツェン子爵やアメリア嬢の耳に噂が入る前に連絡をしておけ」

「はい」

「それからお前はしばらくここに居を移せ」

「ここに?」

「次はお前に接触を図ろうとするだろうからな。騎士寮では防ぎきれん」

「…はい」




その日、クラウスは先触れを出してからマイツェン子爵邸を訪れた。しかしアメリアは外出していて会うことは出来なかった。

その為、婚約破棄の噂については子爵だけに説明した。噂は根も葉もなく、自分は何があってもアメリアと結婚するつもりだと伝え、何かあったら侯爵邸へ知らせて欲しいと言い残して、クラウスは帰った。

アメリアと会えなかったことに不安も過ぎったが、少しだけほっとしている自分にクラウスは溜息を吐きたくなった。

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